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88.桜花国記(ニカナ帝王国)


 これは、フォルフェバレク王国に親書が届く数年前の事である。






 ニカナ帝王国


 この国は、桜花の西側に位置し大陸のはしにある島国国家である。

 島国と言ってもその国土は、日本とほぼ同じ面積を持ち周辺を海に隔たれた海洋国家、人口は1900万人、この地は大小の戦力を持つ豪族がおり互いに勢力を競い合っていた。


 大小さまざまな勢力があるという事は、まだ統一国家というモノが無いと言うとそうではない。

 この地は、ニカナと言う豪族が中心となり、それを周囲の大小さまざまな豪族がニカナを支える事で1つに纏まりつつある国である。


 各豪族の方もどこか別から出てきた人々でなく、その多くはニカナの血縁であり遠縁の仲、つまり日本の戦国時代の朝廷と大名の様な関係にあると言えた。


 そして、その朝廷であるニカナは、父系の血脈である男子を頂点とし、そのトップをみかどど呼ぶ王族である。

 ただし、現在は男子が帝位を継いでおらず父系女子が、その位に就いている女帝の時代であった。



 「ふむ、では、貴公きこうは、そのオウカと言う国から遣わされたと言うのか?」


 宮殿と言うには、質素な板張り、外からの明かりのみの薄暗い部屋の中で男達が左右に分かれ質問していた。


 「はい、我が国の王は、みかど様の国へ食糧を支援したく私を遣いに出しました。 どうか我が国の王の申し出、ご考慮の上採択して頂けるよう、よろしくお願します」


 男達の見る方向には、1人の男が平定して答える。

 彼は、桜花国の使者であり全権委任の大使として、ここニカナ帝王国に来ており、今現在そのニカナ国の中心人物達の質問を受けている最中だった。


 彼の容姿は、黒髪で小柄

 言うなれば昔の日本人と言った感じの見た目をしている。

 彼の様な容姿は桜花で決して珍しい訳ではないが、その多くが人族以外のため人数的には少ないほうだろう。


 そして驚く事に彼の対面に座る人物達、つまりニカナの中心人物達も彼と同じような見た目をしていた。



 「う~ん、東の海の先にそんな国があるとは……俄かには信じられんな」

 「しかり、ワシも信じられんかった」


 左右に分かれる人物達が頷く。

 彼らの身形みなりは、とても質素で古墳時代の人が着る様な衣服を着ていた。

 質素であるが生地は絹で出来ており、各所に金や水晶の装飾を飾り一目で身分の高いことが分かる。

 ちなみに一般人は、女性が貫頭衣で男性が袈裟衣で生地は麻だった。


――リーン、リーン


 各々難しい顔をする中、突如鈴の音が響き渡る。

 その音源に一同が驚き顔を向けると、その音は左右に分かれた男達の中央、一段高い場所に掛かる天幕の向こうからだった。


 「みっ、帝様!」

 「お戯れを……この者の正体、いまだ明かされておりません!」


 「よい」


 慌てる一同を凛とした声が止めると、傍付きの者が天幕をゆっくりと上げていく。


 「おっ、おい! そのほう、身を低くしろ!」

 「よい、と言った」


 使者により身を低くさせようと指示した者を再度止める人物

 その人物は、天幕の向こうから現れた。


 「その方も分かると思うが、この方が、我が国の帝、オモダル・アヤカ様だ」


 それと同時に中央に一番近い左右の人物、その内の左の男性が紹介する人物こそ、ニカナ帝王国の頂点にして女帝、アヤカだった。


 「アヤカと言う、おもてを上げ」

 「ははーーーっ! 帝様、御前ごぜんはべりまするは、オウカの使者の者です」

 「うむ、聞いておる、そなたも面を上げて構わぬ」


 左右の男性陣は、帝の指示により頭を上げていたが、桜花の使者は礼儀として頭を下げたままにしていた。


 「うるしきご尊顔そんがんはい恐悦至極きょうえつしごくぞんたてまつります。 先に言われましたとおり桜花の使者として、我が王よりの言葉をお伝えに参上致しました」


 使者は、挨拶の言上の後に顔を上げると、そこには大変美しい婦人が微笑んでいた。


 「うむ、なんでも我が国に食糧の交換をして頂けるとか、みなに代わってお礼を致します」

 「勿体無きお言葉、痛み入ります」


 先の話し合いの前に使者は、ここに来た目的を話していた。

 それは、食糧に困窮するニカナへ桜花からの食糧交換だった。

 交換するものは、フォルフェバレク王国同様、今後の話し合いによって決定されるが、相手への負担が少ない物を交換する事になるだろう。


 「帝! いまだ裁可さいかくだしておりませんが?」

 「よい、ここのところ不作続き……たみの苦労が如何許りのモノか……、これを無碍むげにしては、民を救う事が遠のくであろう」

 「……お言葉然り、出過ぎたマネでした」


 

