53.桜花国記(知った事、告げた事)
お疲れ様です。
遅くなって、すいません。
桜花国暦12年 3月18日
春麗らかな陽気にあたり、山桜の蕾は膨らみチラホラと花を咲かせる今日
桜花の国は、そののんびりとした日和と打って変わって今日も人々は汗水垂らしながら忙しく働いていた。
「ゴホッ、え~、現在、発電施設を各地に建設中です。 ただ今のところ、建設が終了し発電を開始している魔導核融合炉は、リアレスを含め6箇所の都市部になります。 発電量は順調
で今後増えていく人口にも十分に対応できる模様です。 ただし、今後国土が拡張した場合は、新たに建造すべきと考えております。 ゴホゴホッ」
フォートルから桜花での電力事情の説明を聞く。
話にもあった通りに電力については、魔導核融合炉のおかげで一般家庭のみならず工場など大量に消費される施設への電力供給量にも安定して供給できているみたいだ。
「その他には、河川改修を行いリアレスやフィルへの河川水量増加それに伴う工事と、他の地域の河川改修工事も併せて順調に進んでおります。 これによって、各地の水消費に対する供給量が安定し水不足
も無くなりました」
話の通りにリアレスとフィルの遥か北に流れていた川の本流である大河川の改修工事を行っている。
今までは、水不足に悩まされていた村々への水の供給は、大河川から高圧ポンプによって、リアレスから他の村へ水の供給が行なわれていたのだが、今回の工事によってリアレスのみならず近郊の村々への水の供給
が安定させる事が出来た。
各地にチョロチョロと流れていた川は水量が増し今までの川幅では危険なため、川底を掘り下げ周囲の土壌より低く流れるよう工事が行われている。
もちろん、環境に配慮した生態系の保護には、事前調査などを入念に行なって上での工事なので問題は無い。
「そうか、国土拡大に伴い各地の河川も調査と工事を順次行ってくれ。 あと、念のための貯水地と地下貯水の選定工事も行ってほしい」
「ははっ、順次行なっております」
河川から汲み上げた水は、各地に建てられた水処理場において高度浄水処理を行い、各家庭の飲料水などの上水に使われている。
海水からの塩精製で出るろ過水もあるので、今のところは供給に支障が出る事例は発生していない。
しかし、今後長期間に降水量が減り、干ばつがあった場合に河川のみだと些か不安になる。
そのため、現在、河川工事の延長として貯水出来る池や、湖、また地下の地盤が安定している場所に東京の様な地下貯水トンネルなどを建設する計画が練られている。
いざと言う時のために準備するのも、国政を預かる者に必要なことだ。
「以上かな?」
「はい、ご報告は以上です」
フォートル以下全員が頷く。
「よし! 各自今回の決議に沿った書類を作成して上げてくれ、確認の上で不備が無ければ国璽を押すから、それじゃ、解散!」
俺が解散を宣言すると、会議に出席した全員が起立し頭を下げる。
照れくさいが、これも王としての務めなので皆に1つ頷いた後、先に退出させて貰い王宮にある自分の執務室に向かって歩を進めた。
「車の準備は出来ております」
部屋を出ると、ジェナートから議事堂玄関前に車が用意されている事が告げられる。
「ありがとう。 でも、今日は中まで入らずに王宮入口で降りるから」
「入口で……ですか?」
いつもと違う経路にジェナートは不思議そうにする。
通常は、会議が終了すると議事堂の玄関から王宮の玄関に直接車で向かっていた。
「ああ、今日は陽気も良いし、庭園に咲く花の様子でも見て行こうかと思ってね」
王宮と言っても西洋風の王宮とは異なり、建物は大きな1階建ての瓦屋根の屋敷が連なり、道は石畳の他に玉砂利を敷き詰められ脇に広がる庭園は、日本の庭園の様に池や季節ごとの色取り取りの花と木が植えられ
ていた。
「なるほど、まだ早そうですが、たしかに良い散歩になりますね」
窓から外の陽気を眺める俺と同じ様にジェナートも外の様子を見て頷く。
「あっ! あとで父からお話したい事があるらしいので、父と一緒に執務室へ御伺いしてもよろしいですか?」
はて? 先ほどの会議では、その他の報告は無かったみたいだけど、いったい何だろう?
