表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/124

77.桜花国記(獣人族の戦士 ギリアム)


 「じゅっ、獣人だーーーー! 獣人が出たぞ!」

 「いやーーーーっ!」


 暗闇に包まれ寝静まった村に大きな声が木霊する。

 その声に驚いた村人達は、武器になりそうなくわや鎌を持ち家を飛び出し応戦の構えを見せる。


 「チッ、潮時だ! 引き上げるぞ」


 混乱する村の中、その声を発した者は複数の影がと共に揺らめき村を遠ざかって行く。


 騒ぎを聞きつけ村の男達が駆けつけると、そこには荒らされた家畜小屋と食糧倉庫

 それに争いがあったのだろうか? ところどころに血と斬撃の跡が残っていた。


 別の家では、騒ぎに慌てランタンを取り落とし、落とした拍子に油を撒き散らし家屋に火が引火

 瞬く間に火の勢いは強くなり、家数件を巻き込む火事になった。


 火事は、更なる騒ぎになり

 朝になるころには、ようやく火は消し止められた。


 今回の騒ぎで多くの者は混乱し、火消しに追われ

 後に残ったのは、疲れ果てた村人と騒ぎでメチャクチャになった村だけだった。




 ケルファルト大帝国のある大陸

 この大陸の大帝国の勢力圏の端に人が訪れるには、いささか険しい山間に挟まれた集落がある。


 人里から離れ、まるで隠れる様に住んでいる彼ら

 なぜ隠れ住んでいるのか不思議に思うが、その姿を見れば一目瞭然だ。


 そう、この集落に住んでいるのは、人族ではなく獣人族


 ここケルファルト大帝国では、爺人族である彼らは、見た目から人族からさげすまれ

 その優れた身体能力から労働用の奴隷として目を付けられる。

 まるで家畜の様な存在だった。


 さきほど獣人族の身体能力は、人族よりも優れていると言ったが、たしかに個別の能力では獣人族は人族を圧倒している。

 しかし、人族はその身体能力を補うために数にモノを言わせて獣人族を狩っていた。

 1 対 多数では、さすがの身体能力にも限界があり、大規模な奴隷狩りには太刀打ち出来ず幼子や女、それに年寄りは逃げ惑うのみ。

 若者の中には戦いを挑む者もいたが、人族は巧みに部隊編成と連携、それに罠や道具を使う彼らには、さすがに獣人族でも遅れを取り捕まってしまう。


 この様な事から獣人族の集落は、人目に付かない様にヒッソリと息を殺して生活していた。


 その集落の1つで、切り部会日が登る薄明かりの中、数人の影が集落の入口から入って行くのが見える。


 「おいっ! お前らっ!」


 それの声はとても大きかった。

 それでいて低く通り、こんな声が間近で聞こえたならば身をすくませてしまう。


 その声を聞き影達が振り向く先には、朝焼けに染まる空と、真っ白で大きな体躯を持つ獣人族(雪豹ゆきひょう)の男が然と立っていた。


 「な、なんだギリアムさんか……」


 その姿を確認した一行は、ホッと胸を撫で下ろす。

 彼らは、ギリアムと同じ獣人族でこの集落の者達だった。 


 「今まで何処へ行っていた!」

 「イ、イエね……ちょっと食料の確保に……」


 ギリアムから放たれる押し潰されそうな気配に圧倒された一人の獣人族の若者が、言葉を詰まらせながら答えた。


 「食糧?」


 そう言っていぶかしみギリアムは、彼らの背後に目を向ける。

 彼らの背後に背負っていた物は、鶏や牛などの家畜、それに麻袋に入れられた穀物類だった。

 それを見た瞬間ギリアムは顔をしかめる。

 何故なぜなら、そこにある物全て、この獣人族の集落より離れた所にある人族の村の食糧や家畜だったからだ。


 「お前達……また、人族の村を襲ったのか……」

 「ま、まあ、そうですが……」

 「お前達……人族が全員敵では無いだろうに……」

 「だってよ、あいつら人族は、俺らの住処すみかを奪い、食糧を奪い、女男関係なく奪って行く、これは俺らがヤツらから奪い返しただけだ!」


 この若者達の言い分も分かる。

 ギリアム達の集落だけでなく、獣人族、ドワーフ族、巨人族など多くの種族は、人族の国家に襲われ奪われ、殺されるか奴隷として連れさらわれていた。

 そして、ようやく安全に暮らせる住処を見つけても耕す畑も無い、険しい山の中か荒れ果てた大地のみ

 そんな場所では、安定して食料を確保するには難しく多くの者達は、食べ物不足に苦労していた。


 「こんな事していれば、いつか人族の国が動くぞ……」


 「でも、ギリアムさん、このままだと爺婆だけじゃなく、小さな子供にも食わせる食糧が無くなっちまう」

 「そうだ! ここには人族が、なかなか入って来れねえが、耕す畑もねえ! 狩りだけじゃ補うにも限界がある」

 「ああ、だから俺達は……俺達を追い出し肥沃ひよくな土地で畑を耕し、安定した暮らしをしている人族の村を襲ったんだ!」


 若者達のその言葉は、ギリアム自身にも身に染みて分かっていた。

 集落の年寄り達には、満足食べる物を与えられず死んで行き、最近では、子供たちも空腹にあえいでいる。

 このままでは、この集落は近い未来に食糧不足から人がいなくなるか四散してしまうだろう。


 「それに、ギリアムさん家だって番になったばかりだしシッカリ食べさせねえと」

 「はぁーーーーっ、分かっている。 だが、もう人族の村を襲うな」

 「だけどっ!」

 「分かっているっ! おさ達と話すから、しばらく大人しくしていろ」


 なおも突っかかる若者達だが、ギリアムの凄みに負けそれ以上言う事が出来ずスゴスゴと引き下がった。



 「あなた、お帰りなさい」


 巡回の猟のために外に出ていたギリアムは、先ほどの出来事に悩みながら家に入ると、花の様な声が迎えてくれた。

 彼女は、ギリアムの妻 ミルーカ

 ギリアムと同じ豹柄ひょうがらの毛並を持つ(ギリアムは白い雪豹、ミルーカは普通の豹柄)美しい獣人族の女性だ。

 おまけに胸もデカイ。(まさに女豹!)

 

