47.桜花国記(黒龍姫)
お疲れ様です。
ようやく登場です。
ドグナに聞くところ、どうやら黒龍姫は山の中腹にある洞窟で寝てるらしい。
洞窟は、周囲の斜面より少し窪んだ位置にあるため、見上げても見えなく上空から見ても事前に分かっていなければ発見は困難な位置にある様だ。
龍翼人族の里から黒龍姫の寝てる洞窟までだいぶ距離があり歩きだと2日ほどかかるらしいので、トダムから許可を貰い洞窟近くまで俺と真白で先行して道を作り、他の者は後からバスで来る事にして時間の短縮を図る。
まずは、なだらかな斜面では真っ直ぐ道路を作り、急勾配になってきたらつづら折にジグザグに道を造り、角度の調整は後からバスに乗ってくるミナに任せ、俺と真白はどんどん先に進んで行った。
ミナの目測だと、この黒龍山の高さは5110メートルあるそうだ。
日本の富士山が、3776メートルだから富士山より1000メートル以上高い事になる。
富士山の高さの覚え方が、富士山の様に皆なろう(3776)だから、ここ黒龍山だと、そうだな……ファイト(5110)いっぱ……イヤイヤ、ファイト山越え黒龍山になるのかな?
さすがにポケベル世代以外は、この数字の読み方をすることは無いな。
そんな、くだらない事を考えつつ作業を黙々とこなして行くと、いつの間にかトダムに教えて貰った窪地に着いていた。
たしかに窪地になっていて奥に大きな洞窟が、暗い口を開けているのがすぐに分かった。
だからと言って、洞窟の中に真白と2人で入るわけには行かないので皆が来るまでしばらく待っていると、およそ10分ほどでバスが到着した。
バスの出入り口が開くと、ゾロゾロと全員が降りてきたのだが、2人ほど地面に倒れて荒い息遣いをしている。
その2人とは、トダムとトグナだ。
トダムは、族長として黒龍姫との対面に立ち会いたいとの事で、こちらも無理言って許可を貰った事から快く同行を許可した。
トグナの方は、妹のトーラがなぜか同行を希望したので、バスの乗車人数的に問題無さそうだったので許可すると、もれなくトグナまでくっ付いてきた。
妹思い出同行してきたのだろうけど、まあ、揉め事さえ起こさなければ良いのでこちらも許可を出した。
2人の聖獣が間の前にいる上での、黒龍姫との対面だ下手な事はしないだろう。
こんな感じで龍翼人族の里から3人追加してバスで登って来たのだが、そのトダムとトグナが現在青い顔をして冷や汗を書いている。
トダムとトグナの傍で2人を介抱している舞花と氷花がいたので話を聞いてみるか。
「どうかしたの?」
「はい、どうも動く乗り物に驚き眼を回し、マサキ様の道作りに混乱した様子です」
なるほどね、つまり、家より大きな金属の箱が、馬で引かずに動いたので驚いたんだろうな。
それと俺の方は、人族の男が真白(聖獣)に跨り、あっと言う間に道を作り上げている様子に驚愕したんだろう。
「そうか~、少し休憩を挟むから、2人に冷たい物でも飲ませてあげて」
「「畏まりました」」
そう舞花と氷花に言うと、洞窟の前に集まるアルフィーナ達のところに向かった。
「2人の体調が、戻るまで少し休憩しよう!」
「まったく大変じゃったぞ、叫ぶわ、取り乱すわで、舞花達が抑えていなければバスの中がメチャクチャになっておったわ」
アルフィーナは洞窟を前にしながら、地面に臥せっている2人に目を向けヤレヤレといった感じである。
「申し訳ありません、まったくあの2人、貧弱過ぎます! ねっ、ボルガ様」
「う、うむ、私も同じ目にあっているから、何とも……」
「まあ、見たことも無いものに驚くのは、皆同じだから仕方が無いよ」
少しだけ哀れんだ様子のボルガにフォローを入れる。
しかし、トーラは大したものだ、その様子に微塵も驚いた様子も無い。
顔だけは、今もボルガを見ているようだけど……。
いくら朴念仁とか、枯れ木とか会社で言われた事のある俺でも、このトーラの様子を見れば気付く。
まあ、あとは若い2人に任せて、年寄りは向こうに行ってよう。
人の恋路を邪魔するわけには行かないので、ミナが全員に配っていたソーダ瓶を俺も受け取る。
今回の里から同行した3人には、レモン水を渡している。
刺激の強い物を今まで飲んだ事の無い人に飲ませる訳にはいかないからね。
ソーダの口を開けてグイッと口に流し込む。
するとポコポコと泡立つ炭酸に口が刺激され、スッキリとした甘味が口に広がり喉が潤う。
うん、山で飲むソーダも格別だな!
