37.桜花国記(晩餐会)
式典も終わり各種行事が終わると、立食式の宴が開かれる。
「皆、本日建国したこの桜花国には、今後色々な苦難が待っているだろう。しかし、それらに負けないように盛り立てていこう! 乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
酒の入ったグラスを掲げ乾杯の音頭を取ると、出席者全員も同じ様にグラスを掲げ応えた。
あとはもう流れるように宴が始まる。
料理や酒は、メイド達が用意してくれたのでどれも絶品の品だった。
周囲の人々は、料理に舌鼓を打っている。
アルフィーナや真白は、挨拶に来る者たちそっちのけで料理に夢中の様だ。
仕舞いには、アオイとアクサとで周囲の男達を巻き込んでの飲み比べまで始め大いに盛り上がっていた。
まあ、俺が受け答えしていれば問題ないけど……あと、みんな飲み過ぎには注意するんだよ。
そんな事を心に思いながらグラスを傾けていると、俺の下にフォートル達が挨拶に来た。
「マサキ様……いえ、陛下! 建国おめでとうございます」
「「おめでとうございます」」
フォートルやジェナート一家が揃って祝いの言葉を言ってきた。
「ああ、ありがとう。だが、フォートル、俺の事は今まで通りマサキで構わないから」
「いえ、しかし、国王陛下となられたからには……」
フォートルは、少し困惑した感じだ。
「俺にとって、それがいいんだ!」
「はあ、へっ……マサキ様がそう言われるのでしたら」
フォートルの頭の上には、何故?という大きなハテナマークを付けているがこれでいい。
日本それに神社、そして神道へ深い繋がりのある俺には、陛下と言われる存在は一つしかないのでこれでいい。
「はあーーーーーっ、しかし、何であの暦にしたのかな~」
「それは、我々一同が納得して決めましたので、マサキ様が御気にする事は御座いません」
「ああ、分かっているんだけどね……はあ~っ」
脱力感を感じて少し肩を落とす。
ここまで来るのに色々と決めねばならない事が多かった。
今回決まった事は、国名、これは俺が勝手に決めてしまったのだけれど、まったく反対が出なかった! と言うか全員が賛成をしてきたのには驚いた。
それと、国王となったからには、自分の出生も人々に明らかにしないと駄目だと考えて、フォートル達に俺が他の世界から来たことを告げる事にした。
異界の者と反発があると思っていたが、こちらもまったく反対の反応が示され、他の世界から、この魔界に来て私達を救ってくれた! とか、神が使わしたお方! とか、何だか変な受け止め方をされて正直こちらが戸惑うばかりだ。
これを機として盛り上がり、俺がこの世界に来た日を紀元として暦としたいと言われ、最初の内は断っていたのだが、人々の熱意に負けて承諾、これによって桜花国暦が誕生した。
他にも国旗だ! 国家だ! と言われ正直めんどう……いや、考えに考えを重ねて学修校で掲げ歌われている旗と、君が代の2番が国旗、国歌として選定された。
当初の計画通り、国家を建国したのであれば、通貨を発行しなければいけないのだが、まずは法の整備をミナとイド達に任せたところ1日で法律を作り、組織と体制も合わせて作ったのには、ただただ感心するばかりだ。
こうして、国家の建国と同時に法律の施行をした。
これによって、お金や税金などの概念が生まれたが、ここで更に問題が発生する。
市場にお金をどう流通させるのか? ではなくお金自体をどうするかである。
フォートル達は当初、俺の肖像画を載せて通貨にしようとしていたが、それは断固として反対した。
どこの世界に今もなお生きている自分が、自分の顔を載せた通貨を見て喜ぶ人物が入れのだろうか? 俺は嬉しくも無い。
てか、指名手配のポスターじゃないんだから、どこへ行っても自分の顔があっては恥ずかしい!
そういった事情で新たにお金の形を作らなければならないのだが、ここで俺が閃いた!
日本のお金を使えばいいじゃない!
