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2.出会い

 店から出ると、そこは何も見えない暗闇だった。

 最初は入口の蛍光灯が切れたのかな? 程度に考えていたのだが、そうではない。

 どこを見回しても、僅かな光すら見付ける事は出来ない闇だった。


 「なっ、なんだ?」


 突然の出来事に驚きを隠せない。


 1時間ほど前に店に入るために階段を降りた時は、確かに薄暗いなと感じた。

 けれど何も見えないほど真っ暗くはなかった。

 しかし、今は何一つ見えない暗闇が広がっている。


 焦る気持ちを抑えつつ俺は、視界を確保しようとジャケットのポケットにある携帯を取り出しスリープモードを解除する。

 携帯の画面が明るくなり前方をボンヤリ辺りを照らし出した。


 「なっ……なんだって!」


 携帯の明かりで現れた景色に俺は目を見開いて驚愕する。

 そこに現れたのは、剥き出しの岩肌

 人工物ではなく凹凸の激しい自然の岩が周囲に現れたのだった。


 「は?えっ?」


 何が何だか分からず照らし出されている岩に口を開けたまま呆然とする。


 「何が……起こったんだ……」


 店に入る前に通った通路や階段などの人工物は微塵みじんも無く、自然に出来てであろう洞窟に景色が一変していた。

 もう訳が分からない。

 俺は目の前の状況に訳も分からず引き返そうと扉の方へ振り返った。


 「えっ!? とっ……扉が無い!」


 そう、そこに有ったはずの扉は無かった。

 眼前には荒い岩肌が立ちはだかるばかりだ。


 必死で辺りを形態をかざし照らして扉を探すが、扉の痕跡はどこにも無く無機質な岩肌だけが現れるばかり。

 俺は携帯電話の懐中電灯機能を思い出して、急いで操作し懐中電灯をONする。

 今までより更に光度が増しより遠くの範囲を照らし出すが、やはり岩肌が続く空間ここはどうやら本当に洞窟の中のようだ。


 「嘘だろ!? 店から1歩か、2歩しか出てないのに……なんで」


 頭の中が混乱はさらに増大する。

 しかし、こんな時は慌てるとかえって危ない。

 とりあえず俺は冷静になるため目を閉じ深く息を吸い込む。

 そして、ゆっくり吐き出し深呼吸を数回繰り返した。


 多少なりとも落ち着いたので目を開き改めて周囲の状況確認を行う。

 目を凝らしてよく見回すが、どこを見ても先ほどと変わらず岩ばかり人工物すら発見できない。


 俺は目だけではなく耳も使い何か聞こえないか、どんな小さな音も聞き逃さないように耳を澄ました。

 しかし無駄だった。

 何も聞こえない。

 耳にに入ってくる音は、自分の呼吸と衣服がすれる音だけ、それと時折水が落ちる音が聞こえてくるだけでの静かな空間が広がるだけ……。


 「おーい!誰かーーっ! 誰かいないかー!」


 混乱と不安に押し潰されそうになり助けを求め暗闇に思いっきり叫んだ。

 自分の声が周囲の岩に木霊するだけで何の返事も帰って来る事は無かった。

 数回繰り返し助けを呼んでみるが反応は無し。


 「まいったな……、とっ、とりあえず外へ出ないと」


 自分が置かれた状況を理解できずに頭を抱えながらも、真っ暗な洞窟で助けを待つより外に出た方が安全だろうと考えて決断する。


 もしかしたら俺は考え事をしていて気が付かない内にどこか他の場所へ迷い込んだのかもしれない!


 自分を落ち着けるために無理やりポジティブな理由を見つけ焦りを抑え様とする。


 「そうだ! 風だ、風がある方向へ進もう!」


 浅はかな考えだが洞窟の中で風が吹き込んでくる方向を見つければ外に繋がっているはずだ。


 ジャケットの中を探り、ポケットに入っていたティッシュを一枚取り出す。

 それを細く千切って少し微細の風でも動く紙糸を作り風の流れを確認した。


 弱々しい携帯の懐中電灯の明かりの中、ティッシュが少し動いた。

 どうやら風が流れているようだ。

 風がある事にホッと胸を撫で下ろし俺は、風の出ている方へ懐中電灯の明かりを向け足元を確認しながらゆっくり慎重に歩き出す。


 地面や風の流れを確認しながら少しずつ前へ歩を進める。

 いったいどれだけの時間が歩いたか分からない。

 風の出ている方向に向かっているため上っているのか下っているのか分からない。

 方向感覚が狂っているようだ。


 気が狂いそうになるほどの長い時間をいずるように歩き、ようやく遠くの方に明かりが差している場所を見つけた!


