43.桜花国記(黒龍山の姫君と龍翼人族の里)
お疲れ様です。
そんなに長くない黒龍編始まるよ~。
桜花国暦10年 9月20日
まだまだ残暑は厳しく、陽が出てるうちは茹だる様な暑さを感じさせるそんな日
今日もいつもの様に会議に集まり本日の議題を片付けていた。
毎日定時に開いているとは言え、何でこうも案件が多いのだろう?
まあ、それもこの国、桜花が日々成長している証なんだろうけど……。
そんな事を思い浮かべつつ、桜花軍を束ねるボルガから報告を受ける。
軍と言ってもそこまで大きいものではなく、1000人ほどの人数が常備兵として日夜訓練をしているのだ。
そして、今ボルガの報告は、その国軍における兵器の開発の進捗状況の報告を受けている。
俺は平和を尊んではいるが、平和平和と念仏の様に唱えていれば平和にでいられる訳じゃない事も十分知っている。
平和とは、自身の身を守り、相手に対してもし自分に手を出せば相手とてタダでは済まない事を理解させる、つまり抑止力が必要なのだ。
そのため桜花では、早い段階で軍の整備と、兵器開発を進めていた。
そして、その軍を一手に引き受けているのが、颶風ボルガ、彼無くしては軍の整備は、ここまでスムーズに行かなかっただろう。
「と、言うわけで、現在、ドゥーエ、そして、オーヒンの造船所において艦の建造を行なっており、近日中に2艦の進水を予定しております」
このドゥーエとオーヒンは、ともにリアレスの南にある海に設営されている港で造船所も併設している。
先ほどのボルガの説明通り、この2つの造船所で現在、桜花国初の軍艦が建造中とのことだ。
説明には無いが、この艦は試作艦である。
地球(日本側)の技術をふんだんに盛り込んだのと、現在の桜花で開発されている魔法と魔導具の技術も使われ、試作故の惜しみの無い技術を盛り込んで建造している。
「そうか、いよいよだね。 名前も公募で決めてるんだっけ?」
「はっ! ただいま広く募集をしていますが、やはり富士と敷島が最有力です」
「えっ、なんで? もっと色々な名前が有ると思うんだけど?」
公平に船の名前を募集したはずなのだが、この桜花国……いや魔界では、そんな名前の山も地域もない。
いったい全体なんで富士と敷島なのだろう?
「マサキ様、国民の多くは、マサキ様が来られた日本の歴史を深く学び、その文化に感銘を受け自分達の歴史として受け入れております。 富士と敷島を選んだ理由もその辺にあると推察されます」
「そんな、ここは皆の国なんだから、この国としての名前の方が良いと思うんだが」
「そういう訳には、まいりません。 2000年以上もある日本の歴史の重みは、何ものにも変えれません! 私も日本の歴史を学び、しみじみそう感じました」
ミナとメイド達以外の会議室に居る全ての者が頷いている。
「そうじゃ! 魔界と言われ国一つ無かったこの地では、日々生きる糧を探すのに必死じゃった。 それ故日本の様に文化が蓄積した歴史が無いのじゃ、じゃからお主のいた日本の歴史は、お主を通してこの国の民の歴史となり、民は共感しお主に感謝をしておるのじゃ!」
「……えっ、そうなの?」
「そうじゃ! この国でお主がどれほど大切でどれほど重要な存在か、よく理解するのじゃ!」
アルフィーナの言葉に今度はミナを含めた全員が頷いて肯定する。
マジか~、そんな事になっているとは気付かなかった。
俺が、日本と言う異世界の文化を持ち込んだ事で、この国の人はそれを受け入れて自分の物にしているんだな。