10分後、
「もう、大丈夫かい?」
「はい、お騒がせして申し訳ない」
トダムは、先ほどまでの自分に恥じ詫びてくる。
その顔の様子は、まだ少しだけ調子が悪そうだが、幾分元気を取り戻した様子なのでこれなら行けそうだ。
トグナも同様の状態だが、ボルガの隣に行こうとするトーラを止めるのに忙しいようだった。
「よし、行こう!」
出発の号令を出すと、皆洞窟に向かって歩き出す。
今回は、俺が先頭で真白、アオイ、その後からアルフィーナやトダム達といった順番だ。
挨拶をする人間が先頭にいた方が良いだろうと思いこの順番なのだが、すぐ後ろに真白やアオイもいるのだからイキナリ襲われる事も無いだろう。
洞窟の中は、光も無い真っ暗闇だったので魔法で洞窟の天井近くに明かりを灯す。
周囲はゴツゴツとした岩肌が見えるが、地面は平に均されていてとても歩きやすい。
そして、列になり奥へ奥へと進んでいくと、
――グゥゥゥゥルオォオオーーーーーーンッ!
里で聞いた音が、近くで発せられて洞窟内に響き渡る。
ここは洞窟、大きな音は反響し増幅され、もし普通に耳で聞いていたのなら鼓膜が破れかねない音量だ。 そう、もし耳で聞いてたら、ね。
微細な大気の揺れを感じ取ったミナが、空気の粒子が振動するのを遅くする膜を魔法で展開したので、そこまでの轟音にならずにすんだ。
――ズゥン……ズゥン……
続いて地面が定期的に大きく揺れ、何者かが奥からこちらに近づいて来るのが分かった。
誰だかは、すぐに察しが付く。
その定期的な揺れと音は、どんどん大きくなりすぐ目の前まで迫ってきた。
しかし、もう目の前にいるはずなのに、姿が一向に見えない。
頭上の光は洞窟全体を照らしているのに、目の前の暗闇に何者かが現れる様子が無い。
不思議に思いしばらく様子を伺っていると、
「がっははははははは、白いの久しいな! なんだ戦いに来たのか!」
目の前の闇から声が響き渡る。
いや、目線より頭上、天井近くから声が聞こえる。
視線を上に移動さえると、そこには真っ暗闇に星の如く金色に光り輝く2つの何か大きな物が浮かんでいる!
いや、そうではない!
