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未来語4.姫桜

初投稿から1周年記念です。


 そこは、広い会議室だった。

 しかし、見る者が見ればの置かれたテーブル、並ぶ椅子に壁際に飾られた調度品、どれも一級品と言える美しさと長い年月をかけて磨かれた味わいを感じる品々だ。


 そんな一片的に豪華と言える会議室で多くの人々の話し声が聞こえてくる。

 テーブルを中心に並ぶ椅子には、年老いた人族、獣人族に翼龍人族、年齢の分からないエルフなど様々な人々が座っていた。

 良く見ると、椅子に座る者だけでなく、その背後や周りに秘書の様な人影と、他にも軍服を着ているのが見える。


 1人の男が姿勢を正すと、それに気付いた周囲の者が口を塞ぎそれまで騒然としていた室内に静寂が訪れた。


 「では、全員問題ありませんね」


 その人物の言葉に椅子に座る全員が、首肯して応えた。


 「それでは、この案を閣議決定として本国会に提出します」


 ここは桜花国の官邸

 そして、今ここでは大臣達が一同に集まり1つの案件が閣議決定された。

 閣議決定には、日本と同じく各大臣の全会一致の賛成がなければ閣議決定出来ない。


 先ほど発言した男は、決定した事に一息入れる。


 ふう……何とか成立したな。


 疲れきり目頭を押さえながら、そう呟く彼は、桜花国の内閣総理大臣

 総理は、是が非でも通したかった今回の案件が、ようやく1段落した事にホッと心を撫で下ろした。


 この案件を通すために内閣の閣僚だけでなく、派閥の長や主要人物と直接面談しそして説得、それと同時に経済界の企業などに人員を派遣し理解を求めてきた。

 どんな会合でもそうだが、根回しは大変重要でそれにかかる労力と言ったら彼の憔悴を見れば明らかだろう。



 そして今、そんな彼の座るテーブルの上には、1つのファイルが置かれている。


 ファイル名

 ― 姫桜ひめざくら に関する環境改造及び開拓計画 ―


 これこそ彼が、是が非でも通したかった案件でその労力の大半を奪った存在


 あとは、国王様に上奏じょうそうして承認を頂ければ予算が出せるな……。


 閣議決定したからと言って、この案件が成立したわけでない。

 この後に国会に提出、審議され採決される。

 しかし、根回しがある程度出来ているので、根回しが出来ない上奏のみと総理はそう考えていた。


 彼は、この後にくる国会の信義に憂鬱とこれからも続く苦労に憔悴しょうすいしきった彼の面持おももちだったが、その目はどこか満足した物だった。







 眼前には、満天の星空が広がっている。

 星星が様々な色で広がるその素晴らしい風景にふと想いを口ずさむ。


 「ちゅうにたゆたう星星ほしぼしは、様々な色でまたたき合い。

  それを見ていると、まるで自分が星の海にただよっている……そんな感じがするもんだな」


 俺一人しかいない部屋で寝転がりながら、心に思った事を口ずさむ。

 人がいれば恥ずかしい所業だが、誰も聴かれることも無いので大丈夫だろう。


 仰向けで寝転がった目の前には、満天の星空が広がっている。

 その一つ一つが煌き己が存在を主張している様だ。


 『……素敵ですね』

 「そうかな、俺はイマイチ……って!」


 あまりにも自然な流れでこたえたが、誰もいないはずの部屋から突然の声に驚き身を起こす。

 同時に先ほどまでまたたいていた星が消え明かりが灯り部屋全体が明るくなった。

 慌てて周囲を見回しても誰もおらず、この部屋の中には俺1人しかいない。


 「……雪風か?」

 『はい』


 応える声と同時に目の前に展開されたブラウザに美しい女性が俺に応えていた。

 誰が見ても美しい女性の彼女は、人間ではない。

 それでは何なんだ? と言うと、彼女は機械的に人格が作られたいわゆる人工知能だ。

 しかし、どう見ても1人の女性に見え、知らない人が見れば本当に機会か疑いたくなるほどの出来栄えをしている。