「ああ、構わないよ。 今が14時だから、そうだね15時ごろ来てくれ。 茶菓子を用意しておこう!」
「ありがとう御座います」
少し疑問に思ったが、なによりフォートル事だからここでは話せない重要なことなのだろうと、すぐに承諾する。
その後予定通り帰り道に庭を散策する。
山桜の木には、まだ蕾だが桜色に染まり、他の木々の花もチラホラと咲き始めていた。
「雨が降らなければ、来週には見ごろになるな」
見ごろになる桜を想像しながらひとりごちる。
俺は、誰にも見られてないことを良い事に満面の笑みでウンウン頷きながら木々を眺めていた。
が、そこは、王位に就く者、もちろん1人ではなかった。
少し離れた茂みの奥に様子を確認する眼がある。
片方は、黄色い瞳を持つ月花、そして、もう片方は、緑色の瞳を持つ翠花だった。
「あら~、マサキ様ご満悦です~」
ニコニコと微笑み語尾を伸ばして翠花は言う。
「ですね、来週は花見になりそうです。 マサキ様お好みの甘味類をピックアップしましょう」
翠花の発言に同意して、これまでのデータからマサキが好んで食べる甘味を選び出す月花
彼女らは、別に決められてはいないが、誰か1人は必ずマサキの護衛として傍らに控えるようにしていた。
「随分と嬉しそうですね」
さらに2人の背後から声が聞こえた。
2人が恐る恐る振り向くと、そこには彼女達の上司とも言えるミナが静に佇んでいた。
「あ、はい~」
「その、マサキ様が喜んでおられる様なので」
さすがに護衛中に私事で見ていた事に引け目を感じ萎縮する2人
そんな2人を見据え、ミナは一言いった。
「マスターのデータは、厳重なプロテクトを施して私に送るように……いいですね」
「「了解しましたっ!」」
ミナの無言の圧力に一糸乱れぬ敬礼で応えるメイド達
そんな事が陰で行われているとは、露知らず散策を続けるマサキだった。
散策も終えると、執務室でメイド達が用意してくれたお茶とお茶菓子を楽しむ。
今日は、黒糖が練りこまれた皮を持ち、どこか懐かしみがある素朴な一口サイズのお饅頭だ。
一口サイズなので丸ごと口に入れると、黒糖の匂いのあとに甘さ控え目のこし餡の甘さが口に広がる。
何度か噛み締めて風味と甘味を楽しむと、まだ甘味が残る口に程よい熱さの緑茶を流し込む。
「んん~! 美味い!」
アオイもアクサもそれぞれ用務のために席を外しているので、このお茶はメイド達が用意してくれた。
今は、そのお茶を楽しみながらフォートル親子を執務室で待っているところだ。
――トントンッ
扉をノックする音がした。
『フォートル様がお越しになられました』
受付をしていた月花が、扉の外で来訪者を告げる。
「どうぞー」
「失礼します」
中に入って来たのは、約束通りフォートルとジェナートの親子2人だった。
「やあ、何か話があるとか……とりあえず、そこに座って」
2人を備え付けのソファーに座るように促すと、部屋の隅にいた翠花が2人の前に俺と同じお茶と菓子を置く。
「この饅頭にお茶が合うんだよ」
「ふぉふぉ、私もお饅頭は大好物です」
俺が饅頭を1つ取り口に運んでお茶を飲むと、フォートルとジェナートも同じ様に饅頭とお茶を楽しむ。
「で? 何の話かな?」
「はい、私が申し上げるのも何ですが……」
フォートルとジェナートが、テーブルにお茶碗を置くと真剣な表情で姿勢を正す。
何だろう? 何か大事な話なのかな?
