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85.桜花国記(世界へ)


 

 桜花国歴65年


 王宮執務室



 この異世界の人口の総数は、約10億人ほどだ。

 これは桜花国民を除いた数になっている。

 それでは桜花国は? と言うと、その人口8000万人程になるだろう。


 この数は、世界的に見れば10分の1もあり、それ程の人口を有した国はケルファルト大帝国 位だ。

 それも属国を含めてなので単体の国家として見た場合、桜花の人口はかなりの数だと言えるだろう。


 しかも、約8000万人もいる桜花の食糧自給率は100%

 その多くを輸入に頼っていた日本では考えられない数字を叩き出していた。

 (まあ、他国と国交が無いので自給率100%とも言えるのだが……)


 桜花国の作物その多くが、屋外の田畑で収穫された物だ。

 次いでハウスや水耕、屋内での栽培などがそれを補う形で収穫されていた。


 桜花65年の歴史の中で見ると、農作物の単価は若干の変動はあれど、ほぼ横ばいと言える。

 もちろんいくら桜花と言え不作や豊作の年があった。

だが、ほぼ横ばいなのだ。


 不思議な事もある物だ。


 普通豊作の年は売れ残りや単価の下落から廃棄処分にする場合があるが、ここ桜花では一切行われておらず誰が購入したか分からないが、いつの間にか売れているそうだ。

 また不作の年は、どこの農家か知らないが不作の作物を大量に投入し価格高騰を防いでいるらしい。


 ひと、コレを桜花の七不思議と言う。

 まあ、日本みたいに100円だった物が、3倍の300円にならないのだから一般家庭は喜んでいるようで何よりだ。(白菜などの葉物が、特に顕著けんちょ


 もちろん桜花も価格競争の世界であるから、その競争を抑制する事無く需要と供給を円滑に行っている。

 もし、人がそれを行おうとした場合、そのさじ加減が難しく下手をすればとどこおらせ市場を混乱させかねない。


 「……そう、人が行えば……ね」


 俺は、日々増えていく資産と物資の目録を見て何とも言えない表情になる。


 別に金儲けをしている訳ではない。

 時折別の用途で放出され、そのお金は新たな流れとなって市場を活性化している様だし、物資の方も必要な物を必要な時に投入しているので問題ないのだ。

 ただ、放出しても増えていくのだから、これが分からない。

 市場を活性化させ、そこから少しだけ利益を得ているのだろうか?


 「はぁ、いくら考えても俺には分からん!」



――コンコンッ


 椅子の背もたれに身体を預けたと同時に扉からノック音が聞こえた。


 「そうか、今日は今後の戦略について聞くんだったな……おっと! どうぞー、入ってきて良いよ」


 「失礼します」 と扉から頭を下げて入って来たのは、現内閣総理大臣の相生ポルトナ総理大臣だ。

 父のジェナートは老齢のためすでに引退し現在は、老後のゆったりとした生活を満喫している……訳ではなく、100歳になるが妻のメルザと共にクワを取り汗水垂らしながら田畑を耕している。

 100歳と言っても、ここ桜花では人族へのアンチエイジ技術が少しずつ発展しており、年齢ほど肉体年齢は進んでいない。

 かく言う目の前のポルトナも80近いのに、見た目が40歳ほどに見えるのだからその技術発展は驚くものだ。


 「マサキ様、こちらが今後の予定となります」


 内閣府の桐の紋が印された資料が置かれた。


 ここ桜花の内閣も日本と同じ桐の紋を使っている。

 これは日本の内閣を踏襲とうしゅうしているだけで他意はない。(ただし、国会運営は違う部分は多い)