 明かりを見付けた瞬間、俺の中に感動と安堵の気持ちが溢れ出てくる。

 しかし、ここで何かあったら元も子もないと思い気を引締め俺は走り出そうとする気持ちを押さえ込み、足元を確認しながらゆっくり明かりの方へ近づく。


 そしてついに明かりの元までたどり着いた!

 暗い所から急に明るい所に出たためか、光のまぶしさに目を細める。

 強い光を手をかざして目を守りながら明かりが差し込む先へ足を踏み出す。


 「なんだ……ここは!?」


 ようやく光に慣れてきたので目を凝らして外の様子を伺うと俺は自分の目を疑った。

 目の前に広がる景色は、昨日まで居た実家の山間部とは似ても似つかない鬱蒼うっそうとした木や草が生い茂った森

 それが延々と続いていたのだから!


 夢中で意識が飛んでいたという俺のポジティブな思考はこの時粉砕された。

 いくら夢中になって考え事をしていても、やぶの中に顔を突っ込めば普通は気付くものだ。


 「いったい、ここは、どこ何だ?」


 疑問が口から漏れる。

 しかし、それに答える者は誰もいない。


 「すーーーーーっ……はーーーーー……」


 とりあえず深呼吸を一度して気持ちを切り替える。


 もう悩んでもしょうがない、まずは自分が置かれた状況を整理するため周りを見回した。


 どうやら俺がいる場所は森を少し高い位置で見下ろしている。

 山の斜面か? そこにぽっかりと口を開けた横穴の入口にいるようだ。


 さらに目を凝らす。

 この森は間伐などは一切されていない、つまり人が入った形跡がまったく無いように見て取れる。

 遠くに目をやるが、やはり人家も道も見えない。

 ましてや日本の山で良く見るあの高い電線の鉄塔すら見あたら無い。

 ただ森だけが、ひたすら続いているだけ……。


 手に持つ携帯電話の画面を見ると予想通り電波は県外

 バッテリーに目をやると電池残量にまだ余裕があるが、次にいつ電波と繋がるか分からない。

 イザと言う時に電話が使えないのは死活問題に繋がる。

 とりあえずそんな時に電話が使えるようにするため電源を切る事にした。


 いくら見回しても記憶に無い場所と言うかどうやって来たのか分からない。

 そのうえ人っこ1人いない森の中、つまり俺は現在遭難していると言うことだろう。


 絶望と死などの不穏な文字が頭に過ぎる。


 「遭難か……そういえば山菜爺さん言ってたな……」


 むかし子供の頃に山菜取りに近所の爺さん(自称山菜取り名人:俺は山菜爺さんと言っていた)と山に入っ時に言われた言葉を思い出した。


 「もし山で迷ったら水を探すんだぞ。 水さえ確保できれば生き残る可能性がうーんと高くなるんじゃ」


 確かに水だけでも人間は数日生きていける。

 幸い食料もあるので数日動くのは問題ない。


 普通の遭難なら、動かずに救助を待つのも一つの方法だろう。

 だが、俺にはもう身内がいない。

 行方不明になっても俺が居ない事に直ぐに気が付く人はいないだろう。

 会社を無断欠勤すれば上司や同僚が気付き俺の携帯に電話して連絡を入れるかもしれない。

 それでも連絡が取れなければアパートへ直接来る可能性だってある。

 そこで本人の所在の確認出来ない時は警察へといった流れになると思うが、どう短く見積もっても数日はかかはずだ。


 ……と言うかそもそも、ここが何処かも分からないのだから救助が来る可能性は低いだろう。

 その場合ここでじっと待つ事は危険だ。

 それなら行動を起こして自分から生きる、助かる方へ歩いて行くしかない!


