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79.桜花(対面)


 ケルファルト大帝国の領土に住む獣人族の集落との交渉で、桜花国移住案にある程度の理解が得られたと報告を受け今回はその獣人族の集落へと足を向ける。

 報告では2つの派閥に分かれてしまったらしく


 1つは、移住賛成派

 この派閥を率いるのは、長と呼ばれている年寄り達

 それと、争いごとを好まない者と子供達などの穏健な人々


 もう1つは、反対派

 この派閥は、ギリアムという武にひいでた獣人族(雪豹ゆきひょう)の男性を中心に集まった若者達、しかも、若いので好戦的な集団みたいだ。


 反対派の主張をまとめると


 1.人族に屈しない!

 2.人族の王がいる国には移住しない!

 3.武力を持って、いつの日か土地を取り戻す!


 と言った内容になっている。


 この集落でこれまで起こった事、そして、起こした事については、これまでの調査である程度分かっていた。

 人族が、獣人族の集落を襲い土地を奪った事や、仲間を奴隷として連れ去られた事も聞いている。


 しかし、その報復で力の無い近隣の村を襲う事は承知できない。


 力の矛先を向ける相手は、自分達を襲った者だろうに……。


 おそらく彼らは、怒りの余りに我を忘れ冷静な判断が出来ないのではないのか?

 気持ちは分かるが、そんな事を続けていては負の連鎖が止まらない。


 ただ、この若者達の集団でリーダーとして存在しているギリアムだけは違うみたいだ。

 彼は、どちらかと言うと移住賛成派と思われる。

 そんな彼が、若者達のリーダーとなっているのは、その集団の行動を方向付けする事で若者達の暴走を抑えているようだ。


 今回の獣人族への訪問は、そんな彼からの提案だ。

 なんでも、色々な種族の暮らす国の王を見てみたいと言っている様だ。


 まあ早い話、俺の事を信じるに値するか値踏みをするのだろう。


 「2派に分かれた集落ですか……何事も無ければ良いのですが……」


 不安げに顔をしかめるのは、今回の同行者で国軍の長(最高指揮官は内閣総理大臣だが、軍内部のトップという意味)である龍翼人族のボルガ

 それと、お付きには同じく国軍の司令官で獣人族(灰色狼)のアトア


 なぜ、この2人が来ているのかと言えば、武にけた獣人族がいると聞いて同行するみたいだ。

 なんなの? 脳筋なの?

 しかも、ウチの国の軍のトップと、実行部隊のトップが揃って来るとは……ウチの国の軍隊……本当に大丈夫なのだろうか?


