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92.桜花国記(赤き魔女の伝説)

「投稿が遅れると言ったな」

「そうだ! みずねこ・・・助けて・・・」

「あれは嘘だ」

「うあああああああ!!」


 一時の休憩の後、お茶を飲みながらアルガスの話に移る。


 「それで内務卿、マサキ殿の奥方 アルフィーナ様の事を知っていると?」

 「はい、女王陛下。 私が幼き頃、祖父から聞かされた話です」

 「そう……問題なければその話、聞かせて欲しいのだけど……」


 アイリスがこちらに目を向けたので俺はアルフィーナと共に頷き許可した。


 「はっ! この話は、私がまだ幼く武術、学問を学んでいた時に祖父から聞いた話なのですが……」






 「アルガス、よく勉学に励んでおるようだな!」


 アルガスが書庫で本を読んでいると、とても大きな老人が歩み寄ってきた。


 「あっ、お爺様! 来てたのですか!」


 大好きな祖父が来ていた事に喜び自然と笑顔になるアルガスに祖父の方も同じく微笑んだ。


 「うむ、今は何の本を読んでおるのかな?」

 「はい、お爺様、今読んでいる本は、動乱期から平定までの我が国の歴史で御座います」


 フォルフェバレクの歴史によると、この大陸でいくつもの小国が乱立した時代が今から約300年前の事

 フォルフェバレクもその中の小さな1国でしかなかった。

 ちなみにその頃の国名は、フォルの字は付いておらずフェバレクと言われている。


 この頃は、小国同士の小競り合いから領土拡張、拡張したは良いがいくさでの出費が大きくその損失を勝ち取った領土からの徴収していた。

 負けたからと言ってその領土の民からしてみればその様な出費、たまったものではない。

 得た領土では、領民の反乱が起こり鎮圧すべく軍の出動、その出動の間隙かんげきって他国が介入、漁夫の利を得るなどまさに治乱興亡ちんらんこうぼうの時代だった。

 (※治乱興亡:治まり乱れ、さかほろびる事、つまりそれほど変化する世の様子)


 この時代をフォルフェバレクでは、動乱期と言い。


 小国だったフォルフェバレクが、近隣諸国を飲み込み大国へと登っていく約200年前からの100年を平定期と言っていた。


 「ほうほう、動乱期か……その頃の国はまだ小さく、小国と言っても過言ではない国じゃったな」

 「はい、でも約150年前に隣国のフォーカナスの衰退にあわせ我が国が躍進やくしんする切欠きっかけになりました」

 「うむ、良く学んでおる! 近隣では最大の国だったフォーカナスが、突如として衰退した。 それを見た当時の王様は、フォーカナスを攻略し飲み込む事で我が国は他に一目置かれる国へと変貌へんぼうしたのじゃ!」

 「はい! 当時の国王様の手腕は、とても凄いものです! そして我が国は、フォーカナスを含んだ国、フォルフィバレクと名乗り大国への一歩を踏み出したと書いてありました!」


