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58.追われる者

お疲れ様です。

プロローグ的な何かです。

 「そっちに行ったぞ!」

 「かこめ! その辺に行ったぞ!」


 静かな森の中で大勢の男達の怒号が飛ぶ。


 「はぁ、はぁ、はぁ……」


 密集した葉に隠れ少女は、乱れる呼吸を必死に抑える。

 長い栗色の髪を後ろでい。

 幼くはあるが、その顔立ちは整っており将来、美人になるだろう事は予想できる程に可愛らしい。

 しかし、今は、そんな可愛らしさを微塵みじんも感じさせないほど必死の表情で今も周囲を警戒している。

 暗がりにチラリと見える耳の形が、人のそれとは違い長く少女がエルフの種族だと見受けられた。


 失敗した……。

 いつもは誰もいないはずなのに、今日に限ってどうして……。


 少女は混乱する頭を整理する。


 そう、それはいつもと変わらない朝……。




 「お母さん大丈夫?」


 少女は心配げに母を見る。


 「ええ、大丈夫よ」


 心配そうに見つめる少女に母は、辛そうな表情1つ見せずに壁に背を預けながら少女の頭を撫でる。

 そのお腹は、とても大きく少女の母親が妊娠中である事が、見ただけで分かった。


 エルフの種族は、その長寿ゆえに子供の出生率が低い。

 少女が、この母親の子供であり続いての出産は、奇跡に近い出来事であった。

 しかし、子供の状態が悪いのか、母親の体調も悪そうで額に汗をにじませている。


 「お母さん、今日も薬草とって来るね」

 「ありがとうねカグラ。 でも、あまり遠くに行ってはダメよ、奴隷狩りの人族に見つかったら大変だから……」


 カグラと呼ばれた少女は母親の額の汗を拭取ると、母親もまたいとおしいそうに少女の髪を手ですく。


 「うん、分かってる。 だけど奴隷狩りがいても逃げ切れるわ! だって私里で一番駆けるのが早いんだから」


 少女は、母親を心配させまいと笑顔で応えるが、母親の表情は明るくなかった。


 「奴隷狩り……特に人族の奴隷狩りは、魔力も力も弱いけど知恵を使い大人数で襲ってくるから油断してはダメよ」

 「はい、お母さん」


 母親の真剣みを帯びた言葉にカグラも素直に頷く。


 奴隷狩りとは、種族を問わず大エルフ皇国の国民以外を生け捕りにして、皇国に売り渡す集団の事だ。

 大エルフ皇国は、自国民を奴隷にする事を禁止していた。

 しかし、国民とするのは、皇国が国民と定めた者だけであって、それ以外は労働力であり物であるという認識しかない。

 だから、皇国が国民と定めていない獣人族は労働力として、自分らと外見が異なる混じり物と呼ばれるエルフもまた労働力や工芸品と扱われる。

 そんな奴隷狩りがウロウロする危険な場所を避けるためにカグラ達の里は、これほど生活にするのに厳しい場所に住んでいた。


 しかし、少女は自分の弟か妹の誕生のために無理してでも薬草を取りに行く事を決意していた。

 母親もその事を分かってはいたが、身重で動けない自分のせいで無理させている事に素直にカグラへの感謝し念が強く、それ以上何も言えなかった。


 そんな母親の思いを知らずにカグラは、薬草を取りに家を出て行く。



 「ヒメさまー! ヒーメーさーまーーーー!」


 家を出ると、大声を出しながらカグラに近づいてくる小さな影があった。

 カグラは、その声ですぐに誰だかわかったのだろう声の方向に顔を向ける。


 そこにいたのは、カグラと年の頃が同じぐらいの女の子が、息を切らせて近づいて来るの見えた。


 「ウルタ! ヒメ、ヒメと大きな声で言わないで!」

 「はぁ、はぁ……ですが、ヒメさまは、ヒメさまです! 皆そう言えっていってました!」


 歳が近い友達のウルタには、カグラ自身姫ではなく名前で呼んで欲しかった。

