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73.桜花国記(救出作戦)


 魔障壁から戦艦長門に降り立つ


 『マサキ様、艦橋へ』


 凛々《りり》しい女性の声が室内に木霊すると、その場の全員が俺に敬礼した。

 この声は、長門のAIで凛々しい声と同じ様に凛々しい見た目の黒髪ポニーテールの女性がさ画面に映って敬礼しているのが見える。


 「皆そのまま作業を続けてくれ、司令官は?」

 「ハッ! 私です」


 年齢を重ねた人族の司令が、一歩前に出て答えた。


 「現在、緊急事態だが、全乗組員に魔障壁移動は伝えてあるか?」


 人体や小規模ながら物体での魔障壁移動は、すでに実験済みで特に異常は認められなかった。

 しかし、今回の様に大規模の船団移動は、今回が初めてで何が起こるか分からない。

 そのため、時間は限られていたが、乗組員へ事前の承諾と、無いとは思ったが妊娠中の女性への乗船禁止を出していた。


 「全乗組員に伝え承諾済みです」

 「そうか……では、各艦に伝えて欲しい」

 「ハッ!」

 「時間が惜しいから各艦の前方に魔障壁のゲートを展開させる。 全艦準備が出来次第発進せよ」

 「了解しました! 魔障壁展開後、発進します」


 俺の言葉を聞くと、敬礼後司令官は艦長とおぼしき人物と通信担当に指示を出していく。


 「ミナ、転移先の状況確認と、転移後の船体に掛かる外的状況を各艦に知らせてくれ」

 「畏まりました。 転移先にアンカー投入……オールクリア、各艦に転移先の状況をアップロード……OK、問題ありません」

 「よし! 魔障壁展開!」

 「魔障壁展開します」


 その言葉の後にミナは、俺の魔力を媒体に各艦前方に1艦が通り抜けられる巨大な魔障壁を展開させる。


 「よし、司令官、全艦前進させろ」

 「了解、全艦先進」


 『前進します。 魔障壁の先は波が高いため各員衝撃に備えよ』


 司令官が関係各員に指示を飛ばすと、それと同時に艦が徐々に魔障壁へ進んでいく。


 「魔障壁突入3秒前、3、2、1……突入」


 ミナのカウントダウンと共に船が障壁に突入する。

 艦首が魔障壁に入ると、若干の揺れを感じたが優秀な総舵手とAI、それに艦に施された魔法で揺れはそれほど大きくない。


 「1、2、3、4、5……艦尾魔障壁通過」

 「司令官、乗組員の安全確認と船の状況を!」


 ミナから無事通過の報を聞くと、俺は司令官に全員無事を確認する。

 すぐに通信が返ってきて司令官から、全員身体の異常等が無い事、船に損傷等がないことが返ってきた。


 その連絡を聞き、ホッと胸を撫で下ろす。


 「では、司令官、周辺の警戒と、状況次第で必要になると思うので輸送機の準備を頼む!」

 「ハッ! ただちに準備します」

 「それと、部隊は?」

 「現在、赤城に待機中、マサキ様の指示を待っています」

 「分かった。 では、赤城に移動する後の事は頼む」

 「了解しました。 後の事はお任せを! お気をつけて」


 司令官の敬礼に頷いて応えると、魔障壁を展開し俺とルトールは空母赤城に移動

 ミナは、バックアップと緊急時の対応のためにこのまま長門に残ってもらった。


 「敬礼!」


 魔障壁から出ると、ザッ! と言う音ともに救出部隊の隊員が並んで敬礼していた。

 彼らは、今回の要人救出のために集められたスペシャリスト達だ。

 銃器の取扱いから格闘、潜入、護衛とあらゆる局面に対処できる部隊編成をしている。

 今回は、初めての実戦と言う事もあって緊張しているかと思ったが、さすがプロだな、緊張を微塵みじんも感じさせない。


 「楽にしてくれ、要人救出のためすぐに魔障壁を展開させる。 各員は通信で転移先のマップと状況を確認、要人の場所を確認ほしい」

 「ハッ! 全員データリンク」


 獣人族〔ライオン〕の男性が返事をする。

 どうやら彼が、今回の救出部隊の部隊長をしている様だ。


 部隊長の号令の後、部隊は魔導ナノマシンを通じて脳内にマップ等の必要な情報がアップロードされていく。

 時間が惜しいので確認し終わったのを確認する前に魔障壁を展開させる。