 目をきらめかせ嬉しそうに話すアルガスに祖父も目を細める。

 ただし、慢心は油断を呼ぶもの、ここは1つ注意をした方が良いと思ったアルガスの祖父は姿勢を正しアルガスの目を見つめた。


 「おっほん! しかしの……アルガスよ」

 「はい、お爺様?」


 突如真顔になった祖父にビックリしたアルガスは、もしかしたら何か起こられる事を言ったのでは無いのか心配になり祖父の言葉の続きを待つ。


 「ワシもワシのお爺様から聞いた話じゃが……」

 「はい……」

 「当時、隆盛を誇っていたフォーカナスじゃが、その繁栄には、赤き魔女の存在があったのじゃ」

 「赤き魔女? それは何で御座いますか? お爺様!」


 聞き慣れない単語に勇者や英雄の様に御伽噺おとぎばなしに似た感覚を得たアルガスは、祖父に話の続きを促す。


 「うむ、では赤き魔女について話そうかの……


 赤き魔女


 今から300年前に突如としてフォーカナスに現れた魔女

 瞳と髪の毛が血の様に赤く、魔術に長け他を寄せつけぬ比類なき魔力を保有する魔法使い。


 その者の知識は、フォーカナスの国内に繁栄をもたらし、国外へは圧倒的な魔法と魔道具で他を圧倒した。

 フォーカナスは魔女の降臨以後50年、大きく繁栄し我が世の春を謳歌したと言う。


 また、魔女も50年と言う長き時間にもかかわらず、その容姿は若く年老いる事は無かった。


 ある者、いわ

 その魔女の魔法は恐ろしいものなり

 一夜にして町を消し去り、大群を消し炭に変える魔法を放つ。


 ある者、曰く

 その魔女、砂を砂金に変え、泥水も清水に変える錬金術を使う。


 ある者、曰く

 その魔女、血を好み処女の生き血をすするため、目と髪の毛が赤く染まっている。


 この魔女がフォーカナスに居る限り、他国はフォーカナスに手を出せずいつも怯え恐れていた」


 「お爺様、では、我が国の王様は、その魔女を討ち取りフォーカナスを衰退させたのですか?」


 熱く語る祖父の言葉に疑問を覚えたアルガスが祖父に疑問を投げつけると、祖父自身もその質問が至極真っ当なモノと頷いた。


 「うむ、ワシも祖父に同じ質問を投げかけた」

 「では、やはり!」


 アルガスは先ほどよりも一層目を輝かせた。

 それは、まるで勇者がドラゴンを倒し姫を助けるお話などと同じく、子供達が勇者へ憧れる話そのモノだったからだ。


 しかし、アルガスの祖父は、そんあアルガスの様子に目を細めながら首を左右に振る。


 「違うのじゃ、王様は何もしておらん」

 「えっ? では、他の国の剣士が退治したのですか?」


 アルガスの口から討伐などの言葉が出たのは、おそらく祖父の話を聞いているうちに、いつの間にか魔女とモンスターが同じ様な存在と認識したためだろう。


 「はっははっ! いやいや、誰も殺したとは言っておらん! 討ち取ったのであればそれは国のほまれ、それならば大々的に他国に宣伝するじゃろう」

 「それでは、なぜフォーカナスは衰退したのですか?」

 「うむ、ワシも祖父から聞いた話じゃから確証が無いのじゃが……」


 アルガスの祖父は、当時の事を思い出すように目をつむった。

 祖父のその姿に答えを勿体もったいぶっている様に見えたアルガスは、ウズウズしたが大好きな祖父が勿体ぶって話を止める人物で無い事を知っているのでいじらしく辛抱していると、スッと祖父の目が見開かれ。


 「その魔女は、突如としてフォーカナスから居なくなったそうじゃ」

 「は?」


 あまりの答えにアルガスは、祖父が何を言った事が理解出来なかった。


 「うむ、つまり、フォーカナスから出て行ったのじゃろうな……おそらく」

 「なっ、何故で御座いますか! それほど繁栄させて何故出て行ったのですか!」

 「うむ、ワシも同じ質問をしたのじゃが、祖父自身分からんと言っておった」


 他国に行ったのならその国は、魔女の存在を発表し近隣諸国への圧力とするだろうがそれも無く。

 殺された、病で死んだ等も噂以上の事は確認できず。

 また、フォーカナスを併呑へいどんしたフェバレクでもその足跡を追ったが、まったく掴めず今に至っていた。


 「つまり、行方不明じゃな」

 「そんな! それほど国を繁栄させ、それほどまでに他国から恐れられた人物が……行方不明……なんて」


 思わぬ結末に複雑な心境のアルガスに祖父は、優しく語り掛ける。


 「アルガスよ、英雄、英傑えいけつは国を救う存在でもある」

 「はい」

 「しかし、物語と違い、英雄や英傑が民から絶大な支持を得るのと引き換えに、その国の王は嫉妬する事もあるのじゃ」

 「じゃあ、赤き魔女も……」

 「それは分からん。 じゃが、それほどの人物が生きておればいつかまた、世の中で名を聞くことも有るじゃろうて……」


 少し寂しそうにする祖父の表情は、アルガスにきらびやかな物語の裏について考えさせるものであった。

 

 アルガスの祖父の狙いもそこにあるのだろう。

 表の輝かしい部分に目を奪われれば必ず足元をすくわれる。

 必ず裏の部分に目を向けそこに意味を見出す、それが大事だという事を……。






 「これが、私が祖父に聞いた話です」

 「ああっ! そう言えば確かに昔その様な話を聞いたような……御伽噺だと聞いていましたが、まさか本当だったとは……」


 アルガスに続きアイリスも驚きの声と共に複雑な表情を浮かべる。

 赤き魔女の伝説、それはこの国で都市伝説級の眉唾な話

 まさかそれが事実であり、目の前にいる人物がその魔女であるとは思いもよらなかったからだ。


 俺はその話を聞いてアルフィーナに目を向けると、アルフィーナはお茶に口を付けた状態で固まっていた。

 当時を思い返しているのだろう。

 ほら、肩をふるわせ……泣いて……いる?



