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82.桜花国記(移住した者達)


 桜花国歴55年5月


 この日、桜花国は世界中を対象にした計画が終了した日だった。

 その計画とは、桜花国外に住む人族以外の種族、いわゆる亜人と言われる種族を対象にした桜花国への移住と桜花国籍取得に関する計画だ。


 長い時間をかけ念入りに進めた計画は、対象となる亜人種の約9割を迎え桜花国民として国籍が付与された。

 残りの1割は、移住計画中に犯罪を犯し投獄され獄中死した者、奴隷になり病などで死亡した者などが大半を占めている。


 総勢480万人


 つまり、約500万人近くの人口が増加したと言う訳だ。

 ただし、この人口増加は、短期で爆発的な人口増加ではない。

 もしそんな事をすれば、いくら桜花でも財政的に厳しくなってしまうので、15年以上の年月を掛け、ゆっくりと移住させたので国として混乱する事無く進められた。


 それでも年間30万人程度なので、綿密な計画と、移住者にとって十分な衣食住を確保する事が出来たからであろう。





 桜花国へ着いた移住者の事を話そう。


 桜花国の土地に降りた移住者は、まず検疫を受け伝染病をわずらっていないかのチェックが入る。

 その後、全ての生体情報、魔力紋を登録する事で初めて桜花国民として仮登録された事になる。

 仮が付いているのは、これから数年間の研修が必要なためだ。


 研修内容は、大人が日本語の習得、社会常識の習得、一般常識の習得など多岐に渡る。

 中でも法律を教えるのに苦慮したが、集落にもおきてがあるのでそれに照らし合せ教えていった。

 子供は、学校へかよう事でそれらの知識を自然と身に付け、大人よりは比較的楽に習得したと言えるだろう。


 次に仮登録された者は、それぞれの地域に用意された場所で既存の桜花国民と一緒に生活してもらう事になる。

 これは、仮設住宅だと以前のコミュニティーをそのまま形成してしまう可能性が高く、これでは新たな桜花国民としての輪の中に入る事が難しいのでこの様な方法を取っている。


 ただし、用意された場所の中に武蔵國むさしのくに摂津國せっつのくになどは含まれていない。

 これは、経済規模が大きい地域である事、それまでの生活環境が一変された中で都会に住むには難しいだろうと判断されたためだ。

 それでも近郊の地域に住居を用意する事が出来たので少し遠出する感覚で都会に足を運べる環境にはある。


 先ほどの説明の中に、~のくに、とあったのに気が付いたかもしれない。

 この名前は、憲法が制定されて以後、選挙で選ばれた国会議員が、とある議題の中に 地方名を決める! といった案件が上った時の話だ。


 当初、マサキの予想では、「それぞれの地域に合った名前でゆくゆくは○○県などと呼ばれる様になるだろう」と思っていた。

 しかし、予想は大きく外れ、令制りょうせい時代の日本の旧国名を使う事が、全会一致で決まり運用される事になる。

 (ただし、国の字は、桜花と分けるため旧字が使われている)


 もちろん、これには全国民も納得、いや、この決定が下された時は、全国でお祭り騒ぎになった。

 名所をどうしようか? 名物は何にしようか? などで地方議会が紛糾し、議決が進まない状態が幾日も続くほどにだ。

 話し合いの結果(地方議会での議決)、各國では、それぞれ日本で有名な城を建てたり、失われた名所を再現したりと大盛り上がる。


 まあ、さすがに大阪城おおざかじょうを全部再現するわけには行かず本丸だけだが、こちらはコンクリート作りでは無いので注意が必要だ。(エレベーターが無いので足腰が丈夫な人だけ天守に上がれる)



 ああ、それと名所であって、そうでない場所も桜花国に存在する。


 それが、山城國やましろのくにに再現された御所の事だ。


 ある時国民から「マサキ様と同じ様にコチラに来られて、御住まいが無いのは御可哀想だ」と意見があり

 議会でも「まったく、その通りだ!」 と何故か妙な納得をもって決定された経緯がある。


 さらに建設の際には、王庫からの拠出だけでなく一般国民の募金を基にして御所が建設されたのだった。

 宮大工の建築なのだから、その集められた金額はかなりのモノだろう。


 ただし、日本の御所と変わらない姿だったためか御所が完成すると、マサキは見学だけして他の行動(例えば宿泊や桜花国王としての行事など)を一切しなかった。

 これは、日本において過ごして来た日々の敬意や敬愛から来る行動だったのかもしれない。


 この時のマサキの行動は、のちに続く桜花国王も同じくこのひそみにならい、御所では身勝手な行動をせず身を謹み敬意を払い見学するのだった。



 話を戻すが、移住者は各地で生活し研修を行い、一定の期間を過ぎ問題無し、と判断されれば仮が外れ桜花国民となり国政にも参加出来る様になる。

 このように多少の苦労はあるが、実際に国民になるのは難しい訳ではない。





 では、ある移住者のいる学校の様子を見てみよう。(※ 上に書いた年代では無いです)