 今回魔障壁の転移先は、現在要人が居る場所より離れた場所に展開しなければならない。

 これは、現在要人がいる場所が草木の密集した場所のため、1人ならまだしもこれだけの人数を移動させる場所が見付からなかったためだ。


 「では、魔障壁で移動する」


 俺が最初に入り次にルトール、そして救出部隊が突入する。




 司令官は、近くを寄り添うように走る赤城を見ていた。

 見えはしないが、おそらく今マサキ達は、魔障壁を展開させ現地に飛んで行くところだろう。


 「凄いな……」

 「マサキ様の事ですか?」


 司令官のそんなつぶやきを近くで作業していた艦長が、耳にして司令官に聞き返した。


 「ああ、あの方は、今回使用した魔障壁転移の基礎理論を構築し、物体や人体で試験して移動出来るのを確認したが、この船……いや、この船団全てを一遍いっぺんに移動させた。 こんな事出来るのは、あの方を置いて他には無理だろう」

 「ええ、たしかにそうですね。 電気を魔素に変換できるシステムは、すでに構築されていますが、この船の様に大量の不純物を有する物の移動には、それこそ膨大なエネルギーを必要としていますから、今のところ実現出来ませんからね」


 艦長の話すとおり今回の魔障壁転移は、実際にブッツケ本番であった。


 魔障壁の転移自体は、いままでにも色々な実験をしていて既存の魔道具で魔障壁を展開させ、それで転移するのもその1つだ。

 これは魔素通信と同じ原理を使用している。

 この方法を使えば転移可能なのだが、多くの元素を含む物質、簡単に言うと人や車などの転移には膨大なエネルギーを必要としていた。

 これについては、今後の研究で各システムの最適化が進めば、いずれは実現出可能になるだろう。


 しかし、先ほどマサキが行なった何も無い空間に魔障壁を展開させ転移させる方法は、今のところ難しい。

 空間に魔障壁を展開させるにも多くのエネルギーをゆうするのに、まして多元素の物質を転移させるのにどれほどのエネルギーが必要になるか分からない。

 それだけの膨大なエネルギーをたった1人の人物がまかなったと言う事は、それだけで驚愕きょうがくにあたいするモノだ。


 「あの方の力無くしては、今回の件は無理だった」

 「ええ、40年前からあの方は、多くの国民をずっと救い続けていますね」

 「私は、あの方が国王である事を心より感謝しているよ」

 「私もです」


 2人の表情には、マサキへの深い畏敬の念をにじませていた。


 「しかし、宿題も出されましたね」

 「ああ」


 艦長のその言葉に司令官は、深く頷く。

 その宿題とは今回の転移であり、これが実現できれば今後の桜花の発展も間違いなく予想できた。


 「まあ、それは我々が考える事では無いがな」

 「そうですね。 我々には、我々の仕事があります」

 「ああ、そうだな。 どれ、我々の仕事に取り掛かろう。 上空に索敵を出せ! 各艦は空母護衛のため周囲警戒をおこたるな」

 「ハッ!」


 そう司令官が命令を出すと、すぐに赤城から艦載機が発艦する。


 「会談次第で食糧支援も行なうから、輸送機も現地に飛ばしておけよ!」

 「了解です」


 通信が司令官の命令を送ると、赤城では輸送機の準備が進められる。

 その輸送機は、一見するとオスプレイの様な見た目だが、プロペラの部分に違ったものが付いていた。

 これがどのように使われるのか気になるところだが、今は語らないでおこう。








 魔障壁の先は開けた草原だった。

 目の前には、草木が生い茂り険しい山々がそびえ立っている。


 「マサキ様、点呼終了全員います」

 「うん、では移動する! ルトール走るが大丈夫か?」


 この中で俺とルトールだけが特殊な訓練などを受けてはいない、言うなれば素人

 一応木の家の周りの山中を毎朝、真白やチャコと共に走っているので足には自信があった俺は、公僕であるルトールを心配し確認する。


 「はははっ! マサキ様、わたくし現在では公安の長をして事務仕事が多いですが、ほんの少し前まで野山を駆け回り、狩猟をしていました。 今でも身体は鍛えているのでご心配にはおよびません」


