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46.桜花国記(龍翼人族の里)

お疲れ様です。

里の中にお話です。


 道を進んでいくと、ようやく人家らしき建物が点在する場所に出てた。

 注意深く家や畑、人々の様子を観察していくと、やはりここも俺がリアレスに初めて訪れた時と同じく、人家も畑も小さく人々の着ている物は粗末な物ばかりだった。


 「ここも食べ物に困ってそうだね」

 「はい、私がいた当時から貧しい暮らしぶりは、変わっていませんね」


 ボルガの言葉の貧しいがどの程度なのか分からないが、リアレスと同じ様なら出来る限り手を尽くしたいな。

 もっともここの人々のが、それを許可してくれたならだけど……まあ、無理強むりじいは、駄目だな。

 桜花の村々と同じく、そこに住む人達の協力が必要なのだから。


 頭では分かっていても、早くここの生活を改善したい思いに少し焦れったくなる。


 歩を進め村の奥に入って行くと、人家の密度が濃くなっていく。

 この先が、おそらく村の中心部なのだろう。


 家や木々で先は見えてはいないが、なにやら道の向こうが騒がしくなってきた。


 「この先は広場になっているので、おそらく里者もが集まっているのでしょう」


 先頭を歩くボルガが、俺が質問する前にそんな村の様子を説明してくれた。

 ボルガを含め俺達の事を気になる者が多いようだ。


 通りを出ると、たしかにボルガの言う通りそこは広場になっており、多くの龍翼人族であふれかえっていた。


 「おおっ! 本当にボルガだ! いや~久しぶりだな!」

 「本当に~、よく帰ってきたね~」

 「あのヒトだれ~?」


 広い場所の中央で俺たちを囲む様に、大人から子供まで多くの龍翼人族の人々が集まり、先頭のボルガに思い思いの言葉を掛けて喜んでいた。

 中には、肩を叩いたりボルガの着ている服に興味を抱き質問したりと、フレンドリーに会話をしていた。


 よかった。 村の人々は、ボルガの帰郷をこころよく受け入れているみたいだ。


 「ボルガー、お前は、なんで帰ってきたーーーーっ!」


 そんな和気あいあいとした雰囲気の中、広場から一段高くなった場所から大きな声で叫ぶものが現れた。


 「トグナか……久しぶりだな」


 ボルガは、その人影に目を向けると、その人物の名前を口にした。

 トグナと言われたその人物は、ボルガと同じ龍翼人族の男性だが、身体はボルガより一回り大きく、ここに集まる人々の中で一番大きいドルフに匹敵ひってきする程の大きさだろう。


