76.桜花国記(救護と移送)
「アハハハーッ」
「コッチーッ!」
空は晴天
この地域にしては、今日はポカポカ陽気で何とも子供たちは元気いっぱいの様子だ。
ボール遊びやママゴトなどの遊びを夢中になってやっている。
もし俺が、公園のベンチでこれらの光景を見ていたら、子供たちの元気な様子に目を細めて見守っている事だろう。
でもここは、公園でも遊び場ではない。
そう、ここは、空母赤城の甲板の上であるからだ。
子供達はその甲板の上を遊び場に元気にハシャいでいる。
この赤城は、全長400メートルもあり日本側地球に在ったどの空母よりも大きく、子供たちが駆け回っても海に落ちることは無い大きさだ。
まあ、念のためにフェンスなどを張って転落やボールが外に出て行かない様に措置は取っているが。
この空母に乗っている子供たちの総数36人
どの子も受け入れ当初は、ガリガリに痩せているか病気で立って歩く事も難しい子ばかりだった。
そんな子供たちが、なぜこんなに元気いっぱいかと言うと、ひとえにこの艦の医師の力と、アルフィーナ達研究機関の日々の弛まぬ努力おかげだろう。
つまり、病気や怪我をした子供達は、医療と魔導医療、魔法医療の複合効果を持って完治、または、走れないまでも外に出ても大丈夫なほど治っていた。
「こちらに、お出ででしたか」
「ん?」
子供たちの様子を見ていたら不意に後ろから声を掛けられる。
見るとそこには、今回この船に一緒に搭乗したカドラが立ってにこやかな笑みを浮かべていた。
「おお、カドラさん! ご無沙汰です。 カーラさんの産後は大丈夫ですか?」
「ええ、お蔭様で、こちらの方こそ、この度は、ありがとうございます」
カドラは、深々と頭を下げる。
ここまで彼らは、驚きの連続だったろう。
その彼らの驚きの発端は、数日前に俺たちカドラ達エルフの集落へ赴いた時から始まった。
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――ブォォォーーーーーー!!!
凄い音と共に強い風が巻き起こる。
周囲の草木は大きくたわみ、それはまるで水辺に小石を投げ込んだ如く外へ外へと膨らんで行く。
「なんだ、ありゃっ!」
「さっきの獣人の人達が言っていた乗り物なのかね」
悲鳴や驚愕の叫びが、そこかしこから聞こえてくる。
事前に説明は行っているはずだが、やはり見た事が無い物を想像するのは難しいのだろう。
集落の者達全員集まり、驚きの顔をしていたり中には祈りを捧げる者までいるしまつだ。
「さがって下さーーいっ!」
部隊の隊員が、大声で周囲の者に注意を促す。
そして上空から凄い風音と風圧と共にオスプレイに似た胴体に紅色の八咫烏が描かれた機体が下りてくる。
この機は、我が国の最新技術が結集され製作された、回転翼の部分が魔道具の最新鋭の輸送機だ。
ゆっくりと降りてくる輸送機の風に周囲の木々が煽られ機体近くに大きく撓り、着陸が随分と窮屈そうだ。
事前準備で広い空間を確保していたのだが、如何せんこんな僻地では、ある程度の広さを確保するにも大分制限があるので今回は仕方が無い。
そんな狭い場所をパイロットの技術や輸送機の性能で確実に地面に降り立つと、後部のハッチが開くと内部にガッチリと固定された集積物が露になった。
この物資は、今回この集落へ渡す小麦粉や塩といった食料品である。
「今回は緊急であるから私が物資の搬出を行なう。 隊長はカーラの搬送準備の指示に当たってほしい」
「承知しました!」
近くに部隊長がいたので、他の作業をして貰うようにお願する。
すると部隊長すぐに行動に移り、カーラやその他この集落から今回移住する人々の移送準備に取り掛かる。
移送を隊長に任せると、俺は物資の運び出しに取り掛かった。
まあ、無限収納があるから一瞬で終わるんだが。
運び出した物資はカドラに指示を仰ぎ保管場所に置く。
その間も医官の隊員達が、カーラをストレッチャーに乗せて固定し輸送機へ移動させ、他の隊員も移住する住民を確認し各自に説明をして乗り込ませていった。
色々と慌しくなったが輸送機に乗った住民は、そのまま空母赤城に移動
残った隊員は、今回移住しない残された人達へこれからの説明を済ませ、その後、代わりの輸送機で帰投していく。
赤城では、カーラやその他の怪我や病気の者達を備え付けられた医療区画で手術や治療にあたった。
今回、カーラの他には、妊娠中の女性はいなかったのだが思いのほか病人が多く、赤城の収容人数を越えたため他の艦にある医療区画も使い対処に当たる事になった。
カーラの手術は、赤城ではなく旗艦長門の医療区画で切開を行い、無事元気な男の子を出産した。
男の子は、カンガルーケアの観点からカーラに抱いてもらったが、すぐに急造の新生児室に移動させ医師が対応にあり、カーラもバイタル確認で異常が無かったのでガラス越しで赤ん坊の様子が分かる隣の部屋に移動してもらい回復具合を見て母子同室になる。
余談ではあるが、この時カーラから生まれた子にナガトの名前付けられた。
まあ、アカギじゃなくて良かった……とくに他意は無いよ……ホントに。
病気や怪我などが軽かった人達は、入院する必要も無いので赤城の居住スペースでしばらく生活する事になる。
俺とルトールは、カーラの出産に立会いたかったが、公務も詰っていたため魔障壁で先に移動し仕事を消化して行った。
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そんなこんなあったが、移住者や病気の者達の様子を見に来るため公務の合い間に赤城に訪れた。
それが今の状況だ。
「如何なされましたか?」
ボーっとこれまでの経緯を考えていると、カドラは不思議そうに尋ねる。
はなしを続けずに呆けていれば、そりゃ不思議に思うよな。
「いや、何でもないですよ。 どれ、椅子にでも座りましょうか」
「そうですな、今日は良い天気で日向ぼっこするには、ちょうど良い」
近くには、椅子とテーブルが用意されていた。
通常は甲板の上にこんな物を置かないのだが、今回赤城は移住者の居住区を設けているので今だけ特別な措置だ。
2人で空いているテーブルに着く。
見ると、他のテーブルにも獣人族などのご老人達が座っていた。
今回の移住では、100人近くの人たちを移動する事になっている。
その多くは、痩せ細ったお年寄りと幼い子供、または怪我や病気になっている者がほとんどだった。
これは、あれだな。 まだ、我が国を信じていないって事だな……。
先に述べた様に今回の多くが、成人に比べ体が不自由か力不足の者達だ。
つまり、少ない食糧事情の中で集落としてやって行くのには、この者達は足手まとい。
さて、どうしたものかと考えた矢先に俺の申し出
そこで集落が出した決断は、まずは無駄な部分を押し付ける。
つまり、移住してもどうなるか分からないから、彼らを先に向かわせたのだろう。
言い様によっては、姥捨て山、または、口減らしって言ったところだな。
この結果を見ると、まだ桜花と集落との信頼関係は完成していない。
しかし、もし病気や怪我の者が完治して、お年寄りと子供たちの栄養と衛生面が改善したらどうなるだろう?
