49.桜花国記(闘技大会)
お疲れ様です。
今回で黒龍編終わらせると言ったな……あれは、ホントだ!
と、今回は1万文字を超えてしまいました。
ミナが、せっかくモニターを出してくれたのだから、リアレスにいるフォートル達に連絡を入れ里の有力者達と話をつめる事にした。
リアレスや他の街にパートナーケアサポート制度による人員の移動、
龍翼人族の里の概ねの開拓方針と食糧支援など項目は多岐に渡った。
インフラについては、里から南東方向に桜花に籍のある町があるので、そこから俺の造った道を通して送られる事が決定した。
他に富士の麓にある広大な森林地帯は、聖獣の霊山と崇められてきたため周辺には龍翼人族以外の里は無く、利用方法を検討したところ将来的に軍の演習場にしたらどうかと言う意見が出たので近く検討される事となっている。
もし決まれば、日本の様に富士演習場として使用されるようになるだろう。
もっとも、面積を考えると、日本側の富士演習場の何倍にもなるのだが、大きければ実弾訓練もし易いだろうから返って良いかもしれない。
ここで龍翼人族の人々から反対の意見が出ていないのは、夜空がノリノリで推し進めているのにも一因があったりする。
順調に進んでいた話し合いも、この軍演習場の話が終わったあたりで様子が変わった。
それは、トグナと取り巻きの4人が騒ぎ始めたからだ。
その内容は、
「軍とは、人々を守る集団と言っているが、その軍をボルガの様な弱い者が率いるのでは話にならない! もっと相応しい人物にするべきだ!」
と言った感じで、リアレスの開拓を始める前からボルガは、村の荒事担当として頑張っていた。
そして、開拓規模が広がり人員が増えてもボルガの尽力は変わらず、キチンと纏め組織的な集団へと変えていった。
その手腕から、このまま軍が大きくなっても重要な位置にいて欲しいんだけど……どうもそれが気に入らないみたいだ。
「う~ん、それなら、トグナはボルガより強いの?」
「もちろんそう自負している!」
己に負ける要素が皆無であるかのようにトグナは胸を張って答える。
でも、昔の事なんだよね? 俺が出会ってから10年近くになるし、ボルガは日本の剣術、武術など多くの事を学んでいるから、今どれほど強いか分かっているのかな?
「今の段階で言葉を使って強い弱いを決める事は、相応しくないだろう、ここは試合をしてお互いの実力を確かめ合うのはどうだろうかな?」
「試合?」
「ああ、決まり事のある勝負だよ! 自信があれば受けるだろう?」
「もちろんその通りだ。 よし、ならば勝負をしてやる! ボルガ、あの時の様に土を舐めさせてくれる!」
トグナは、少し煽っただけで食い付いて来た。
もっとも俺にとっては、その方がありがたいんだけど。
トグナ自身もこの勝負悪い話ではなかった。
このときトグナは、ボルガの不甲斐無いところを見れば妹も愛想が尽きるだろう。 と打算を踏んだからに相違ない。
「よし、決まった。 ボルガも良いかな?」
「はい、それは何時でも……ただ、申し訳ございません。 私が不甲斐無いばかりにご迷惑をお掛けして」
ボルガが不甲斐無い訳ではないが、ちょうど良い機会だからこれを機に昔の蟠りを払拭して欲しい。
「それは気にしてない。 ただし、2人だけってのは、なんとも味気が無い。 ここは、どうだろう? そちらの4人と、こちらの4人で腕っ節を競っては? どうだいドルフ、アトア、ミナキ」
「おお! おもしれぃ! ボルガ、俺が勝っちまっても文句は言うなよ!」
「私も問題ありません」
「面白そうですね」
今回の護衛役も乗り気のようで、すぐにOKの返事が返ってくる。
「俺らも大丈夫です。 トグナさん」
龍翼人族のグルシ、カトーリオ、シンカの3人も受け手立つ
「よ~し、皆問題ないみたいだね。 じゃあ、ここは誰に当たろうと文句無いと見て、8人の勝ち抜き戦で行なおう!」
「では、ご説明いたします」
俺の言葉に高速の如く反応を見せたミナが、モニターにトーナメント表を映し出し(リアレスの中継は、左側に小さく映っている)説明に入る。
ここで試合のルールなども一緒に決めていく。
内容は、武器(俺が用意する模造品、木刀、槍を模した棒など)使用可、素手でもOK、相手が気絶、もしくは負けを認めた場合、または危険と判断された場合に試合終了する事になった。
「怪我をしても治してやるから、任せるのじゃ!」
アルフィーナがいるから傷や骨折などの多少の怪我程度なら治せるから問題ない。
でも、なぜかアルフィーナは、白衣を身に纏った姿をしている。
女医さんの真似かな?