 笑顔で応えるルトール、彼の年齢はすでに500歳を越えた老練なダークエルフだが、体の方はたしかに鍛えられ細身ながらガッシリとしていた。

 それを確認した俺は1つ頷くと、前方に体を向き直す。


 「よし、走るぞ!」

 「「「ハッ!」」」


 掛け声と共に全員が走り出す。

 もちろん音を極力抑え、疾風の様に草木を縫って走り抜ける。


 目標まで3キロ……現在も移動中か。


 衛星を通じて目標の詳細な画像が脳内に送られる。

 微量な熱の検知と、人体などに影響が無い特殊な粒子を使った透過と反射の解析により地中内部の様子も検出でき、それらは画像処理され草木に覆われていてもクリアな状態で人の動きが判断できた。


 マズイな……目標の向かう先は高い岩山、このままだと奴隷狩りに追い詰められてしまう。


 『このままだと、救出目標と外敵が接触してしまうのでこれより速度を上げる。 限界を越えろとは言わないが全力で目標まで向かえ!』

 『『『了解!』』』


 すでに声が届く距離ではなく、ましてや隠密中のためナノマシン通信によって直接各員に伝え返事が返ってくると、俺はさらに走るスピードを上げる。

 俺自身は気付いていなかったが、その走る様子を見た他の者達は、自分達が全力で走っているのに俺がさらにスピードを上げ、人間で出せるのか?と思うほどの速度で走り出しているのに驚愕していた。


 送られてきた映像には、とうとう目標が袋小路に追い込まれ袋のネズミとなり、奴隷狩りの1人から打撃を食らい倒れている様子が映し出された。

 さらに悪い事に他の奴隷狩りもそこに追いついて、あと数メートルで捕まってしまうほどの距離にまで追い込まれている。


 何とか間に合ったな。




 風の如く木々を別けて現れたのは、汚らしく薄ら笑いを浮かべた大男と痩せた男

 その奥には、お腹を押さえ苦しそうに顔を歪ませ、けれど勇ましくナイフを前に掲げた女の子のエルフがいた。


 「おっと! そんな小さなナイフじゃどうする事も出来ねえぜ」

 「へへへ、大人しくした方が、痛い思いをしなくてすむぞ」


 2人の男達が下品な笑いをしながら女の子との距離を詰めていく。


 まったく、三下定番のセリフだな……。


 「あー、すまないが、その子に俺も用があるんだよね」

 「「「ッ!!!」」」


 男達の後ろから皇国の共通語であるエルフ語で声をかけ。

 すると、男達は俺の接近に気付いていなかったのだろう、驚いた表情をしてこちらを振り返った。

 奥の女の子も驚いた表情で俺の方を見ている。


 あれ? 何か女の子の持っているナイフ……男達じゃなくて女の子自身に向いてない? ……と、いけない!


 すぐに男達に意識を切り替える。


 「それに、そんな子供に暴力はイケナイな」

 「んだテメエッ!」


 大きな男が俺に怒号を浴びせると、スラリと腰に差した剣を抜き放つ。

 痩せた方の男も同じく短剣を抜いてコチラを威嚇してきた。


 やれやれ、何と言う定番のセリフ回しなんだ……。


 正直ここまで行くと、なんだか自分がこの舞台を用意したようで何とも言えない気持ちになる。


 「カシラ、コイツの服、なんか随分と上等な物ですぜ」

 「あぁんっ?!」


 痩せた男が、こめかみに青筋を浮かべていた大男に声をかけると、大男の方も眉間みけんしわを寄せて何だかコチラを観察してきた。


 上等? 自分の着ているものは、普通ワイシャツとズボンだけど……ああっ! この人達の着ている物は麻の様な布、それでいて随分とズタボロの上にとても汚かった。

 俺が着ているのが、上等に見えるのも仕方が無いかもな。


 「あんた、どこかの貴族か?」


 いぶかしげに質問してくる大男

 この男達には、俺が着ている物で貴族に見えたのかもしれない。


 まあ、どうでも良いか……っと、来たな。


 「いや、貴族とは違うかな……まあ、身分なんてどうでもいいよ。 とりあえずその子は、こちらで預かるから」

 「なんだとっ!」


 男は大声を上げ、まるでユデダコの様に赤くなった。

 そして、前に1歩踏み出すと、俺の事を持っている剣の範囲に治めるとニヤリと汚い笑いを浮かべる。


 俺だけに意識を集中させて良いのかな?