 「なぜ帰ってきたのかと言っているんだっ!」


 随分と怒り心頭の様子でボルガを睨み付け言葉をぶつける。

 騒然としていた広場もその怒号で一気に静まり返り、まるで十戒の様にボルガとトグナの直線状から人波が引いて行く。


 「ふむ、私はあくまで案内役としてココにいるのだ。 別に戻ってきたわけではない」

 「あの時の約束、まさか忘れた訳ではあるまい!」

 「ああ、覚えている。 先ほども言った様に私は案内役だ」

 「そんなことが、通用するかっ! 1度出て行けば2度と戻って来る事はかなわん!」


 憤怒するトグナに冷静に対応するボルガ

 トグナは、ボルガのその冷静さが気に食わない様子で更に頭に血が上りヒートアップしている様子だ。


 「久しぶりですねボルガさん、だけど約束通り出て行ったんだ。 戻ってくるのは、おかしくないですか?」

 「そうだな、でも、ボルガさんは、案内役?って言っているぜ」

 「なんだ? あのボルガさんが、誰の案内役なんだ? まさか、後ろの人族じゃないよな?」


 トグナの後ろから出て来た3人の龍翼人族の男は、トグナの言っている事に賛同する言っている。

 しかし、トグナの様に敵意剥き出しの様子も無いが、その言葉はどちらとも取れない言い方をしていた。


 「グルシ、カトーリオにシンカか、お前達も元気そうで何よりだ」


 ボルガの方も、そんな3人に特に気にした様子も無く言葉を掛ける。


 おそらく入口で言っていた4人とは、トグナを含めたこの男達の事だろうけど、ボルガはトグナ以外には気にした様子が見られない。

 つまり、トグナと何かあったのだな……。


 何があったのか知らないが、このままでは話が前に進まない。

 どうするべきか思案を練っていると、遠くの方から何やら声らしきものが聞こえる。


 「ボルガさーまーーーーっ、ボ~ル~ガ~さ~ま~!」


 聞くとどうやらボルガの名前を呼んでいるようだ。


 声のする方に目を向けると、龍翼人族の若い女性が必死に手を振りながらこちらに向かってるのが見える。

 同じ様にその声に気付いたトグナとボルガも、合わせる様に声のする方向に顔を向けた。


 「トっ、トーラ!」

 「ほう、トーラ嬢ちゃんなのか」


 2人は、こちらに向かってくる女性に心当たりがある様で、トーラという名前を口にした。

 見るとボルガは久しく会っていない友人の様に懐かしい様子だが、トグナは驚きと焦りがある様子をしている。


 「ハアッ、ハアッ、ハアッ……ボ、ボルガ様お久しぶりです!」

 「トーラ嬢ちゃんか、久しぶりだな」


 急いで走ってきたのだろう、息を切らせながら挨拶するトーラ

 そして、それに答えるボルガ、なぜかトーラはボルガの両手を握り締めている。


 2人並ぶとボルガも大きいが、トーラも身長は高いほうだろう。

 トーラ嬢が、少し見上げているのを見ると、180センチ近くあるだろう。

 顔立ちの方もとても整っていて、若干の幼さを見えて取れるが、そこも魅力の1つなのだろう、全体的にとてもチャーミングである。


 恋人だったのかな? しかし、ボルガからそんな事1つも聞いた事は無い。


 「あらボルガ様、私は、もう嬢ちゃんなんて言われる歳では無いですよ」

 「うむ、成長したな、元気そうで何よりだ」


 ボルガはいつも通りにしているが、トーラの方は若干頬に熱を帯びているようだ。


 「トーラッ! そいつから離れろ。 そいつは村から出て行った奴なのだからな!」


 耳をつんざく様な声で、トグナはボルガから離れるように叫ぶ。

 しかし、当のトーラは、そんなトグナ声など耳に入らないようで見向きもしていない。


 「俺の言う事が聞けないのかっ! いいから離れろと言っているんだ!」


 業を煮やしたトグナは、2人の下まで来ると強引に引き離そうとトーラの肩を掴む。


 「いい加減にしてよ! 兄さん」


 トーラ嬢は肩に掛かった手を振り払うと、トグナに向き直り睨み付ける。


 兄さんと言うことは、このトグナとトーラは兄妹なのか?


 「だいたい兄さん達が、強引に追い出したんじゃない!」

 「違う! 正当な勝負を行なって、俺が勝った事による約束事だ!」

 「それじゃあ問題ないじゃない! だって、その約束はボルガ様が里から出て行くことなんだから」

 「そうだ、だからここにボルガがいる事は、約束を反故にしていると言えるだろう」

 「そんな事無いわ、だってボルガ様は、里を出て行ったじゃない! 一生里に戻らない約束が入っていないわ!」


 俺は、まだ状況を飲み込めていないが、2人の争いは一層ヒートアップしていく。


 勝負? 約束? なんじゃそりゃ?