どうせなら里の者達も観戦してはどうかと思いトダム達に相談すると、格闘技を見る事は、この里の者達にとって娯楽の1つだから断る理由が無いため承諾、里の者全員が観戦する事になった。
里の者達全員収容できる会場が無いので、木々が茂る未開の場所に俺とミナで会場を造り上げる事にした。
実際の里の人々の人数を調べたところ、500人程度なので全員収容できる規模の会場を一気に用意してしまう。
建物は、難しく考えず後々の事も考えて体育館を立てる事に、中は通常は板張りの床だが、今回だけ中央に一段高くリングを作り、周りを観客席にしてそこに大きなテーブルを用意する。
里の者が集まるのにもてなしの1つも無いのは、面白味に欠けるのでメイド達と龍翼人族の奥様方に手伝ってもらい食事を用意してので、これなら観戦中でも軽食を楽しめる様にした。
メニューの方は、オムスビ、ホットドック、サンドイッチなど片手で食べられる物から、焼肉、汁物からマッシュポテトと色々とありビュッフェ方式にしたので、これなら手伝ってくれた奥様方も楽しんもらえる。
里の龍翼人族が会場に少しずつ集まってきたが、つい先ほどまで森だった所に何時の間にか森が無くなり、芝生が敷かれた広場になっているのに驚き。
次にその広場の中央に自分達が見たことも無い大きな建物が建っている事に驚いた。
さらに見た事も味わった事も無い料理に驚きと、その味わいに魅了された里の者達は、老若男女問わず涙を流すほど喜んでいた。
無くなる事は無いから、急がずゆっくり食べる様に注意して、ついでに大人にはビール、子供にはジュースを飲める様にサーバを設置して使い方を説明する。
ほどなく会場には、里の人々が思い思いに座り、時間も頃合になったので試合の開始をミナに指示した。
「あっはは、この食べ物は美味いな! このビールとか言う飲み物も美味い!」
今回のゲストである夜空もまた、皆と同じ物に口を付けている。
と言うか、片っ端から貰ってきたみたいで山盛りのトレイを幾つも抱えて持ってきていた。
「ね、美味しいでしょ! 私も初めて食べた時は驚いたわ」
夜空の隣に座るアオイは、から揚げをつまみにビールを煽り、アルフィーナと真白は食べるのに夢中になっている。
俺の膝の上に座っているチャコもまた、食べるのに忙しいようだ。
今回の試合は、厳選なる抽選の結果、1回戦 A ボルガVSドルフ B ミナキVSカトーリオ C トグナVSグルシ D アトアVSシンカ となった。
2回戦は、AとBの勝者が、CとDの勝者が戦い勝った方が決勝で戦うことになっている。
総当りではないので、この様な結果なる事は仕方が無い。
しかし、初戦でボルガとドルフとはな……順当に行けばボルガだけど、ドルフがどの程度実力を付けているかで勝負が分からなくなるぞ。
『さーーーーて、やって参りました。 里の男達と桜花の軍幹部の闘技大会! 司会進行は、わたくし富士と!』
『敷島でお送りいたします!』
……ナニあれ?
いつの間にか会場上部に取り付けられた大型モニターには、見たことも無い女性2人が司会進行を行なっている。
おそらく、イヤ、確実にこんなことする人物は一人しかいない!
「ミナ、何だいあれは?」
「はい、この度完成予定の軍艦、富士と敷島に搭載するAIです」
今回試作中の軍艦である富士と敷島には、色々と新開発の装備を載せているのは知っている。
エネルギーは、魔導核融合炉、船の頭脳に新開発の量子コンピューター、その頭脳と乗組員の補助としてのソフトウェアにAIが積まれる事はたしかに聞いていた。
でも、そのAIが、どうしてああなったーーーーっ!
