表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/124

71.桜花国記(奴隷購入)


 「……」


 店内に入っても挨拶一つ無い。

 案内されるのは、地下深くの薄暗い部屋

 異臭も漂うここは、奴隷市場


 奴隷市場

 名が示すとおり、ここは奴隷が取引されている場所だ。


 ある者は、おりに入れられ

 ある者は、首や手足にじょうくさりで繋がれていた。

 者と言うより物と言った方が、正しいかもしれない。

 なんせその物達は、こちらを希望の無い死んだ魚の目でボーッと見ているのだ。


 そんな部屋の中で異臭に顔をしかめながら私は、商人特有の柔和な笑みで薄暗い中にいるその物達に目を向け、厳選している振りをしている。


 「こちらが、肉体労働に向いた奴隷です」


 前を歩く人影が、何とも愛想の無い声で簡単な説明をして行く。

 それもそうだろう……私が、この奴隷市場に来たのは、今回が初めて……。

 一応紹介状は持っているが、こういった所は紹介状でもなければ一見いちげんさんお断りの店になっている。


 「……以上になります」


 その人影は説明が終わると、こちらを向くと、スキンヘッドの男が、「さあ、どうするんだ?」とばかりに無表情な視線を向けてくる。

 なんとも接客を知らないヤツだっ!……と、怒る気もしない。

 先ほども言ったとおり、私はこの店に来たのは初めてであり、紹介状もそこまで名の知れた人からではない。


 それに私が買おうとしている商品は、上階つまりここより上にある部屋にいる奴隷とは、扱われ方が違う奴隷を買う事なのだから。


 地上やさらに上の階にいる奴隷は、彼らに言わせれば商品奴隷が並んでいる。


 地上の部分には、人族の奴隷、それもそこまで美人でもなく、何かに特化している訳でもない普通の人族の奴隷が並んでいる。

 さらに上階に行くと、そこには将来美人になるだろう女の子や男の子、現在美人である女性、美形の男性、武芸にひいでた男性など必要な用途に使われる奴隷が並んでいた。

 もちろん上階に行くほど、値段も上がりさらに奴隷自身にも教養を身に付けさせ、それなりに上質の服を着て主人になる人物を待っているのだ。


 それじゃあ、今私がいる地下の奴隷は何か?

 それは、亜人の奴隷である。


 亜人とは、彼らが言うには、人族以外の種だそうだ。

 彼らは、白人の人種以外も亜人と言っているが、人族であれば地上の商品棚に陳列される。

 もちろん、その中でも極上とされる物は、上階へと移され陳列される。


 じゃあ、地下にいる亜人とは何なのか?