それは、金色の目玉、そして暗闇に見えたのは、光が吸い込まれる様な漆黒の鱗が身体全体を覆った、それは大きなドラゴンがこちらを見下ろしていたのである。
四足で這っているのに、大きな洞窟全体に身体のシルエットが重なり、まるで暗闇が広がっているが如く錯覚させていたのだ。
「ん? その後ろにいるのは、蒼いのか? なぜ人族の格好をしているんだ?」
「お久しぶりね、黒いの、この格好は、まあ、成り行きね。 それよりも、私達の前にいるマサキ殿が、あなたに会いに来たのよ」
「んん? マサキ? この小さな人族がかぁ? ふんっ、どうせ小さき者達の頼み事だろ、そんなものどうでも良い。 それより白いの、いや蒼いのでも良いぞ、久しぶりに全力で戦おう! 暇で仕方が無かったんだ」
大きな黒龍は、俺の存在はどうでも良い様で鼻で笑って相手にしない様子だ。
「グルルルルルッ!」
真白は、その黒龍の様子に立腹したようで今まで見たことも無いほど、牙を見せ威嚇し出した。
「おっ! ヤル気になったか! いいぞ、かかって来い!」
黒龍はノリノリになって眼を爛々《らんらん》と輝かせる。
う~ん、これはいかんな。
「真白、ありがとう。 でも、今日は争いに来た訳ではないよ」
「キューン」
真白の頭に手を置くと、真白は威嚇の姿勢を解き耳と尻尾が落ち込んだ様になった。
別に叱った訳じゃないんだよ? と、そのまま真白の頭を撫でる。
「真白? なんだ白いの、その人族に名前を付けられているのか?」
叱られたわけじゃない事を理解した真白は、こちらを向いたまま耳をピンと立たせ尻尾を勢いよく振り目の前の黒龍など、眼中に無いようだ。
いや、この黒龍の話も聞こうよ……。
「あら、真白だけじゃなく私にも富貴アオイと言う名前を付けてくれたのよ」
「なんだと? この小さな人族が?」
俺に興味を抱いた黒龍は、首を下げて俺を見据える。
もし、ここまで色々と経験をしていない、異世界に来たばかりの俺なら度肝を抜かれていただろう。
……まあでも、こんな大きい龍と1対1で対面していたら、正直持たなかったな。
「初めまして、私は東の人々を束ねて国を作った、素鵞真幸と言います。 今日は、黒龍姫様にご挨拶に来ました」
一礼し丁寧に黒龍に挨拶をする。
「ふむ、お主の気……いや、魔力か、随分と心地良いな」
黒龍は、俺の事を値踏みする様にジッと見つめる。
なんだろう? 以前にも似たような事をアオイから言われたような……。
俺の魔力漏れているのか? それが心地良い? なんだそりゃ?
「えっと、本日来たのは、我が国の」
「ふむ、お前が、白いのと蒼いのに名前を付けたのか」
人の話を聞かずに黒龍は、なにやらブツブツと考え始めた。
「あのですね、国の開拓地がこの山の近くまで」
「よし! お前、私に名前を付けろ!」
って、人の話、聞いてねぇーーーー!
「って、え? 名前?」
「そうだ、2人に名前を付けたんだ、私にも名前を付けてみろ」
鼻息荒く俺に名前を付けるように要求する黒龍に理解が追いつかない。
「いやでも、黒龍姫って名前が」
「それは、小さき者達が勝手に呼んでいるもの、私の名前ではない!」
先ほどまでの俺の存在の様に、黒龍姫と言う名前なんてのは、どうでも良いと言った態度だ。
後ろでは、そんな黒龍の姿に唖然とした様子の龍翼人族達
そうだよねー、黒龍姫って崇めてた存在が、それ私の名前じゃないから! って拒否ってるんだから何が起きているか分からないよね。
「……本気ですか?」
「そうだ! 早く決めろ、ホラどうした!」
一番苦手な項目キターッ!
そんな俺の思いなどお構い無しに、黒龍はせっつく。
う~ん、またか~、名前、なまえ、う~~~。
頭をフル回転させ悩みながら、黒龍の顔から身体まで全体に目を向ける。
そこには、大きくて吸い込まれそうなくらいに真っ黒な身体と、黒さとは正反対の金色に輝く眼が目の前に広がっている。
そのれは、月の出ていない夜空に瞬く大きな星の様だ。
「よぞら」
「ん?」
「夜空と言うのは、どうですか?」
ふと思いついた安直な名前だけど、なぜか目の前にいる黒龍に合っている様な気がする。
「ふむ、夜空か……たしかに満天の星空が出てる夜、空に飛ぶのは気持ちが良いからな、よし! これから私の事は、夜空と呼ぶが良い!」
黒龍は、夜空の名前が気に入ったようでデデーンッと発表する。
「そ、そんな、黒龍姫様!」
これに焦ったのは、今まで呆然としていたトダムだ。
慌てて止めに入る。
「小さき者よ、聞いていなかったのか? 私は夜空だ」
「いや、しかし……」
さすがに信仰対象自ら名前を決めたのだから、トダムもこれを覆す材料が無く言葉が続かない。
「う~む、これでは大きさが違うので、少し話し辛いな……蒼いの……いや、アオイだったか、お前のその格好は人化の魔法だな」
「そうよ~、この方が、マサキ殿の国では、色々と都合がいいのよ~」
アオイさん、何で胸を突き上げるんですか? 誰に主張してるんでしょうか?