「船を母と言いますし、女性を表していましたので女性タイプのAIにしてみました。 乗員予定の者にも好評です。 それに今回は、色々な経験を積ませたく司会をさせてみました」
「あ、ああ、でも、こんな経験必要なの?」
「何事も経験と言いますし、よろしいのでは」
う~ん……本当に必要な経験なのか微妙だが、たしかに司会をする者がいなくては盛り上がりに欠けるかもしれないけど。
「まあ、分かった。 あと、審判は誰がするの?」
「メイド達の中で氷花が務めます」
すると、ちょうど話題に出た氷花が、リングに上り俺達に向かって一礼する。
『それでは、1回戦、第1試合、選手入場!』
富士と敷島が入場の号令を出すと、リングの両端からボルガとドルフが現れる。
ボルガを知る人物が多く、ボルガに向けられる観戦が大きいようだ。
「きゃーーーー、ボルガさまーーーーー!」
うん、一部熱烈な応援も聞こえるけど、このさい無視しよう。
大歓声の中、両者が開始線に並んだ。
見ると2人の手には模擬の槍が握られている。
2人とも槍が得意なのか……そう言えばドルフは、初めて会った時に槍で向かってきたな。
「悪いが全力で行くぜ!」
「うむ、かかって来い」
戦績でドルフは、ボルガに負けているので今回は、ボルガが胸を貸す感じだ。
「お互いに礼、始めっ!」
氷花の開始の合図にお互い得物を構える。
真剣さが増した2人の様子に会場は、静寂に包まれ多くの者が固唾を呑んで2人の動きに目をやっていた。
「ウォリャアァァッ!」
最初に動いたのはドルフ
持ち前の腕力と脚力で出された数度の突きの攻撃!
瞬時に放たれた攻撃は、素人の目ではとても追いきれないほど速かった。
しかし、それほどの攻撃もボルガは見切りいなす。
だが、ドルフは避けられたからと言って止まる事は無かった。
突きの後に切り払いをするや否や、そのままクルッと身体を回し石突でボルガを攻撃するなど、次々と連続で攻撃していく。
ボルガの方もその大きな身体に見合わず、柳の様に攻撃を避け、また、受けていた。
そして、ドルフは、ボルガの頭部に軽い突きのフェイントを入れると、低い姿勢で一気に間合いを詰め腹部に槍を渾身の一撃を放つ!
その素早い攻撃にもボルガは焦る事無く、槍を脇に固定し腰を捻り円を描く動作を取ると、ドルフの一撃も逸らされ力が入った分一瞬バランスを崩す。
ボルガは、その瞬間を見逃さなかった。
流れる様に今度は、ボルガの方から間合いを詰めると、槍をいなした方向に反転させ石突の部分でドルフの腹部をえぐる様に打ち抜いた。
「グハッ!」
その流れるような動きに防御が間に合わなかったドルフは、まともに攻撃をみぞおち辺りに食らってしまった。
連続攻撃で体は無酸素状態になり、さらにミゾの辺りに攻撃を貰ったドルフは、地面に片手と両膝を突いてダウンする。
そして、ボルガは槍の刃の部分(ゴム製)をドルフの首筋に当てた。
「どうだ?」
「ハアハア、くっそ! 負けだ」
ボルガの問いかけにドルフも斯れまでと敗北を認める。
ボルガは槍を引き開始線に戻り、ドルフも一時回復を待ち立ち上がれる様になると、同じく開始線に戻った。
「勝者ボルガ!」
両者が開始線に戻ったのを確認すると、氷花は片手を上げてボルガの勝利を宣言する。
「「「おおーーーーーー!」」」
固唾を呑んで見守ったいた観衆も、その勝利宣言を受けると会場は大歓声に包まれた。
歓声の中、2人はお互いに礼をして退場していく。
『ウィナー ボルガー!』
『勝利しましたボルガ選手の相手は、次の試合の勝者をなります』
「はっはっはっ、中々面白かったぞ! ングングッ」
夜空は、楽しそうに試合を観戦しながら片手になみなみと注がれたビールを一気に煽ている。
『続きまして、第2試合 選手入場!』
次の試合の選手が入場してくる。
試合結果をまとめて説明すると、
第2試合 ミナキVSカトーリオは、ミナキが木で出来た模造の銃剣を使用しての銃剣術、カトーリオはボルガ達と同じ槍を使用していた。