 話が見えないので、2人の争いを何も言わずに眺めているボルガに聞いてみる。


 「何があったの?」

 「はあ、私にもよく分からないのですが、私が里を出て行く事になったのは、トグナとの勝負に敗れてなんですが……」


 ボルガもこの2人の状況が分からないらしい。

 無表情だから冷静に事を見ていた訳じゃないんだ。


 「勝負って?」

 「そうですね、武術試合と言った方が、良いかも知れませんね。 1対1で戦い戦闘不能または負けを認めると終了になります」

 「へ~、じゃあボルガ負けたんだ」

 「はい、意識を刈り取られました」


 ボルガは、当時の試合に言い訳の1つもせずに負けを認める。


 現在のボルガは、ドルフを含め軍の試合形式の格闘戦で負けたところを見た事が無い。

 当時はどうか知らないが、トグナの実力も確かの様だ。


 「で? 約束ってなに?」

 「約束は確か、負けた者が、この里から出て行く。 といった内容でした」

 「それだけ?」

 「はい」


 と言う事は、トーラの言っている様に出て行って戻ってはいけない訳では無いんだな。

 あくまで言葉のあやとしてだけど……。


 「やめんか2人とも!」


 突然の低く太い声は、ギャアーギャアーと言い争う2人にもハッキリと聞こえてピタリと争うのをやめる。

 その場にいた全ての者が、声の方向を見ると、そこには1人の年老いた龍翼人族の男性が立っていた。


 老人は身体こそトグナやボルガより一回りほど小さいが、顔に見える皺と幾重にも付いた傷により只者ではない事が読み取れる。


 「客人の前だ、下がっておれ」

 「しかし、親父!」

 「お父さん!」


 食い下がろうとする2人に老人は、何も言わず一睨ひとにらみする。

 その眼から放たれる言い知れぬ圧力は、2人を閉口させるに十分な物だった。


 「お久しぶりです。 族長」

 「ああ、ボルガも息災でなによりだ」


 ボルガが老人に挨拶すると、老人もウンウンと頷きながら返した。

 どうやらこの人が、龍翼人族の族長みたいだ。


 「それで? お主が案内してきた人族はそちらか」

 「はい、マサキ様」


 ボルガは身を引いたので老人と俺が正面に対面する。


 「ああ、初めまして。 桜花と言う国の王を務めている素鵞真幸そが まさきと言います」


 頭を下げて老人に挨拶をする。

 老人と言っても身長は、ゆうに190センチを越えているのでこちらが少し見上げる形となった。


 「私はトダム言い、ここ龍翼人族の族長を勤めています。 しかし、クニ、オウ? 昔、人族に王とは、村々を纏めて指示を出す偉い人物と聞いた事がある」

 「そんな感じですが、別に偉く無いですよ。 ちょっとした事で皆が感謝してくれたりしますが……」


 自分では偉そうにした覚えは無かったが、もしかして偉そうに見えたのかな?


 「ほう、ボルガの恩人とも聞いていますが?」

 「まあ、ボルガを含めた人々と協力して何かをした事はありますが、恩と言うのは」

 「いえ、マサキ様には、数え切れぬ恩義があります」


 俺が否定しようとしたところ、ボルガが間髪入れずに応える。


 そこまでの事したっけ?


 「ふむ、まあ、当の本人がこう言っているのだ……それよりも、この里に何か御用かな? 聞くに黒龍姫様に会いたいとか」


 黒龍姫の名前が出たとたん周囲が騒然とする。

 ボルガから前もって聞いてはいたが、黒龍姫はやはり里の人々の信仰の対象なのは確かだ。


 「ええ、国の境がこの近くまで着てるので、挨拶も兼ねて黒龍姫会おうかと、それと、ボルガの故郷も見てみたくて来ました」

 「ふむ、黒龍姫様に挨拶ですか」


 トダムは、あごに手を当て思案している。

 龍翼人族の信仰の対象だ、そう簡単に会わせる訳には、いかないのだろうか?


 「駄目だ! 駄目だ! 黒龍姫様にわけの分からない人族なんか、会わせる訳には行かん!」


 答えたのは、族長であるトダムではなくトグナだ。

 はたして族長の意見も聞かずに答えを出していいのだろうか?


 「トグナっ!」

 「だが……くっ!」


 トダムが眼光鋭く睨むと、トグナはそれ以上発言出来ない。

 やっぱり駄目でした。


 「まあ、この者の言う事も一理あります。 知らない人物をおいそれと会う許可を出す訳には……」


 やはりトダムも許可を出すことを渋っているみたいだ。

 そうだよね~、自分達が崇めている聖獣、ご機嫌を損ねるような事したくないよね。


 「私も別に会いたくは無いわよ。 でもね、私達が素通りしたと、あの子が知ったらねるか怒るかの、どっちかなのよボウヤ」


 後ろから待つのが面倒になったのか、アオイが横から言葉を挟む。

 しかし、目の前の老齢な龍翼人族の男にボウヤとは……怒るんじゃないかな?