 「……とうとう、桜花が世界に知られるのだね」


 資料の中身はだいたい予測は出来たが、やはり的中していた様だ。


 「はい、当初の予想が少し早まりました」


 ポルトナが申し訳なさそうにするが、この事態に至った事は別に彼の責任ではない。

 俺自身も予測し、当時の内閣でも同様の予測が出ていた。


 ただ、少しばかり時間が早まっただけだ。


 まず、この世界は、南極と北極の一部を除けば2つの大陸が蝶の羽の様に広がっている。

 そして、この世界の人々は、蝶の背の部分の海を内海ないかい

 羽から先にある海を外海がいかいと呼んでいた。


 内海での交易は、大陸を挟んで盛んに行われており、他国との交易船が頻繁に往来している。

 一方外海での交易は、大陸に沿った交易のみで外海を横断し交易する事はなかった。


 彼らの歴史、宗教を見るとこの大地は丸くなく平で外海の先は世界の終端になっていて途切れていると信じられている。

 しかも、その世界の果てには、神から大陸を追われた魔の者達が巣くっており命を落とす。 と伝えられているようだ。


 つまり、彼らから見れば桜花は、この外海の端にある世界の果で、我々桜花の民は魔の者=魔族らしい。


 話を戻すが、内海での交易に利用されている船は中型の帆船で、天候等に左右されるが日数を掛ければ横断できる。

 小型船も蝶の羽の背の部分にあたる、もっとも大陸が近づいた場所なら問題無さそうだ。


 交易が問題ないなら大丈夫だろうと思うが、事はそうは行かない。


 それは、この世界の軍船がガレー船であったからだ。


 人族国家は、その領土や資源を求め度々戦争をしていた。

 地続きなら徒歩や馬を使って攻め込めるが、山岳で行く手を塞がれた場合や海を挟んだ場合やはり船が必要になる。

 当初は帆船を使っていたが、風の強さや向きによって速度が変わりそれによって戦の状況が変わった。

 そのため風の強さや向きによって左右されにくい動力が手漕ぎのガレー船が使われるようになる。


 そして、そのガレー船の動力である漕ぎ手は、人族より力が強く消耗しても問題ない亜人が使われるようになった。


 しかし、問題が起こる。


 ここ20数年前から亜人奴隷の数が少なくなり、てはまったくいなくなってしまったのだ。

 奴隷商人達も最初の内は、「また狩りに出て捕まえてくれば問題ないだろう」と考えていたが、人里離れた山岳地帯、人が入りにくい密林地帯、人が入るには躊躇ちゅうちょする洞窟

 どこを探しても1人も見付からず奴隷商売は、その商品が枯渇してしまった。


 それでも田畑の耕作、土木、炭鉱掘削など重労働作業からの奴隷要求は後を絶たず、需要を満たすため商人は新たな商品を取り寄せるしかなかった。


 それが、同じ人族の奴隷だ。


 これまで人族の奴隷は犯罪者奴隷が中心だった。

 しかし、こんな状況に陥ってしまっては、背に腹は代えれない。

 各国は、人身売買を積極的に行う布令を出したり、他国を攻め滅ぼしてそこから奴隷を得る事に方向を転換した。


 だが人族では亜人種ほど力が無いためガレー船は、前ほどの速力を得る事が出来なかった。


 これには、ガレー船中心に水軍を動かしていた国々には大打撃で、現在はガレー船に変わる何かを模索している最中だ。




 つまり俺が打ち出した計画である亜人種桜花移住計画は、そこに直撃したと言う事になる。


 手に取る一枚の資料に大船の帆船が写真として載っていた。


 「彼の国で取られた写真です。 資金源が彼の宗教なので、ヤツラも一枚噛んでいます」


 ポルトナの言う宗教とは、間違いなくアノ宗教であろう。

 そうなると、予測は最悪な展開に流れる可能性が高い。


 まあ、世界中に枝葉を伸ばしているアノ宗教の事は、今は置いておこう。



 「この船は、まだまだ未完成ですが大型で将来的に高い航行能力が予測されています」


 つまり、今後外海を渡ってここ桜花に辿り着く船が出てくると言う事だ。

 日本側地球の歴史の様に、大陸を発見して先住民を虐殺、奴隷にして「ここは俺の土地とする! 奴隷共は働け!」と言った様な事が、この異世界でも起こる可能性があると言う訳だ。

 いや、各国の動向を見ると高いどころか確実な動きになると予測される。


 「だから、今しかないか……」

 「はい、我が国に一番近い国は、ニカナ帝王国とフォルフェバレク王国の2国です。 どちらも奴隷に懐疑的で亜人種にも寛容でした。 特にフォルフェバレクは世界経済が5位と大きく、他国への影響が大きいと思われます。 ニカナは大きくは無いですが我が国と興味深い繋がりがあると学者達が言っております」

 「そうだね、特にニカナは面白い」

 「ええ、そして幸いな事に両国とも現在食糧難で困窮してます」


 桜花には特に影響は無かったが、この数年冷夏が続き思ったように作物が生長しなかったようだ。

 そのためフォルフェバレクでは小麦が、ニカナでは栗・胡桃などの食用種子や芋などが不足していた。


 「つまり、この2国に桜花から食糧交易を持ちかけるんだね」

 「ご明察です。 そして、この2つの国を通じて……」

 「世界に……外海の先には桜花国があると認知させる訳か……」



 事前に2つの国を調査し、どちらも桜花を知ってすぐに攻め込んでくる事は無いという調査結果だった。

 つまり桜花としては、この2国を使って世界に ここは桜花の土地ですよ。 と知ってもらい無断で侵入してくる者がない様に忠告すると言うことだ。


 コロンブスが行動を起こす前に言ってしまうわけか……世界がこの忠告の意味を理解してくれれるだろうか?

 理解したとしても素直に忠告に従うとも思えない。


 ……しかし、忠告を聞かずに愚かな行動に出た、その時は……。


 いつかは来ると覚悟を決め、俺はこの戦略計画を承認する。


 世界の人族が、愚かな行動に出ない事をせつに願いながら。

 


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