 しかし、出生の違いから周囲の大人を含め少女の事を姫と呼ぶ事が、この里のならわしとなっていた。


 「今日も薬草を取りに行かれるのですか?」

 「そうよ、お母さまツラそうだから、薬草は少しでも多く取っておかないと」


 カグラは、大好きな母親が少しでも楽になるように決意を語る。


 「でもヒメさま、最近は里の近くで薬草を見ませんが、どこまで取りに行かれるんですか?」


 このエルフの里は、山岳に囲まれ標高が高く険しい所にあった。

 そのため草木の成長は遅く、毎日の食べ物にも苦労するほどの生活を送っているほどだ。

 そんな状況なのにカグラが、いつもどこからか大量の薬草を持ってくるのにウルタは不思議そうにカグラに質問する。


 「それなら大丈夫よ! 薬草がいっぱい生えている所を見つけたから」

 「そうなんですか? でしたら私も行きます」

 「ダメよ! ウルタじゃ付いて来れないから」

 「ですが、大爺さまより、必ずヒメさまと一緒に行動するように言われてます!」


 自分の事を姫と呼びうやうやしく接してくる大人達の態度にカグラは、子供ながら自分に何かあるのだと察していた。

 そして、大爺と呼ばれる者は、年を重ねたエルフで里の纏め役として務めており、またカグラの縁者であったので歳の近いウルタにカグラの世話を申し付けていた。


 「ダメよ! だってウルタは、足が遅いんだから。 けっこも、この里で一番遅いじゃない」

 「うう……そうですけど……」


 歳が近いと言っても、体格はカグラの方が一回り大きい事もあり運動の苦手なウルタには、里の外の山道を歩くだけでもキツイ

 薬草取りにカグラが、里の外に出ているのを知っているが、自分の脚力では付いて行けない事もウルタは、また知っていた。


 「だから、私1人のほうが早いし安全なの!」

 「ですが、ヒメさま。 大爺さまから里の外へ出ないよう言われてます……里の外は危険だ、と……」


 このエルフの里が、こんな辺鄙へんぴな場所にある理由なのだろう。

 彼女達を取り巻く環境は、良いものではない。


 里の外は、大人でも危険な場所なのだが、背に腹は変えられず大人達総出で里の外に食糧を探しに行っているほどだ。

 ましてや子供では、その危険は言わずとも分かる。


 「大丈夫よ! ウルタは里で待っていて。 いつも通りすぐに帰るから」

 「ヒメさま……」


 ウルタもカグラが、なぜ危険を冒してまで薬草を取りに行くのか分かっていた。

 そのため、それ以上カグラを止める事は出来すに口をつぐんだ。


 「じゃあ行って来るから、大爺さまに言ってはダメよ」

 「……はい、ヒメさま……お気をつけて」


 カグラのそんな言葉にウルタは、不承不承ふしょうぶしょうで応える。

 会話を終えると、カグラは里の外に向かって走り出す。

 ウルタは、そんなカグラの背中を見送るしかない自分が歯痒いと言った表情でカグラの姿をいつまでも見つめる。


 いつも通り里の外で薬草を集め、いつも通りに帰って母親に薬草を飲ませる。

 そんないつも通りの予定だったのに、その日だけは違っていた。



 「居たぞ! こっちだ!」


 大きな声にハッ振り向くと、そこには目をギラつかせた男がこちらを見ている。


 「クッ!」


 次の瞬間、カグラは隠れていた藪を付き抜け、山の斜面を駆け下りる。


 なんで今日に限って奴隷狩りがいるのよ!


 カグラを追い掛け回していたのは、人族の奴隷狩りだった。

 人数は20人以上でカグラを追い込む。


 息はまだ整っておらず汗も引いていない。

 一旦捕まってしまうと子供の力では奴隷狩りから逃げ出すのは難しい。

 そんな事考えるまでも無くカグラは、分かっていたので必死に足を動かして逃げる。



 大人では通れない木々を抜け、藪に入り必死でカグラは追っ手を撒こうと走る。

 周囲から迫る音に耳をそばだて、追っ手のいない手薄な場所に向かって走る。


 早く、もっと早く!

