62.桜花国記(国外対策の目的)
桜花国歴13年 6月
今、桜花の国でもっともホットな話題は、もちろん
自分達の国王である素鵞真幸の王妃、素鵞アルフィーナが懐妊した事で持ちきりだった。
ニュースでは、アルフィーナの体調とお腹の状態が伝えられ順調な発育に喜び
商店街や企業では、ご懐妊記念などと銘打って割引セールや、飲食品から生活雑貨、果ては家電に至るまで記念商品が作られ売りに出されていた。
気の早い所では、第一王子様誕生記念だとか、第2王女様誕生記念とか、まだ生まれてくる子供の性別が分からないのにそんな商品まで作る有様である。
何はともあれ、国民に知らされ早4ヶ月、いまだに国全体でお祝いムードは、勢いを失わずに続いていた。
そして、父親になる実感を噛み締め、緩みきった表情のマサキだが、日々の政務を疎かにする事無く今日も会議に出席していた。
俺は手元に配られた資料を手に取り、情報局外事担当の者から説明を受けていた。
その内容は、4月に真白と月花に提案した国外の商人を通しての外貨獲得しようとするために何が必要で、何が課題となるか洗い出した内容となっている。
「つまりマサキ様、外貨獲得を他国に知られずに行なう。 と言うのですね?」
椅子が小さく見えるほど大きな熊の獣人族 司法担当の図書ヴァルカスが、現在説明を受けている議案について簡素にまとめ確認してきた。
この議案において近いうちに立法しなければならない内容なので当然と言えば当然だろう。
「そうだ! まずは、その国のお金を得るのが目的だ」
「しかし、ただお金を得るだけですか?」
「それについては、私の方から」
ヴァルカスが、さらにその利用目的について質問をすると、すぐに警察担当のダークエルフ族 一影ルトールが答えるために立ち上がった。
ルトールの説明は、今回の案件である外貨獲得で得たお金は、各国の工作に使うこと、また、その工作活動を行なうために今後警察、情報局、軍などが一体となった間諜部門の設立が必要である事が話される。
つまりスパイが必要だと言っているのだ。
この数年の間で得た世界の情報で、現在この世界には多くの国が存在する。
そして、ある国では、領土を拡大しようと隣国を脅迫し、時には別の近隣国と手を組んで目的の国に服従を迫り領地を掠め取る。
その他にも国の重要人物の拉致や暗殺など色々と血生臭い歴史がある事が分かった。
この歴史自体は、俺自身も日本史、世界史で分かっていたし、日本にいた当時の近代においても行なわれていることなので驚く事じゃ無い。
それより何より、各国は外交官を派遣したり密偵潜り込ませたり、商人を通じて多くの情報を得たりなどすでに、ありとあらゆる手段を用いて自国の利益になるように働いていた。
この桜花国は、建国してまだ13年と日が浅く外交に関してなんら打つ手が存在しない。
いまのところ、この桜花国は魔界などと呼ばれ忌避されているので、すぐに他国と衝突する事は無いが、手段として持つのに早い事に越した事は無いだろう。
そのため情報局に検討する事項として間諜の設立も前もって提案してみた。
もちろん関係する警察のルトール、軍のボルガにも同じ内容を検討するように言っており、今後は3者を交えた多くの部署の者達で激しい議論が展開されるだろう。
今回なぜ情報局だけでなく警察や軍も一緒に交えているのかと言えば、スパイを養成するにも場所が必要で、派遣するにも乗り物が必要、情報を集約する所が必要なので、これらを考えると3者に対応を検討させた。
警察と軍には、反対の事も行なってもらう事になっている。
つまりスパイ防止についてだ。
遣るなら遣られる事も考え、その対応なども検討するべきだからね。
ルトールが説明を終え質疑応答が終わると、俺は頷いて全体を見回す。
ここにいる全員、俺がなぜこの議案を提案したか良く分かっている顔をしていた。
もちろん、理由としては出遅れてる我が国の外交手段の確保が目的だ。
しかし、今回の議案の本当の目的をみんなに伝える必要があるだろう。
ここにいるもの皆にと、それに国民への説明が……。
「みんな俺がこんな事を提案した理由について述べておく必要がある。 1つは、我が国の外交手段の獲得だ」
全員分かってますとばかりに、静に頷く。
みんな勤勉だから日本の歴史から分かっていたんだろうな……。
俺もウンウンと1、2度頷き返すと、さらに言葉を続ける。
「そして、今回の本当の目的は、人族以外の種族を我が国の民になってくれないか相談するためだ!」
そう、今回の本当の目的は、人族以外の種族の保護にあった。
これは、以前の報告書にもあったとおり、現在人族以外で別種族が国を持っているのは1つしかない。
それは、ハイエルフ至上主義を謳ってる国、大エルフ皇国だけなのだ。
それも見た目で区別された少数のエルフが、多くのエルフを追放、または家畜の如く扱っていた。
他の国も同じく、人族以外の種族は軒並み国民とは扱われず家畜や物として見られているのが現状だ。
我が国の種族分布は、人族は少なくその多くは多種族が占めている。
現在の世界情勢を鑑みるに、我が国を他国が認識した場合、人族が少ない桜花を何と見るだろうか?