 『良いうただったので最重要データベースに記録します』

 「やめてっ! そんな黒歴史、記録しないで!」


 とんでもない事を言う雪風を慌てて止める。


 もし、そんな事になれば俺は、一生拭ぬぐえぬ傷となる。

 とりあえず言いたい事は沢山あるが、彼女がなぜ俺の回線にアクセスして来たのか用件を聞くべきだろう。


 「で? 何の様だい?」

 『はい、真田中尉さなだ ちゅういを艦長がお呼びです。 至急艦長室まで来てください』

 「艦長が?」


 艦長から呼び出す用件に心当たりは無いが、上官からの呼び出には応えねばならないだろう。


 「了解、すぐに行く」

 「では、その様に伝えます」


 ブラウザの雪風は、俺の返事を聞くと敬礼後に接続を消り画像が消えた。


 「さてさて、心当たりは無いが、何かやったかな?」


 自分の過去の行いを思い出すが、これと言って引っかかるモノが無い俺は身支度を整えると、壁に映る風景に目を向ける。

 壁には、先ほどまで部屋全体に映っていた様な星星が、四角い窓枠で絵画かいがの如く流れ映し出されていた。


 そう、ここは、宇宙。


 今は、桜花国歴518年


 俺は、第13恒星調査船団、護衛艦雪風の中にいた。





 『艦長、真田中尉が参りました』

 「うむ、通せ」


 「失礼致しますっ!」


 艦長の許可と同時に扉がスライドし開かれ部屋に入る。


 中に入ると艦長は、自身の執務机で椅子に腰を下ろし何かファイルを読んでいた。


 他にも副艦長や技術主任など数人が、別に用意された椅子に腰を下ろしてた事に驚きはしたが、とりあえず自分が呼び出された内容を聞かんと分からんので艦長の前まで歩を進める。


 「お呼びでしょうか」


 艦長が座る前で敬礼すると、艦長は「ああ」と俺に目もくれずに座ったままで、持っているファイルから目を離さなかった。

 このファイルを読んでいる艦長は、丘月おかづき大佐 獣人族カルカラの女性で容姿端麗で規律を重んじる厳しい艦長だ。


 年齢? 知らないな。

 見た目は、若い上に美人なんだけど、女性に年齢を聞くわけにも行かないし、獣人族の平均寿命は年々伸びているから本当に分からない。


 寿命については、ナノマシンの開発と医療技術の向上で桜花国の平均寿命が延びてきている。

 取り分け顕著なのが、人族だ。

 建国当時は、平均寿命50~60年だったのに現在では倍以上伸びて180歳を越える者までいるくらい伸びている。

 獣人族や頭角族は、300歳で50~100年の伸びで元々長生きな獣人族も人族の倍以上の平均寿命を誇るほどだ。

 ただし、ドワーフや龍翼人族など500年を越える長寿種族と同じく余り伸びていない。

 これには、いくつかの医学的な理由があるそうだで色々と嫁から聞かされているが、難しい専門用語などが多いのでここでははぶかせてもらう。


 と、まあ、寿命が延びているのだが、長生きする事に良い面と悪い麺があった。

 それは、出産年齢の上昇だ。

 別にエルフ族などの様に妊娠し辛い体質ではなく、おそらく価値観の変化が大きいのだろう。

 それに加えアンチエイジの技術発展も大きく、100歳を越えても見た目と肉体年齢が40歳程度で事故などが無ければ晩年は、眠る回数が多くなり最後は眠ったままで逝ってしまう。


 この様に平均寿命が延び老いも遅いことから、長い人生の中で独身を楽しみたい人が増えたんだと思う。

 まあ、価値観なんて人それぞれだから良く分からん。


 話を戻すと、艦長の見た目は若いがその年齢を判断する事は難しい。

 ただ一言、美人だ! とは言っておこう……言わないと殺され、おっと!


 艦長は、ファイルから目を上げ鋭い眼光をこちらへ向けてきた。

 怖っ! 顔に出てたかな?


 「……来てもらってスマンな真田中尉。 今回来てもらったのは、君が士官学校で提出した論文である惑星の環境改造と開拓に関する事でだ。 覚えているか?」


 は? 俺が書いた論文……ああっ! アレか!