一拍間を空けて、フォートルが話し出す。
「マサキ様……私達国民は、マサキ様がもたらす様々な恩恵にあずかり、飢える恐怖が無くなり幸福な家庭を築かせて頂いております」
「うん」
正直、フォートルが言っているほど幸福な家庭を築いているのか疑問に思うが、フォートル達の真剣な表情からここは否定しないでおく。
「国土も拡大し開拓も順調に軌道に乗っており、今は心配する事が、少ないかと思います」
「まあ、そうだね。 今優先するべき事は、皆に任せてるし……」
毎日会議で決議事項など案件はあるものの、取り急いでやる事は少ない。
今は、報告を待っている段階だ。
「ですから、マサキ様もそろそろお子をお作りになった方が、よろしいかと考えております」
「………………はあ?」
フォートルから発せられた思わぬ事に思考が停止してしまう。
おこ? オコなの? いや子供の事だよな!? 俺は男だから産めないよ?
「言ってる事が分からないんだが」
「えっ! いや、ですから、お世継ぎが生まれれば国民も安心しますので」
フォートルは何を言っているんだ? まったく理解できない。
「作れと言っても、俺には相手がいないよ。 コウノトリが運んでくる訳でもないんだから」
「いえいえ、相手は居りますでしょう」
「は?」
「へ?」
相手って誰? 俺、結婚なんかしてないぞ!
「……フォートル、その相手って誰のこと?」
「何を仰います。 魔女様の事に決まってます!」
はいーーーーーー? 何でアルが出てくるの?
「ちょ、ちょっと待て! 俺とアルは、別に結婚してないけど」
俺のその発言に今度は、フォートルの方が驚いた表情になる。
「そんなはずは無いです。 魔女様はマサキ様を私どもに紹介された時に“お連れ”と言いました」
「だから何を言っているんだ? お供だから連れで良いんじゃない……か………………あ!」
大学時代、歴史や文化について教授から指導を受けていた。
もちろんそこには、風習や風土、世俗の価値観の異なりで指し示す名称が、地域、時代によって異なった事がある。
「もしかして、連れの意味って……」
「? 夫婦、それに近い男女の事ですが」
コイツ何を言っているんだ? と言う顔をするフォートル
俺だって聞いてないよ! この世界で“連れ”が“夫婦”を指す事なんて!
「ま、まさか、お知りにならなかったんですか! 魔女様が仰っていたので私はてっきり……」
「と、父さん!」
俺が、連れの意味を今知った事に天を仰いでいると、フォートルは汗を掻き困り顔になる。
ジェナートは、慌てて声を上げた。
「う、うむ……あ、あの、マサキ様?」
「……あー、うん、この件は、ここまでにしよう」
知った事を理解する時間も必要だし、何より言った当事者がいないのでは話にならない。
「それだけかな?」
「はい……申し訳ございません」
フォートル親子は、平伏したままでこの話はここまでにした。
そのあとの事は、色々考え過ぎて仕事が手に付かなく、家に変える時間になった。
家に帰っても考えが巡って、食事の味すら感じることは無い。
「どうしたの、お父様? お腹痛いの?」
普段と違う俺にチャコが心配して駆け寄ってきた。
「大丈夫だよ、チャコ」
「ほんとう?」
「ああ、本当だ」
心配させないためチャコの頭を撫でて微笑むと、チャコもそれに嬉しそうに尻尾を振った。
「そうじゃぞ、マサキ! あまり皆を心配させるでない!」
腰に手をあて叱るような態度のアルフィーナ
いったい誰のせいで、こうなっているんだと思っているんだろう。
「あー、アル、話があるんだけど……」
「なんじゃ? 話か? 良いぞ」
話を促してくるが、内容が内容だけに人がいる場所で聞く訳にはいかない。
「えっと、ここじゃ何だから、そうだ木の家! となりの木の家で聞きたい事があるんだけど」
「ふむ、まあ良い。 フロの後で良いか?」
「うん……じゃあ、また後で……」
時が経ち約束通りに木の家に向かう。
アルフィーナは、先にお風呂に入ったので木の家にはもう居るはずだ。
――トントン
「入るよ」
「うむ」
