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67.桜花国記(去りし者)


 桜花国歴13年11月29日


 木々の葉は、地面に落ち

 近づく年越しに作業が忙しくなるこの日

 桜花国では、1つの節目ふしめを迎えていた。


 桜花国国会議事堂において演壇に立つジェナートは、本日から憲法が施行された旨を読み上げていた。

 そう、今日は2月に公布された憲法が施行される日だ。


 7月1日に第一回両議院総選挙が行なわれ、全国民からの選択によって国の代表が決まり、そのなかでジェナートが初代総理大臣に選ばれた。


 通常、初めての選挙ならばどの様な国でも大変混乱するはずだが、ここ桜花では、大きな混乱も無く恙無つつがなく執り行われ当落選発表がなされた。

 これは、桜花の特殊な選挙方法によるものだろう。


 それは、選挙区を無くし、国民1人につき衆議院1票、参議院1票の選挙方法を取っていた。(同時に最高裁判所裁判官の審査も行なわれている)

 そして、投票方法も変わっている。

 桜花国の投票には、投票用紙が無い。

 では、どの様にして投票をしたのかと言うと、魔力紋による個人認識投票を実施していた。

 魔力紋は、一人ひとり違うのでこれを使用して投票出来る様にしている。

 また、どこでも投票所が出来、期日前投票も行なわれ24時間の投票受付が行なわれ事前申請する必要も無い。


 投票所の投票の仕方も紙ではなく、タッチパネル式の画面入力で分かり易い説明があり難しくは無い。

 今回は、タッチパネル式を採用したが、今後は現在研究中だが、指向性光子音声で投票できるか研究中だ。

 さらに未来になると、自宅にいながら擬似世界で投票出来る様になるだろう。


 立候補者も街頭演説をするわけでもなく、街宣車で大声をバラ撒くでもなく。

 どこかの会場を使って演説し質疑応答、また、ネットによる演説応答などさまざま行なわれていた。

 初めての選挙なのに全候補者選挙違反も無く国民に自己の主張を行なえたようだ。


 そして今回、衆議院を当選したジェナートが、両議院の首班指名で指名され内閣総理大臣に選出された。

 認証官任命式では、新設以外多くが以前から携わっていた者達だ。

 みんな優秀なので無事役目を果たすだろう。

 予算は、大体のところを配分しているので今後国会では、これからその予算の審議をしていく事になるだろう。


 憲法には、王である俺自身の事、行政は民主的に行なう事などが書かれているが、王は憲法に従って統治すると王の権限を制限する内容が盛り込まれている。

 そして、この憲法には、軍事的暴走の歯止めとして、軍の統帥権を権能する内容の


 王または、王位にあった者は、全てを統帥し行政を円滑にす。


 と書かれていた。

 統帥権で何らかの組織が肥大化する懸念があるかもしれないが、予算の執行は王庫が行なうのでお金が無いのに組織が大きくなる事はないだろう。

 それにミナやメイド達が、不正を許すはずも無いので突発性や偶発性が、重ならなければその辺を心配する事もない。


 他にも色々と書かれているがこの憲法は、まだまだ未完成なので今後、国民の元で多くの議論と改正が行なわれていくと思う。


 まあ、何はともあれ、これから国民主体の政治が始まるのだ。



 同年 12月2日


 始まりがあれば終わりもある。

 憲法の施行が、無事行なわれるのを見届ける様にフォートルの体調が急速に悪化していった。


 フォートルは、俺に暇乞いとまごいをした次の日に入院していた。

 もちろんアルフィーナ達と共にフォートルの見舞いを数回行なっていたが、12月に入りフォートルの体調が急速に悪化した事をジェナートから知らされ、もしかしたら話せる機会が最後かもしれないと言われ、急ぎ病院に駆けつけた。


 フォートルの病室は、1人部屋であったが全員が入室するとあまりに窮屈きゅうくつなのでミナとメイド達は外で待ってもらい俺と、アルフィーナ、それとアルフィーナに抱かれて息子のユキクニ、チャコに真白と夜空がジェナートの嫁であるメルザに伴われ入室する。