 一瞬何の事やらと思ったが、すぐに思い出し艦長の言葉を首肯する。


 「はい、たしか私が発見した惑星の開拓案ですね」

 「そうだ、そして、その気味が発見した惑星は、現在我が船団が調査している恒星の1つになっている」


 たしかに艦長が言っている様に俺が発見した惑星は、この船団の調査対象の1つになっている。


 「我々が何を調査しているか、もちろん分かっているよな?」

 「恒星の調査と地球型惑星の発見、それとあらゆる生物、生命体の調査です」

 「そうだ、もっと厳密に言えば地球型惑星の確保にある」


 この宇宙船団の目的は、地球型惑星の発見で人の居住に適した惑星が見付かれば移住を目的とした調査が行なわれる予定だ。

 そう、見付かれば! だが……。


 「現在、我が船団のみならず他の調査団を含め、数億種の生命や生命の痕跡を発見している」


 たしかに艦長の言っている様に我が艦だけでも、かなりの数の生命やその痕跡を発見している。

 それに、俺のアクセスランクで閲覧できる情報でも、他の船団を含め膨大な数にのぼっていた。


 「だがな……大変残念な事に発見した地球型惑星には、生物どころか今のところ移住出来る環境にある惑星が見付かっていなのだ!」


 調査された地球型惑星と言っても、幾選も種類がある。

 それこそ大きさから、恒星との距離、内包する物質の密度など多くの条件が必要だ。

 そして、いままでの調査結果で人類が、すぐに移住出来る惑星は見付かってはいなかった。

 ただし、数箇所だけ惑星の環境を改造すれば移住の可能性があるとされている。


 「でだ、君の発見した姫桜なんだが、今回政府より惑星姫桜への開拓に予算がついたのだ」


 丘月は、ビシッと持っているファイルで私を指す。

 その顔は、何と言うか……ドヤ顔であった。


 「はあ……」

 「はあ……ではない! 少々修正はある物のほぼ君の論文が元になってるんだぞ!」


 と言ってもな~、アレは学生時代に色々とフザケ半分で作ったヤツだからな~。

 予算が付いても移住開始に何十年かかる事やら。


 「えっと、嬉しくはあるんですが、私は論文に書いただけでして……ようは、絵に描いた餅、餅を描いても絵は絵です。 餅を餅にするならお餅屋さんが担当するでしょう?」


 俺は、失礼だが遊び感覚でみんなの意見を纏め論文として提出しただけだ。

 たかが一介いっかいの中尉である俺に何が出来ると言うんだろうか?