 それは、人族以外の人種、獣人族や鳥人族、頭角族、翼龍人族、巨人族などが地下の売り場で販売されていた。

 エルフ族は、美形が多いので地上以上、

 ドワーフは、鍛冶や採掘が得意なので別にしてあるみたいだ。


 「じゃあ、この番号の奴隷を購入したい」


 木の札に番号を書いて目の前の男に渡す。

 そこに書かれた番号は、奴隷にそれぞれ付けられた番号でその番号を書いて購入の意思を示す事になっていた。


 「ふむ……おいっ! これを持ってこい!」


 男は近くにいた部下の男達に怒鳴り上げて、木札を渡し商品を持って来る様に指示を出した。

 この男は、この奴隷販売店のオーナではない。

 オーナは別にいて上階の奴隷の購入やお得意様にしか姿を現さない。


 では、この男は何者かと言えば、この男は地下の奴隷の販売を任されているみたいだ。

 そして、荒事を担当しているらしく顔には幾つも傷があり筋骨隆々で獣人の大人を扱うには、こんな感じの男が担当しているらしい。


 幾人かが、私のいる明かりの点いた部屋に連れて来られる。

 まだここで購入になる訳でない。

 ここからは、明かりの点いた部屋でより近くで商品を良く観察して購入するかを決めるシステムになっている。


 明かりの点いた部屋で子供の亜人種は、2人の男で数人を連れてくる。

 私は値踏みをして「次」と言うと、次の奴隷が連れて来られ大人の亜人種は、手械足枷てかせあしかせを付けて数人で連れて来る。

 こうしないと、人族の男性1人では、到底扱えない商品らしい。


 「よし、この番号の奴隷を買おう」


 と私は言って男に再び木札を渡して見せる。


 「……大人の亜人は金貨5枚、子供の亜人は銀貨50枚だが、いいか?」

 「ああ、構わない」


 男は木札を受け取ると、一瞥いちべつして部下の男に渡すと値段の交渉をしてくる。

 本来だと、ここで値引き交渉に移るのだが、私は初めての来店であるのでここは、この男に軽く握らせるためにあえて値引きをしない。

 この男が、金に貪欲どんよくなら値引きしないで得た利益を着服するかもしれない。

 もし、この男が着服しなくてもオーナーに普段より大きな利益を与える事でお得意様になる可能性もある。

 ようは、金で関係を買っているのだ。


 ちなみにこの国の金のレートは、

 10円=銅貨1枚と見てくれて構わない。


 銅貨100枚(大銅貨10枚) → 銀貨1枚 = 千円

 銀貨100枚(大銀貨10枚) → 金貨1枚 = 10万円

 金貨100枚(大金貨10枚) → 白金貨1枚 = 1000万円


 ここで奴隷の値段が、大人50万円なのは、亜人は使い潰すのが基本でしかも亜人を忌避する人々が多く牛馬以下の存在として扱う事からこの値段となっている。

 子供の値段が低いのは、成長するまで育て様と考えていないためだ。 


 そして、大人20人、子供10人の亜人が連れて来られる。

 大人は老若男女さまざまで種族もバラバラ、子供も同じく種族バラバラの子供達だ。


 「年寄り……それに子供も買うのか?」

 「ああ、少しは役に立つだろう」

 「こちらとしては、在庫処分が出来てありがたいが……」


 スキンヘッドの男は不思議な表情で私を見た。

 それもそうだろう、老人の亜人や子供の亜人は、大人で健康体の男性亜人より価格が安い。

 普通は、それらが雑じっている段階で値段を下げるのが普通だ。

 だから、今回購入する奴隷を言い値で買い取る私が、不思議で仕方がないのだろう。


 「私はこの店が初めてだからな……次からは、もっと値段を安くしてくれるとありがたい」

 「ふむ……」


 男の鋭い眼光が、こちらに向けられる。

 今までに無い客に不信感をつのらせているみたいだ。

 まあ、これも織り込み済みなんだが……。


 「まあ、少しオマケしてくれるなら、そこの番号ではじいた子供の亜人を付けてくれると助かる」

 「子供の亜人で良いのか?」

 「ああ、狭い場所で働かせるには丁度良い、大人だと入れない場所とかに必要だからね」

 「狭い場所……なるほどな」


 スキンヘッドの男がニヤリと笑う。

 この男が何を想像したのかと言えば、おそらく下水作業や鉱山などの狭い場所での作業に使うと考えたんだろう。


 「良いだろう。 子供の亜人を付けてやる。 オイッ!」


 男は部下に声を掛けると、私が最初の木札から選ばなかった子供の亜人を連れてきた。


 「ああ、すまんね。 奴隷は外の馬車に乗せてくれ」


 私がそう言うと、男は部下にアゴで指図して奴隷を連れて行かせる。

 あとは、この男と購入した奴隷の金額を払いそれで終了。

 細かい手続きなどは、亜人奴隷に必要が無いらしい。

 どこまで行っても亜人の奴隷は、牛馬以下の存在みだいだ。


 もちろん去り際に男に数枚の銀貨を手渡すのを忘れない。

 次来た時の手続きをもっと簡素化するためと、もしかすると掘り出し物を紹介してくれる可能性が、あるかも知れないからだ。


 奴隷の購入が終わると、外に待つ仲間と共に郊外へと馬車を走らせる。


 『追跡者無し、予定通りポイントアルファに向かえ』

 『了解! 全員聞いたな?』


 私は脳内に響く指令に返事をすると、後続の馬車に乗る仲間に確認する。


 『了解』『了解』『……』

 『最後尾、どうした?』


 最後尾に走る馬車の仲間から返事が無いので最後尾のみ再確認する。


 最後尾は、たしか子供を乗せた馬車だったはず……。


 『こちら最後尾、どうも1人の子供が泣き出したところ、一気に全員泣き出しまして……どうしましょう?』

 『そうか……だが、今馬車を停止させる訳には行かない。 アルファに着くまでは、防音の魔障壁を展開しても構わない』

 『了解! その様にします』


 子供だけ集めたのは失敗だったかも知れない。

 自分達のこれからを考えると、さぞかし不安な事だろう。


 「あの……ご、ご主人様……」


 馬車の荷台から1人の獣人の老人が私に声をかけてきた。


 「はい、何でしょう?」

 「先ほどの、子供の奴隷を狭い場所で働かせると言っておりましたが……私が代わりにどんな場所でも、どんな危険な作業でも働きますので、子供達はどうか別の仕事に廻してくれませんでしょうか?」


