21.リアレス開拓(フィルの村)
お疲れ様です。
フェルの村です。
年も明けて1月7日
今日はアルフィーナが、フォートル達と一緒にフィルの村へ向かう日だ。
「じゃあ、行って来るのじゃ」
「ああ、気をつけてね」
「アルフィーナ様、どうか、お気をつけて」
リアレスの村で俺とミナは、アルフィーナを見送る。
フィルの村へは、鉱山の坑道から一日歩いたところなので、そこまで遠くは無い。
アルフィーナ達は、坑道まで道路が続いているので、ダンプカーで坑道入口まで行きそこから徒歩でフィルの村に向かう。
「何かあれば通信を送ってくれ」
「うむ、これは便利なのじゃ、遠く離れた相手と会話が出来るのじゃからのう」
アルフィーナは右の耳輪を触れる。
「フォートル、ジェナート、ボルガも気をつけてな」
「はは、ご心配には及びません。腕利きのボルガもいますし、魔女様は魔法が使えます。道中は恙無く進めるかと」
「はい、用心を怠る事は、ございません」
フォートル、ボルガが応えると、ジェナートも頷く。
「それでは、出発いたします」
「ああ、話し合いが上手くいくようにな!」
フォートル達が一礼してダンプカーに乗り込む。
ダンプカーは10トン車なので、2台に2人ずつに分かれて乗り込んだ。
運転手は、いつもダンプカーを運転している村の人々が担当してくれた。
最後にアルフィーナが乗り込むと、俺とミナに真白、そして本日村に来たメイドの月花と蓮花が手を振りながら、ダンプカーが遠のき見えなくなるまで見送った。
「顔が利くアルフィーナ様ですから、問題はないかと」
「うん、分かっているよ。さて、今日は液晶モニター配布後の放送内容の決定と、2月に植える作物の選定だね」
この2ヶ月以上、アルとミナ、それに真白ずーと一緒に行動を共にしてきたのでちょっと心寂しさを覚えるな……。
アルフィーナがフィルの村に出ている期間は、2日、長くても3日なので気持ちを切り替えて村の開拓作業に始める。
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行動の入り口までダンプカーに送り届けてもらったアルフィーナ一行は、一路フィルの村を目指すべく獣道に分け入る。
フィルの村とリアレスの直線距離は20キロメートルと、そこまで距離はない感じない。
しかし、実際には、道も整備されてない獣道、しかも山などを迂回するので距離はかなり伸びてしまう。
そのような中、アルフィーナ達は休憩を挟みながら1日歩きとおして、夕方にようやくフィルの村の近くまで到着する。
「ふう、今日はこの辺で野営して明日の朝にでも村を訪ねましょう」
「うむ、そうじゃな」
フォートルの一言に全員は頷くと、担いでいた袋を下ろし野営の準備をする。
アルフィーナもマサキとミナが作ってくれた、登山用のバックパックの留め金を外し背中から地面に下ろすとチャックを開けた。
「しかし、このリュックとか言うものは背負い易く作れない上に重い物の持ち運びが楽なのじゃ」
今のアルフィーナの格好は、村を訪れるための特別仕様だ。
服は今までの黒いボロボロの足元まで隠れるドレープの様なものにズボンを穿いている。
そして、靴は登山用のブーツ、手には通気性が考慮された皮手袋、首元まで覆う白のハイネックインナーを着込んでいた。
まったく、平気じゃと言ったのに聞きはせん。
アルフィーナは今まで通りで大丈夫だと言ったが、マサキ達は総出でアルフィーナが持って行く物を選択し製作していた。
もちろん、マサキ達がこの世界に来るまで着用していなかった(と言うかそういった物が無かったのだが)ミナお手製のブラとパンツまで着用している。
バックパックの中も充実している。
タオルや水筒に食料、非常用の携帯食や防寒シート、バックパックの下にはコンパクトに纏められた寝袋まで付いていた。
なんと言うか、マサキ達のの常識を詰め込んだのだが、この世界の住人達にすれば非常識なこと甚だしい格好だった。
「やはりマサキ様は凄いですな。このような便利な道具を思いつくとは」
「ああ、俺たちの住まいや食べ物など、その知識から多くの者が救われた」
いまだマサキ達が他の世界から来たことを知らないフォートルとボルガは、マサキが今までに作り出した物がマサキのアイデアだと思っていた。
この後に光ケーブルを使った放送や学校での教育で、マサキが来たこの世界とは別の世界の日本と言う存在を知ると、日本を学んだ者達は日本の事を敬仰していく。
「そうじゃが、私だけこの様にされると、かえって皆に申し訳ないのじゃが」
「いえいえ、マサキ様も言っておられたように、ゆっくりと改善されてきております。とは言いますが、私達の生活の変化も劇的ではありましたが」
「父の言うとおり、マサキ様が居られなかったら今でも食べ物に苦しんでいたでしょう」
