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75.桜花国記(少女救出から母子救出作戦へ)


 扉が開かれ診断をしていた衛生兵が、1人やって来た。


 「マサキ様、お話が……」


 すぐに俺のところまでやって来た彼女は、小声で話す。


 「診断結果かな?」

 「はい」


 彼女は、笑み1つ無い真剣な表情で頷く。


 う~ん、これは、何か問題があったのかもしれない。


 診断結果は、本人または家族が聞くもので他人の俺が聞くものではないが、今回俺に話してきたって事は俺に判断して欲しい事があるのだろう。


 「分かった。 カドラさん中でカーラさんの診断結果を聞きましょう」

 「は、はあ、分かりました」


 そう言うと、カドラは娘の事が心配で早く聞きたそうにソワソワしていた。


 部屋の中には、俺とカドラ、それにカーラ警護のヒクライアが入る。

 ルトールと体長さんには、すまないが外で待機してといてもらう。


 「カーラさん、カドラさん今から診断結果を聞きますが、よろしいですか?」


 部外者である俺も同席して良いか聞くと、カーラから「構いません」の一言にカドラも頷く。

 これで俺が、カーラの診断結果を聞いても大丈夫なていになった。


 「では、診断結果をご報告します。 カーラ様のお腹の中にいる子供の性別は男の子でした。 おめでとうございます」

 「おお、子供の性別が分かったのか!」

 「はい、お父様、この方が不思議な魔道具でお腹の中の子を映してくれ分かりました」

 「何! 魔道具でお腹の中の子が見えたのか?」

 「はい、まだ小さいですが、ハッキリと」

 「大丈夫なんじゃろうな……」

 「ええ、痛みも無く」

 「……そうか」


 カドラは娘の答えにホッと胸を撫で下ろす。


 音波測定なんかの機械を使って分かったのだろう。

 まあ、初めての機械だから驚かさない様に魔道具といったんだな。

 もっとも魔素も使用しているから魔道具と言えば魔道具か……。


 「ただし、この時分かったことがあり、これが問題です」


 医師である多腕族の女性は、にこやかな表情から一転真剣な表情になった。

 どうやら、ここから本題みたいだ。


 「お子様は、逆子の状態で臨月に迫っています」

 「サカゴ?」


 テキパキと説明していくが、カーラは各名称が分からなくその説明に着いていけない様だ。


 「失礼しました。 逆子は赤ちゃんが生まれてくる時に足から出てくる状態です」

 「……はぁ」


 そう聞いてもカーラは、今一いまいちピンとこない様子だ。

 それでも説明は続けられる。


 「ですので、このまま赤ちゃんを産もうとすれば外へ出るのに時間が掛かり……死産する可能性が高いのです」

 「えっ!」

 「何じゃとっ!」


 カーラもカドラも驚きの表情を隠せない。

 それもそうだろう、生まれてくる子供が死ぬと言われれば無理もない。


 「な、何とか出来ませんか?」

 「ここでは……無理です」


 逆子なら帝王切開で摘出しないと、母子共に危険になるリスクが高い。

 一時的にこの部屋を手術室として、簡易の機材を持ち込む事は可能だが、このままこの集落で子供を育てるには、色々と問題がある。

 医師を見ると、彼女は俺に託すような目で見ていた。


 そうか、だから俺を同席させたのか……それなら!