 「ああ、ただいま」


 ゲンナリしていた気持ちも彼女の明るい声に幾分か安らぎギリアムも笑って応えた。

 それでもミルーカは、ギリアムのほんの僅かの変化も見逃さずに心配の表情を作る。


 「何かありましたの?」

 「ん? いやな……若い者達がな、また、人族の村を襲い食糧を盗って来たみたいなんだ」

 「……食べ物不足は深刻ですから……私は、あなたが獲って来る鹿や鶏肉を優先して頂いていますが、他の人へ回すとなると量にも限りがありますからね」


 その言葉にギリアムの表情も曇る。

 ギリアムも身重のミアーテのために必死で獲物を探し狩りをしている。

 今日も数日家を留守にし、ようやく良いサイズの猪を一匹仕留めて来た帰りだった。

 この猪は、ミルーカとギリアムの数日分の食糧となる。

 余った物は、燻製など日持ちする食材にして備蓄して置きたいが、そうも言っていられないほど集落は困窮していたため備蓄品も全部他の者へ分けているほどだった。


 「……はぁ、ここで悩んでも仕方が無い。 今日は昼から長達に話して見ようと思う」

 「あなた、無理はしないでね」

 「分かっているよ……だけど、お前のためなら俺は、どれだけでも頑張れるんだ」


 ミルーカを優しく後ろから優しく抱きしめる。


 「あなた……」


 ミルーカもそんな大きな優しさに包まれ安心するも、無理はしてほしくないと言う気持ちもあり複雑であった。




 そんな問題を抱える集落に、さらに一波乱起こる出来事が、その日の昼に起こる。

 それは、近隣の集落では見かけない獣人族が、村を訪ねてきたのが事の発端だった。


 ギリアムが長の家に行こうと、村の入口近くを通った時に入り口の方から騒いでいるのが聞こえてきた。

 何事かと、急いで駆け寄ると入口では集落の周囲を守る若者と、この近くでは見た事も無い獣人族2人が騒いでいる。

 もっとも騒いでいるのは、集落の周囲を守っていた若者の方で見た事も無い獣人族の男達は、困った様子で落ち着いて欲しいとなだめるそんな様子だった。


 「どうしたっ!」

 「あっ! ギリアムさん」

 「何を大声を上げているんだ?」

 「コイツらが、いきなり来て長に会わせて欲しいって言っているんですよ」


 ギリアムが2人の男達に目を向けると、男達は挨拶に頭を下げる。


 「ふむ、良いだろう。 通せ」

 「ぎっ、ギリアムさん!」

 「分かっている。 良く分からない余所者よそものを入れる事は危ないと言いたいのだろう? まあ、俺が付いてれば大丈夫だろう。 見れば武器すら携帯していない」


 そう、この男達は、どこにも帯剣たいけんしておらず槍や弓すら持っていない。

 もしかすると、背負っている背負子の荷物の中に入っている恐れもあるが、ギリアムが見る限りでは敵対するつもりは無さそうに見える。


 「こっちだ、付いて来て貰おう」

 「「ありがとうございます」」


 2人の男達は、礼を言いギリアムの後を追って集落へと足を踏み入れる。

 そんな様子を入口を守っていた若者は、厳しい眼差しで見送るのだった。




 長の家に到着すると、集落の長達の前で早速男達が訪ねて来た用件に入る。


 「して、何用かな?」


 長の中の代表であろう獣人族の老人が、2人の男に尋ねる。


 「はい、私達は、ここより遠くにある国で暮らす者です。 本日は、食糧に苦慮するこの集落に食べ物を持ってきました」

 「何とっ! これは!」