 男が素直に下がったのをに見ると、帝は満足そうに1つ頷き話を続ける。


 「使者殿は、色々なモノを交換して名をせたと聞く」

 「はい、果物や肉、塩などを少々」


 実は、ここまで来るのに色々に苦労していた。

 このニカナ帝王国に通貨が存在しておらず、人々が生活する上で必要なものは物々交換で取引されている。

 そのためフォルフェバレク王国のように金銭などで商人を通じ手を回す事が難しく直接交渉しないと、どうにも話を進ませる事ができなかった。

 今回使者として来ている者は、数年前より秘密裏にニカナに潜り込ませ物々交換で人々に顔を売り、次にその土地の主、豪族と売り込んで行き数年を経てようやく帝に会う事が出来たと言うのが、これまでの経緯いきさつだった。


 「ふむ、聞くところによると、使者殿は線で言葉を伝える事が出来ると聞いた」

 「線? 言葉? えぇっと……もしかして文字の事ですか?」

 「その線を文字と言うのか?」

 「えぇ、文字です。 たしかに我が国では、文字を使い言葉を伝える事ができます」


 色々と苦労した中の最大の要因

 それは、先ほどのやり取りで分かるように、ここニカナでは文字が一切使われておらず全て直接言葉でやり取りするか、口伝で伝えるしかすべが無かった。

 そのため親書などで意思を伝えることが出来ず桜花の諜報部は悩み、出した答えがニカナ人へ直接人を送り込む事だった。


 「では、って頼みたい事がある」

 「頼み……ですか?」


 諜報部としても色々とシミュレーションしていたが、今の様に直接帝から頼み事があるとは流石さすがに予測出来ておらず心に動揺が走る。


 「これは、返す物が無く一方的になるかもしれませんが、我々にも大使殿が使う文字を教えて欲しい」

 「「「ッ!!!」」」


 豪族達は息を呑んだ。

 それもそうだろう。

 もし文字を取得できれば、伝えるのに容易になるだけでなく、より遠距離へより確実に言葉が伝えられ残せる事が研究で分かっていた。

 そして、これを利用できれば日常生活の向上だけでなく軍事にも大いに役に立ち、いまだニカナへくだらない周辺(島の中)の敵達と情報戦で勝利することになりニカナを更に繁栄させる事を意味しているからだ。


 だからこそニカナでは、これまで文字の開発を幾度も取り組んでいたのだが、どうしても上手く行かずに現在はその研究を止まっている状態だった。


 それゆえ金銭の糸目をつけないほどの価値がある重大な事なのだが、帝は返す物が無い、つまり無料で教えて欲しいと願い出たのだ。

 これには列席の豪族は驚くしかないが、とうの帝は純粋に豊かになる術の1つと捉えていたので、その辺り意識の違いから出ら要求であった。


 「ううむ、文字ですか……我が国は、王様の故郷である日本語ですが、それでも?」

 「そう、そのニホンゴを教えて欲しい」


 帝の要求に使者は数分無言になり、どう返事したものか考えているようだ。


 この時使者は、1人で考えていたのではなく自分が決めるには大変大きな事案だと思い、魔導ナノマシンを通じ思考を魔素通信で桜花本国の情報局へ送り返答を待っていたのだった。



 「日本語だと! おいっ! 官邸に報告しろ!」

 「すでにこの件で緊急会議中です!」


 この時、使者の瞳を通じて魔素通信で送られた情報に桜花の情報局は対応に追われ騒然となるが、同時に情報を得ていた内閣府と総理大臣であるポルトナは、ただちに緊急の会議を開くため魔素通信が作り出す擬似空間に閣僚を招集し緊急会議に行っていたのだった。


