52.桜花国記(拡大する国土)
お疲れ様です。
52話です。
桜花国暦12年1月7日
「お父様、いってきますなのー!」
「気を付けて行って来なさい」
元気良く手を振るチャコに同じく手を振りかえす。
チャコの振っていない方の手には、夜空の手がしっかりと握られている。
冬休みも終わり今日から学修校の授業が始まるので、チャコと夜空は王宮の門から学修校へと向かって歩いていく。
去年の10月にようやく人化の魔法を使えたチャコは、翌日には、今日と同じ様に元気いっぱいの笑顔で学修校のみんなに挨拶をした。
それまでのチャコを知る者も初めて人型のチャコを見るため、最初の挨拶は緊張してぎこちないかと思ったが、そんな事も無くすぐにクラスの輪に溶け込んだそうだ。(夜空談)
前々から何となく気付いていたが、どうも夜空は子供が好きみたいだ。
本人は否定していたが、学修校の霜月ノアからは子供達と楽しく学んでいて、大変面倒見が良いと太鼓判を押していた。
まあ、迷惑を掛けていない様で良かったよ。
「さて、俺達も持ち場に就くか」
「じゃな、それでは、また会議の場で会うのじゃ」
「主様、失礼致します」
「では、私も失礼します。 マスター」
アルフィーナと真白それとミナが、それぞれの持ち場に向かう。
アルフィーナは医療研究機関へ、最近の研究課題はナノマシンの研究みたいで、その熱の入れようは凄い事になっている。
この研究が進めば感染病などの病気だけではなく、ガンなどにも効果が期待できるとか言っていた。
真白は、内外の情報収集と分析する機関に所属している。
多くの情報を選り分けて分析するのだが、どうも真白の真面目な性格に合っているらしく、とても熱心に取り組んでいる。
ここから出てくる情報と分析結果は、他の省庁や機関にも共有され利用されている大事な役割だ。
ミナは桜花銀行の建物へ、今もなお王庫の管理と桜花銀行総裁の2つの役職を兼務してもらっている。
桜花銀行については、職員の方も経験を積み成長しているので近く総裁の座を渡すと言っていた。
まあ、何にしても少しずつ人材が成長している事は、大変喜ばしい事ではあるな。
「あら! マサキ殿、おはよう。 今日もチャコちゃんのお見送りだったの?」
執務室に入ると、書類を片手にアオイが出迎える。
「ええ、最近学校へ行くのが楽しくてしょうがないみたいで」
「ふふ、それを帰ってから聞く、お父さんは大変だわね」
「ハハ、そうですね、大変ですけど嬉しくもあるんですよ」
人化の魔法後チャコは話す事が楽しいらしく、夜に家に帰る時、お風呂の時、ご飯を食べる時、布団で眠る寸前まで、今日何があったとか、どこで何を見たとか、何をして遊んだなど事細かく教えてくれる。
毎日嬉しそうに話すので聞いてるこちらも癒されている。
「っと、今日の書類は」
「おはようございます。 マサキ様、こちらの書類が目を通して欲しい物です」
アクサが朝一番の緑茶を淹れてくれて机に置くと、先に目を通す書類を差し出す。
「おはよう! アクサ、それと、ありがとう」
淹れてくれたお茶を一口飲んで書類に目を通す。
この朝一のお茶は、濃い目に淹れてくれてるので程よい苦味が頭をスッキリさせてくれる。
えーと、なになに……えっ!また、新たに村が加わるのか!