 入室すると、フォートルのベッドの傍にジェナートと息子ポルトナが立ち上がり一礼して迎えてくれた。


 「……おぉ、マ、サキ様……」

 「ああ、そのまま、そのままで構わない」


 俺達に入室に気付いたフォートルが、震える身体に鞭打って起き上がろうとしたので手を前に出し制する。

 体調の事も考え見舞いの頻度は少なかったが、今のフォートルの様子に心の中では驚いていたが、表情に出さない様に微笑を必死で作る。

 フォートルは、見るからに痩せ細り頬はこけ、つい一年前とはまるで別人の様になっていた。


 「どうだ? フォートル」

 「……はい……そろそろかと……」

 「……そうか」


 俺とフォートルの会話は短いながら、相手の言いたい事が良く分かっていた。

 だからあえて頑張れとか、元気を出せなどと言う事は無い。

 フォートル自身、己の命の限界を知りこれ以上は無理だといっているからだ。


 「先に行って待っててくれ、俺もそのうち行くだろうからその時は、フォートルの奥さんに紹介して欲しい」

 「……ふ、ふふ。 家内を随分待たせましたが、良い土産話がたくさん出来ますな……しかし、マサキ様に家内を紹介する事は無いでしょう」

 「そうかな?」

 「……はい……」


 俺の年齢が固定されている事は、俺の出生から全て国民に知らせてあった。

 だからだろう、フォートルは自分の奥さんを紹介する事は無いと、いや、来て欲しく無いと思っているのだ。


 「ああ、俺ばかりだけでなく皆も……」


 隣にいるアルフィーナは静に頷くと、フォートルの傍に近づく。


 「フォートル、今まで色々と面倒をかけたのじゃ」

 「いいえ、魔女……アルフィーナ様、私が生まれてからずっと、あなた様に助けて貰い感謝してもしきれない程の恩があります」


 この魔界に来て多くの者の誕生と死を見てきたアルフィーナ

 彼女の表情には、どこか物悲しさもあったが、慈母の様に優しい微笑でフォートルを見つめる。

 フォートルもそんな幼き時から変わらないアルフィーナに目礼で返した。


 「あの貧しい日々を送っていたあの時から考え付かないほどいっぱいご飯が食べられ、そしてみな笑顔で日々を送らせて頂いております。 すべてマサキ様とアルフィーナ様のおかげです」

 「うむ、じゃが、みなが頑張ってくれたから、ここまで来れたのじゃ」

 「……はい、皆よく働き、そして、これからも頑張って行くでしょう」


 フォートルは目を細めて、将来が今より幸福である事を思い描いた。


 「……ふふ」

 「んっ? なんじゃ?」

 「いえ、私は幸せ者です。 祖父のはるか前の時からお世話になってきたアルフィーナ様の花嫁姿が見られたのですから……それに、お子様までお生まれになり、良い土産が出来ました。 家内のヤツも大いに喜ぶことでしょう」