 俺は山菜爺さんの言葉を信じ小川を探すため鬱蒼と木や草が生える森の中に足を踏み出した。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 大樹の落ち葉が降り積もった場所で座りながら今まで起こった事を振り返っていた。


 気が付くと荒い呼吸は落ち着き、藪の中の移動で大量にかいた汗も引いていた。

 ようやく気持ちが落ち着いたので、手持ちの食料を確認する。


 食料は貰い物がたくさんあるので数日は何とかなるな……。

 けど、水が無か……。


 500mℓのペットボトルに入っていた水は残り2/3、あとは同じく500mℓペットボトルのお茶だけしかない。


 「これは慎重に飲まないといけないな、何によりもまずは水を探さないと……よしっ!」


 気合を入れて立ち上がり大樹を背にして周囲を見回す。

 頭上では、大樹の葉が頭上を一面におおっており若干薄暗いが、葉の隙間から木漏れ日が優しく辺りを照らしており周囲を見渡すのには問題は無い。


 20~30mの空間に落ち葉が敷き積もった先には、木と草しか見えない。


 「まいったな、ここまで川も見なかったし水の流れる音も聞こえなかったぞ……」


 疲労と落胆によって、俺の腰が落ちそうになる。


 その時、ほんの一瞬、俺の視界の端にかがやく物が目に入った。

 もしかしたらと思い足に力を入れ淡い望みと共に俺は光の方へ近づいてみる。


 するとどうだろう。

 その枝の隙間から水面が見えた。


 「あぁ……よしっ! やった! ようやく見つけた! あぁこれで水の心配をせずにすむ……」


 疲労で傍らに立っていた細木に寄りかかると安堵のため息が出る。


 まずは水面の大きさ、それと水質を確認しようと枝を払い退けて前へ進む。

 枝や草を掻き分けて丘を下っていくと水面を一望出来る場所に辿り着いた。

 水面の岸には木々が生い茂っており正確な大きさは分からないが、対岸が遠くにあることから大きな湖か何かである事が分かる。


 「よーし! よし! あとは暗くなる前にかまどと寝る所を作らないとな」


 ようやく見つけた水に感激でコブシを握る。


 空を見るとまだ明るいが、陽もだいぶ傾いていたので俺は直ぐに意識を切り替えた。


 周囲の状況から夜になったら明かりも無いだろ。

 光の無い森では、前に進む事すら困難だ。

 それに野生動物に注意する必要だってある。

 それなら日の明るい内にやれる事をやっておかなければならない!


 気合を入れて水辺近くで、拠点になりそうな場所を探しだす。

 大樹の近くで比較的平らな場所があったので生い茂っている草を平らになるように折り曲げる。

 竈を設置する場所は火を使うので草を引き抜き土をき出しにした。


 ある程度場所を確保した後に周囲で手ごろな石を集め簡単な竈を作くるとついでに枯れ枝も集めた。

 これを竈に積み重ねればあとは火を付けるだけだ。


 火を付けるためによく乾燥した木の皮を細かく削る。

 それと乾燥した落ち葉、これらを積み上げた枝の手前に置いたら非常時用に色々詰め込んだ鞄を開け中にあるファイヤスターターを取り出した。

 ファイヤスターターの火が飛び散るマグネシウムの部分を軽く削りマグネシウムのカスが落ち葉と木の削りカスに降り掛かると、あとはファイヤスターターを勢いよくって火花を散らした。

