72.桜花国記(風雲急を告げる)
桜花国暦40年 4月
「ふん、ふふん♪」
桜散り、春の日差しが強まったこの季節
俺は、ご機嫌に鼻歌交じりに作業を始めている。
いったい何の作業なのか? だって
それは、もちろんタイ焼きを焼く作業だ!
なぜ、タイ焼きなんだ? は、愚問
今日は、平日なのに特段執務の予定も無い。
行事も地方へ訪問や視察も無い。
つまり、平日に休日
完全なオフ日なのだ。
風邪も引く事もなかったし、執務や行事、それに地方等に表敬訪問など結構過密にスケジュールが埋まっていたから、ここしばらく休日以外に休める事は無かった。
有給が無いブラックな職業と思えるが、国民のためにも身を粉にして働くのも王様の仕事だろう。
まあ、言えば休めるけど……働いていたらあっと言う間に月日が経っていたのが正直な話だ。
光陰矢の如しとは、まさにこの事だな……うん。
と言うわけで、今日は平日なのにも係わらず趣味を満喫しているわけだ。
朝から盆栽の手入れや、好きな書籍を呼んだりと色々充実した時間を過ごしている。
そして今は、タイ焼きを焼くために鯛型の鉄板に火を入れて温めている最中だ、しかも屋台を作って!
だから、何でタイ焼き何だ?
ふふ、それは、3時のオヤツの茶菓子を何にするか考えた時、ふと「タイ焼き食べたい」と思い、じゃあ作ろう! と考えた結果こうなった。
まあ、それ以外にも理由があるんだけどね。
――ジ、ジジッ
目の前の鉄板から良い感じに熱が通った音が聞こえると、そこに油を満遍なく塗り再度加熱
頃合を見計らってタイ焼きの生地を流し込む。
軽く炙って表面が焼き固められたら、中に入れる餡を投入!
頭から尻尾の先までキッチリと餡子でいっぱいになる様に乗せると、同じく焼いている反対側で餡を包んで両面をジックリ焼き上げる。
あとは、焼きあがるまで焦がさないように回転させれば完成だ!
簡単そうに見えるだろうが、焼き過ぎず生焼けにならない頃合を見計るのが大変重要な作業だ。
「よし! いっちょ上がりっ!」
鉄板を外すと、良い色に焼きあがったタイ焼きから湯気が出ている。
しかも、良い匂いで何とも食欲がそそられてしまう。
「……っとと、もっと焼かないと」
ウチには、食いしん坊が多いからコレッポチでは全く足りないのですぐさま新しい焼きに取り掛かる。
「美味しそうですね」
焼いてる俺の向かいから声がする。
見ると、目の前の暖簾をかき分けて20歳ぐらいの青年が、涼やかな笑みを浮かべて顔を出した。
アラやだ、イケメン!
日本にいた頃の基準で見ても間違いなくイケメンで、日本顔と言うよりどちらかと言うと西洋に近い顔付きの赤毛の青年がそこにいた。
「何だ、大学抜け出して来たのか?」
「いえ、レポートも一段落したので家の様子を見に着たんですよ、父上」
そう、このどう見ても同年代の(いや、見た目からすると、俺は日本人なので若干幼く見えるかもしれない)この青年は、俺とアルフィーナの息子 素鵞幸國
生まれたばかりの時は、アレほど小さかったのに今では、身長も父親である俺に追いつき見事な好青年になっていた。
年齢は27歳になるのだが、俺とアルフィーナの子だからか20歳になるかならないかの見た目をしている。
元服後、大学に入り大学院を出て現在では、考古学、歴史学などの人文関係の研究施設に就職していた。
今は……たしか……地球(桜花国側)の一地域の古代文明調査をしている。
趣味は、ガーデニングや盆栽いじり、最近では苔テラリウムにもハマっているみたいだ。
まったく、見た目は母親譲りの顔立ちのイケメンなのに、どう言う訳か性格が俺に近いモノを感じる。
さりとて内向的ではなく、男女問わずにコミュニケーションが盛んでスポーツ、武術も出来て文武両道で、友達に誘われればキャンプや登山、ダイビングにも行くから訳分からん。
物腰も柔らかくこの見た目だから彼女の1人や2人出来るだろうが、今のところ浮ついた話が出てきたことが無い。
まあ、昔から1人の女性にしかその辺の興味が無いみたいだから仕方が無い。
父親としては応援したいところだが、そこは息子がハッキリさせねばならないから態度に出さずにしておこう。
「しかし、タイ焼きですか……しかも屋台で……」
「まあ、何事も形からだ、どうだ1つ」
「頂きます!」
出来たてアツアツのタイ焼きを紙で包んで渡すと、ユキクニは柔らかな笑みを浮かべ受け取った。
「アフッ! アフッ! フフーッ……んっ、熱いけど美味しいです!」
「だろう? 冷めたのも美味しいけど、アツアツをハフハフしながら食べるのもまた一興だからね。 ホラ、お茶」
ユキクニに微温めのお茶を紙コップで出してやると、口の中の熱さを和らげるためにすぐにお茶を口に含んだ。
「ありがとうございます。 お茶も美味しいですね、しかし……このタイ焼きの餡子は……」
「気付いたか、今年の桜は見事だったし、葉ッパも良い感じで香りが強かったから桜餡にして入れてみたんだ」