 「ご心配なく! 職責を数日抜けても大丈夫な様に仕事を片付けてきましたから」


 俺の心を読んだのかアトアが答える。


 まあ、今回の訪問同行者の人選は、内閣が決めた事だから大丈夫だと信じよう。


 もちろん他にも同行者がいる。

 これまで獣人族の集落へ食糧を運び移住について説得してきた者と、護衛兼緊急時の対応する数名が一緒に付いて来ていた。



 網膜もうまく(見え方は、目の前にブラウザが表示される感じで、本来は脳内処理)に表示されたマップを見ると、そろそろ目的地近くのはず。

 昔やったゲームと同じで集落がある辺りは、よく霧におおわれる。


 日照時間も少ないと報告を受けているので、さぞ住み難い環境なんだろう。

 もっとも、その霧のお蔭で人族から集落を守って来れたみたいだが……。


 「そろそろ着きそうだな」

 「そうですね、ここを抜ければ……むっ!」


 応えたボルガが、何かを見つけたようなので俺もボルガの見ている方向へ視線を移す。

 そこには、この緑の生い茂った森には似つかわしくない白い人物が立っている。

 もし霧が立ち込めていなければ真っ先に見付かるほど真っ白い。


 「ハハッ凄いな! この霧で見え難いのもあるが、アレだけ見事に溶け込んでいるとは」


 距離も離れていたが、ボルガが気付かなければまず見つける事が出来ないほど森に一体となっている。

 その人物を注意深く見ると、雪豹柄ゆきひょうがらの獣人族なのが見て取れた。


 「彼が、ギリアムさんだね」

 「そのようですね、解析結果本人の特徴と一致します」


 同意するアトア。

 彼は、どうやらナノマシン通信で解析を行い同一人物と、解析結果を得たようだ。


 驚きはしたが、変に警戒しては相手に失礼なので、ギリアムと話せる距離まで歩を進める。


 「ギリアムと言います」


 まずは挨拶と思っていたが、先に口を開いたのはギリアムだった。

 警戒しているのだろうか? 短く飾りっけのないシンプルな挨拶だ。


 「桜花国 国王のマサキと言います。 本日はお招き頂き、ありがとうございます。 右にいるのは、ボルガと言い我が国の軍隊で長を務めているものです」

 「ご紹介にありましたボルガです。 今回は、マサキ様に無理言って獣人族の戦士を拝見したく参上しました」

 「ほう……」


 ギリアムは、ボルガの挨拶に動じる事無くニヤリと笑う

 脳筋と言う訳ではないが、彼もこう言った申し出は嫌いじゃないようだ。


 そう言えば報告では、家族を食べさせるために狩りに勤しんでいるが、手が空いている時は若者達に戦い方を指導していると聞いている。


 ああ! 家族と言えばギリアムには、妊娠中のミルーカと言う奥さんがいて一時ツワリが酷く食べ物を受け付けない状態だった様だが、俺が渡した果物などで持ち直したようで1月前に無事出産、産後の肥立ひだちも順調と聞いた時は安心した。

 生まれた子供は、女の子でミアーテと言う名を付けたらしい。


 なんか俺が訪問する集落は、先々で子供が生まれているな。

 まあ、それは仕方が無いか……。

 桜花からの食糧支援により食糧事情が少し改善され、食べ物不足で子供が作れなかった分、次は子作りとなるのは自然の流れだ。

 