 「……で、あるから、身を謹んで勉学に励むように! 以上、生徒会長 鏑矢カグラ」


 凛とした表情で栗色のポニーテールを揺らし、見目麗みめうるわしい女子生徒が壇上を降りる。

 全校生徒は、その立ち振る舞いの美しさから目が釘付けになり、シンと静まり返っていた。



 「く~~~、鏑矢先輩、綺麗だな~~~~」

 「おいおい、鼻の下が伸びてるぞ。 だいたい、お前には無理だろう……どう見ても高嶺たかねの花だ」

 「分かってるよ。 だけど良いだろ? もしかすると、もしかするかも知れないだろ?」

 「はぁ~、お前な、鏑矢先輩はエルフ族だろ、お前は頭角族(牛)、種族が違うだろ種族が!」

 「あ~、お前知らないのか? マサキ様が夜空様、真白様と結婚してお子様が御生まれになっただろ? それで火が付いたのか、今じゃ多種族間の結婚なんて珍しくないんだぜ」


 そう言った男子生徒に「それでも、お前には無理だ!」と断言する男子生徒

 そのじゃれ合いは、それに気付いた先生からの一括が放たれるまでしばらく続いた。


 ちなみに鏑矢の意味名は、彼女の種族であるエルフ族の巫女に由来するものがある。

 なんでも巫女の一族は、音の鳴る3本の弓矢を上空に放ちその年の吉凶きっきょうを占うと言われている。

 だから音の鳴る矢 = 鏑矢 となり彼女の親族の氏として使われていた。



 「姫様ーー!」「キャーッ、鏑矢せんぱーい」


 この生徒は、女子にも人気の様で至る所から黄色い声援が飛んでいる。


 カグラは、その声に軽く応え生徒会室に戻ると自分に用意された席に着くと、そこに生徒会役員でもある女子生徒がカグラ用のお茶を素早く入れた。


 「ふーっ、やれやれ困ったものだ」


 お茶を飲んで一息つくと、カグラは少しだけ肩の力を抜いた。


 「何が困るんですか? 姫様」


 先ほどお茶を入れた女子生徒がカグラに質問する。

 どうやらカグラは、ここでも姫様と言うあだ名で呼ばれているみたいだ。


 「うん? ああそれは、ああいった声援程度なら良いんだが、時には行き過ぎる者もいるんでな」

 「ん~……例えば、男子からの告白でしょうか?」

 「まあ、それもあるが、手紙や贈り物を毎日贈ってくる。 無理やり私的回線にアクセスしようとする。 時には家に押しかけ様とする者までいるから始末が悪い」


 頭に手をあててホトホト困っている様子のカグラ

 それを見た女子生徒も驚きの声を上げる。


 「え! 男子でそんな勇気がある人が!」

 「いや、男子生徒ならことごとくウルタが殲滅せんめつするから、私に直接の被害は……無いな」


 生徒会会長である以上、そんな群れとなって押し寄せる男子生徒を悪鬼羅刹あっきらせつの如く蹂躙じゅうりんしていくウルタの様子は、まさに阿鼻叫喚あびきょうかんの絵図なのだが中にはそれをご褒美と思う者も出てきて、さすがにマズイだろうと思うカグラだった。


 もっとも先に言った事をしているのは、そのウルタなんだが……。


 カグラにとってウルタの行動はありがたいが、そのウルタの行動は迷惑だった。


 「まあ、それも残すところ1年となったがな」

 「姫様……」


 カグラから哀愁漂あいしゅうただよう風に見えた女子生徒も寂しげな表情になる。


 「姫様は……姫様は、来年の進路、どうするのですか? 大学へ行かれるのでしょうか? それとも研究所へ勤務!」


 女子生徒は、カグラの進路を予想して一通り上げていく。

 もちろん成績が常にトップであるカグラの実力なら、どれでも選び放題だろう。


 「ん? いや、私は……」

 「どれも外れデスネ~」


 言い淀んだカグラの応えに誰かの声が割り込んだ。


 「ウルタ!」

 「楓葉かえでは先輩!」


 音も無く現れた、その人物に2人揃って驚きの声を上げる。

 そこに居た人物は、カグラと1歳違い(と言っても早生まれなので同学年)の同じエルフ族で副生徒会長の楓葉ウルタだった。


 「いつの間に来たの?」

 「さっきほど、姫様の後デスネ。 もっとも生徒会室の扉の前に虫がいたので蹴散らしてきましたが」


 胸を張って応えるウルタに「だから扉の外から、ありがとうございます! ありがとうございます! の叫びが聞こえたんですね……」と呟いた女子生徒


 「まあ、そんな事はどうでも良いんですよ、姫様の進路は、どれも的中してませんでしたね~」

 「そ、そうです。 楓葉先輩ご存知なんですか!」

 「ふふ~ん、知ってますよ~、知ってるんですねコレが!」

 「ッ!」


 カグラは誰にも自分の進路について放した事は無かった。

 しかし、自信満々で答えるウルタに まさか!と言った表情になる。


 「ふふ~、姫様が行く所はコレです!」

 「えぇっ! これ!」


 ウルタが、バサッと取り出したのは、パンフレット

 さらにそこには、桜花国士官学校の文字が記載されていた!