ミナキの方が槍のリーチ差で苦しむかと思われたが、槍の間合いを外す巧みな戦術とリーチ差を生かせない間合いの詰め方で、初めて目にした武器ともありカトーリオは為す術べなく敗れた。
第3試合 トグナVSグルシは、くしくも同族同里、同士の対戦となり、トグナの力強く洗礼された槍捌きの前にグルシは敗れトグナの勝利となる。
実際の試合を見て当時ボルガに勝った事も頷けるほど良い動きを見せていた。
第4試合 アトアVSシンカ アトアは槍ではなく長刀を使い、シンカは他の龍翼人族と同じ槍を使って戦う。
どうやら龍翼人族は、全員槍使いみたいだ。
試合の方は、槍より長刀の方にリーチがある様で、重量と旋回を生かしたアトアの頭部手足への攻撃にシンカは大苦戦し、結果アトアの勝利となった。
2回戦 第1試合は、ボルガVSミナキの試合、2人とも普段手合わせをしているから長引くかと思われたが、ボルガの方がミナキの間合いを一気に詰め、なんと合気道で使われる手の間接決めて試合を決定付けた。
第2試合 トグナVSアトアでは、一進一退の攻防が続き試合時間が長丁場になった。
最後は、両者疲れもあっただろうが、トグナがアトアを力で押し込める形で試合が終了になった。
そして、決勝戦は、期せずしてボルガVSトグナとなる。
すでに試合は開始され両者は互いに槍を構え睨みあっていた。
「どうしたっ! ボルガかかって来い!」
トグナは、前の試合の疲れなど微塵も無いかのように気勢を上げる。
しかし、対するボルガは、動く事無く静かに相手の出方を伺っていた。
過去に幾度も手合わせしたからだろう、お互いに相手が先に動くのを待っているようだ。
そして、時間が止まったかのように動かなかった二人だが、先に動いたのはトグナだった。
「シッ!」
アトア戦では、見た事も無い武器に苦しめられていたが、同じ槍同士、それに相手がボルガ故か、動きにキレが戻っており見事な突きの3連撃を上段、下段、中段と叩き込む。
ボルガの方は、相手の動きを良く見て上段を脇にかわし、下段を払いのけ中段の突きをそのまま槍を回転させて石突の部分で打ち上げると、槍と一緒に前に出たトグナの左腕を掴み背負って投げ飛ばす。
投げられるとは思っていなかったが、トグナの方も見事に反応して床に落ちる寸前で受身を取り、すぐに立ち上がろうとするが、今度はボルガの連続の追撃に待っていた。
全て受けきったトグナが今度は攻撃し、ボルガが返すという感じで一進一退の攻防が続いた。
そんな一進一退の攻防もさすがにいつまでも続けることは出来ない。
お互いの間合いが縮まった時に両者は、槍の両手で持ち相手の槍とクロスさせて力で相手を押し退けようと力を入れる。
槍を押す事に力が増し、近くに迫った相手の顔をお互いに睨み付けていると、今度はまるで呼吸を合わせたかのように両方後方に飛んで間合いを取った。
「ハア、ハア……少しは、ハアハア、出来る様になったようだな、ハアハア」
「フーッ、フーッ、ああ、日々鍛練しているからな」
前の試合で消耗が激しかったのだろうトグナの方が、息が荒く肩で息をしていた。
一方のボルガは、すぐに呼吸を整え間合いの調整に入る。
「ハアハア、チッ」
このままでは自分の方が、スタミナが切れるのが速い事を認識したトグナは、腰を落として中段に槍を構える。
どうやらボルガに最後の力を振り絞って渾身の一撃をお見舞いするようだ。
それが分かったボルガも受けて立つ! とばかりに同じく中段に構える。
最初の立会いと同じ様に両者ピクリとも動かず攻撃のタイミングを伺っている様だ。
そして、その時が来る!
「カァッ!」
先に動いたのは、トグナだった。
トグナは中段に構えた槍先をそのままボルガの胴に目掛け突きを放つ。
しかし、その胴突きの槍が、途中でグニャリッと揺らいだ!
龍翼人族の体系に合わせた槍は、日本の戦国時代に使われた槍より数倍は太い。
いくら勢い良く左右に振ってもそう簡単に曲がる物ではないのに、それがまるでゴムの様に曲がったのだ。
曲がった槍は、ボルガの胴ではなく本来の標的に向かって軌道を変える。
その標的は、ボルガの喉下!