今年の桜は、例年以上に見事に咲き誇っていた。
葉の方の成長も見事で、塩漬けにしてもその香りを失う事無くシッカリとした桜の匂いを主張していた。
チャコやウチのスーパーメイド隊が和菓子などの色々なモノに使っていたのだが、まだまだ余っており他に利用出来ないかと考えていたところ今日のタイ焼きの餡になった訳だ。
まあ、餡の方も大量にあるので今後は他にも利用したいと思っているんだが……。
「へえ、どうりで良い香りな訳だ……しかし、父上……これは、作り過ぎでは?」
ユキクニの目線の先には、木の大皿2枚に盛られたタイ焼きの山が出来ており、さらに数枚の皿が用意されていた。
「まあ、ウチには、大食らいが多いがいるし、それに、餡も桜餡だけでなく通常の小豆に白餡、抹茶にクリーム、チョコなど種類も多く作っているからな」
「ハハ、それもそうですね……しかし、父上、昨日から今週いっぱいヨルキは大会の合宿に、同じくマコトも武術大会に向けての合宿に行っていて家には居ませんが……」
そういえば今日の朝家が少し静かだったけど、あの2人が居ないからか……。
聞いてはいたが、昨日から合宿だったのか。
ヨルキは、俺と夜空の子供で兄であるユキクニと同じく大学卒業後、農業や水産系の研究所に務めているが、研究の傍らでラグビーをしており全国大会の1位、2位を取るほど頑張っている。
マコトは、大学に行かずに防衛大学に進み、現在は軍の士官として頑張っていた。
その関連で武術にも励んでおり今度全国大会に出場するみたいだ。
「まあ、余っても無限収納に入れておけば時間凍結で出来たてのまま出せるから問題ないだろう」
「それも、そうですね」
親子で酒を交わす事もあるが、日常の暇な時にこんな話をするのも悪くないものだ。
――ピピッ! ピピッ!
そんな事を考えていると、突然呼び出し音と眼前に誰からの呼び出しなのかを伝えるスクリーンが展開される。
『どうした?』
『お休み中、失礼します。 マイマスター』
呼び出し音に出ると、ミナが目の前に現れた。
※ これは、以前にも話した神様から貰った通信手段のもので、それとは別に魔導ナノマシンによる通信手段が、すでに桜花軍で導入済み。
今後民間で普及させて行くか検討中。
『いや、大丈夫、それよりも緊急の要件かな?』
『はい、軍からただ今入った情報で、現在進めている移住計画の初期移住候補、エルフ族で異変がありまして急遽マスターに来て頂きたいとの事です』
これは、30年近く前に俺が提案した移住計画で国会の議決後、調査と情報収集を進め、現地資金集め、周辺住民への説明、桜花国内の移住先の選定、移住場所の建築、今後起こりうるトラブルの予測と対処方法の検討などを行い。
今回国民の理解を得られたので移住の最初の相手として1つのエルフ族の集落を選んでいた。
このエルフ族は、その大陸で巫女と言われ崇められており、周辺のエルフ族のみならず他の種族からも一目置かれた存在だ。
その種族が、我が国へ籍を移した場合、その影響は計り知れないモノになる。
その集落に何かトラブルがあったみたいだ。
『分かった、すぐに向かう。 国家安全保障会議の会議室で良いかな?』
『はい、問題ありません』
『国家安全保障会議参加者は?』
『現在、召集中です。 首相が到着次第進められます』
『よし、後の事は、そちらで聞く』
『畏まりました』
スクリーンでミナが一礼した後、すぐに通信を切って準備を始める。
「何かありましたか?」
「ああ、移住計画で不都合が生じたみたいだ。 俺は国家安全保障会議の会議室へ向かうが、ユキクニは如何する?」
ユキクニは王太子であるので参加しても問題ない。
一緒に来るのであれば連れて行ってもいい。
「いえ、移住計画は、父上のご提案で始められました。 この場合は、父上のみの方が後々《のちのち》別の不都合が生じにくいと考えます」
ユキクニは、今後の国家運営において初代はともかく、後々の世代が直接国家に滅多な事が無い限り控えるべきと考えているんだろう。
俺もその意見に同意である。
君臨すれども統治せず と言う言葉もある。
国民の知識が高い我が国において王様がとやかく言うのは、俺だけで良いのかもしれない。
「分かった。 俺は会議室に向かうから何かあれば連絡してくれ」
タイ焼きや調理器具を無限収納へ瞬時にしまうと、魔力を使って間の前に魔障壁を展開させる。
この魔障壁は、俺専用の瞬間移動用魔障壁で、指定の場所に出口用の魔障壁を作り移動できる代物だ。
ただし、ひと1人運ぶのにも膨大なエネルギーを使うので俺以外では、非効率な移動手段でしかならない。
「はい、お気をつけて」
「あぁ」
ユキクニの手を上げてユキクニと別かれ魔障壁の中に歩を進めると目の前の景色が切り替わりそこは、辺りで人が忙しくやり取りする会議室だった。
2017.2.23 冒頭年月追記