 数回繰り返すと火花がマグネシウムのカスと反応して連鎖的に燃え移る。

 それが落ち葉と木の削りと燃えていき次に枯れ枝へ移っていった。


 何にも無い状態で森の中で火を起こすのは、かなりの労力を必要とする。

 たしかに枝と枝を擦れば摩擦熱を起こす事が出来る。

 しかし、素人がそれをやってもすぐに火を起こす事は難しいだろう。


 本当に持っていてよかったよファイヤスターター。


 焚き火が順調に燃えていることを確認し非常用の鞄からキャンプに使う鍋を取り出す。

 鍋はキャンプで使う定番のクッカーだ。

 これは蓋を開けると更に小さい鍋が中に納まっていて合計3つのサイズの違う鍋が出てきた。


 一番大きい鍋を持って水面まで降り水をゆっくりすくうと、その水はゴミも無くこのまま飲めそうな綺麗な水に見える。

 しかし、生水をそのまま飲んだらお腹を壊す可能性が高いため蓋をして沸騰させるため竈に鍋を置いた。


 十分沸騰したら鍋を竈からおろして熱を冷ます。

 ある手度冷めたところで蓋を外し匂いをいでみた。


 「特に変な臭いはしないな」


 次に軽く口に含んでみる。

 口の中で水をコロがしてみるが、臭みや、エグ味もないので、飲み込み胃の中に入れてみた。


 「うん、大丈夫だ!」


 水が問題無く飲める事と、ようやく水が確保できた事に安堵し煮沸した水をペットボトルに入れる。

 ペットボトルに入りきれない水は直接鍋に口を付け一気に飲み干した。


 「水も確保できたし、どれ、さっそく飯にでもするか!」


 再び鍋に水を汲んで火にかけ沸騰させる。

 バックをあさって中に入っていた貰い物の袋ラーメン(みそ味)を取り出す。


 袋ラーメンならすぐに出来る。

 それに美味い。


 袋を開けて中の麺を煮立った鍋に入れる。

 少し経つと、麺がほどよく柔らかくなったので竈から降ろし粉末スープを入れかき混ぜた。

 よく掻き混ぜた鍋からは、湯気と一緒に味噌の良い匂いが鼻をくすぐる。

 美味しそうなラーメンの臭いを嗅いだせいか、胃が収縮したまらず涎が出てきた。


 「よし! それじゃ、いただきます!」


 両手を合わせ頂きますをして茶色いスープの中にある縮れた麺を箸で持ち上げる。

 麺から湯気が昇り、汁が垂れ熱々である事が一目で分かった。

 「フーフー」 と、二度息を吹きかけ軽く冷まして口の中に麺を運ぶ。


 「ずっずずーー……」


 まだ熱かったが、気にせず口の中に運んだ。

 ちぢれた麺が、味噌のしょっぱさと絡み合い、口の中に広がる。

 間をあけずに麺を咀嚼すると麺の甘味が広がって行く。

 これが、しょっぱいスープと良く合う。

 数回噛んだあと飲み込むと、熱いラーメンが胃の中に落ちて行くのがハッキリと分かった。


 「んーーーっ、美味い! うまいな~~~、朝から何も食べていなかったからな~」


 食事は簡素な麺と味噌味のスープだけ。

 しかし、この簡素な食事は魔法でも掛けたかの様に極上の食事に変えていた。


 俺はラーメンの味に感激し再び箸で麺を掬い上げて口に運ぼうとした。


 「おい! それは何じゃ?」


 いきなり発せられた声に驚き俺は、麺を持ち上げ口を開いたままの状態で声のした方向へ顔を向ける。

 そして、声の発声もとを見た瞬間、俺はその姿勢のまま固まってしまった。


 目の前には、10代後半か20歳くらいだろうか? 凄い美女が夕日に照らされて立っていた。


 顔は西洋系の整った顔立ちで瞳は大きく赤色

 髪も同じく赤色で腰の辺りまで伸びている。


 その姿を見たら10人中10人は、美人だと答える容姿をしている。

 服は修道士が着ている様な黒のドレープみたいなのを着ていた。


 しかし、なんだかこの美女は、全体的にすすけているように見える。

 髪はあまり手入れをしてないのか所々ハネており服も端の方が擦れてボロボロになっていた。


 いきなり現れた美女を前に、左手に鍋、右手に箸を持ち、口を開けたまま呆然としていると


 「おい!聞いておるのか? 私は、その食べている物は何じゃと聞いておるのじゃ!」


 思考停止状態な俺に煤けた外人美女は、さきほどと同じ質問をしてくる。


 あれ? 外人? 外人さんだよな? 何か言っているな、えっと、ええと、何か言わなきゃ


 「えっ、あっ、な、ナイストミーチュー」


 動揺で何を言って良いのか分からず、なんとも摩訶不思議な発音の英語が出てきた。


 最近の子供でも、もっと上手に英語を話すだろうに、凄まじい英語風の日本語が出てしまった。

 

 「ないすと、みつう? それは、ないすとみつうと言うのか?」

 「えっ、あれ? 日本語?」

 「にほんご? お主は、何を言っているのじゃ?」


 日本語だ、日本語しゃべってる! でも、日本語なにそれ? って状態の外人さん、ああ、そんな事より確認しなきゃならないことがある!


 「あぁ、すいません、あのー道に迷ってしまって……ここは、いったいどこ何でしょう?」

 「なんじゃ迷い人かえ、しかしよく分からん事を言う。 ここは“名も無き森”の中じゃろうに」


 名も無き森? 何処かの地名かな?