トグナの槍は、下から上に向かって今度は、ボルガの喉に向かって一気に突き進んだ。
……両者動かない。
見ている観客も歓声を上げずに静寂に包まれる。
そして、見えたのは、ボルガの喉を貫くトグナの槍! 槍は深々と刺さり後ろに抜けていた。
「……参った。 俺の負けだ」
負けを宣言したのは……トグナだった。
見ると、短く持たれたボルガの槍先がトグナの喉に突き立てられている。
一方のトグナの槍は、ボルガの喉を貫いている様に見えたが、ギリギリでかわされ首の右側にピタリと当てられていたのだった。
「それまで! 勝者ボルガ!」
「「「ワアーーーーーーーッ!!!」」」
ボルガの勝利が告げられると、会場は耳が割れんばかりの大歓声に包まれた。
「チッ、強くなったなボルガ、しかし、今度戦う時は、こうは行かないぜ!」
「ああ、いつでも相手になろう!」
お祭り状態の観客を他所に2人は声を掛け合っている。
ボルガの勝利か~、あっ! 優勝したんだから賞品でも送らなきゃな、もちろん準優勝にも。
「ボルガ様ーーーーーーっ!」
俺が無限収納に入っている物の中から良いものを見繕っていると、リングに駆け上がりボルガの胸に飛び込む1つの影があった。
まあ、誰だか分かるけどね。
「おめでとうございます。 ボルガ様!」
「トーラ嬢ちゃん」
ボルガの腕の中に飛び込んだのは、そうトーラその人だった。
「トーラ何やってるんだ!」
「兄さん。 ボルガ様が勝ったんですから認めるんですよね! ボルガ様を!」
トーラは、ズイとトグナの前に出る。
腰に手をあてて、まるで自分が勝ったかの如く胸を張って。
「たしかに負けたんだ、おれは認めよう。 だが、それとお前と何の関係が有るんだ?!」
「大有りです! 認めたという事は、ボルガ様は兄さんより強い存在! 昔の約束は帳消しになり、これでボルガ様は晴れて里に戻る事が出来ますね!」
「何でそうなる!」
先ほどまで試合が行なわれていたリングで、今度は兄妹の良い争いが始まった。
おそらくトーラの頭では、勝負に負けたボルガは里を出て行く、勝負に勝ったボルガは里に戻るになっているのだろう。
恋は盲目と言うが、どうもトーラには自分の都合の良い情報しか入ってこないようだ。
「どうして兄さんは、そうなんですかっ!」
「お前こそ何なんだいったい!」
観客の方からだんだんと歓声が静まっていくのに対し、兄妹の言い争いはより一層ヒートアップしていく。
ボルガは何故このようになっているのか理解できずに眼を丸くし、観客席にいた2人の父親のトダムは頭を抱えていた。
「お、おい、2人とも!」
ようやく我に返ったボルガが、2人の間に入るべく近寄ろうとした、その瞬間だった!
「もう、兄さんのバカーーーーーーーーーッ!!!」
「ガッ!」
トーラは大きく叫ぶと、左足を前に出し右足で地面を踏みしめ身体を捻り、それは見事な右ストレートが放たれた!
放たれたコブシは、トグナに当たる事無く空を切る。
そして、トーラは両手で顔を覆い、そのまま会場の外に走って出て行ってしまった。
そんな様子をただ呆然と見ていたボルガも、慌ててトグナに駆け寄る。
「おい、トグナ! トーラ嬢ちゃん行ってしまったぞ!」
――ズッ、ズゥン!
呆然としているトグナの肩に手を置くと、まるで糸の切れた人形の如くトグナはその場に崩れ落ちる。
ありゃ、アゴを掠めて脳が揺らされたな……。
いくら見事な右ストレートでも、体重差や骨格、筋力を考えると、トダムにまともに当たっても痛みもほとんど無かっただろう。
しかし、アゴを掠めてたコブシは、首を支点に脳が揺らされトグナの意識が刈り取られた訳だ。
やれやれ、最後まで騒がしい2人だな……。
騒然となる会場の中、俺はミナに声をかけメイド達に救護を要請する。
これだけの喧騒の中、なぜか会場にはBGMとして、有名な伝説の王者を讃える曲が流れている。
歌っているのは、富士を敷島
うん、空気を読めるように経験を積ませないとな。
だいたい伝説の王者ってだれだよ!