ここ数ヶ月で桜花に加わる村が続出していた。
多くの村では、近隣の村が急速に発展し食糧事情など色々な面が改善された事に端を発しているのだが、この国に3人の聖獣が居る事も大きな要因になっている。
新たに参加する村には出来る限り顔を出しているのだが、そこで一緒にアオイや真白、時には夜空を連れて行く全ての村で平伏すほどの影響力を持っていた。
まるで印籠代わりだ。
そのため桜花の国土が、この10年で広げていったスピードの数倍以上の速度で拡大していっている。
書類に添付されている地図を見ると、現在の桜花の国土と新しく国土となる村々の位置、それに伴う開拓計画の期間が示されていた。
このまま拡大していくと、あと3~4年で魔界と称されている島全土が、桜花国となる事がその地図から見て取れた。
しかし、その拡大のスピードが速過ぎて開拓のスピードがそれに追いついておらず、行政、建築、農業、水産など多くの分野で人材が不足している。
人材が不足しているといっても人がいない訳ではなく、技術者の数が揃っていないと言うべきだろう。
各業界が急ピッチで人材育成に取り組んでいるので、その結果待ちと言うのが現在の状況だ。
は~、嬉しい反面これじゃ開拓が追いつかないな……食糧や人を運ぶにも道が必要だ。
つまりは、何をするにも動脈となる道路と、それに伴うインフラだけでも俺が造った方が早いな。
資料に道路とインフラ、それと地下鉄の敷設工事を俺が行う事を計画に盛り込むように指摘し、計画の再度見直しを行なうように指示を出す。
「さて、次は……おっ! 来月には、富士と敷島の引渡式か!」
「はい、現在、マサキ様のご出席を予定しているので関係各所と調整中です」
今俺は、富士、敷島と名前で呼んだが、本来は引渡式が命名式となりこれによって名が付けられる。
進水後、ここまで長い歳月を要したが、これによって桜花で初めての軍艦が配備される。
国民の関心も高いので式典は大々的に執り行われる予定だ。
それに際し無くてはならない物も渡す予定でいる。
「ところで来月には、例のアレも予定に入っているわよ?」
「ああ、アレですか!」
アオイのアレとは、実験炉だが原子力発電も研究機関に造らせている。
すでに核融合炉があるのになぜ? と思うかもしれないが、何事も実践してその良いところ悪いところを探す事が大事とこの国では教えている。
なので今回は、小規模ながら原子力発電所の稼動が、来月の予定として組み込まれていた。
燃料となるウラン鉱石は、少量ずつだったが鉱山の採掘作業で取れたので魔障壁を使って、燃料として使用できるまで濃縮したものを使う事になっている。
まあ、他にもある実験があるから核分裂を連鎖的に起こさせる必要があるんだけど……。
「ええ、私も出ますので、その辺の調整よろしくお願いします」
「分かってるわ。 でも、あまり無理しないでね。 働き過ぎは身体に悪いから」
「そうですね、ありがとうございます」
アオイの気遣いに感謝しつつ、俺よりも皆の方が働き過ぎではないかと心配になる。
これでも1週間に1日は、休みを貰って身体を休めているのだから。
まあ、大半はチャコと遊んだり、身体を鍛えたりしている訳なんだが……。
そんな事を考えつつ、次の書類に目を通す。
開拓案件に新規の研究内容、そして法整備と多くの事柄に忙殺され瞬く間に時は経ち
富士と敷島の引渡式の日がやって来た!
2月10日
オーカスの港町
桜花に初めての軍艦が配備されるとあって、ここオーカスの港には多くの人々が集まり盛大なセレモニーが開かれていた。
式もつつがなく進行し、船に乗組員が登場し各担当の場所に就くと、いよいよ初めての出港となる。
俺も船が見える位置に用意された会場で船の出港を見守っていた。
「では、出港いたします!」
見事な敬礼をしているのは、沖野アトア中佐、今回の2隻の船を指揮する司令官に就いてもらった。
中佐と階級で呼んだがこれは、軍の指揮命令をハッキリとさせる必要があったために設けられた桜花国軍での軍隊の階級だ。
司令官なのにアトアの階級が中佐と低いのは、桜花の軍隊の規模と今回の指揮する人数の規模で中佐の階級に決められた。
今、一番上の階級はボルガの少将で今後習熟と経験を重ねて、昇進していく事になっている。
もちろん軍の規模も拡張していく予定だ。
「ああ、事故の無い様に気を付けてくれ、それとヨーギルも船の方をよろしく頼む!」
アクサの娘婿のヨーギルは、イラーイダでの船の操船技術を買われ今回富士の艦長として操船を担当する。
階級は、大尉、本来の艦長階級とは比べるまでも無く低いが、こちらも今後昇進していく予定だ。
「すまないな、娘さんが生まれたばかりで」
そうヨーギルは、昨年の冬に娘が生まれたばかりで母子の傍にいたいだろうところ、今回の船の艦長として訓練で長期間家を空けなければならなかった。
「いえ、アクサ様より、お前は国のために頑張ってこいと言われましたので」
真剣な表情だが、少し青ざめた表情で話すヨーギル
もしかして、アクサが怖いのか? 毎日話しているが、そんなに当りが強いと感じたことは無いが……。
「それに、アクテからもジャマと言われましたので」
今度はションボリとした表情で語る。