魔力を使って木の家の扉(魔道具)を作動させ中に入る。
中ではアルフィーナが、部屋の明かりを点けて椅子に座って待っていた。
「久しぶりに入るな……」
「うむ、家が出来てからずーと向こうでの生活じゃったからな。 私も久しぶりじゃ」
俺がこの世界に来て数日、この木の家の床に寝泊まりしていた。
もう10年以上も前の事になるので、凄く懐かしい感じだ。
「どうしたのじゃ? 座るが良い」
懐かしくてつい部屋の中を見回してしまい、アルフィーナを待たせたようだ。
「で? 話とは何じゃ?」
「ああ」
椅子に座ると、早く言えといった感じのアルフィーナ
そんないつもの彼女に俺は、意を決して話を切り出した。
「ねえアル、フォートルに俺の事を最初に紹介した時、アルの“連れ”って紹介したよね」
「そうじゃったかな? 昔の事で覚えていないのじゃ」
いつも通りのアルフィーナだが、その声は少し弱々しい。
「うん、言ったんだ。 でね、今日フォートルから言われたんだ。 あの時の連れの意味を……」
「う、うむ」
アルフィーナの顔を見つめると、どこか居心地悪そうで困った表情で背ける。
「連れって、夫婦って事だよね? どうしてそう言ったの?」
「……」
アルフィーナは、何も応えない。
俺も別に怒っている訳じゃない。
どちらかと言うと、そんな風に紹介しないと村の人々に信頼を得られないとアルフィーナが判断したのなら、彼女に申し訳なく思う。
「……のじゃ」
「ん?」
「……たのじゃ」
アルフィーナは、頬を赤らめて何かを言っているが、どうも声が小さくて聞き取れない。
「ごめん、よく聞こえない」
「ええい、もう! 惚れたのじゃ! 仕方が無いじゃろう」
アルフィーナは勢い良く立ち上がると、真っ赤な顔をして大声を上げた。
え? ホレタノジャ? は?
「じゃから、連れと言ったのじゃ。 悪いか!」
その言葉を理解出来ずに呆けていると、テレを隠すかの様に憮然とした態度でいるアルフィーナ
そんな彼女に、俺も慌てて立ち上がり言葉を返す。
「い、いや、でも、ほら……もう60歳に手が届きそうな歳になるし、こんなオジサンで良いの?」
「お主がオジサンなら、私は何じゃ! 300歳も見えてきたのじゃぞ!」
真っ赤になりながらアルフィーナは、口を尖がらせる。
これだけの美人に告白されたのだ、正直どう対応すれば良いのか分からない。
でも、思い返すとこの世界にやってきて彼女に出会わなければ、今の俺は無かった。
最初にラーメンを奪われたけど、眠る場所を貸してもらい、魔法を教えてもらい、リアレスの人々に紹介してくれた。
だからこそ、今ここに俺はいる。
彼女には、感謝しきれないほどの感謝がある。
『あなたといると、お爺ちゃんといるみたい……タイクツなの……』
大学時代に付き合った彼女からの別れの言葉を思い出す。
彼女が出来て嬉しかったし精一杯努したけど、付き合いを深めていく内に、ひどく退屈させてたようだ。
あれ以来会っていない。
大学を卒業してからは、仕事一筋で浮ついた話すらなく今まできた。
目の前の女性は、そんな俺に惚れたと言った。
それにもう10年以上一緒にいるのに態度と言葉から、今も変わっていないようだ。
それなら、俺もシッカリしないと!
「アル」
「なんじゃ」
肩の力を抜き真剣にアルフィーナの顔を見つめる。
彼女の顔は、まだ赤く少しテレた表情だが、それでも同じ様に目を合わせてくれた。
「もし良ければ、俺と結婚して下さい!」
「………………はい」
返事を聞いた時、アルフィーナは顔を真っ赤にさせてうつむく。
俺は、そんな彼女が愛おしくて思い切って抱き寄せた。
「その、不束者ですが、よろしくお願いします」
「バカモノ! それは、こちらの言葉じゃ」
お互い顔を赤くしながら見つめ合うと、自然に口と口が合わさる。
爺ちゃん、婆ちゃん、そして母さん
この人が、俺のお嫁さんです。
お読み頂き、ありがとうございます。
ようやくマサキとアルフィーナが結ばれました。
少し簡素に書いてしまいましたが、お互いに50歳以上の年なのでお許しを。
次回は、事件が起きます!