 そんな事を考えていると、ギリアムが「こちらへ」と先ほどと同じ短い言葉で背を向けて歩き出す。

 どうやら集落まで案内してくれるようだ。





 この時、ギリアムの心情は、




 これまで

 本当に多くの種族を纏め作った国がある。 それも、その国を作ったのが人族の王だと言う。

 こんな事言われても正直信じてはいなかった。


 もしそれが本当でそんな国があるのなら、その国の王は人族でもの中でも無骨で他の種族を力で抑え付けている。

 そんなイメージしかなかった。


 しかし、間の前にいる青年はどうだ。

 獣人族の自分に対し軽蔑の眼差し1つ無く丁寧な挨拶は無骨とは程遠い。


 そして、細身だが人族の中では鍛えられた肉体をしており、歳は若いが堂々としていて王としての風格も十分と言える。


 共にいた龍翼人族の男も武芸に長けているのだろう、その身のこなしから分かる。

 他の者達も同様で私でも1対1で戦った場合、あやういかも知れない。


 そして驚くのはそんな彼らが、この若者の周囲を警戒し何か事があれば自分の身を犠牲にする事もいとわない覚悟をヒシヒシと感じてくるのだ。

 もし力で抑え付けられているのなら、こんな感じにはならないだろう。


 しかも若いはずなのだが、身から放たれる雰囲気は重く、それこそ長い経験を積んだ長達のようだ。

 何と言うか、見た目と雰囲気が合っていない感じがする。


 使者に聞かされていたが、会って良く分かった。

 彼の国でこの方を王としているのは、間違いない様だ。


 それよりも私は、この目の前の人物に沢山の借りがある。

 妻と娘のために、その借りを返さなければ……。




 ギリアムがここにいたのは、本当に王自身が着たのかを確認するためと、もう1つ、人族が集落に入れば身内(反対派)がイチャモンを付け来る。

 悪くすれば殺害に及ぶかもかもしれない。


 そんな事をすれば、これまでの食糧支援など多くの恩を受けたのに仇で返す事になり、それこそ獣人族の恥でしかならない。

 今回は、そんな事にならない様にギリアム自身が出張って来たのだった。





 集落に入ると、やはり多くの強い眼差しを多く感じる。

 恐怖や興味など様々だが、中には明らかに殺気も混じっていた。


 「この中に長達がいます」

 「ありがとうございます。 では、失礼して」


 丸太と草で作られた家は、粗末だがシッカリとした造りでそうそう壊れることは無いだろう。

 しかし、サイズはそう大きい物では無いので一緒に来た者達全員入る訳には行かない。

 今回は、俺とボルガの2人が中にはいる事にした。


 内部は、そこまで広くないが10人位は余裕で入れる空間が広がっていた。

 中央に火がかれその奥に5人の老いた獣人族が座っている。

 彼らが、ギリアムの言う長達なのだろう。


 「初めまして、マサキと言います」

 「この集落の長をしている者です」


 お互いに挨拶を交わすと、焚き火を挟んで長の前に座り話しを始める。





 「なるほど、俄かには信じられないが、あなたは別の世界から来られたのですか……道理で獣人族に偏見が無い」

 「ええ、ただし我が国にも人族はいます。 ただ、彼らも長い年月獣人族や他の種族と苦楽を共にしており、同じく他の種族への忌避や偏見などは有りません」

 「……なるほど、なるほど」


 自分自身の事、桜花国の事、国民の日常等多くの事を話していく。

 これは、他の種族や集落で同じ事だが、彼らは人族に対して恐怖している。

 だから人族(俺?)が、国王の国に移住する事に不安を持っているので一つ一つ取り除かなければならない。


 そんな感じで長達のとの会談は終了した。

 もちろん本日で終わるほどの話し合いでもなく、これから何回か話し合いを続けなければならないだろう。

 何事も1歩1歩確実に行く事だ。




 会談を終え建物を出ると、ギリアムが「妻がお礼を言いたいので我が家に来て頂けませんか?」と言うので次は、ギリアム宅に行く事になった。

 本来なら出向いてくるものだが、この集落の事情からそうも行かないのだろう。


 「この度は色々と、ありがとうございました。 こうして無事子供が生まれたのは、ひとえ貴方様あたなさまのお蔭です」


 中に入ると、獣人族ヒョウの女性とギリアムから深々と頭を下げて礼を言われる。

 この獣人族(豹)の女性の方が、ギリアム婦人のミルーカだ。


 「いえ、私自身は何もしてないので、お礼を言われると照れますね」


 アルフィーナが、ツワリの酷い時に食べてた果物、それとお手製のアイスを分けただけで特別の事はしていない。

 これ程までに感謝されると、本当に照れてしまう。


 「いいえ、あのままだと、この子を無事産めたかどうか……」


 ミルーカは、自分が抱きしめる布に包まれた赤ん坊へ目を向ける。

 そこには、安心しスヤスヤと吐息を立てるミアーテの寝顔があった。


 「母子共に無事なのは良い事です。 おぉっ! お母さんに似て美人さんだ」


 赤ん坊を見ると、母親と同じ豹柄ひょうがらの毛並をしている。

 ミルーカ自身も美人なので、さぞかし美しく成長するだろう。


 そんなやり取りの中、ミルーカの傍らにいたギリアムが、何かの包みを差し出す。

 何事かと思い渡された包みを見ると、5センチほどの白く綺麗な石が見えた。


 「これは?」

 「山で取れた石です。 ただ、今までに見た事も無いほど白く綺麗な石なので、何かミルーカに飾りにでも、と思い取って置いた物、お礼の品として受け取って頂きたい」

 「いや、それなら奥さんに渡すべきだ」

 「妻と話し合って決めました。 妻の事でご面倒を見て頂いた事、集落の事、その他色々な事でお世話になり、このまま何もせずとは、私の矜持きょうじが許しません。 どうか、お納め下さい」


