89.桜花国記(魔王来訪)
桜花国歴67年9月
桜花からフォルフェバレク及びニカナ両国に外交官を派遣されると、さっそく両国では交換する交易品について細かな調整がなされた。
フォルフェバレク王国からは、赤砂と白砂(ケイ砂)、それと数点の美術品
ニカナからは、同じく赤砂と白砂(ケイ砂)、あと木材が桜花へ送られる事が決まる。
この交易品については、今後両国に設置される予定の大使館で外交官を通じて協議され変更や調整がなされる予定になっている。
もちろん桜花から送られる食料品の内容も変更は可能だが、金属類や武器などは輸出禁止とされた。
大使館といったが、相手側に建てるだけで桜花側には設置されず、また滞在期間も年がら年中とはいかず1ヶ月程度を年に数回する事になるだろう。
そして、裏方での調整がある程度纏まれば後は、条約の調印、施行されるだけだが、ここで1つ問題が発生する。
本来、桜花国の王家は政治に直接的関与を是としていない。
だから今回の条約も桜花国総理大臣を両国に派遣して調印する予定だったが、両国のとくに下にいる貴族、豪族から、「王が直接サインするのに、その下の者が同じくサインするとは何事か!」と異議が出た。
もちろん政治体制の違いからその様になったのだが、いくら説明しても相手国の理解が得られぬため桜花国王であるマサキが、直接相手国に出向いて調印する運びで調整せざるおえなかった。
マサキ自身も「王同士の方が、その条約の価値にも上がるし良いかもね。 もっとも俺を直接見て、かえって価値を下げねば良いんだけど……」と感想を漏らした。
こうして、慌しくもあるが相手国の食糧事情を鑑みて翌10月初めにフォルフェバレク王国で条約調印
10月中旬にニカナ帝王国で調印する予定が組まれた。
どちらが先かは、とりわけ考慮した訳ではなかったが調印と言っても相手国のメンツもあり、歓迎式や調印式といった式典を催しモノなどがある。
このため数日の滞在期間を要するため各日程となった。
フォルフェバレク王国 西の港湾都市 フィレーナ
朝靄の立ち込めるこの都市の港に何人もの男達が何かを待っていた。
「むぅ、そろそろか……」
そこに居たのは軍務卿のハルダー
彼は、睨みつけるように港から沖合いを見つめていた。
「軍務卿……その様に慌てなくとも相手からこの時間で来ると取り決めていますので」
それを窘めるのは、ここフィレーナの領主ナバル
さらに後ろには、甲冑に身を包み完全武装の騎士達が並び整列していた。
完全武装しどこか戦にでも行くのかと思えるほどの出で立ちだが、どうも顔には皆緊張の色が見えている。
「あぁ、まあ、何と言うか魔王が来るとなると、さすがに武者震いがしてな……」
そう、今日は桜花国王マサキが、先の条約を締結するためフォルフィバレクに訪れる日
いくら聖光教を信じて無くても話は知っており、その恐ろしい内容から魔王像は膨らむ一方だ。
故にハルダーは震える我が身を他に見えない様に抑え付ける。
「ハっ、ハルダー様! 何か見えます」
「むっ!」
見張りが継げた方向に一斉に目を向けると、たしかに沖合いから近づく船らしき影が見えた。
その影は、ゆっくりと港に近づくにつれその全容が明らかになる。
「おぉっ……デカイな」
「そうですな……我が港にある最大級の船と同サイズほどですか」
「それに見ろ! 帆を使っているぞ……ちぃ、ヤツラも帆船の建造を行っていたのかっ!」
ゆっくりと近づく船の姿を確認したハルダーとナバルは、その全貌が明らかになるにつれ息を呑んだ。
なぜなら、ここフォルフィバレク王国でガレー船の代わりに現在開発中の最新鋭の軍艦、風で海を進む帆船に酷似しているからだ。
彼らが研究中の帆船は、2本のマストで操舵する日本側地球で言うキャラベル船に近い形で35メートルを超える大きな船である。
そして、桜花から着たその船は、大きさこそ38メートルとフォルフィバレクで開発中の船と変わらないが、3本のマストを利用し複数の帆を持つ船であった。
本来だと、マストの数や帆の数、船員の連携等でその船の速力や機動力などの戦力値が分かるといえるが、ハルダーを含め専門家でないここにいる者達は、船の大きさだけに目を奪われ本質を見抜いていないようだ。
船が港の桟橋近くまでくると、ハルダー達も迎えるため桟橋に移動する。
「はたして、聖光教の言う魔王とは、どの様な者なのか……」
魔王への恐怖と、一体どの様な人物なのかと言う興味が入り混じった気持ちが心に渦巻きながら、ハルダーは船から下ろされたタラップの先に目を向けるのだった。