2人のAIの課題を考えつつ、これにて討議大会はお開きとなった。
すでに良い時間でこのまま留まっていると、ここで1夜を明かさなければならないので、今回はこれにて龍翼人族の里をお暇することにした。
「じゃあ、俺たちはこれで」
「はっ、なんともアレ達が色々とご迷惑をお掛けして」
トダムは、終始こんな感じで自分の子供達の所業を詫びて頭を下げている。
あとの事は、他人の俺たちよりも父親であるトダムに任せた方が良いだろう。
「おう! 行こう行こう! マサキの国とやらに!」
夜空は、先ほどの騒ぎが気に入ったようでバスの中でも妙にテンションが高い。
「ええと、夜空とリアレス向かうけど、まあ、飽きたら戻ると思うから」
「黒龍姫様を、どうぞよろしくお願いします」
トダムだけでなくその場にいた龍翼人族が全員頭を下げる。
「ああ、分かってる。 この後にも何度か話し合いがあるだろうから、そのつもりで居てくれ」
「はい」
夜空の事は心配ないと片手を挙げて応えると、バスは出発する。
残る里の者達は、そんなバスの様子を最後まで見送っていた。
日も暮れた8時頃にようやく王宮に到着した。
「すまない遅くなった」
「いえ、通信でお帰りになる時間を知らされていたので問題ありません」
フォートル達、朝に見送りを下者達全員が迎えまでしてくれた。
「この人が、黒龍の夜空、リアレスの様子を見たいらしく連れて来た」
「おう、夜空だ! よろしくな小さき者達!」
「「「ははっ!」」」
夜空の随分な挨拶にも、フォートル達は気にした様子も無く頭を下げる。
先に聖獣だと言ってあるので、その辺が影響しているのだ思う。
「今日はこれで家に帰るよ。 夜空の部屋は、ボルガが案内して」
「はい、承知しました」
龍翼人族の里では、めずらしく慌てた様子を見せたボルガだが、トグナとトーラの問題はトダムに任せる事を告げると、すぐに頭を切替えていつものボルガに戻ってくれた。
「なんだ? 何の事だ?」
そのボルガに指示を出すと、夜空が近づいてきた。
「ああ、王宮に部屋を用意したから、ボルガに案内を頼んだんだよ」
「ん? マサキ達は、どこへ行くんだ?」
「家に帰るんだけど」
「ここじゃないのか?」
「ああ、少し離れた場所で寝てるんだ」
そんな夜空とやり取りをしていると、最初は不思議そうに聞いていた夜空の顔は、なぜか難しい表情になっていく。
「ん~、そこに白いのも寝てるんだよな?」
「そうだよ」
「なら、私もそこで寝るぞ!」
「はっ?」
部屋は余っているけど、夜空も来るの?
「だから、お前達が寝てるところに私も行くと言ったのだ。 私の事を知っている者達だ、鬱陶しくなさそうだ!」
「良く知るって……」
「もっとも、良く知られたくない者もいるみたいだがな」
「?」
夜空は真白に目を向けるが、真白は何か言われたくない様な表情でそっぽを向いている。
「ふん! まあいい、ほら行くぞ!」
もう夜空の中では、変更不可の決定事項らしいくバスに乗り込んでいく
「やれやれ、すまないが、向こうの家に部屋を用意するよ」
「承知しました。 お気を付けてお帰り下さい」
フォートルやボルガと別れ、王宮を後にし、いつもの我が家に向ってバスが走り出す。
「ミナ、夜空の部屋を用意してくる?」
「畏まりました」
ほどなくして我が家に到着すると、ミナに夜空の部屋を用意するように指示を出すと直ちに部屋の用意に取り掛かる。
俺の方は、王宮でフォートルに渡された書類に目を通さないといけないので、その間に女性陣にはお風呂に入ってもらう。
書類にいくつかチェックを入れて片付けた頃には、女性陣の入浴が終了したので俺もゆっくりとお風呂に入る。
「ふい~~~~、今日は大変だったな~……ぶっ!」
手足を伸ばしてお湯に浸かっていたら、いつの間にか眠っていて顔まで入ってたみたいだ。
「いかんいかん、これは、さっさと寝るべきだな」
今日は色々とあったせいで安心したところに睡魔が一気に押し寄せてきた。
ボーッとする頭を振り、眠気を少しだけ取ると風呂から上がって自分の寝所に戻る事にした。
「ふぁっあぁ」
欠伸をかみ殺し、ようやく自分の部屋の前まで到着すると、いつもの様に扉を開けて中に入る。
真白やチャコがいるはずの部屋は、明かりも灯っておらず月明かりだけが部屋を照らしているだけだ。
どこかに行っているのかな? まあいいや、いつも通りに先に寝てれば入ってくるだろう。
気にせずに部屋の中に入る。
しかし、その夜はいつもと違っていた。
窓の手前に誰か立っている。
しかも、月明かりに逆光になる形で黒く影だけが見える。
アル? いや、ミ……あのボリュームは違うな、いったい誰だろう?