薪を拾っていたジェナートも話しに加わる。
他の者達も遊んでいた訳ではなく、話しながら周囲の枝を折って地面に刺すなど簡易の柵を作ったり逃げ道を確保するなど、獣が突然現れた場合の対策をしていた。
アルフィーナはと言うと、バックパックの中から何かを取り出している。
「どれ、ジェナートよ、薪を置くのじゃ、マサキが渡してくれた物で火を付けてやるのじゃ」
アルフィーナがバックパックから取り出したのは、マサキがこの世界で最初に火を起こすのに使っていたファイヤスターターだった。
ジェナートが地面に薪を下ろすと、アルフィーナはマサキから教えて貰ったとおりの手順で火を起こす。
「なんと!こんなに簡単に火が起きるのですか!」
アルフィーナが魔法を使わずに道具であっと言う間に火を起こした事に、ジェナートや他の2人も驚いている。
いままで村の住人たちは、火打石を使って煮炊きの火を起こしていた。
もちろん今でも変わらず、旅先で火を起こす時用に火打石を携帯している。
「これは……便利な物ですね」
「うむ、私も使用方法を聞いただけじゃが、この道具の詳しい内容はかがくと言うものを学んでからなら理解し易いだろう、とマサキが言っておった」
「ほう、かがくですか……」
アルフィーナから渡されたファイヤスターターを信じられないと見入るジェナートに、アルフィーナの科学と言う学問に考え深げなフォートル
「ボルガ、言った通り鍋は持ってきたのじゃろう?」
「はい、こちらに」
ボルガは自分の荷物から直径40センチほどの鍋を取り出す。
「うむ、では、マサキから言われたとおりに木を組んで、そこに鍋を吊り下げるのじゃ」
ボルガは事前にマサキから教えて貰っていたように3本の木を火の回りに3脚の様に組むと、そこに鍋を吊るし火にかける。
「よし、あとは私が魔法で水を出して、煮立ったらこの短い麺と粉に米、それに何じゃ、その、ふりーずどらい……の野菜じゃったか、それに干し肉を入れてしばらく待つのじゃ!」
アルフィーナは、マサキとミナに教えて貰った通りに次々と食材を投入していく。
調理しているのは、簡単に言うとカップラーメンにご飯をぶち込んだような物だ。
ジャンクフードだが意外と美味しい!それに簡単に作れる上に米や麺は、水分を吸い込んで膨らむので腹持ちがいい。
この世界での旅の食事は、干し肉と固く焼き乾燥したパン、それに水だ。
他には、その場で取れた物も食べるのだが、基本はパンと肉だった。
「ほれ、お主ら、器を出すのじゃ」
「は、はい」
村を出る前に自分の器を持ってくるように言われていたので、いつもの移動では携帯しない食事用の器を3人とも今日は携帯してきていた。
「ほう、これは美味しいですな」
「ああ、このように村から離れた所で野菜が食べられるとは」
「そうじゃろ!そうじゃろ!マサキ達がの、旅先でも野菜が食べられるように作ってくれたのじゃ」
「へー、それは凄いですね!さすがマサキ様が考えられた物ですね」
フォートルが味を評価し、ボルガが旅先での野菜摂取に感心し、アルフィーナの言葉にジェナートは、この野菜をマサキが考えた物と勘違いした。
食事も終われば就寝となる。
フォートル、ボルガ、ジェナートが交代で火の番をし、アルフィーナはそのまま眠る事になった。
もともと3人でフィルに赴く予定だったので、アルフィーナが火の番をする必要はないからだ。
アルフィーナが眠る寝袋は、袋と言っても人型に全身を覆うタイプでいざと言う時に動けるようにしてある。
着ぐるみ型寝巻きのような物だ。
日も昇りだして夜が明けると、4人は手早く朝食を済ませてフィルの村に入る。
「おお!フォートルではないか!変わった格好をしてたから分からなかったぞ!」
4人が村に入ると、若干年をとった紺色の毛並み獣人(狼型)が迎えてくれた。
ジニスの言う変わった格好とは、フォートル、ボルガ、ジェナートが現在着ている物が、いつのも麻を編んだような粗い布地の服ではなく、現在リアレスで製作中の蜘蛛の糸を編んだ布で作った服を着ている。
布には色が付けられて、そこまでカラフルではないが、今までの様に単色の色合いではない。
ボルガにいたっては、今まで裸だったのに、今では羽を通せるようにスリットが付けられた服を着ていた。
「ジニスか!久しぶりだな」
フォートルとジニスと言う獣人の男は、お互いに無事再会出来た事に肩を叩きながら喜んだ。
「久しいのうジニス、いつ以来かのう」
「これは、魔女様!」
フォートルの後にアルフィーナが出来てた事にジニスは驚く。
「フォートルが来たと言う事は、今日は水の話だと思ったのですが……魔女様まで一緒とはいったい?」
「うむ、色々と話があるのじゃ」
「魔女様が仰っている通り、ワシらが着ている物や履いている物についても話があるのだ、ジニス」
「何か変わったことがあったのだな……話を聞くにもここでは何なので、私の家にどうぞ」
