31.開拓記(再び海へ)
お疲れ様です。
9話で行った海へ、また行きます。
寒さも深まり、そろそろ師走が迫ってきた頃、
俺は、皆を連れて海に向かっていた。
今、真白の引いている物は、リヤカーからバージョンアップされて大型バスほどの大きさの室内を持つ車になっていた。
真白もこのサイズに合わせて大きさを調整しているので、難なく引いている。
この車は、ミナお手製でキッチン、シャワールーム(シャワーのみ)、トイレ(魔障壁浄化システム付き&ウォシュレット)、寝室が付いた2階建て構造でとても贅沢な作りをしている。
前方の牽引するのを真白ではなく、車両にすることも出来る優れものだ。
今回は真白自身が牽引したいと言ってきたので仕方が無い。
今、海に向かっている理由は、前回の会議の場で提案した塩の生産工場を海辺に建てるために、その地に住む水龍人族の人たちと、聖獣の蒼水龍様に相談しに行くためだ。
もちろんお土産も用意している。
前回の訪問から約1年、水龍人族の人達に変化がなければ言いのだが……。
真白号(勝手に命名)が、以前来たときと同じ様に砂浜にそう時間をかけずに到着する。
道路は前回作ったので速いものだ。
「真白、人はいるかい?」
「うー、ワウッ!」
気配に敏感な真白に周囲を確認してもらうと、前回食事を取った入り江の方に向かって真白は吠えた。
全員車から降りて真白の感を頼りに入り江に向かう。
入り江近くまで来ると、なにやら入り江の中が騒がしかった。
「あの~、お久しぶりです。今日は何かあったんですか?」
入り江の入口から覗く様にして、集まっている人々に尋ねる。
「あら~マサキ様じゃないですか!」
『本当にお久しぶりね』
集団の中から出てきたのは、水龍人族の族長の女性と蒼水龍様だ。
「いや~、ご無沙汰してます。蒼水龍様と………………あれ?」
前回来た時、水龍人族の族長の名前を聞いていない事に今気付いた。
「すいません、お名前を伺っていませんでした」
「いいんですよ。改めて名乗らせて頂きます。私は水龍人族の族長を務めるアクサと申します」
「これは、ご丁寧にありがとうございます」
アクサは気にした様子もなく、丁寧に名前を教えてくれた。
「今日は、何かあったのですか?こんなに集まって」
周囲を見回すと、前回の入り江での食事をした時より人数が多く感じられた。
それに何やら食事を持ち寄って、まるで宴をしているかのようだ。
「ええ、今日は私の娘に番が出来たので、宴を開いてたんですよ」
「へ~それは、おめでとうございます」
どうやら今日は、族長の娘の結婚式、婿取りだったみたいだ。
だから蒼水龍様も一緒にいたのか!なんと言う偶然!
ん?でも、この族長の娘って何歳なんだろう?日本にいた頃の俺より若そうだけど……。
「アクテ、下竜を倒して下さったマサキ様が来られました。こっちに来て挨拶しなさい」
「はい」
集団の奥の方から声がすると、2人の男女の水龍人族がこちらに近づいてきた。
「初めてお会いします。私は水龍人族、族長アクサの娘、アクテと申します」
族長の娘、アクテという娘が、とても丁寧に挨拶をしてきた。
見ると、族長によく似ていて、とても可愛らしい。
「ヨーギルあなたも」
「はい」
次にアクテの横にいた水龍人族の男性が前に出る。
「初めてお会いします。私はここより遠く離れた集落の族長の2子、ヨーギルと申します。マサキ様のお噂は、アクサ様より伺っております」
キビキビとした挨拶をしてくる男性は、どうやら今日の主役のもう1人アクテの旦那さんでヨーギルと言うらしい。
見た目の年齢は、アクテが10代後半、ヨーギルは20代といったところだろう。
40過ぎのおっさんには、初々しく映る二人だ。
「えっと、聞いているらしいので省くけど、素鵞真幸です。2人ともよろしく」
「「よろしくお願いします」」
2人は揃って返してくる。
なんとも仲睦まじい夫婦だろう。
「マサキ様、今日はどのような御用でしょう?魚ならご用意できますが?」
「いやいや、せっかく若い2人が一緒になった日です。話よりもまずは、宴を続けましょう。お土産もありますし」
アクサが用件を聞こうとしてきたが、結婚式に無粋にも乱入してしまったのだ。
ここは、宴会の席で少し話をすればいいだろう。
「アクサさん、それに蒼水龍様、お土産を持ってきたので皆で使ってください」
「マサキ様、私の事はアクサと普通にお呼び下さい。お話方も普通で構いませんので」
『そうよ!私の事も様とか付けずに、そうねアオか、アオイとでも呼んでちょうだい』
ここでもフレンドリーに会話するように要求される。
これが、ここでの標準なのか?