ミナにモガレマスヨ。
「ヒッ!」
アオイは突然の寒気に襲われ両手で胸を覆い隠す。
「たしかにな、よし、私も魔法を使おう!」
何かに納得した黒龍が1つ頷いたと思うと、突然目の前の黒龍が目を瞑るほど明るく輝きだした。
突然の光に全員目を細め、その成り行きを見守っていると、光がゆっくりと弱まり収束して行った。
「どうだ、人族と同じ大きさになったぞ!」
先ほどと同じ黒龍の声が、俺の正面で聞こえる。
どうやら黒龍は、人化の魔法を使ったようだ。
ようやく目が慣れ、目の前の夜空に焦点を合わせる事ができた。
………………メロンだ!
そこには、形の良いたわわに実ったメロンが、俺の目の前に2つあった。
いやそれは、大きなメロンが生っていた。
そう、アオイの時同じく、人化の魔法を使った黒龍は、真っ裸の女性となって目の前に立っていたのだ。
羞恥心の欠片も無く、まる見えの状態で。
「これで、お前達も話し易かろう!」
「……ミナ!」
「お任せを」
俺の言葉に反応したミナは、常人の眼では追いきれないほどの速さで素早く無限収納から布地などを取り出すと、寸部狂わぬ目測で採寸し魔法で生地を加工し下着や衣服を作っていく。
下着や服は、出来たその場からメイド達が、協力して着せていく。
そして、出来上がったのは、下はジーンズ、上には控え目に柄をあしらった白いシャツに灰色と灰色のパーカ
黒い長い髪は、ポニーテールに纏められたその姿は、褐色の相まって良い感じに纏められていた。
瞬く間に下着や服を着せられた夜空は、そのあまりの手際のよさに呆然としている。
「ふむ、これが人が着る物か……少し窮屈だが、まあいい。 それじゃあ、行くぞ」
「は?」
夜空は、着ている物を見ながら身体を動かして着心地を確かめると、洞窟の出口に向かって歩き出した。
「え、えっと、どちらへ?」
「ん? お前の国に決まっているだろうが」
黒龍は、当然とばかりに腰に手をあて胸を張る。
「えっ! 来るんですか?」
「そうだ、白も青もいるんだ、私が行っても大丈夫だろう? ここは、退屈だ! お前の国に行けば、面白い物が見れそうだ」
「まあ、大丈夫ですが」
人が増えるのは喜ばしいが、いいのだろうか?
「よし、決まったな! じゃあ、行くぞ!」
その場にいる全員が呆然とする中、夜空は1人洞窟の出口に向かって歩き出す。
「いいんでしょうか?」
「いいんじゃなぁい、あんなに喜んでいるみたいだし」
アオイは、腕をブンブン振りながら出口に向かう、そんね夜空の様子に喜んでいるみたいだ。
「……まあ、いいか、皆とりあえず里に戻ろうか」
夜空や龍翼人族の今後は、里に戻って皆で話し合おう。
今後の事とか、色々とあるだろうし。
先頭を意気揚々と歩く、黒龍の夜空の背中を見ながらトグナや他の龍翼人族達の思いを考える。
これからいったい、どうなって行くんだろうか?
お読み頂き、ありがとうございます。
次回は、日本と重なる内容が多いですね。