4人はジニスに案内され、ジニスの家に迎えられる。
ジニスの家に到着すると、フォートルやボルガ、ジェナートがジニスと話を始める。
話す内容は、本日来た目的の水の利用量について、そしてなぜ水が必要無くなったのかの経緯を話した。
アルフィーナもジニスから質問があるたびに、そのつど詳細に答える。
「なるほど、魔女様のお連れのマサキ様が、村の者達の食糧や生活を良くして……それに、子供達に文字の読み書きを教える事になっているとは」
ジニスは信じられないと言った表情でフォートル達を見る。
しかし、フォートル達の言葉やその着ている物で信じるしかなかった。
「今は、寒い時期にも暖かい時に育つ植物を、温室と言う施設で育てているのだ」
「うむ、畑へ種まきも、そろそろじゃから、そうじゃのう……ジニス、お主は収穫が終わった後にでもリアレスに来るといいのじゃ!」
アルフィーナの言う収穫時期とは、秋頃の事で収穫が終われば村の者達は一息入れる。
その時期には、村を纏めるジニスにも暇が出来るという配慮が為されている。
それに、リアレスの村の収穫量がどれほど上がるかは、その時になって見なければ分からないからだ。
「はあ、魔女様の仰るように、その頃にはリアレスに訪れる事も」
「親父!魔女様が来てるって!」
ジニスの話が終わる前に何者かが、大声をあげて激しく扉を開け家の中に入ってきたので中断された。
「ドルフ!今は話し合い中だ、大声を出すのではない!」
ジニスは立ち上がって入ってきた者を怒鳴りつける。
こちらも鼓膜が痛いほどに大きな声だ。
「おお、ドルフか久しぶりじゃのう」
「魔女様!」
アルフィーナが挨拶する物は、ジニスと同じく紺色の毛並みをした獣人(狼)で、その顔にある左目は何かにえぐられた様な傷があり隻眼だった。
「ふむ、もう、左目が無くても大丈夫の様じゃな」
「魔女様……昔のことですから」
アルフィーナの言葉に、ドルフの今までの言動が急に大人しくなる。
この理由は、過去のドルフが幼少時代の話にまで遡る。
当時子供だったドルフは、大人達に入っては駄目だと言われた森の奥に入り大きな熊に遭遇する。
子供と熊では力の差は明らかで、熊の一撃がドルフに襲い掛かり左目を貫かれ負傷してしまう。
万事休すかに思えた時に助けてくれたのが、当時たまたま村を訪れていたアルフィーナだった。
それ以降、ドルフはアルフィーナの事を尊敬し憧れの存在へと変わっていった。
「バカ息子が失礼しました。魔女様のご提案の通りに、作物の収穫後にリアレスに訪れたいと思います。その時に魔女様の連れのマサキ様に挨拶したいと思います」
ジニスは深々と頭を下げて謝罪と、リアレスに赴く時期を決めて伝える。
「おっ、親父!魔女様の連れってなんだ!?」
「ええい、うるさいわ!後で話すので下がっておれ!」
年を取っても獣人族の瞬発力は衰えておらず、自分より大きなドルフを、ドルフが掴みかかった勢いに任せていとも簡単に投げ飛ばす。
後方に飛ばされたドルフは、凄い音と共に地面に叩きつけられると、白目を向いて気絶してしまった。
この親子には日常茶飯事の光景なのだろう、周りの者も気にした様子が無い。
「と言う事で、よろしくお願いします」
「うむ、分かったのじゃ!それでは、私達はこれで失礼しよう」
目的の事も伝えたのでアルフィーナ一行は席を立つ。
「まだ、来たばかりでしょうに、ゆっくりされては?」
「なに、向こうには待たせておる者も居るのでな、話す事も話したので帰るとするのじゃ」
引き止めるジニスを手で制止し、帰ることを変えずに家を出るアルフィーナ
この村は、リアレスにマサキが最初に訪れた時ほどに食糧に困窮してはいないのだが、しかし、余裕があるというわけではない。
自分達の手持ちはあと一日分の食糧しかなく、アルフィーナ達が村で一泊すればそれだけの食糧が必要となる。
それよりも自分たちの事は、自分達で賄う事を最初から決めていたみたいだ。
「あのバカには後で説明しますのでご安心を、それでは魔女様お気をつけてお帰り下さい」
「うむ、親子とも仲良くするのじゃ!それと、お主達がリアレスに来るのを楽しみに待っておるのじゃ」
ジニスに別れの言葉を告げたアルフィーナは、フィルの村を後にリアレスの村に向かって歩きだす。
次は、ジニス達がリアレスに訪れた時、ジニス達がどのように驚くのかを楽しみにして……。
お読みいただき、ありがとうございます。
今回は、フィルの村でドルフが登場しました。
なぜ隻眼なのか軽く書きましたが、実はここに5000文字近く書いていた事に後で気付き修正して軽めにしました。
別の話で詳しく書ければな、と思っています。
パソコンの調子しだいでは、投稿期間が空くかと思いますが、出来るだけ早めに投稿したいと考えていますので、よろしくお願いします。