「いや、それは」
「大丈夫です。蒼水龍様もこのように言ってますし」
これ以上断るのは、かえって失礼かもしれない
「は、はあ、それじゃあ、アクサとアオイ……さん」
「はい」
『さん……まあいいわ』
アオイは若干不満そうにするが、さすがに水龍人族が崇める聖獣に敬称を付けない訳にはいかない。
「これが、お土産の味噌と醤油、それと米や野菜、穀物なんだけど……食べられる?」
無限収納から瓶詰めの味噌や醤油、あと米などを取り出して見せる。
「ええ、米と言う物の食べ物が分かりませんが、丘の人達の食べ物も食べる事が出来ます」
『そうだったわね、もっとも海にずっといるから、食べる機会なんてほとんど無いわね』
「でしたら、今から調理しますので食べてみて下さい」
俺がそう言うと、さっそくミナやメイド達が準備を始める。
ミナが、無限収納からキッチンや鍋などを取り出すと、メイド達は食材の調理を開始した。
俺も、メイド達に交じって何か作ろうと思い取り出されたキッチンに向かう。
さて、何を作ろうかね……ん~、そうだ、宴だから刺身となめろうを作ろう!
格式ばった結婚式とは違い、皆がそれぞれに食べているから問題ないだろう。
無限収納から魚を取り出すと、魚を三枚に下ろす。
各種刺身を盛り付けると、今度はなめろう作りに取り掛かる。
なめろうの調理は簡単で魚の身に味噌と日本酒、ネギにシソ、ショウガを混ぜて醤油を少々
あとは、粘り気が出るまで叩くように刻めばOKだ。
「どうぞ、食べてみて!」
アオイやアクサ達がいるところに刺身となめろうの入った器を置く。
ついでに日本酒も1升瓶で置いて飲む用のグラスを無限収納から取り出す。
『あらあらあら、何かしら?前と同じ魚の身と醤油、それと……刻んだ魚の身?』
「ええ、なめろうと言って味噌や葉っぱを混ぜて刻んだやつです。お酒も用意したので飲んで下さい」
アオイが、めずらしそうに器を覗き込んでいたので、お酒と一緒に皆に勧める。
「あら!美味しい!この飲み物も不思議な味だわ」
「お母様、そのまま食べるより魚の味が全然違います。このなめろうと言う食べ物と、この飲み物は不思議と合います!」
なめろうも日本酒も、なかなか好評みたいだ。
「この緑色の物は、辛味がありますね」
「ああ、それはワサビと言って、切った魚の身に少しのせて醤油で食べるんだよ」
自分の箸を無限収納から取り出すと、刺身を一切れ取り盛り合わせにあったワサビを少しだけのせて醤油を付けて食べる。
ワサビ独特の風味とツーンとする辛味で魚の生臭さ薄れ味わい深くなった。
『あら!本当に美味しいわね。付け過ぎると辛いけど、不思議に醤油と相性が良いのね』
「ぬっふふ~、青いの、寿司もなかなか美味いのじゃ!」
『むっ!それは、聞き捨てならないわね』
結婚式の上、塩の生産工場を建てるための仕事があったので遠慮気味だったアルフィーナが、食べ物がある時は遠慮する気は無いようだ。
「こちらです」
『あら!これが寿司なのね」
今までご飯を炊いたり調理をしていたミナが、寿司の乗った皿を持ってきてアオイ達に勧める。
『それじゃあ、食べてみようかしら……ん!この白い粒が甘酸っぱくて、魚の身がまた違う味わいになったわ!』
「本当です!蒼水龍様、それもこれも美味しくて!美味しくて!」
「白い粒は、米と言います。いっぱいあるので、ゆっくり食べて下さい」
アクサは刺身や寿司、日本酒をどんどん口に運ぶと、アオイも負けじと食していった。
大丈夫かな、あんなに日本酒飲んで……。