もし、集落から出て行った者達が、そんな状況で集落も者達の前に出て行ったら……おそらく自分もとなる可能性が高い。
「まあ、これからですな」
カドラが、俺の心を見透かした様に微笑んでいた。
「そうですね。 これからですね」
まだ、初めの1歩の段階なのだから気落ちする必要もない。
何事もこれからなのだ!
「皆さーーーん、オヤツの時間ですよーーー!」
「「「わぁーーーーーッ!!!」」」
そんな時、軍服を身に纏った数人の男女が、大きな声を上げてカートを引いてきた。
彼女達は、この艦で移住者の身の回りの世話をしている人達だ。
時間を見ると確かにオヤツの時間だ。
子供たちも先ほどまで遊びに夢中だったのに一心不乱にこちらに駆け寄ると、手拭で手を拭いてお行儀良くテーブルに着く。
「私達もお茶にでもしましょう」
「ほほ、よろしいですね」
子供たちの前には、世話係の人たちがオヤツを置いていったので、俺は無限収納からポットと急須に湯飲み、軽い茶菓子(もちろん和菓子)を取り出すとお年寄りのテーブルに置いていく。
お茶の入れ方は、事前に説明し知っているので問題ない。
ポットの使い方は……まあ分かるだろう。
「「「いただきます!」」」
子供たちの大きな声が聞こえる。
この艦で食事をする時に他の隊員がやっているのを見て子供たちが覚えたらしい。
お年寄り達にもその意味などを教えると、子供たちと同じ様にお年よりもやる様になった。
今では、全員欠かせない挨拶となっている。
「私達も頂きましょう」
「ええ、頂かせていいただきます」
自分の席でカドラとお茶を飲む。
ああ、なんか落ち着く。
「ああーーー! オヤツ始まってる! ヒメさま早くーーーーっ」
艦内から出て大きな声を上げるのは、ウルタお嬢ちゃん
トテテテと効果音を付けたくなる可愛らしい走り方で駆け出すと、後ろからカグラも走る事はせずに歩きながらテーブルにやってきた。
皆と同じテーブルに座ると思ったが、カグラはカドラと俺のテーブルまで来ると俺の隣の椅子を引いて腰掛ける。
子供たちと一緒の方が楽しいと思うが……まあ、お爺ちゃんと一緒が良いのかもしれない。
カグラが俺たちのテーブルに座ったのでウルタも同じ様に俺たちのテーブルの空いた席に着く。
ウルタお嬢ちゃんは、俺を見てブスッとしている感じがするが、まあ、気のせいだろう。
「……あの」
カグラが、クイクイッと俺の袖を引っ張る。
「ん? なんだい?」
何か言いたそうなのでカグラに顔を向けると、「……アレが食べたい……」 と恥ずかしそうに顔を赤らめて言った。
アレ? あれ? アレ? ……ああっ! アレか。
「はい、夕食前だから1個ね」
無限収納からタイ焼きを乗せた皿を取り出しカグラに好きなのを選ばせると、「前食べたのがイイ」 と言うので桜餡のタイ焼きを1つ皿に取り分けた。
ウルタお嬢ちゃんも欲しいかな? とウルタの方を見ると、すでに2個のタイ焼きを掴んでいた。
素早いな……それに2個って、あの小さな身体のどこに入るのだろう?
「こらっ! ウルタ! まったくお前は……大変失礼しました。 コレには、後でキツク言って置きますのじゃ」
ウルタに代わりカドラが頭を下げる。
「いえ、大丈夫ですよ」
まだ子供のうえに現在は、桜花へ移動中の船の上
行儀や道徳などの勉強も含めこれから学んで行けば良いだろう。
そう思っていると、2人が「「いただきます」」の挨拶と共にタイ焼きを食べ始める。
「何にしても……これから大変だ……」
俺も口に菓子を放り込みお茶をススる。
日差しは強くても外の気温が低いため、お茶がジンワリと身体を温めてくれる。
今は太陽がサンサンと輝いて暖かいが、これから船が向かう先は一層寒くなっていた。