 ほっほっほ、と笑うフォートルの目からは、一筋の涙が零れ落ち枕に沈む。

 それが嬉し涙なのか、悲しいみの涙なのか本人にも分からずに……。


 「フォートルお爺ちゃん……」

 「これは、チャコ様」


 チャコもフォートルの傍まで来ると、耳を伏せて悲しい表情でフォートルに声をかける。


 「フォートルお爺ちゃん、痛いの? 苦しいの?」


 フォートルの涙を見たからだろう、チャコはベッドに横たわるフォートルの手を優しく掴み話しかけた。

 しかし、フォートルは、そんなチャコの問いかけに首を左右に振り応える。


 「いいえ、チャコ様、最後に皆様と話が出来、これほど嬉しい事はありません」

 「さいご……フォートルお爺ちゃん死んじゃうの?」


 死と言う言葉を口にしたチャコは、一層悲しい表情になりウルウルと目を滲ませる。

 しかし、フォートルは、そんなチャコの頭を優しく撫でて微笑む。


 「はい、チャコ様、私は死にます。 ですが泣かないで下さい。 私はいつも息子夫婦や孫の傍にいます。 チャコ様の成長も蔭ながら見守らせて頂きます」


 フォートルの言葉は、まだチャコには理解できなかった。

 しかし、目の前の老人が、微笑をたやす事無く傍で見守っていますと言われ、納得は出来なかったがチャコは1つ頷くと、俺にしがみついて顔をうずめる。

 泣かないでと、言われたので涙を見せたくなかったのだろう。


 他の皆もフォートルの体調を配慮して短めの言葉を交わす。

 惜しむのでなく、お達者たっしゃでと、フォートルの後ろ髪を日か無い為に……。



 12月7日深夜


 フォートルの様態が急変した報せを受け病院に駆けつける。

 フォートルは現在昏睡状態で呼吸も荒く、予断を許さない状態だ。

 数時間後、フォートルの呼吸は荒いままだが、明らかに弱々しくなっていった。


 無力を痛感させられる。

 目の前で命が消え様としているのに、俺はただ見守るだけだ。

 祖父も祖母も、そして母の死も見取っていない俺には、ただその無力感だけが胸をえぐる。


 「おい、フォートルっ!」


 幾人も見送ってきたアルフィーナも耐え切れずフォートルの名を叫んだ。

 叫ばずにいられなかった。

 長き日々を、共に喜怒哀楽を分かち合った友人なのだから。




 その時、フォートルは夢を見ていた。


――ギシッ


 あの他より大きいが、粗末で見窄みすぼらしいマサキと出会った時の我が家で、外の光で僅かに明るくなった薄暗い部屋に1人ポツンと椅子に座っていた。

 回りには誰もいない。

 話し声もしない。

 ただ、自分の存在だけが、そこに在ると分かるだけだ。


 「はぁーーーーーーっ」


 疲れた訳ではないが、何か今まで大変だった様な、楽しかった様な、そんな心に溜まった物と一緒に大きく息をき出す。

 そしてフォートルは、自分の両手を揉みながら手のひらを見つめた。

 そこには、歳相応に老いた手と、畑仕事で出来た豆が見える。


 今まで何も感じなかったその手が、今では何となく誇らしく感じ少し目を細める。


 自分が何故ここにいるか、今はいったい何時なのだろう? と言う疑問は不思議と浮かんでこなかった。


 ただ何かを待っているのだ。 とだけ分かっていた。


 「おい、フォートルっ!」


 外から自分の名を呼ぶ声が聞こえた。

 それは、いつも気軽に声をかけるあの人の声だとすぐに分かった。


 やれやれ、今日は、魔女様とマサキ様は、何を成されるのだろう?


 フォートルは、自然と笑顔になり自分の名を呼ぶ人物に返事をする。


 「はい、魔女様!」


 そして、フォートルは椅子から立ち上がると、玄関を開け光り輝く眩しい外へ出る。

 あの楽しく忙しい日々が、これから始まるのだと、心を弾ませて……。



 「おい、フォートルっ!」


 アルフィーナが、フォートルの名を叫ぶと、フォートルの呼吸が少し落ち着き

 そして、


 「……はい……まじょ、さま……」


 小さく弱々しかったが、フォートルがアルフィーナの呼びかけに応えた。

 それは、ハッキリと意識しての物では無いが、しかし、ちゃんとアルフィーナに応えたのだった。


 その数時間後にフォートルは息を引き取る。

 荒い息遣いは、穏やかになり表情は微笑を描いたまま安らかに眠った。


 享年68歳


 貧しい寒村が、マサキの下で発展し国になるまで働き抜いた男の死だった。

 多くの者が、その死を惜しみ涙する。


 そして、相生あいおい家にマサキがフォートルに送ったとされる言葉が、口伝で残っている。


 祭事の如き忙しき日々も 翁無きとは心西風


 (あのお祭りの様に騒がしく忙しい日々も、フォートルが居ないと思うと心に秋の寂しい風が吹くようだ)






 フォートルだけでなく

 多くの想いを受け桜花は動き出す。


 そして、濁流の如き世界へと船を漕ぎ出す事になる。


 その先に待っているものが、何であろうと。

 

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