 「………………プッ!」

 「「「?」」」

 「ブホッ!……ブハハハハハハハァッ!!!」


 お茶を盛大に撒き散らせアルフィーナは笑いだした。

 もちろん大半のお茶は俺に掛かったのだが……あぁ、綺麗な虹が見えるよ……。


 「アハハハハハハッ! ウーッ、ヒィーッ! ゴホッ! ゴホゴホッ!」

 「アル、ほら」

 「ウ、うむ、すまぬマサキ」


 かえるアルフィーナに周囲は目を点になっているが、夫である俺はいつもの事とアルフィーナにハンカチを渡し介抱する。


 「ンンッ! しかし、町を消し去り大群を消し炭にする魔法とはなっ!」


 「それに、砂を砂金に泥水を清水に変えるじゃと!」

 「あの……アルフィーナ様……その話は嘘だと?」


 アルフィーナのその言葉でようやく周囲の時間が元に戻ったようでアイリスが口を開く。


 「当たり前じゃ! まあ、少し馬鹿ども魔法で脅したり面白い魔道具を開発したが、町を消し去ったり人を殺めた事は無いのじゃ」

 「では……その……血を啜る事は……」


 今度は、俺と最初に対面した時よりもビクビクと怖がっているクリスちゃんだ。


 「そんなモノ飲まんわっ! この目も髪も実験中の魔力暴走での事故でなったのじゃ」

 「ホッ……あっ! そうでしたか、ゴメンなさい!」


 クリスは安心すると、すぐに赤面しながら謝罪する。


 ……あぁっ! 話の中に魔女は処女の血を啜るって言っていたからか! つまりクリスは……おっとイケナイイケイナ。


 「その話には、多分に誇張こちょうが含まれているのじゃ!」

 「そうですな……しかし、アルフィーナ様、何故姿をくらましたのです?」


 アルガスは、当時から疑問に思っていた質問をアルフィーナに投げかけるとアルフィーナは笑いながら。


 「そんなモノ、嫌になったからじゃ!」

 「嫌に?」

 「うむ、当時は行動を制限されまるで囚人の様な暮らしをしていたのじゃ!」

 「それは……なんと……」

 「……」


 それを聞いたアルガスとアイリスは悲痛な表情になる。

 それほどまでに名を馳せた人物にそのような仕打ちを耳にすれば当然である。

 しかし、一方のアルフィーナは昔の事と割り切っているからだろうかヒョウヒョウと話を続けた。


 「オマケに国王や貴族達は、私が作り出す魔法と魔道具で私利私欲の限りを尽くしておったのじゃ」

 「なっ! そんな王族がいるのですか!」

 「うむ……じゃがのアイリスよ、いる では無く いた が正解じゃ!」


 いつの間にかアイリスを敬称も付けずに呼び捨てるアルフィーナだが、周囲の者は気にした様子も無くアルフィーナの話に食い入るように聞いていたので俺が注意する必要も無いだろう。


 「まあ、私が発明したモノに手を加え戦場で使ったと聞いておるし、少なくとも水をキレイにする魔道具を開発したのでそれで民が豊かになったのは確かじゃろう」

 「……なるほど、そして、アルフィーナ様は国を出て行かれた……と、しかし、そうなると恐ろしく早くフォーカナスは衰退したのですね」

 「確かに女王陛下の言うとおり、文献によるとアルフィーナ様が国を去られて10年ほどで衰退してます」

 「内務卿の言が正しいとなると当時は、アルフィーナ様が貴重な存在で国の行く末を決める人物だったのですね……そんな存在をぞんざいに扱うなどそのフォーカナスと言う国の王は、何と愚かな者でしょうか……」


 自身が波乱の中、女王となった経緯があるアイリスは、王とは何かを良く知っているのだろう。

 アルフィーナにしたフォーカナスの国王に酷く嫌悪感を漂わせている。


 「アイリスよ、彼の王国はもう無いのじゃ、お主が気に病む必要は無い。 それに私は、今が一番幸せじゃからな!」

 「そうでしたか……オウカ国王 マサキ殿とご一緒になられ、お幸せそうでなによりです」


 アルフィーナとアイリスは共に笑い会う。


 国の代表たるアイリスに対するアルフィーナの態度を不敬と感じる者はここには居ない。 

 アルガスが、そういった人選をしたからでもあるが、オウカ国王妃であり200年前の伝説の魔女でもあるアルフィーナに文句を言うものなどいなかった。


 そして、アイリス自身も嫌な感じは微塵も感じていないのである。

 それは、国のトップとして孤独と重責の伴う女王と言う身分の中、気さくに話し合う友人などいなかったからだろう。

 アルフィーナと話すアイリスは、一時であるがその重みから介抱され楽しく話し合う仲間を得た、そんな感じがするのだった。


 アルフィーナの方は、そんな重みや役職など歯牙にも掛けず誰とでも同じ様にいつも通り話をするのだった。




 でも、フォーカナスが衰退した原因は、アルフィーナが抜けた事も一因だろうけど……。

 宝物庫から退職金代わりと言って片っ端から盗んだ事も要因にあるんじゃないかな?


 と、思う俺だった。


アルフィーナの話は、いずれやろうと思っている アルフィーナの回顧録に載せたいと思っています。(出来るかな?)

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