そこに映るシルエットは、他の誰とも違っていた。
なぜなら、その影の頭部には、獣人族と同じピンッと立った耳があったからだ。
「誰かな?」
俺の声にビクッと反応した影は、ゆっくりと俺の方に向きを変える。
眼の方もようやく暗闇に慣れてきたらしくボンヤリとだが、その影の人物の 全体像が露になってきた。
「あ……あの、主様」
初めて聞く声……じゃないな。
「主様?」
影の主は、俺が呼びかけに反応しないので小首を傾げ心配している。
その獣人族の女性は、髪から頭部の耳まで全体が真っ白の美しい獣人族の女性だった。
誰だろう? こんなに綺麗で真っ白な……ん? まっしろ!?
「大丈夫ですか? 主様」
「……も、もしかして真白?」
「はい、主様」
そこに立っていたのは、先ほどまで一緒にいた四足歩行の真白ではなく獣人型の真白だった。
「どうしたの!? それは人化の魔法なの?」
「はい、人化の魔法です。 申し訳ございません」
目の前の真白は、なぜか謝ってきた。
「別に誤ることは無いよ! でも、どうして?」
「はい、あの黒いのも言っていた通り、主様に人化の魔法が使える事を黙っていたので……」
黒いのって夜空の事だよな、言っていた事って……あぁ、さっき言っていた、良く知られたくない者もいるみたいだ。か
「主様には、獣姿が見慣れていたので、この様な姿になるのは、その……怖かったんです」
伏せ目がちで応える真白
しかも、耳がペタンと伏せてまるで怒られている時の様だ。
「う~ん、別に真白が、どんな姿でも真白は真白だからな~、気にした事も無いよ」
どんな姿でも真白は真白だ、それが獣でも獣人族の姿でも……。
「本当ですか! 主様」
嬉しそうにして俺の傍まで来る真白、その表情は先ほどの沈んだ表情とは打って変わってパッと花が咲いた様に明るい。
「ああ、真白は真白だよ」
「では、ここに置いて頂けますか?」
「あたり前だよ、それが怖かったのかい?」
「はい、主様に嫌われるのが、怖かったんです」
この世界でずっと一緒にいる仲間を嫌いになるはずない。
でも、もしかしたら、俺の行動のどこかで不安にさせた事があるのかもしれないな。
「嫌いになる事は無いよ」
「そう……ですか、良かった」
俺の言葉を眼を閉じて噛み締めている様だ。
「ふぁっとゴメン、もう眠くてさ」
「いいえ、そうですね今日は色々とありましたから寝ましょう」
「そうなんだよね、じゃあ寝るからオヤスミ」
「はい、おやすみなさいませ」
真白におやすみを言って布団に潜り込む。
は~つかれった………………って! おいっ!
「何で真白まで一緒に寝るの!」
「はい? この部屋が私の部屋ですが」
そうだった、ずっと獣の形だったから部屋を用意してなかった。
「ミナに部屋を用意させます」
「そんな~、あるじさま~」
涙目の真白を置いて、ミナに連絡をいれ部屋を用意する。
素っ裸の獣人族の女性姿の真白と一緒には寝れません!
お読み頂き、ありがとうございます。
今回は、色々と詰め込み過ぎた感があります。
真白と夜空の関係は、
夜空→<遊ぼうぜ!>→真白
夜空←<ウザイ>←真白
とこんな感じです。
作中で表現するのが難しいですが、頑張ります!
次回のお話は、おや? チャコの様子が……。