おそらく国とは認めず、資源(人)が豊富なところだと、見る可能性が高い。
その場合必ず我が国を狙う国が出てくるだろう。
それに鎖国をしても、同じ種族が家畜として扱われているのを知っている我が国民は、これを見過ごす事は出来ないとも思える。
そして、その場合、桜花の国民は、同種族の救助をあげるかも知れない。
それらも見越して今回の提案なのだ。
この問題の対策も遅いより早いほうが良いからね。
それに、桜花を国として認識した場合、同種族を使ったスパイ活動される可能性が高い。
まだ、その存在が見つかっていない今が、良い機会と判断したから今回の件を提案したのだ。
「もちろん、他の種族に無理強いをするつもりは無い! 懇切丁寧に説明し、我が国の国民になる事を承諾した者のみ受け入れようと思う」
その種族にも文化があるのだ、我が国の文化が合わなければ無理に桜花に来て貰う必要なんて無い。
そんな事をすれば軋轢を生んでしまう。
まして我が国を理解し忠誠を誓い、共に桜花国の民として歩んで行く者でなければなおさらだ。
「そのため、まずは外貨を秘密裏に獲得しその後、説明・保護となるだろう」
今後の大まかな予定としてはこんな所だ。
しかし、外貨獲得だけでも数年、説明保護に数十年を視ている。
これは急激な物価や為替を変動させてしまう可能性があり、その場合工作活動が露見するかもしれないからだ。
まずは相手に気付かれないように、ゆっくりじっくり行なわなければならない。
「本格的に稼動させるのは、国会が出来て可決してからだろうけど、下準備だけは済ませたいからみんな、よろしく頼む!」
「お任せ下さい! マサキ様のお言葉を聞き、この件は我が国にとって重要な事、皆奮励努力致します!」
俺の言葉を聞くと、全員立ち上がり頭を下げジェナートが代表として応える。
この問題は、来年の国会で判断される。
国民が不要と判断すればこの件は無かった事になるだろう。
判断するのは国民だが、今のうちにやれる事はやっておこう。
ふうっ、と一呼吸入れると、脳内に通信が入る。
着信を見ると、アルフィーナからのようだ。
『もしも~し、アルどうしたの?』
『うむ、今産婦人科なのじゃ』
アルフィーナは定期的に産婦人科で赤ちゃんの状態を確認してもらっていた。
もちろん母体であるアルフィーナ自身の健康状態やアドバイスなんかも貰っているみたいだ。
そして、今日は予定通り定期検査の日なのだが、どうしたんだろうか?
『ああ、そうだね今日は病院に行ってるんだよね。 どう? 赤ちゃんの方は』
『うむ、順調過ぎて医者も驚いておるのう。 これだけ順調に成長しておるのじゃ、私も頑張らなければなるまい』
『……ウン、ソウダネ』
頑張るのは別に問題は無いのだが、その頑張りが食べ物る事へ集中していないか心配だ。
特に最近は、食欲旺盛で前にも増して食べる量が増えている。
噂によく聞く 「2人分の栄養が必要だから大丈夫!」 なんて事になってなければ良いのだが。
まあ、俺だけ食べてもスタイルが変わらないんだから大丈夫だと思うけど……。
『うむ! ああっ! 違うちがう、そうじゃないのじゃ!』
『ん? どうしたの?』
『イヤイヤ、それもあるのじゃが、そうじゃなくて』
否定や肯定を繰り返すアルフィーナ
いったい何が言いたいのか分からない。
『む~、まあよい』
『うん』
『マサキ、よく聞いくのじゃ』
『うん』
『子供の性別が分かったのじゃ!』
「『……えぇっ!』」
驚きのあまり声を出して立ち上がると、会議に参加する一同は何事かと一斉にこちらを見た。
性別を気にしないと言っても、やはり心のどこかでは気になってしまいアルフィーナに続きを促す。
「『えっと……どっちなの? 男の子? 女の子?』」
通信を使っているのを忘れ言葉に出して聞いてしまう。
周囲の者達も俺の言葉を聞いて何事か分かったようだ。
『うむ、なんとな……ふふっ、男の子なのじゃ!』
「『お、お、お、男の子!』」
盛大に漏れ出る言葉を聞いて周囲から、おぉー! と、響きが起こる。
『うむ、アレが付いておるので、すぐに分かったのじゃ!』
通信の向こう側で喜ぶアルフィーナ
俺は、感無量で言葉が詰り声が出ない。
「マサキ様! おめでとう御座います!」
「「「おめでとう御座います!!!」」」
そんな嬉しすぎて喜びをどう表現したら分からない俺に、ジェナートが祝辞を述べると他も続いてお祝いをしてくれた。
「『嬉しいよ、アル』」
『うむ! 私も嬉しいのじゃ』
「皆もありがとう!」
ここに桜花国王 マサキとアルフィーナとの間に生まれた命が男子である事が知らされた。
多くの国民は、この報せに喜び祝杯を挙げる。
女子を予想し記念品を作っていた者は、その在庫に嬉し涙を流すのだった。