 「おぉーっ!」


 男達は、そう言うと背負子の荷物を降ろし中身を見せる。

 長達は、最初男達が何を言っているのか理解できなかったが、男達の荷物の中にギッシリと詰まった小麦などの穀物、それに塩を見ると驚きの声を上げた。

 たった2人で背負って来た物なので、重量にすると100キロほどだろう。

 しかし、それでもこの集落で生きている者達には、神の恵みと思えるほどにありがたい物だ。


 「これほどの食べ物を頂き感謝に堪えぬ、これだけあれ、しばらく集落の者達が生きていける……じゃが、しかし、何故なにゆえ我らにほどこしてくれるのかな?」


 それもそうだろう、こんな貧しさに苦しむ集落へ食べ物を持ってきたこの男達に疑問を持つのは当然。

 いや、疑問よりも怪しさの方が一層濃くなる。


 「これは、我が国よりこの集落への支援物資です」

 「ほう、獣人族のお主達が作った……そんな国があるのか?」

 「いえ、私達が起こした国では有りません。 我が王は、いささか違いますが人族になります」

 「何じゃと、人族の国が我々に支援をする!?」


 長達は混乱する。

 もちろん傍らで聞くギリアムも同じだ。

 自分達が、これほど苦しんでいるのは、ひとえに人族のせい、一体全体どういう事なのか分からなかった。


 「我が国は、ここより遥か遠くにありますが、人族や獣人族、龍翼人族、ドワーフ族など数多くの種族が笑いながら安心して暮らしている国です」

 「何じゃと! そんな多くの種族が、人族の王の下に暮らしておるのか? にわかには信じられん」


 長達が、今まで見たり聞いたりした国は、人族がその他種族を蔑み家畜の様に扱う国ばかりだった。

 そんな御伽噺おとぎばなしの様な事、想像すら難しい。


 「お見せ出来なくて残念です。 しかし、実際にあります」

 「ええ、実際に見てもらうのが一番ですが、今回はこの集落の人々が食糧になげいているのに心を痛めた我が王が、我々を遣わされました」


 そう聞いても長達とギリアムは難しい表情を作る。

 男達も一度の訪問で全てを信じてもらえるとは、思っておらず「今回は、この辺で失礼します」 と去って行った。


 「ギリアム、どう思う」

 「信じられませんが……もし……もしも、そんな国があるのなら」


 ギリアムは、それ以上言葉を続ける事が出来ない。

 そこにいる長達も同様で、神妙な面持ちをしていた。


 そして、全員が心の中でこう思うのだ。


 全ての種族が分け隔てなく過ごせる国があるのなら自分達も……と。





 食糧は毒見の後、村中に配られた。


 食糧を運んできた男達もこの後何度も村を訪れ信頼を得ようと努力し集落の多くの者達も当初怪しんでいたが、何度もこの集落へ足を運び食糧を届けてくれる男達を信じる様になって行く。

 そして、誰もが、そんな国があるのなら行って見たいと……。


 しかし、集落を守る若者達の想いは違っていた。

 今まで酷い事をしてきた人族、そんな人族と同じ種族の王の国をどうしても信じる事など出来ずに集落の想いと彼らとは、次第に深いみぞが出来る様になる。


 そんな若者達の考えは、村の中で小さな火種として燻り続けるのだった……。


投稿遅くなりました。

2つの話を書いたのですが、内容が似ていたので片方を削り、もう片方を書き直しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