どうもこの家の事情は、女性の方が強いみたいだな。
「ま、まあ、2人とも頑張ってくれ」
「「はっ!」」
揃って敬礼すると、2人とも性筋を伸ばしキビキビした動作で船に乗り込んでいく。
2人が乗り込む船はとても大きい。
その全長は250メートル、主砲として40センチ45口径の三連装砲が前方に2門、後方に1門ある。
そして、副砲は前後1門ずつ、これは単装速射砲ながら海上自衛隊の護衛艦と同種の砲を積んでいた。
他にも20ミリ機関砲など多くの火気を積んでいるが、ここでは省略しよう。
この世界での富士と敷島は、姉妹艦として建造され同じ内容になっている。
これだけの兵装を備えながら乗員数は、120名と海上自衛隊の護衛艦と同程度で済んでいる。
これは、内部に備え付けられたコンピューターとAI、それに自動化によるところが大きかった。
ただし、今回は訓練と習熟が目的のため乗員も200名と多いが、それも予定されていたので内部の居住スペースは十分確保されている。
この船で出来るだけ多く学んで帰って来てほしい。
彼らが学んだ事は、これからの桜花の財産なのだから。
現在、桜花にも士官候補生を育てるための学校の設置が検討されている。
しかし、ここにも人材の不足が尾を引いており、学ぶ人間はいても教える方がいなかった。
今後、各分野で習熟した者達を講師として学校を作ろうと考えているのだが、今はその習熟者を育てる段階にいる。
出発の汽笛が鳴らされると、音楽隊の演奏と共に船がゆっくりと動き出す。
船が俺の前を通り過ぎる時に、甲板に並ぶ兵達が一斉に敬礼してきたので1つ頷いて彼らの無事を祈った。
2月18日
イラーイダより北の海岸
オーカスでの初の軍艦受け渡しを終えると、翌週にはイラーイダの北に造られた原子炉に向かう。
今回は、核分裂連鎖反応の実践とデータ収集であり、他にもとある事の試験のために臨界を起こさせる予定になっている。
「マサキ様、こちらで御座います」
職員に案内されてやって来たのは、色々な計器や操作機器、モニターが並ぶ原子炉の操作室だ。
「それじゃ、予定の時間になったらすぐに始めてくれるかな?」
「はい、ただちに!」
その一言の後に職員が号令を出すと、各担当者が操作したり現場に連絡をしたりと忙しく動き出した。
「準備完了です」
職員の一言に頷いて応えると、次の操作へと促す。
「炉心外に魔障壁展開!」
「魔障壁展開します」
号令と復唱のあと、モニターに魔障壁が炉心の周りに展開された事が表示される。
「続いて原子炉稼動!」
「原子炉稼動5秒前、4、3、2、1、稼動!」
職員がスイッチを入れると、モニターにはゆっくりと中性子吸収材がせり上がってくる様子が映し出され、炉内の水温が上昇していくのが分かった。
「放射線量測定開始!」
続いて職員が指示したのは、稼動する原子炉の外側に展開する魔障壁、壁面での放射線を測定する事だ。
「………………測定結果は、バックグラウンド! 変化ありません」
「「「おぉぉ……」」」
操作室で作業する職員が響く。
それもそうだろう、稼働中の原子炉のそばに設置している測定器には、バックグラウンドつまり天然放射線以外の放射線が無いと言っているのだ。
通常そこは、強い放射線が飛び交うところで、人が入れば即死してしまうほどの放射線がある場所なのだから、驚くのも当然と言えば当然である。
「次を」
「は、はい! 失礼しました」
俺が次の実験の指示を出すと、呆けていた職員は慌てて次の作業へ移る。
「続いて、エネルギー吸収型魔障壁を炉内に展開!」
「エネルギー吸収型魔障壁展開」
しばらくすると、炉内の温度が急激に下がり出す。
温度家の目盛が、あっと言う間に下がりマイナスの指示を出している。
「ふう、どうやら成功したようだね」
「「「おおーーーーーー!」」」
今度は、響きではなく大歓声に室内が包まれた。
解説すると、さきほど展開されたエネルギー吸収型魔障壁は、励起している核種(放射能)の余分なエネルギーを吸収、電気エネルギーに変換している。
また、その中には、熱エネルギーを吸収する魔障壁もあり、このため温度が急激に下がったのだ。
炉の外側を覆っている魔障壁も吸収型魔障壁なのだが、これは各種有害な放射線を魔障壁で吸収し運動エネルギーを電気エネルギーに変換していた。
つまり、稼働中の原子炉が瞬時に停止した事になる。
原子炉と言うのは、稼動すると中性子吸収材を入れて核分裂の連鎖を止めたとしても、何日も核分裂で生じた放射能が熱を発して高熱の状態が続く。
そのため水に何日もつけて冷ます必要があるのだ。
しかし、今回の実験で核分裂のエネルギーも放射能のエネルギーも、そして熱エネルギー全てを魔障壁で吸収したという事になる。
「ま、マサキ様、これは凄いですね!」
「こんな事が出来るとは!」
アチコチで賞賛の声が聞こえてくる。
その歓声も耳には、入ってこず俺はこの時、日本で起きたあの時の出来事を思い出していた。
これがあれば、あの出来事もすぐに解決できたのにな……。
お読み頂き、ありがとうございます。
ちょっと色々と詰め込み過ぎた感じが否めません。
もっと面白くて分かり易く書ければ良いのですが……。