 「ウ、ウルタ! どこでそれを!」

 「姫様のタンスの中デスネ! 下着を探している時に見つけました!」


 おぉっと! 勢いのあまり正直に答えるウルタ!


 「ウールータァァァーーーーーッ!」

 「「ヒッ!」」


 これを聞いた途端、カグラからとんでもないドス黒いオーラが沸き立ち2人は小さな悲鳴を上げた。


 「ででで、では無くて姫様は、士官学校に行くんデス!」

 「わわっ、わぁー! 姫様、軍人になるんですかぁー?」


 怯えながらまるで何か示し合わせた様に言葉を繋げる2人


 「……はぁ、そうですね」


 これには、カグラも毒気を抜かれてしまい座り直し仕方なく話を進める。


 ただし、ウルタだけに聞こえる声量で「後で話があります」と言い、ウルタも「イエスマム」と怯えながら小さい声で返事を返すのだった。


 「まあ、話した所で大した事では無いんですが、確かに士官学校に行こうと思ってます」

 「ええ! 何故なぜですか姫様!」

 「えっ! なぜって……だって……その……」

 

 顔を赤らめどんどん小声になりモジモジしだすカグラ

 カグラの普段目にした事が無い様子に、どうしたんだろう? と女子生徒は不思議そうにカグラを見つめる。


 「はぁ~、風邪の様な物と良く言いますが……これはやまいと言うより病気びょうきですネ」


 カグラのそんな様子にウルタは、ヤレヤレと言った半ば呆れた表情だ。


 「でも~そんな姫様に朗報です! なんと私も一緒の要望を出しました!」

 「はあ? あなたも!」


 ウルタの爆弾発言に驚きを通り越して今度はカグラが呆れ、「このえん切れないかしら?」とグチをこぼす。


 「今年は忙しい年になりますネ!」

 「そうですね~、あぁそれと、お2人ともご存知ですか? 今年の新入生にあのギリアム様の娘さんが入学したらしいですよ」

 「「えぇっ!!」」


 2人は同じ様に驚く。

 それもそのはず、ギリアムの事は国から詳しい経緯を放送され全国民の知る所となった。

 そして、ギリアムの葬儀が終わると、国はギリアムの妻 ミカーナに相談し意見を聞いた後、ミナにお願いし天之神社おめのじんじゃでギリアムの御霊を祀る事になる。

 これは、桜花で天之神社に祀られた初めて国民の御霊であり、初の英霊であった。


 また、桜花国民もギリアムの功績から別に神社まで造営し創建までするに至る。

 名を白彪神社しらやじんじゃと言い、武と家族愛、そして忠節の神様として今でも大切に祀られていた。


 「英霊の子ですか……、色々と大変でしょうに……」

 「まあ、コチラとしては、それに鼻をかける様な子で無い事を祈りますネ」

 「ですね~」


 3人は用意されたお茶を飲みホッと一息入れる。

 カグラの進路が士官学校な事、それに頬を染めモジモジしだした事に話題を変えてそれ以上の追究をしなかったのは、はたしてこの女子生徒が気を利かせたからか、はたまた天然だったのかは分からなかった。






 この様に桜花国に移り住んだ住民は全員ではないが、その環境の変化に対応し次第になれて行き日常を満喫しているようだ。

 この後の移住者を交えた桜花の歩みが、どの様に変化していくか楽しみである。







 カグラ達の入った士官学校の校長は、この時 海波ヨーギルが務めていた。


 更に同時期、ヨーギルの娘は結婚して子供(娘)をもうけており、


 孫娘の年齢がカグラ達に近かった事、

 士官学校、特にこの時の桜花国軍で働く女性の比率が低かった事


 などが合わさりヨーギル自身が、彼女達の事を何かと面倒を見る事になる。


 普段は、校長として生徒達に威厳いげんを持って接し、軍の中においても然としてその風格は失われる事は無かったのだが、彼女達の面倒を見るヨーギルを見た者は、それはそれは好好爺こうこうやとして接しており目を疑いたくなるほどに変わって見えたそうだ。


 これが原因か知らないが、ウルタからはジジイ呼ばわりされるようになる。

 ヨーギルは、そんなウルタの態度を注意するものの、その言葉に力は無くさらに目尻が下っておりどこか嬉しそうだった。


桜花の学校(学修校)は、15~5歳の年齢が入ります。(15歳で成人)

つまり、カグラとミアーテの年齢差は約10歳の開きがあります。


次回、閑話 悩む者1 

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