もしかしたら俺は、魔界で独自文化の生まれる土壌を汚してしまったのかもしれないな……いかいんいかん、今は、そんな事を考えてる場合じゃない。
こういった考察を頭で考えていると、つい、没頭してしまう。
「う~ん、分かったような分からないような……それで? 他の案件は何かな?」
会議室の空気と言うか、俺に向けられる思いの重圧に少し気まずい感覚を覚えたので、さっさと話を先に進めることにした。
「はっ! 他には、戦車、自走砲など大型火力、小銃など小型火力の研究・訓練を実施しております」
「なるほど結構進んだね~、各兵器類には、セキュリティのための魔力紋認識システムが組み込んであるんだよね?」
「はい、マサキ様ご指摘の通り、魔女様とミナ様のご指導の下、殺傷能力のある兵器全て魔力紋を登録しないと使用出来ない様にしてあります」
ここ桜花では、日本と同じく銃刀法の法律を布いている。
これによって専門的職業の軍や警察等以外では、許可無く銃器や刀を持つ事を厳しく制限していた。
ただし、軍や警察といえども銃器の取扱いに細心の注意を払っており、各種機器に個人の魔力紋を登録する事で登録者以外の使用・操作が出来ないようになっている。
これは、道路を走る自動走行車、医療、各種申請にも利用されているシステムだ。
「ですが、マサキ様。 小銃の訓練は、今のところ問題はありませんが、戦車などの大型機械は、今後の運用を考えますとやはり演習場が必要かと」
「そうなんだよね~、やっぱり実弾練習となると、広い場所が必要なんだよね~」
現在の桜花の国は、そこそこ広い領土を持っている。
しかし、多くの部分を食糧生産や工場、住宅に向けているので軍の演習は、限られた場所を確保して訓練している。
いちおう約1キロ四方のスペースを数箇所確保しているのだが、このまま戦車の研究と台数を増やした訓練をするには手狭になってくると、簡単に予想が出来た。
「今は先送りにするしかないな、人家が少なく広い土地を確保できないと、実弾の練習もオチオチできないしな」
「了解しました。この件は、今後の課題として、こちらでも場所の検討をしたいと思います」
「そうだね、お願するよ」
俺には、軍の訓練なんかしたこと無いので、実際に現場にいる者達でこの件を検討してもらった方が良いだろう。
軍関係の議題も終わったので次へと進もうとすると、ボルガは着席せずにまだ立っていた。
「? ボルガ、他に何かあるのか?」
「はっ、あるにはあるのですが……」
いつもは何でもハッキリと応えるボルガが、嫌に何か言いづらそうにしている。
「言える範囲でいいから、言ってくれないか?」
「はっ! あの……マサキ様、このまま開拓を続けてると、さらに桜花の領土が広がっていくと思います」
「そうだね、問題なければ、このまま広げていくけど、何か問題があるかな?」
ここまで領土が広がった桜花だが、ほとんどが自ら進んで桜花の国民となり自然と領地が広がっただけで、1度も争いを起こしたことが無かった。
そして、これからも魔界では、その方針を貫くつもりだ。
力で支配しようだなんて、俺の性には合わないからね。
しかし、ボルガは何か思うところがあるのだろうか?
「はあ、その、西には、私の故郷である龍翼人族の里がございます」
「へえ、そうなんだ!」
以前ボルガが、このリアレスに来た経緯をそれとなく聞いていた。
たしか、若い頃に里の者と意見が合わず、武者修行と称してそのまま里を出奔したとか……もしかしたら、ソレが関係する事なのか?