 「カーラさん、カドラさん、私の国……いや、船に来て頂ければ子供を助けられます」

 「なんですとっ!」

 「っ!」


 2人とも俺の言葉に藁にもすがる思いの様だ。


 「その船には、手術室と母子共に安静に出来る部屋があります」

 「シュジュツ? それは、何でしょうか?」


 カーラは、聞きなれない単語に首を傾げる。

 魔法が中心のこの世界では、漢方かんぽうなどの薬方はあっても外科手術などはまだ発達してないから当然かもしれない。


 「手術とは、皮膚を切って身体内部を治療する方法です。 今回のカーラさんもこの手術室で赤ん坊を取り出すことになります」

 「っ!」

 「なんですとっ!」


 2人とも目を見開かんばかりに驚き、また、恐怖していた。


 う~ん、このまま話を続けて良いのだろうか不安になる。

 横にいる多腕族の医師は、このまま続けろと頷いて応えた。

 つまり一刻の猶予も無いと言う事か……。


 「絶対に母子共に死なすことは致しません。 どうか私に任せて頂けないでしょうか」


 2人に頭を下げてお願いした。

 見た事も無い恐怖に身を引こうとするかも知れないが、このままでは、子供の命に係わる。


 「だっ、ダメだ、ダメだ!」


 俺を後ろで大声を上げて警護のエルフ ヒクライアが槍を構え今にも刺し殺すほどの殺気を込めている。


 まあ、これも当然と言えば当然かな。


 「ヒクライアさん、このままだとカーラさんとその赤ん坊の命も危ないんですよ」

 「ふ、ふざけるな人族! 巫女様のお子を切って取り出すだとっ! 戯言たわごとを言うのは、やはり人族だな!」


 ヒクライアの方を向くと、彼は目を血走らせ興奮している。

 こんなに興奮しては、話も出来ない。


 「止めるのじゃヒクライアっ!」

 「長も巫女様もこの人族に騙されている! 何がサカゴだ、そんな意味の分からない事を言ってこの人族は、巫女様たちを騙しているんだ!」


 聞く耳を持たないとは、まさにこの事

 おそらく今の彼に何を言っても理解する事は出来ないだろう。


 『……んじゃ、ワレェ』


 なぜか横の多腕族の女性が震えている。


 ん? それに何か言ったかな?


 『何やっとんじゃ、ワレェェェーーーーーーッッッ!!!!』

 (何してるんだ、お前)


 多腕族の女性からヒクライアに向け怒号が飛んだ。


 「ウチの王様に何してんやっちゃ、オメェーーーーーッ!」

 (我が国の王様に何してるんだ、お前)


 多腕族の女性は、そう叫ぶと一瞬でヒクライアとの距離を詰め4本の腕で槍を押さえ引き倒すと、ヒクライアの腕を後ろ手に間接を極めた。


 「グエェッ!」


 地面にうつ伏せに倒されたヒクライアは、女性の体重を身動きの取れない様に上手いこと乗せられ身動き1つ取れなくなっていた。


 『いい加減にしろじゃ! マサキ様が母子の命を救おうとしてるのに、ィヤー横から、じゃかましいこと言いよって』

 (いい加減にしなさい! マサキ様が母子の命を救おうとしているのに、お前は横から、うるさいこと言って)


 「グッググゥ! 何言ってんだ、この女」


 『うっしゃがます! それ以上言葉続けっと、口切っとばすど!』

 (うるさい! それ以上言葉を続けると、口を切り飛ばしますよ)


 多腕族の女性は、2本の腕でヒクライアを拘束すると、空いているもう2本の腕でヒクライアの頭を掴んで何処から取り出したのかメスを口に当てる。

 どうもヒクライアは、彼女の逆鱗に触れた様だ。


 しかし、彼女は何処どこくにの人なんだ?

 色々なお国言葉くにことばが混じっているぞ……しかも日本語では、エルフに分からないだろうが。

 まあ、とりあえず放っておこう。


 「カーラさん、絶対にあなたも子供も助けますので来ては頂けないでしょうか?」

 「だ、騙されてはイケませっ、『だまらんね!』(静かにしなさい)ッンギュゥ!」


 ヒクライアは地面に口を押し付けられた。


 「……はっ! えっと……どうか頭を上げて下さい。 あなたが正直に言っている事は分かりました」


 しばらく呆然としていたカーラが、再起動して応える。


 「お父様、私はこの方を信じたいと思います」

 「……あ、あぁ、お前が良いなら私は何も言うことは無いよ、それにあのお約束もあるからのう」


 カドラの言うあの約束とは、おそらく移住の事だろう。

 この様子だと若者が中心に反対しているが、もし今回の事が上手く行けば事が好転するかもしれない。


 「ありがとうございます。 2人とも承諾してくれたから、そっちもそろそろ話してあげて」

 「ハッ!」


 多腕族の女性が、ヒクライアを開放するが彼はピクリとも動こうとしない。

 大丈夫だよね? と目を向けると彼女は「大丈夫です、軽く締めたので気絶しただけです」と平然としていた。

 まあ、おそらく大丈夫なんだろう……たぶん。


 2人の承諾が得られたので俺は、外の隊長に事の次第を言うと現在上空で待機している輸送機を下ろす事

 そして、下ろす場所を確保するために他の隊員も一斉に動き出した。


 また、ルトールとカドラには、輸送機の着陸に驚かない様に使いを頼む。


 俺の方は、洋上で待つ司令官に連絡を入れ病室の確保を依頼した。


 この時、ルトールが他の集落へこの集落の長を派遣したいと言ったので合わせて行う事に。


 しかし、アレだね、女性を怒らせてはダメだね。

 そういえば俺、彼女の名前知らないや……あとで調べておこう。


 普段温厚で優しい人を怒らせると怖い

 そう思い知らされる一場面だった。


次回でエルフの救出は最後かも

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