 「ううむ、私は良いと思うが……」

 「いえ、ここは識者に話を……」

 「いや、それでは遅い、ここは我々で決めたほうが……」


 紛糾する会議だったが、事態は切羽詰っている。

 ここで使者が答えぬとなれば、桜花国の使者として送り出している以上、相手に不信を抱かせる可能性が高かった。


 「ううむ……どうすれば………………ッ!!! こっこれは! ハッ、その様に致します」


 会議に参加する全員が、ポルトナの行動に驚いた。

 この会場は擬似空間なので他からの通信が入っても脳内で別処理されるため動く必要が無いのだ。

 しかし、どこからか通信が入ったポルトナは、突如立ち上がり頭を下げ誰かに返事しているのだから驚かざるを得ない。


 「今、マサキ様よりお言葉があった」

 「「「ッ!!!」」」


 マサキの言葉と聞いて一同驚いたが、ポルトナがその内容を伝える事が分かると全員清聴する姿勢に取った。


 「マサキ様は、『同じ日本語を書ける様になりたいとは嬉しい話だ、それに同じ日本語を話せる国がある事は喜ばしい事だよ! 私は良い事だと思う』とおっしゃっていた」

 「おぉー! たしかにマサキ様の言うとおりだ!」


 マサキは、別に決定する裁可を下した訳ではなく、良い事だと自分の思いを言葉に出したに過ぎない。

 しかし、それを聞いたポルトナ達は、自分達が悩む中ポンッと背中を押してくれた。

 そう捉えるほど、ありがたい事だった。


 これは、もともとマサキがもたらした日本語だったのでその本人のマサキが許可したと受け取ったのかもしれない。


 「各々《おのおの》がたよろしいな?」


 ポルトナの言葉に全員無言で首肯する。

 そして、これにより決められた会議の内容が使者に伝えられる。


 こんなやり取りと数分の内に行っていたのだった。




 「長らく考え込み申し訳御座いません」

 「よい、で? どうでしょうか?」


 使者の返事を聞くため豪族達は、固唾かたずを呑んで見守る。


 「分かりました日本語の書き方をお教えしましょう!」

 「「「おぉーーーー!!!」」」


 その言葉に周囲が色めき立った。

 それほどに嬉しい事で興奮が抑えきれない事のようだ。


 そして、とうの帝も嬉しそうに顔を綻ばせるのだった。



 こののちの話だが、桜花から文字とその意味を記した書物が送られ、それをもとに講習が行われる。

 その講習を受ける者は、一言一句聞き漏らすまいと熱心に勉強し習得し、習得した者が別の者へ教えるといった広がりを見せていった。

 彼らは学事に飢えるが如くに、その熱の入れようは尋常でなかったと当時の様子を記した物が残っている。


 そんな熱気渦巻く講習会場に一際熱心に取り組む女性がいた。

 その女性は誰であろう、ここニカナの帝であるアヤカであった事は言うまでもない。



 これより長い年月をてニカナでは、日本語が文字として定着し

 更に長い年月を経ると、日本語という言葉は変容しニカナ語として世界に知られるのだった。


 ただし、帝になる家の者には、代々日本語として正しく伝わっていたりする。





 ここでマサキが言った日本語を話せるとは何だろう? と疑問が湧くだろう。

 これは、昔から彼らがニカナ語として話す言葉が、とても日本語によく似ているからだ。


 説明すると、

 日本語だと、「いい天気ですね」 が

 ニカナ語だと、「いいぃ~てんきぃ~てすねぇ~」となりとても似ている。

 ただし、一語一語ハッキリとゆっくり話すため時間が掛かるのと、「ば」の発音が、「は」もしくは「ぱ」と発音されていたりする。

 濁音が無い訳ではないのだろうが、当時は上流階級になっていくにしたがって濁音を嫌う傾向があったようだ。


 そして、この事が意味する事は、

 もしかすると、昔、海で遭難したニカナ人が桜花(当時魔界)に生きて漂着し、そのまま魔界に定住し代々生き残ったニカナ人が、言葉を広めて行ったと考えられなくは無いだろうか?


 だから、マサキがこの世界に転送されアルフィーナと始めて会話したとき、日本語での会話が成立した!

と考えると、胸が熱くなる。


運命とは何と面白い道を辿るモノだろうか……。


以上のように魔界の言葉が、日本語だったの経緯になり異世界で日本語が使える理由になります。

ただし、日付や習慣、英語など伝わっていないため本作の前半で変に言い回しており今考えれば、解説を付ければ……と反省しています。

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