「じゃあ、その里の人達に挨拶しないといけないね」
「え、ええ、マサキ様、それもあるのですが、龍翼人族の里は、とても大きな山の麓にあり今は500~1000人ほど暮らしているかと思います」
「そうか、それだけ人数が居るのなら、お土の用意も必要だね! さて、何が喜ばれるだろうか……食べ物か、お酒か」
初めて人の家に尋ねる時は、お土産は絶対に必要だ! 何が喜ばれるのか、ボルガの意見も聞かないとな。
「いえ、それよりも大切なのが山の方です」
「山?」
里の人々より大切なのが山とは、いったいどういうことなんだろうか? 俺はボルガに話の続きを促す。
「はい、その山は、黒龍山と言いまして、その山には我々龍翼人族が崇め奉っている聖獣様、黒龍の姫君がおらっしゃいます」
「へ~、聖獣がいるのか!」
真白、アオイ、それにチャコ(半聖獣)に続いて新たに聖獣が、ボルガの故郷に居るみたいだ。
「あら! 黒いのの話だったの、姫君なんて言うから一瞬分からなかったわよ!」
いつもいる訳ではないが、今日は会議に参加していたアオイが声を上げる。
「ん? アオイさん知っているの?」
「ええ、もちろん知っているわよ。でも、そうね~私より白いの……って違うわね。 真白の方が、私より知っているんじゃないかしら?」
アオイから話を振られた真白は、すっ~~~~~~ごく嫌そうな顔でそっぽを向く。
「まあいいわ、それよりも黒いのね。 あの子は、そうね……凄くガサツな子ね」
「ガサツ?」
「そう、あまり人の話は聞かないし、腕っ節が強くてね、よく真白に喧嘩と言う名のジャレ合いを申し込むわね。 まったく相手にされてない見たいだけど」
「そうなの?」
聖獣同士の喧嘩と、あまり良い雰囲気は感じられないワードが出てきて、ボルガに確認するように聞いてみる。
「はあ、すいませんが、我々龍翼人族も、掟によって族長以外、めったにお会い出来ませんので、その辺の事はさっぱりで」
「そうなんだ、で? その黒龍の姫君がどうしたの?」
「はい、開拓を拡張していく上で、そちらにも話を通しておいた方が、よいかと考えた次第で」
なるほど、ボルガとしては、黒龍の姫君の許可無く黒龍山まで開拓の手を広げるのに危惧して、先に挨拶を済ませろと言いたいんだな。
「たしかにその通りだね、その黒龍の姫に挨拶に行くとしようか! もちろんボルガの故郷にもだけど、ボルガにも一緒に来て貰うよ」
「いえ、私が行くと、もめると思いますので」
おそらくは出奔の原因で里に帰りづらいのだろうボルガは、頭を下げて固辞する。
「いや、もめ事があっても無くても、ボルガには一緒に付いて来て欲しいんだ」
「……マサキ様」
「ボルガは、この国、桜花の軍を纏めて貰っている。 つまり重役だ、あとで何でコイツが! みたいなのは正直困る。 なら早めに問題があるなら対応したいんだ」
「……承知しました。 里に赴く際には、ご同行いたします」
思うところはあるのだろうが、それでもボルガは承諾してくれた。
「よし! じゃあ日程の調整と、同行メンバーのリストアップをしないとな、ジェナートお願いできるかな?」
「お任せ下さい! 急ぎ調整に係り近日中にお答えできるかと」
「よろしく!」
最近では、こういった内務関係はフォートルよりジェナートの方にお願いしている。
フォートルも歳なので無理はさせられないし、ジェナート自身も積極的に取り組んでいてくれるから問題ないだろう。
「ふむ、ボルガ以外の龍翼人に会うのは、何十年ぶりじゃろう」
アルフィーナは、当然の如く付いてくるみたいだ。
「私も行くわよ。 私がいれば、あの子も少しは耳を傾けてくるでしょ」
今回はアオイも同行するみたいだ。
「マスターの行く場所なら何処へでも」
ミナの言葉にメイド達も一斉に頭を下げる。
この後も会議は続き、他の議案と進捗状況を聞いていく。
さて、新たな聖獣はどんな人物か! ボルガの故郷はどんな所か! 期待と不安が俺の心中に少し渦巻いた。
お読み頂き、ありがとうございます。
桜花では、軍事開発も着々と進行中です。
魔法は? と思われる方もいると思いますが、この桜花では、魔法研究もアルフィーナが主体となって、一から研究中です。
アルフィーナのいた王国の技術を理解しつつも、別方向で理論の構築を目指しているので、急激な発展は、まだ先ですね。 それでも一般的に使えるので、その辺の法律も含めた整備をしているみたいです。