 そう俺が思った瞬間男達の後ろに、いつの間にかルトールと部隊長が現れ、男達は悲鳴を上げる間も無く地面に平伏ひれふされ意識を刈り取られていた。


 あまりにも一瞬の出来事に目の前の女の子は、驚いた表情になって固まっている。


 「マサキ様、遅れました」

 「全ての敵勢力無力化確認」


 あっと言う間に手に蔦を巻き付けられる男達、

 周囲で女の子を追っていた奴隷狩り達も他の隊員に無力化され意識を失わされていた。


 「お疲れ様、お見事だね」


 部隊長の見事な手足てだれにも驚いたが、ルトールも同じく素早く男の意識を失わせる手並みに賞賛を送る。


 「おっと、わすれてた!」


 間に合った事と、皆怪我も無く奴隷狩りの無力化に成功した事に安堵してしまい女の子の事を置き去りにしてしまった。

 見ると、俺やルトールや部隊長の言葉が日本語だから、女の子が混乱している様子だ。


 「ごめんね、今日は君のエルフの里に話があって来たんだ。 こっちは、一影、見て分かるとおりダークエルフだ」


 女の子に微笑みながら、目線を合わせてエルフ語で話しかける。

 さらに人族の奴隷狩りで怖い想いをした女の子を安心させるために、同じエルフダークエルフのルトールを紹介した。


 「初めてお目にかかります。 私はダークエルフの一影と言います。 エルフの巫女様にお会いするのは数百年ぶりですが、何卒良しなに」


 紹介したルトールも女のこの前まで来ると、膝を折り一礼して自分の名を名乗った。

 いつもは、眉間に皺を作り怖がられるルトールもこの時ばかりは、女の子を安心させるために気持ち笑顔になっている。


 「……」


 驚いた表情の女の子だったが、自分の事を知るエルフが現れた事に少なからず安堵し、しかし、腹部から来る痛みに表情が歪み辛そうだ。


 「わ、たしは……カグラ……」

 「と、ととっ!」


 女の子が名前を名乗った瞬間に意識を失い倒れ込んだので慌てて抱きとめる。


 「医療班!」


 医療に心得が有る者を連れて来ているのですぐに怪我の状況を見て貰うと、外傷は無く腹部に若干の内出血、しかし、臓器類に傷も見られない事から痛みによる意識喪失と判断されホッと一安心した。

 しかし、俺の腕の中で意識を失っている女の子をこのままにしておく訳にいないので、タンカなどで輸送した方が良いだろう。


 「申し訳ございません。 簡易タンカは大人用のため子供を入れると、かえって危険です」


 簡易タンカはビニール製で両端をピンッと引っ張って使う物だ。

 こんな山奥でしかも大人より小さな子供を運ぶには、少々問題がある。


 「それに集落まで、そこまで時間は掛からないと思います」


 木などで即席のタンカを作っても身を固定しなければならず、見る者によっては誤解を招く。

 集落まで直線距離で数キロ、たしかにこのまま腕にかついで行った方が良いかもしれない。


 「そうだな……じゃあ、俺が担いで行くから周囲の警戒と、ルトールは先に集落へ行って説明してくれるかな?」

 「ハハッ! この子の無事を知らせてきます」


 そう言うと、ルトールはすぐさま駆け出し村へ向かう。


 「マサキ様、この男達はどうします?」


 見ると気を失った男達が、蔦に簀巻きにされ1箇所に纏められていた。


 「ん~、このまま集落の近くにおいて置く訳に行かないし……少し離れた山中に捨ててきてくれ」

 「生きたままで、よろしいので?」

 「ここでは、我が国の法を使う訳に行かないし捕虜にする必要性も無い、捨ててくるのが一番だろう」


 それに子の山奥数十キロに集落以外の人は確認できない。

 この男達に運があれば、束縛を抜け出し逃げていくだろう。

 そのまま獣に襲われてもそれは、山で起こった事だから余計な騒動も起こりにくい。


 「了解しました!」


 部隊長は、部下の何人かに男達の運搬を指示し、他の者達はこのまま集落への護衛として付いてくることになった。


 「さてと……」


 女の子を腕に担ぎなおすと、顔がコチラに向いた。

 その表情は、先ほどまでの恐怖や苦痛も無く、スヤスヤと安らかな表情で寝息を立てていた。


 チャコは大きくなったから、久しぶりに娘を持ったようだ。


 久しぶりの腕の感触に懐かしさを覚え

 眠る女の子の体重の軽さにちゃんと食べているのか心配になる。


 俺はそんな事を考えながら、この女の子を待っているだろう家族に届けるため集落のある方向へ足を踏み出した。


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