 薄暗いほろを被った荷台に目を向けると、老人だけでなく大人の亜人数名がこちらをジッと見つめ目で訴えかけてくる。

 空腹の者も多く疲労で動きが鈍い者も多いはずだが、その眼光には力があった。


 「ええ、そう言うつもりは毛頭もうとうありませんよ。 あの場で購入すべき子供を相手に気取られない様に嘘をついたまでですから」

 「……それは……どう言う事でしょう?」


 老人達は、柔和な笑みを浮かべる男の言っている事をすぐに理解出来ず呆けた顔を向ける。


 「そうれは……もうすぐです。 そろそろか?」

 「はい」


 男の隣で馬車を操縦する御者ぎょしゃに確認すると、御者は頷いて応えすぐに馬車は緩やかな速度になり、そして、スッとまった。


 「……周囲状況確認……よしっ! 撤収作業開始!」


 その声に業者を含め仲間全員迅速に下車し、各々《おのおの》次の行動に移って行く。




 ここまで連れて来た者達が馬車から降りたのと、時を同じくして荷台の幌がバッと何者かにめくり上げられた。

 松明たいまつや魔道具のランプとも違う激しい閃光に目を細める。


 「よーしっ! 全員降りてくれ!」

 「「「なっ!!!」」」


 開かれた幌の先に男が立って指示を出していた。

 奴隷達は、開かれた先が光によって明る過ぎて、男のシルエットしか目に入らなかった。

 しかし、奴隷達は、声を上げる男のシルエットを見て揃って驚きの声を上げる。

 そのシルエットは、人族のそれとまったく異なり、頭に2つ突き出た耳は、獣人族の男性のソレだったからだ。


 「さあ、皆さん降りてください。 今から名前を呼んだ方は、病気、怪我の治療をしますのでコチラに、他の人は温かい食べ物があるので向こうのテント……じゃなくて変わった幌の場所に移動して下さい」


 獣人族の男の隣に別の頭角族(牛)の女性が優しく声を掛ける。

 荷台の中の奴隷達は、同じ亜人の男女に声を掛けられた事に驚き過ぎて声が出す事が出来ないようだ。


 「あ……アンタ達は、いったい?」


 ようやく先ほど子供たちの代わりになると言った獣人族の老人が、幌の先で声を出した同じく獣人族の男に向かって問いかける。


 「ん? ご老人、疲れたろ? ハラも減っただろう? 向こうにスープなんかの食べ物があるからな! ホラ」


 助けるのが当たり前と言わんばかりに獣人族の男性は、両手で老人を優しく抱え荷台から下ろす。

 老人の方は、なされるままに「アウアウ」と口を開きながら大地に足を着くと、もう一度獣人族の男に向かって同じ質問を投げかける。


 「すまんが、アンタ達は何者なんじゃ?」

 「ん? 俺達か? 俺達は、桜花国の人間だ!」


 獣人族の男は、老人に向かってニカッと笑い応える。

 同じく頭角族の女性の方も優しげな微笑を浮かべうなずいてみせる。

 老人は、それ以上声も出せずに呆気に取られた状態で周りを見回すと、そこには多くの人族だけでなく獣人族も声を出して駆け回っている。

 そんな状況にまるで夢でも見ているのでは無いのだろうかと呆然ぼうぜんとしながら、先ほど男が言った言葉を思い返す。


 「お……オウカこく?」


 2人の笑顔に呆けながらも、老人は見たことも無い幌の建物に目を向ける。

 その幌は、見たことも無い緑色の斑模様まだらもようをした大きな家ほどもある幌が多数並んでいた。


 そして、数多あまたまばゆい光が照らす中に一際目立ひときわめだつ1本の細い柱が立っている。

 その柱の一番先端には、真っ白な布が掛けられ空にハタめいていた。


 いや、良く見ると真っ白な布では無い。

 その白い布には、全体が真っ赤で今にもばたかんと翼を広げている3本足の鳥がえがかれている。

 それが何を意味するのかは、今この者達に理解する事は出来ない。

 しかし、こののち、この旗の意味するところを知り奴隷たちは、この旗に深い敬意を抱くのだった。






 奴隷を購入し場所に乗ってきた男が、1つのテントの中に入る。

 中は大勢の人が行きかい騒然として、いくつものディスプレイと光が照らされていた。

 その奥に足を進めると、威厳のあるたたずまいの頭角族(牛)の男性が椅子に座り迎える。


 「ご苦労、どうだった初めての店は?」

 「ハッ! 万事問題ありません! 選出した人員は、予定通り確保しました!」


 上官であろう座ったままの男に敬礼して応える。

 男は、先ほどまでの商人の様な柔和な表情は一片のかけらも無く、するどく今は引き締まった表情になっていた。


 「うむ、予定通りだな……どうだった? 他の奴隷の様子は」

 「ハッ! 事前の報告通り酷い状況でした。 衛生状況、与えられる食料事情など目も当てられません」


 報告する男は、先ほどまで見てきた状況に顔を僅かにしかめると、上官もそれを察して目を瞑り頷く。


 「うむ、だが全てを助けるわけにはいかん……その辺り心得て置けよ!」

 「ハッ! 承知しております」


 男の方も顔をしかめたのも一瞬で、今は元の引き締まった表情に戻っていた。


 この会話からも解るとおり、桜花では奴隷を出来るだけ引き取るつもりでいる。

 しかし、全てではない。

 その中で思想的に問題ない者、犯罪歴が無い者、犯罪でも状況による者、冤罪の者などじっくりと長い時間をかけて調査選別している。

 そして、その奴隷の中で問題が無い者、無用な気遣いの無い者を選び今回の購入に至っていた。


 これからも彼らは、多くの亜人奴隷を購入、または脱走・脱獄させて行く。

 それが、桜花の方針、王や国民の意思なのだから……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