 ギリアムの表情は、あまり変わっていないが、その目はがんとして譲らないモノが在る。


 やれやれ、大したことでは無いだろうに……。



 俺は、そんな風に思っていたがギリアムの中では大事であった。

 それは、この世で自分の命より大事な2つの命を救ってくれた事

 この件だけでも、これ以上に無いほどの感謝をしてくれていた




 包みから石を取り出し眺める。


 この艶、肌触りから

 これは……月長石かな。

 しかも、不純物が無く、ヒビや筋も無い真っ白で綺麗な石だ。


 「ふむ……で、あるなら貰っておこう」


 石を再び包みに戻し少し考える。

 そして、ある事をひらめいた。


 「そうだ、せっかく子供が生まれたのに記念になる物が無いな。 どうせなので3人が写る写真を撮ろう!」

 「シャシン?」 

 「そう、写し絵と言えばいいかな……まあ、とりあえず実物を見れば分かるだろう! さ、そこに3人で立って」


 とりあえず訳の分からない顔をしている2人を立たせ並ばせた。


 「2人とも、赤ん坊の様子はどうだ?」


 何が起こるか分からず、ぎこちない動きの2人に赤ん坊の様子を聞くと、2人は自分の最愛の子を見て自然と笑みを作った。

 俺は、それを逃さずに映像を記録する。


 『ミナ、この映像を5センチの大きさに加工して送ってくれ』

 『畏まりました。 無限収納へ入れておきます』


 通信を終えると同時に、すぐに無限収納の目録に写真が加わった。

 まさに神業! ほんと、ミナの仕事は速くて助かる。


 写真を取り出すとそこには、5センチほどの大きさの中にハッキリと仲睦まじい親子の様子が写し取られている。


 「あとは、コレをササッと加工して……よし出来た! さあ、受け取って欲しい」


 先ほど貰った月長石を魔法で二つに割り、中を加工して写真をはめ込む。

 あとは細かな所を金属補強しチェーンを付けると見事にロケットペンダントが完成した。

 急いで作ったわりに我ながら中々の出来栄えに満足する。



 目の前であっと言う間に魔法加工を行なうマサキに2人は、ただただ驚くばかり。

 そして、その加工された物を自分達に向けられやっと意識を取り戻す。


 「いや……これは、先ほど差し上げた石、受け取れません」


 ギリアムは、首を横に振る。

 それもそのはず、意図は何にしろ、せっかくギリアムが差し出した物を形は違えどそのまま返す様なものだからだ。


 「感謝の気持ちは確かに受け取っている。 これはペンダントと言う首飾りで、その感謝の気持ちを送ってくれた親子に私からの贈り物だ」

 「ペンダント? しかし、これでは!」

 「大丈夫、その想いは心に届いている」


 笑いながらマサキは、2人の手にペンダントを握らせる。

 2人の握った手の中でロケットが開くと、中には先ほど取った写真が綺麗に納められていた。


 「これが……シャシン!」

 「まあ、あなたと私、それにミアーテまでも! まるで水面みなもに映る姿の様に映っていますわ。 ……これが、シャシンと言う物なのね!」


 初めて目にした写真に驚く2人

 しかし、その写真の中に仲睦まじく写る自分達の姿に2人とも次第に笑顔になって行く。


 「ペンダントは1つしかないが、写真は別に用意しておこう」

 「そんな、そこまでして頂かなくても……」

 「いやいや、これは私が勝手にやる事、気にしなくて良い……どれ、そろそろおいとましよう」


 そう言い部屋を出て行く後姿にギリアム夫妻が深々と頭を下げるのだった。



 「どうしましょう、この頂いた物」


 ミルーカは、ペンダントの所在についてギリアムに聞くと、ギリアムは 「これは、お前が持っていなさい」笑顔で応え、ミルーカの首にペンダントをかける。

 ペンダントは、ミルーカの胸元で白く輝きとても良く似合っていた。



 さらに借りが出来てしまった。

 私は、これをどの様に返せばいいのか……。


 ギリアムは、マサキから受けた恩に報いるには、どうすべきか? 思いをめぐらせるのであった。

 


すいません。

ミカーナ(ギリアム妻)と

ミアーテ(ギリアム娘)を良く間違えます。 誰だよ、名前考えたの……。


他、未来語3 でのロケットペンダントについても書かれてます。

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