44.桜花国記(いざ黒龍山へ!)
お疲れ様です。
久しぶりにマサキ達は、小旅行に出かけます。
桜花国暦10年 9月29日
あの残暑厳しい日々も過ぎ、そろそろ秋の訪れを告げるように少しずつ木々の色が、青から赤へと変わり始めてきた日
今日は、9日前にボルガが口にした、黒龍山に赴き黒龍の姫君に会う日だ。
もちろん会えるか分からないし、もう1つの目的であるボルガの故郷、龍翼人族の里にも向かう予定になっている。
ボルガの話では、まず龍翼人族の里に入ってから、族長に話を通して黒龍山に登るので先に里による必要がある。
「準備は出来たかな?」
「はい、マスター、同行する者全員バスに乗車済みです」
朝も明けぬうちに身支度を済ませ王宮前に止まる1台のバスの前まで来ると、ミナに出発の確認をする。
今回の同行する顔ぶれは、アルフィーナ、ミナとメイド達、アオイと護衛としてボルガ、ドルフ、そしてチャコがすでに乗車しているという事だ。
なぜこの顔ぶれかと言えば、ジェナートに頼んで同行は少人数でとお願いしていたのでこの面子となった。
今回は他にも、新しく軍の指揮官となった者の中から沖野アトア 獣人族(灰色狼)と、角字ミナキ 頭角族(牛)を同行者として選ばれた。
2人とも32歳と若く、そして鍛え上げられた肉体で身体が大きい。 どちらも将来、桜花の国防を支えていく立派な防人になるだろう。
ボルガ、ドルフ、アトア、ミナキの4人の服装は、護衛ともあり揃いの迷彩柄の防刃仕様の野戦服、その上に防弾ベストを付け手には自動小銃を手にしていた。
まあ、実際争いがあった時には、俺やアルフィーナ、それに真白とアオイ、ミナにメイド達と戦力は十分なので、あくまで護衛の形を取っているのだろう。
俺はと言うと、真白に跨って先行して道を造っていく事になっている。
今のところ黒龍山に行くには、山を越え谷を越え、道無き道を進まなくてはならないので、面倒だしどうせだから道を造ってしまえ! と言う事で俺は真白に騎乗していた。
トラブル等で必要無くなれば跡形も無く崩す予定にもなっている。
「よし! それじゃ真白ヨロシク!」
「フォン!」
真白の上に乗るのは何時以来だろう……随分久しぶりに感じるな
そんな事を思いつつ真白の背を撫でてやると、真白も尻尾を振って嬉しいみたいだ。
「皆もあとをよろしく頼む!」
「ははっ!」
バスの横で一列に並ぶ集団に声をかける。
フォートルを始めとした会議でお馴染みの顔ぶれ、朝早くに出るから見送りは不要って言ったが、わざわざ見送りに来たみたいだ。
「今日中に帰れると思うが、何か有れば魔素通信で知らせるから、そちらも必要があれば遠慮しないで連絡してくれ」
「承知しました。 ボルガの話では、里の者に一部気の強いグループが居るとか、くれぐれもお気を付けて」
「ああ、分かってる。 皆もね」
俺が手を上げて出発の合図を送ると、並ぶ一同は返礼で応える。
そして、真白も分かっているとばかりにゆっくりと走り出した。
国が敷き設した道路を南へ進み海まで数キロの所まで来たら、次にひたすら西に進路を取る。
住宅地を抜けると、田園が広がり田畑には、良く実った稲穂が頭を垂れ、もう少し日数が経つと黄金色に変わるそんな風景が広がっていた。
うん、今年の米も順調に育っているな。 秋の収穫の時は、皆の喜ぶ顔が目に映るようだ。
桜花では、魔導関係による作物の管理方法の研究が進み、保存や味の変化を少しだけ抑えられるようになっていた。
俺の能力である無限収納のような時間凍結能力は無いが、それでも野菜や根菜類など腐ったり芽が出る事を遅らせてくれている。
この研究のおかげで廃棄する量が減り、桜花国全体に新鮮な食料が継続的に供給され、毎日家庭の食卓に載っている訳だ。
そんな事を考えていると、田畑も無くなり道が途切れている部分までやって来た。
ここより先は、まだ桜花の開拓が行なわれていない領域となる。
「さてと真白、最初ゆっくり慣れたら早く、いつも通りでお願ね」
「オン!」
この先の道は、俺の魔法で形成して行き後からバスが通過する予定だ。
道の形成も今回は特に気にせず道だけを造っていく。