 「はっはっは、お嬢さんには、私がボウヤに見えるかね」

 「あら、私から見れば十分ボウヤよ」


 アオイの失礼な言葉に怒るどころかトダムは笑って返している。

 いや~、度量が広くて助かる。 が、ここでまたもや


 「何がボウヤだ! 人族の女がっ!」


 そう、またもやトグナが、憤激ふんげきしアオイに向かって叫んだ。

 妹の事でも怒っていたし、自分の父親が馬鹿にされたと思えば当然と言えば当然だな。

 しかし、家族思いが強いのは良いんだけど、時と場合を考えて欲しいな。


 「あっはははははっ!」

 「なっ、何が可笑しい!」


 アオイの高笑いにトグナは、龍翼人族特有の緑色の鱗をした顔を緑から赤に変化させ更に憤激する。

 族長であるトダムも今度は止める気が無いようだ。


 「あー可笑しい。 私が人族に見えたの、そうよね、こんな姿ですもの」

 「何が可笑しいと聞いているんだ!」

 「まあ、落ち着きなさいな。 今から本当の姿を見せるから」


 そう言うと、トグナ立ちの前でアオイの身体が光に包まれたかと思うと、服だけが地面に落ち次に目の前に現れた者は、3メートルの高さで鎌首をもたげた水龍の姿だった。

 最初に会った時の大きさより遥かに小さいから、身体の大きさをかなり抑えているようだ。


 「なっ!」

 「っ!」


 その姿にトグナは絶句し、トダムも眼を見開いて驚いている。

 そして周囲にいる人々まで凍り付いたかのように固まってしまった。


 まあ、当然だよね。 人族の姿だった者が、いきなり聖獣である水龍に変わったら驚くだろうね。

 魔界に住む人々にとって聖獣は、相当重要な存在みたいで、この龍翼人族の里でもその威光は衰えた様子も無い。


 「ね、私は遥か悠久の年月を生きているの、別にあなた達を馬鹿にしたわけじゃねいのよ」


 アオイは身体をうねらせて話しているが、はたして聞く側の耳に届いているだろうか。


 「私だけじゃないわよ、真白も少し大きくなりなさいな」


 アオイは、いつの間にか俺の後ろに待機していた真白にも話を振った。

 真白は、アオイの言葉をすぐに受け入れず俺に確認する様に真っ直ぐ俺を見つめている。


 「ん~、まあ、その方が、話が早そうだから」

 「ワウ!」


 俺の指示を聞くと真白は嬉しそうに返事をすると、身体が光に包まれ広場にいる人々を巻き込まない大きさまで大きくなり、アオイの隣に並び立った。

 ちなみに俺の右にアオイ、左に真白といった位置で俺は挟まれた格好かっこうになっている。


 「てな感じで聖獣2人が、挨拶したいと言ってるんで許可を貰いたいんだが」


 アオイに続き真白まで大きくなった事に、全員意識が遠のいてる様子。

 このままでは会話が進まないので、とりあえずトダムに許可が貰えるかいた。


 「………………あ、ああはあ、聖獣様なら問題ないかと」


 あまりの事にトダムは、眼を見開いたまま置物の水飲み鳥の様にカクカクと頷いて入山の許可を出す。

 一方のトグナは、いまだに目の前の出来事が信じられず呆然としていた。


――グゥゥゥゥオォオオーーーーーーンッ!


 ちょうどその時、黒龍山の方向から身体に衝撃を受けるほどの大音響が鳴り響く。

 その音は、まるで雷が落ちた様な音だったが、頭上には雲1つ無い青空が広がっており入道雲が発生した様子も無い。


 「雷……じゃないな、なんだろう?」

 「あら、こっちに気付いたみたいね」

 「ゥゥゥーン……」


 アオイは黒龍山に顔を向けたが、真白はアオイとは正反対方向に向いて心底嫌そうな顔をしていた。


 多分、あの音の発生源が、この山の主なんだろうな……どんな聖獣なんだろう? 真白は会いたくなさそうだけど。


 目の前に見える山は威風堂々《いふうどうどう》としたたたずまいで、これから向かう俺達を手招きする様な、そんな雰囲気を出していた。


お読み頂き、ありがとうございます。

登場予定がなかったキャラクターを急遽登場させ、なんだかグダグダになっています。

次回の内容は、一応頭の中で固めてるんで問題ないかな?(と言うことは、まだ書いてない)

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