と言う事で俺は、自分の財布からではなく、祖母の遺品の中にあった旧札の1万円、5千円、千円札を取り出して桜花国の通貨とするようにした。
こうして、福沢諭吉、新渡戸稲造、夏目漱石の顔が書かれたお金が、この桜花国の正式な通貨として使われる。
ちなみに、硬貨は、防犯上の理由で新しい方を採用している。
もちろん他にも偽造防止措置をしているので、そう簡単に偽造できない仕様だ。
これによって桜花国で使われる通過の単位は、円になった。
流通に関しては、ミナに税の徴収と予算を出す機関として王庫を創設、運用を任せている。
また、これに合わせて桜花銀行を創設して、こちらもミナに任せる予定だ。
この桜花銀行は、日本銀行と同じく銀行の銀行で違う点は、100%王家の出資により運用されるため独立性はない。
桜花銀行だけでは、国民にお金を預ける、引き出すなどの行為が出来ないので、現在、桜花銀行とは別に一般の銀行も設立中だが、こちらもミナに任せている。
将来的に民間の銀行が増えていくようにしたいと思っている。
一般の銀行が出来れば、ゾーフルの土木業、モルクの建築業、ロドルクの製鉄業や加工業の設備を各自に売り払い民間企業として商売を営んでもらおうと思う。
もっとも最初は、公共事業が主体として国が、お金を支出しなければならないけど。
「まあ、お金や法の整備なんかを、ミナ達に任せてしまって申し訳ないと思っているけど……フォートル達も大変だろ?法律を覚えるのに」
「はあ、現在、ミナ様に草案を見せて頂きましたが、あれほどの量とは……現在、勉強中であります」
ミナが見せた草案は、日本の法律を真似しているが、必要なところはそのままで、不要な物は取り除き追加で色々と継ぎ足している。
六法全書を頭に叩き込め! と言っている様なものなので無理もない。
「そうだな、今のところは、自分に係わるところだけを覚えれば問題ないと思うぞ」
「そうですね、一般的に必要なところを覚えるように国民にも周知致しましょう。しかし、目下、国民の頭を悩ませているのは、先行して発令されました」
「ああ、氏の取得か」
そう、今回の建国に合わせて戸籍を作るのに国民全てに氏(姓)の取得するように言ったのだ。
最近の人口増加にともなって同名の者が増えてきた事、また、家と言う家族単位を作るためにも必要だったので布令を出した。
それと、家の単位を守るため親子同氏と夫婦同姓の法整備を進めている。
俺は元々の名前である素鵞真幸をそのまま使うのだが、いままで名前で呼んでいたところに姓を付けなければいけないので悩むのは必然だった。
真白は聖獣だから必用は無い、ミナやメイド達も同じ様な者、アルは必要ないと言っていたけど本当によかったのかな?
「いや~、ジェナート達から私に決めて欲しいと言われてホトホト困っております。いったい何と付ければ良いのか……」
本当に困った様子のフォートルの顔がそこにあった。
生涯に残る名前なので悩むのは仕方が無い。
「いやはや、どうしたものか……う~む」
「父さん無理しないで下さい。私達はどんな名前でも構いませんので」
「そうですよ、お父様、縁起が良い物と悩んでいる見たいですが、そうそう簡単に……! そうですわ! マサキ様が決めてくださいませんか?」
名案とばかりにメルザが両手を合わせて尋ねてきた。
「メルザ、マサキ様に失礼だぞ!」
「あら、あなた、マサキ様なら良いお知恵があると思いますけど、どうでしょうか? マサキ様」
メルザを窘めるジェナートの言葉を物ともせずにメルザが再び俺に期待の眼差しを向ける。
「ふ~む、名前を付けるのには、まったく自身は無いのだが……それでも良いのか?」
「はい! マサキ様がお付け下さいましたお名前なら子々孫々に語り継げますわ!」
メルザのキラキラと星が瞬く目が眩しすぎて、少し後ろに引いていしまう。
「分かった、分かった、ヤレヤレ名前ね……そうだな~」
視線をフォートル、ジェナート、メルザ、そして、ジェナートとメルザの間に守られる様に立つポルトナに向ける。
なんとも仲睦まじい家族なんだろう。
この家族関係が続くような名前が良いな! そうだな~……
「アイオイ! 相生は、どうだろう?」
「相生……ですか?」
メルザを先頭に全員が目を点にして俺を見る。
「そうだ、相生と言う名前の由来は、夫婦が仲睦まじい事、また、「相老」ともかけて、夫婦が共に長生きすることが含まれているんだ、どうだろう!」
「……夫婦が仲睦まじい事」
「……夫婦が長生きする事」
メルザとジェナートが、反芻する様に相生の名前の由来を口にした。
「ッ………………すっ……素晴らしいですわ! マサキ様!」
「いや、これほど良い名前は、ありません! さすがですマサキ様」
自分でも驚くほどにジェナート夫妻は飛び跳ねる様に喜んでいる。
「いやはや、相生とは、良き名を頂きました。 本当に感謝致します」
フォートルは、俺に感謝の礼として頭を下げる。
そのフォートルの顔には、名前を考える重圧と、良い名をくれた感動で目に薄っすらと涙が見えるほどに。
「ああ、気に入ってくれてよかった。あ~でも、相生の姓を持っても皆の事は、フォートル、ジェナートって呼ぶけどいいかな?」
戸籍上は仕方が無くても、普段呼ぶ時は、名前をそのまま呼びたいと考えていた。そのほうが呼びやすいしね。
「ええ、勿論です! マサキ様の好きな様にお呼び下さい」
「はええ、父の言う通り、マサキ様は我が国の王様となられました。好きに呼んで頂いて問題ないかと」
感謝の礼に続き、ひたすら頭を下げるフォートル達
「分かった。でも、そこまで畏まらないで欲しい。王と言っても、こんな俺なんだから」
固い雰囲気に少しちゃらけて見せたが、フォートル達の態度は変わらず畏敬の念のもとに頭を下げ続けた。
ヤレヤレ、別に今まで通りでいいだろうに。
頭を掻きながら、その場の雰囲気に照れ笑いを浮かべる。
そして、この事が後日になって、俺に姓を決めて欲しく膨大とも言える嘆願書が、事業館を通じて俺のところへもたされる事になる。。
さすがに1人で捌けるほどの量ではなかったので、ミナに頼んで日本の姓の名鑑と由来の載った本と、日本の有名人(歴史上含む)を各自に配って、各自で決めるようにしたのだった。
やだぁもお、名前考えるのツライよー……。