 あの岩に入ればヤツラは追いつけない!


 カグラが見つめる先には、数十メートルの切り立った大きな岩

 そこには子供以外は通れないギリギリの幅の裂け目があった。


 もう少しで!!


 カグラがそう思った瞬間、視界の脇の草が動く!


 「ガァッ!」


 突然お腹に強い衝撃を受けて走ってきた方向へと、カグラは跳ね返った。


 「……ヵ、ハッ……」


 腹部への強い衝撃で息をすることが出来ずにお腹を押さえ地面にうずくまり立つ事すら出来ない。


 「ヘッ! 手間かけさせやがって!」


 地面につくばるカグラの傍に大きな男が現れる。

 そいつのコブシが、ちょうど自分が居た所にあるのでカグラは、ようやくこの大男に殴られた事を理解した。


 「カシラー! どうです?」

 「おう、こっちだ!」


 先ほど自分を追ってきた男達が、この大男の事をカシラと呼んでいるので、この奴隷狩りの集団の頭目なのだろう事が分かる。

 そして、この大男は、部下に自分を追わせ自分は、所定の位置で獲物が逃げ込んでくるのを虎視眈々と待っていたのをカグラは理解する。

 こんな大きな男では、山岳を駆け回るのは無理な事だから。


 「カシラ顔は、ダメですぜ」

 「分かってら。 見ろ、ハラ殴っただけだ! もっともアバラにヒビぐらい入ったかもしれんがな」


 ニヤニヤと自分を見つめる大男の元に1人の痩せた男が駆け寄ってきた。


 「へ~、顔立ちも良いな、混じり物ですが、エルフの子供は珍しい。 これなら高く売れますね」


 この大男の部下なのだろう。

 部下の男も同じ様に気持ち悪い薄ら笑いをうかべていた。


 「ああ、こんな寂れた所にいるとはな! 情報は確かだったな」

 「ええ、こんな場所に子供がいる事は、まず無いですからね。 猟師らの話を耳にした時ピンときたんですよ」


 2人の男の話で自分が、たまたま居合わせた狩人に姿を見られていた事に気付く。

 そして、この男達は、何度も下準備をして罠を張り巡らせ自分が来るのを待っていただろう。


 カグラは、男達を睨みつける。

 まだ呼吸は出来ないが、その意識は下品な笑いをする男どもが敵である事を再認識した。


 「カシラー、どこですかー!」


 周囲からここに集まってくる者達の声と足音が、カグラの耳に入ってくる。


 このままだとマズイ!


 足に力を入れて逃げようとするが、思うように力が入らずカグラは2、3歩でつまずいて転倒する。


 「へっ、逃げ様としても無駄だぜ。 まだ、息も出来ねぇだろ」


 男達は、ニヤ付きながらカグラに近づいて来た。

 カグラは、とっさに腰に差していた薬草採取用のナイフを男達に向かって抜き放つ。


 「おっと! そんな小さなナイフじゃどうする事も出来ねえぜ」

 「へへへ、大人しくした方が、痛い思いをしなくてすむぞ」


 クッ、このままコイツらに捕まって奴隷にされるくらいなら、いっそ!