本来だと地面の下に上下水や電気など通信網を引くための3層トンネルを造って行くのだが、今回は訪問して相手の意見を聞かないといけないので、後日撤去を楽にするため道だけの敷設になる。
「さてさて、久しぶりの魔法酷使だ! 気合入れすぎない様に注意しないと」
以前、気合を入れて作った道で、街灯を立てたいと工事申請があったので許可をしたところ、どんな重機を使っても道路に傷一つ付けられないと苦情があった。
どうも頑張り過ぎて非破壊オブジェクトにしてしまったらしい。 もちろん後から俺自身で工事予定箇所を施工出来るようにしたんだけど……。
とりあえず慣らし運転で魔法を行使して道を造っていく。
俺が魔法行使に慣れてきたところを見計らい、真白もスピードを上げて行った。
西へ、西へと進んでいくと、遠く小さく見えていた山もだんだんと近づいて大きくなってくる。
そして、ある程度山に近づいた時にその山と周囲の風景にある風景が重なった。
「真白、ちょっとストップ!」
「オン?」
俺の声にすぐに反応した真白は、徐々に走る速度を緩めて完全に停止して何事かと背に乗る俺に振り返った。
「いやー、これは絶景だな!」
雲1つ無い青空を背に綺麗な三角形を描いた山が、そこにそびえていた。
「これはまるで……富士山みたいだ……」
そう、山に生える木々は遠く霞掛かり空よりも深い蒼に変わり、頂上に行くにつれて白い雪に覆われる。
峰に行くほど緩やかなカーブに変わるそれは、まさに富士の山そのものの様だ。
日本の富士山は、宝永大噴火で脇に大きな噴火口ができ形がやや歪になってしまったが、こちらの山は綺麗な形をしている。
「どうしたのじゃ?」
いつの間にか、後ろを走っていたバスが追いついて、俺が止まっているものだから何事かとアルフィーナ達が降りて来ていた。
「ああ、この景色に魅入っていたんだよ」
「ほう、確かに大きな山じゃな~」
俺の隣に来たアルフィーナが、遠くに聳える雄大な景色に共に魅入る。
「マサキ様、魔女様、あの山が黒龍山です。 あの麓の森の中に我が故郷があります」
そんな中、同じくバスを降りて来たボルガが、懐かしき故郷の山に目を細めながら説明してくれた。
「そうか、あと少しだね」
「はい」
あと少しで数十年前に後にした故郷の中間達と再会すると考えたボルガは、少し顔を強張らせる。
「のうマサキ、先方に付くまでには、まだ掛かりそうじゃのう。 どうじゃ、この辺で朝食にせんか?」
朝も明けない内に出発したので今日はまだ朝食を取っていなかった。
頃合的にも少し遅い朝食の時間なので良い提案だ。
「そうだね、一旦ここで朝食を取ろうか! ミナ」
「お任せ下さい。 すでにメイド達が準備を始めています」
指示を出すまでも無く近くで話を聞いていたミナとメイド達は手早く昼食の準備に取り掛かっていた。
バスの中には、食材が入っている大きな冷蔵庫がありそれを調理するのだが、大柄な人達も同行しているのでどれだけ食べるか分からない。
まあ無限収納には、年間通しても食べ切れないほどの食材が収納されているので、必要があれば取り出すだけでいいから好きなだけ食べてもらって構わない。
照りつける太陽の光は夏ほどの強さを感じさせないが、遠くから聞こえる細波の音と涼しい海風がとても心地よかった。
この先は、西に進んで行き、次は北西に進路を取り峰を抜けて行けば龍翼人族の里と黒龍山へと続く道に行き当たるようだ。
もちろんミナが事前に衛星とUAVで調査した最適ルートにしたがって進んで行く事になっている。
事前調査によると黒龍山の頂に続く道は、黒龍山の南にあり、集落があるのは黒龍山から南東の方向に確認できたそうだ。
ボルガに確認を取ると、どうやらそこが龍翼人族の里らしい。
はたしてボルガの里の人々は、どんな感じだろうか?
できれば穏便に事が進むことを祈りたい。
お読み頂き、ありがとうございます。
小旅行だと言うのに戦力が圧倒的に過剰です。
現在の桜花国の現在の桜花国最大最強勢力なんですが、本人達はまったく気付いていません。
次回は、里に入るところです。




