66.桜花国記(産まれし者)
桜花国歴13年10月28日
「うう~、まだかー」
今俺は分娩室の前をウロウロしている。
なぜかと言えば、アルフィーナに陣痛が来たので現在産婦人科専門の病院に移動したかだ。
陣痛が始まったのが、前日の午後3時で今が1時過ぎなので10時間以上も経っている。
事前に出産予定日が分かっていたのでトラブル無く家に居るもの全員で病院に居るのだが、こうも時間が経過すると手持ち無沙汰の上、早く産まれないかなといった焦りから居ても立っても居られず、こうして分娩室の前をウロウロするばかりである。
一緒に来たチャコは、夜空の膝を枕に備え付けのソファーで眠っているが、他の者は起きている。
それ以外にも聖獣のアオイ、それと一緒についてきたアクサ、ジェナートにボルガなども来ていて、他にも病院に入れないという理由から、病院の外には、ジニスやロドルク達大勢が押し寄せていた。
「マサキ様、そろそろ」
「あ、あぁ、分かった」
分娩室の扉を開けて看護婦さんから立会いを促されると、覚悟を決め中に入る。
中に入ると、マスクと白衣を付けて入室すると、アルフィーナが苦しげに呻いていた。
「アル、頑張ろう!」
「う……、うむ」
アルフィーナの傍まで来ると、一声かけてアルフィーナの手を握る。
それ以上声をかけると頑張っているアルフィーナの気が散るので、励ましや無事生まれることを願って手を握り、他には腰をさすり気がまぎれる程度の痛みを和らげるのに努力した。
午前3時
「うーー……あぁあぁぁぁーーっ!」
アルフィーナが、大声と共に握っていた俺の手に爪が食い込むほど力を入れて力むと、少しずつ頭から出てきた小さな小さな赤ちゃんが、一気に外に飛だす。
「う、うぁー、うぁー」
助産達に受けられた赤ちゃんは、それはもう大きな鳴き声が響き渡ると、その分娩室に居た俺も助産も一気に心を安堵させた。
「うぅ……アル、頑張ったね」
その声を聞いた途端、感動から来るのか分からないが自然と涙が流れ、鼻声で傍に居るアルフィーナの労を労う。
「う、うむ……なんじゃマサキ、泣いておるのか」
「ああ、でもアルだって目から涙が出ているよ」
俺も涙が出ていたが、アルフィーナも力んだせいか、痛みのせいか目から涙が流れ落ちていた。
「「……ふふ(はは)」」
何となく笑い合うと、自然と口付けをする。
別に格好付けている訳ではなく、本当に自然に……。
「マサキ様、さあ、王太子様を御抱き下さい」
「ああ、ありがとう」
産湯に浸かった後、真っ白で清潔なタオルに巻かれた小さな赤ん坊を助産から慎重に渡される。
俺自身、産まれたばかりの赤ん坊など抱いたことなど無いので、恐るおそる手を差し出して抱きしめた。
「うぁー、うぁー、うぁ……う、う、……」
心地良いかもしれないと、チャコが赤ん坊の時と同じ様に抱いた赤ん坊に魔力循環を行なうと、先ほどまで泣いていた赤ん坊が嘘の様に泣き止んで手を動かしている。
「ほらアル、僕達の息子だよ。 髪の毛は……君に似て赤毛かな?」
赤ん坊を抱きしめながらアルフィーナの枕元に行って赤ん坊の顔を見せる。
髪の毛の色は、まだ幼過ぎて分からないが、おそらく俺の黒髪ではなくアルフィーナの赤毛に近いだろう。
「うむ、じゃがまだ分からんぞ! それにしても、なんとも可愛い顔をしておる」
俺はアルフィーナに赤ん坊を渡すと、戸惑いながらもアルフィーナは我が子を受け取る
アルフィーナは、体力を使い果たして辛そうだったのでサポートをしながら一緒に顔を覗くと、そこには真っ赤で目を瞑った小さな小さな赤ん坊が安心したのか抱かれて眠っていた。
「マサキそういえば、この子の名を聞いていなかったな。 お主の事じゃ、少し心配じゃぞ」
なんか失礼な発言をするアルフィーナ
まあ、確かに安直な名前を付けた事もあったが、今回は大丈夫だろう……たぶん。
「んんっ! ああ、決めてるよ。 この子の名前は、幸國 俺の名前の真幸の幸の字を入れたのと、この国を幸せな国に導ける者になって欲しくて付けてみた。 アルフィーナの一字を入れられなかったから、アルには申し訳ないけど……」
悩みに悩み抜いて決めた名前
アルフィーナには悪いけど、どうしても俺の一字の幸を入れたかったから、この名前になった。
「ユキクニ……か、うむ、良き名じゃ!」
アルフィーナは、我が子を愛おしそうに見つめ笑顔をつくる。
俺もアルフィー寝の後ろから手を回し、息子抱き寄せるアルフィーナの手の外側に手を置くと、心の中が幸せで満たされた。
外では、無事産まれた事を助産から聞いた真白と夜空が、ホッとした顔をし、
ジェナートとボルガ、それにアオイとアクサが喝采を上げ、
その喧騒の中、チャコが楽しそうにクルクルと舞ってた。
ミナとメイド達は、その騒がしい様子に目もくれず分娩室の中にいるマサキ達の方を静に見守っていた。
また、少し遅れて病院の外と国内へ報せが行くと、病院の外だけではなく国中がお祭り騒ぎになったのだった。