 「あー、すまないが、その子に俺も様があるんだよね」

 「「「ッ!!!」」」


 カグラが、自刃する覚悟を決めた時、目の前の男達とは違う。

 どこか気の抜けた様な声が聞こえてきた。


 その声は、男達の後ろからしたので、男達もカグラも慌ててそちらに目を向ける。


 「それに、そんな子供に暴力はイケナイな」


 男達の後ろにいたのは、男達の様に彫りの深い顔をではない。

 どちらかと言えば彫りの浅い、少年の様な黒髪の青年が立ってカグラの方に向かって歩いて来るのが見える。


 「んだテメエッ!」


 大男は、短気なのか青年の事を自分の獲物を横取りしに来た者と思い、怒号を浴びせ腰に差していたなたの様な剣を抜いて威嚇する。

 痩せた部下も短刀を抜いて青年と対峙するが、大男の様に大きな声を上げるのではなく、黒髪の青年を観察しそれが何者か見ているようだ。


 「カシラ、コイツの服、なんか随分と上等な物ですぜ」

 「あぁんっ?!」


 こめかみに青筋を浮かべていた大男が、部下の言葉を聞くと今度は眉間に皺を寄せて青年に目を向ける。

 カグラも突如現れた黒髪の青年に目を向けた。


 痩せた男の言う通り青年の着ている服は、凄く良い生地を使っている様だ。

 それに汚れ1つ無く、自分の着ている服や奴隷狩りの男達の着ている服ともまた違った格好をしている。


 「あんた、どこかの貴族か?」


 大男は、青年の身なりの良い服を見て貴族か、それに近い身分と判断し言葉を改め青年に問う。


 「いや、貴族とは違うかな……まあ、身分なんてどうでもいいよ。 とりあえずその子は、こちらで預かるから」

 「なんだとっ!」


 大男が大声を上げてる。

 カグラは、青年が大男に殴られるか手に持つ剣で切られる未来を想像するが、それは起きる事は無かった。

 なぜなら大男が大きな声をあげた途端に大男と痩せた男は、それに続く声を発する事無く地面に倒れたのだから。


 「ッ!!!」


 いきなり倒れた男にカグラは驚く。


 「■■■■■■■■■」

 「■■■■■■■■■■」


 何者かの声がしたと思いカグラは倒れた男達から目線を上げると、男達の立っていた場所のすぐ脇に新たに2人の人影が立っている事に気付く。


 いつの間に!とカグラは驚いたが、もっと驚いたのはその2人の姿だ。


 片方は、獣の様な顔をしている……皆が言っていた獣人族と言う種族かしら?

 それに片方は……エルフ……でも肌の色が黒いし、髪の色は銀色……もしかして、大爺さまが言っていたダークエルフ!!!


 カグラは獣人族を見たことが無かった。

 里の者達から聞いてはいて知ってはいたが、里の外にいる他種族とは関係を絶っていたので生まれて初めて獣人族と言うのを見たのだ。

 それにダークエルフについては、500年以上前にこの国から消えてしまった種族として聞かされていた。


 「■■■■、■■■■■」


 急に現れた2人に青年は驚く事無く話をする。

 しかし、カグラは、その者達が何を話しているのか理解出来ない。

 そもそも、この地を治める皇国の共通語であるエルフ語ではないので理解できるはずも無い。


 「■■■、■■■■■!」


 そんなカグラに気付いた青年は、カグラの前まで歩み寄りかがみ込む。

 カグラは、そんな状況に付いて行けず混乱したまま、奴隷狩りの男達と対峙した時のままナイフを前に突き出した状態で固まっていた。


 「ごめんね、今日は君のエルフの里に話があって来たんだ。 こっちはルトール、見て分かるとおりダークエルフだ」


 紹介されたダークエルフが、前に出てカグラに頭を下げる。


 「初めてお目にかかります。 私はダークエルフの一影ルトールと言います。 エルフの巫女様にお会いするのは数百年ぶりですが、何卒良しなに」


 ダークエルフは、方膝をつきかしずく。

 相手が子供だろうと、敬意を最大限に表した格好だ。


 「……」


 唐突とうとつな出来事にカグラは驚き言葉が出ない。

 と言うより呼吸は何とかできるが、腹部の痛みで言葉を発するのはつらかった。


 「わ……たしは……カグラ……」


 そう言うのが限界だった。

 それ以上発する事無く、その場で意識を失い倒れ込む。


 目の前の人物達が、敵意ではなく敬意で話し始めた事に気の張りつめが解け。

 1人が同じエルフだと言う事に安堵あんどし、

 黒髪の青年が、先ほどの奴隷狩りの男達の様な下品な笑みではなく、どこか安らげる様な微笑をたたえてる事に安心して緊張の糸が切れてしまい気絶したようだ。


 次に目を覚ました時、カグラは黒髪の青年の腕の中に抱っこされていた。


お読み頂き、ありがとうございます。

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