 それに論文を使う事に許可出した事なんて………………あった。




 あれは士官学校卒業後、初めての任地が決まった時の事だ。


 「うわーーーーーーーん、おどーーーざまーーーーいっしょに行くのーーーーーっ!!!」

 「一緒には無理だよ。 お父さんお仕事なんだから……」

 「いやーーーーなーーーーのっ!」


 いつもなら聞き分けの良い娘もこの時ばかりは、感情のパラメータが振り切れた様に大泣きして俺にシガミ付いていた。

 俺が遠くに行く事は、事前に娘にも説明していたのだが、俺の出発の日が目前に迫ってきたので、娘の中で不安が強くなり泣いてしまった様だ。


 「いっしょなのーーーーー!」

 「お母さん達と一緒だから大丈夫だろう? お休みの日には、返ってくるから一緒に遊ぼうな?」

 「いやなのーーーー!」

 「ヤレヤレ、こればかりは代わってやる事は出来んからのう」


 嫁さんもそんな子供の様子にお手上げ状態

 これは、泣き疲れるまでこのままでいるほか無いようだ。


 「それはそうと、前に提出した論文のコピー、ウチの弟子が興味持っているから使っても良いかのう?」

 「いやーーーー!」

 「う~ん……えっ! 論文? ああ、好きに使って良いよ」

 「おお、分かったのじゃ!」




 そういえば、言ってたな……俺。

 今思うと、たいした内容じゃないんだけど、随分と大事になったものだ。


 「で、だ。 真田中尉、君は今回の計画の主要人物……ではないが、それなりに重要な地位につく事になる」

 「地位? 今の部署では、無いのですか?」

 「そうだ、君が身を置くのは、本計画本部で大臣補佐官の1人に選ばれた様だ」

 「大臣補佐官……ですか」


 本計画でこのたび新しい省である惑星開拓省が設立され、そして新たな大臣が就任した。

 これは、惑星開拓が、各省庁をまたぐ案件大量にあり、全ての役所を総合的に統括出来る権限が無いと対処出来ないためである。


 そして、俺がその新しい大臣の補佐官の1人になったわけか……。

 まあ、俺一人と言うわけでなく制服組のその他大勢の1人。

 ようは、お前の論文が元になったのだから課題や支障が出たら、意見を出したり手伝えと言う事なんだろうな。


 「人事等は、転移港てんいこう拠点の白梅しらうめで行なうので、ここでの調査は一旦区切られる」


 転移港とは、その名の通り転移する港の事だ。


 いくら船の速度が速くても光の速度を越える事は出来ない。

 そこで光の速度でも時間が掛かる距離を移動するための転移装置が必要なのだ。


 転移港は、この転移装置である大型魔障壁転移装置が備え付けてある港で、船の整備や物資の貯蔵・製造も行なっている。

 それに軍港と一般港の兼用港なので、港とは別に住居や商業施設、娯楽施設に学校など都市にある物は全て内包する1つのコロニーと言った感じの港だ。


 「中尉、私も資料を読ませてもらったが、最初に再外周にあるアステロイドベルトから氷惑星を移動させ、その粉砕物を姫桜に降らせるとあるが」


 今まで黙ってソファーに腰を下ろしファイルを読んでいた中年の鳥人族の男性が質問してきた。

 彼は、この艦の副艦長をしていて高身長の上ビシッと背筋を伸ばしている見た目と相まって、とても規則に厳しい性格をしている。

 まあ、だからと言って俺の対応が代わるわけではないのだが。


 「はい、恒星を取り巻く岩石惑星とガス惑星の間にあるアステロイドにも凍りはあるのですが、これだと量が少ないので外にある全部が、氷で出来ている星を使う予定ですね」


 この恒星の配置は、地球と同じく岩石惑星(水金地火)とガス惑星(木土)、それに氷惑星(天、他)に分かれていた。

 そして岩石惑星群と、ガス惑星群の間に氷や岩石の小天体群が広がっている。

 氷惑星の外側にも同じ様な氷や岩石の小天体群が広がっているが、その量は内側より多かった。


 「ふむ、量の問題は分かった。 しかし、氷を1つ1つ船で運ぶのか? それでは時間が掛かると思うが……」

 「そうですね、船で運ぶと時間が掛かります。 そちらのファイルには?」

 「詳しくは書かれていない」

 「なるほど……たしかに私が書いた論文では、荒っぽい方法なので説明するのが難しかったんでしょう」

 「ほう、ソレは何かね、私も生命の危険が伴う事は、勧めたくは無いのだが」


 副長の眼光が鋭くなる。

 命令なら実行するが、だからと言って避る事が出来るなら危険な事は避ける方が良いだろう。


 「まあ、簡単に言うと、げっぱなしです」

 「投げっ放し?」

 「はい、適度な大きさの氷を外周部より推進装置で発射するだけです。 必要な事は、指定の惑星の重力圏に捕まるよう調整する事と、他に行かない様に計算し推進する力と方向を決める事です」


 1個1個を運搬すれば時間も掛かるし事故も起こる。

 ならば連続で目標に投げれば時間も掛けずに済む。

 10メートルの距離でボールを1個運ぶより、両端に人を立たせキャッチボールをする感じを想像すれば分かるだろう。


 「ふむ、いささか強引の様な気もするが、まあ、人類が始めてやる事だ、問題は起こると思って事に当たった方が良いだろう」

 「そうですね、その変も含めて拠点に戻れば詳しく聞けると思います」


 事がそう単純に行くわけでない事は、艦長以下全員が思っている様だ。

 本部に行けばこの計画を立案した者がいるだろう。

 そいつから詳しく聞けば良い。


 もっとも黒幕が誰か何となく想像出来るんだよな……。


 この計画が発布されたと言う事は、この論文を提出した者が、この論文にに携わった者達(思い思いの構想を練った人々)に声を掛けていることだろうし、すでに動いている事だろう。

 おそらく俺の嫁さん達も港の拠点で準備を始めている可能性が高い……いや、絶対に準備している。

 まったく暇なんだろうか? いや、お祭り好きなんだろうな。



 こうして、地球より遠く離れた惑星で地球型惑星の改造計画が行なわれる。

 この計画が軌道に乗った暁には、多くの無人惑星でこの計画を基にした事業が実施される事になる。


 そして、この計画は桜花国が宇宙にその生存圏を広げていく序章となったのだった。

 

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