「あの、お酒は酔うと、あとがツライのでほどほどに……」
「あら、マサキ様、私は酔っていませんわ」
『そうね、酔っている感じは無いわね』
うわ、ザル……。
2人の顔を見ると、本当に酔っている兆候は見られない。
(もっとも、龍の表情なんて見て取れる訳じゃないけど)
「ゥ、ウゥー……ミュッ、ミュウミュウッ!」
そんな事を考えていると、チャコが起きてバスケットから飛び出して俺の元に駆け寄ってきた。
「おー、チャコ、起きたのか!どれ、ご飯食べような」
チャコは、行きのバスの中でずーっと遊んでいて疲れて寝ていた。
バスの中では、何も食べてないのでお腹がペコペコだろう。
チャコを膝に乗せると、無限収納からチャコ用の食事を取り出す。
まだ、ミルクを飲んでいるチャコだが、最近は離乳食を食べる比重が多くなってきた。
「ほーら、食べな~」
チャコの口元にスプーンでペースト状の物を運ぶと、勢い良く舐め取る。
よっぽどお腹が空いてたんだろう。
チャコの離乳食は、果物、野菜を中心に少しだけお肉が入ったものだ。
普通の犬とは違い、チャコはまったく食べない訳ではないが、お肉をメインには食べる事はない。
どちらかと言うと、穀物などの方が好きなようだ。
まあ、アルが納豆を食べさせたのには驚いたけど、チャコも気にした様子も無くがっついてたな。
『あらまあ、この子……私に近い存在じゃない!?なあに、白いのが産んだの?』
俺の膝の上で食事を取っているチャコに顔を覗かせて見るアオイ
先ほどのアオイの発言で真白は不機嫌になり牙を見せて唸り声を上げる。
「いえ、この子は、今開拓している村の草むらに産み落とされていたんです」
『あら、そういう事、そうよね随分と私らの存在が弱弱しいもの』
アオイは、俺の言葉に皆まで言わずともすぐに理解してくれた。
まだ理解出来なくても、捨てられたなんて言いたくないからね。
「キャウッ!キャウッ!」
満腹になったチャコは、食べるのをやめて砂浜を駆け出し打ち寄せる波が面白いようで遊びだした。
真白は、まだ食事中だし、ここは俺がチャコの面倒見る。
「ウゥゥゥーーーッキャウキャウッ」
「ん?どうしたーチャコ?」
チャコが、波間に漂う何かを見つけて吼える。
警戒と言うより、尻尾を振っているから物珍しい物を見つけたみたいだ。
「ん~っ?……お!ウニじゃん!」
「マサキ様、どうかなさいましたか?」
アクサが心配して、様子を伺いに俺達の元にやってきた。
「ああ、コレです」
トゲトゲしい塊を魔法を使って海から引き上げる。
「あら、その棘の玉をどうなさるんですか?」
アクサは不思議そうに俺の手の上に乗るウニを見つめる。
あれ?ウニを食べないのかな?
「食べるんですけど?」
「えっ!これ、食べられるんですか!」
予想通り、アクサはウニが食べられる事を知らない様だ。
見た目がコレだから仕方が無いけど……。
「ミナ、ウニを何個か取ったから、皆に振舞ってくれ」
「はい、マスター、畏まりました」
キッチンの上にウニと、岩肌にいたトコブシを取ってのせる。
あとは、ミナやメイド達が美味しく料理してくれるだろう。
まだ、アオイやアクサに主目的を伝えてないけど……まあ、宴会だからな。
水龍人族の結婚の宴は、まだまだ続く。
お読み頂き、ありがとうございます。
いやー前回書くのを忘れた族長の名前をやっと書けました。
ちなみに、ヨーギルは婿養子です。
次回も引き続き海のお話になってしまいますが、よろしくお願いします。