 とりあえず、この日本語を話す日本語を知らない外人さんに質問を重ねる。


 「名も無き森? それは、どこの県ですか?」


 「剣? いきなり何を訳の分からない事を言うのじゃ、変な奴じゃの。 名も無き森はそのままの事で名前が無い森じゃ。 ここ魔界では名などが付いている場所の方が珍しかろう?」


 へ? 今……まかい……魔界って言った? ウソでしょ? いや待て、俺が知らないだけで日本の何処かにそんな土地があるのかも知れない。

 それかようやく人に会えた事の興奮して聞き間違えたのかもしれない。

 よし落ち着いてもう一度聞いてみよう。


 「マカイ? とは、日本のどこら辺でしょうか?」


 「にほん? なんじゃそれは? 何かの名かえ? 私はそんな名は知らんのじゃ! ええい! そんな事よりも、それをよこせ!」


 一番肝心なところをそんな事扱い。

 さらに痺れを切らした外人さんは、俺の持っている鍋と箸を無理やり強奪していった。


 「なんじゃ? この木の棒は? まあ良いそれよりもコレじゃ! ん~良い匂いじゃ、どれ……」


 箸を握りしめて麺を掬い上げようとするが、うまく掬えずいる。

 業を煮やした外人さんは、鍋の端に麺を寄せそのまま口に掻き込んでいった。


 「ずるずるずる……ん~美味じゃ、ちょっとしょっぱいが不思議な風味じゃのう! ずずーー」


 俺は、外人さんでもすすれるんだーと、変な所に感心しながらラーメンを食す外人さんを呆然と見ていた。


 「プハー、うむ、久しぶりの食事じゃが、なかなかじゃったぞ!」

 「あ、はあ、いや、そんな事より、ここは日本じゃないんですか!?」


 空っぽになった鍋をつき返されてようやく俺は我に返った。


 「さっきからよく分からんが、日本と言うのは国のことか? ならば違うのじゃ、ここは魔界じゃ、マ・カ・イ、私達はそう呼んでおる」


 あーーマジかー! 日本語を話す外人さんで日本を知らないで疑問だったけど、しかもここは魔界だって意味不! 魔界なんて地名聞いた事が無い。

 ……もしかして地球じゃ無い……の?


 「えっ! ここは別の世界なの? 地球じゃなくて? 無いでしょ普通! マンガやラノベじゃあるまいし……」

 「別の世界? ちきゅう……お主は別の世界から来たと言う事かえ?」

 「はぁ……マジか……現実にあるんだ……夢じゃないのか? 頬をつねれば起きるかな?」


 外人さんが何か言っているが、無視して頭を抱え込んで現実逃避をはかる。


 「こりゃ! 話を聞かぬか!」

 ーーボカッ!!!

 「がっ!!!」


 一人でブツブツ言っている俺に業を煮やした外人さんは、近くに落ちていた木の枝で俺の頭を容赦なく殴打した。


 「……ーーつぅ~~ッッ! ……なっ、何するんですかっ!」

 「話を聞かんからじゃ! それで、お主は別の世界から来たのかえ?」

 「はあ、……ここが日本やアメリカ、イギリスとかの俺の知っている国が無ければ、俺は別の世界、異世界に居るってことでしょうね……」

 「にほん、あめりか、えげれす、すまぬが知らんのう……その着ている服や持っている物を見るとあながち嘘ではあるまい」


 シゲシゲと俺の持ち物を観察して外人さん。


 どうやら異世界確定のようだ……なんで来れたんだろう? これが、いわゆる神隠し的なモノなのかな?


 異世界にいるという衝撃的な事実と頭が混乱しているせいか、身体から一気に力が抜けてその場にへたり込んだ。


 「ふむ、異世界のう……よし、こっちへ来い! もうすぐ暗くなる、こんなところに居ては危ないからの私の家に来るのじゃ!」

 「へ? 家ですか? この辺さんざん歩き回りましたが家なんて一軒も見ませんでしたよ?」

 「何を言うておる、そこに在るではないか!」


 首を傾げる俺に、外人さんは大樹の方に指を差す。


 「あの……木ですか??」

 「そう、我が家じゃ! 久々の客じゃ、しかも別の世界の者! 歓迎する様な物は何も無いが歓迎しよう! 付いて来るのじゃ!」


 特に気にした様子も無くズンズンと木の方へ向かう外人さん

 そんな様子を茫然と見ていた俺だったが、すぐにこのままだと置いていかれると気付き慌てて自分の荷物を持って外人さんの後に続いた。


 木の前まで来ると外人さんは木に手をかざして目を閉じると何かを念じだす。

 すると木の表面がうっすら光ったかと思うと、スーッと木の表皮が扉の様に開いていくじゃないか!


 「何をしておる、付いて来るのじゃ」


 あまりにもの光景に驚き呆然としている俺に外人さんはサッサと入る様にうながす。


 異世界なんだ! もう何でも有りさ! もういい、考えるのやめる!


 俺はこれ以上考えるの辞めて、促されるままに木の中へと入る。


 木の中に入ると天井付近で蛍光灯でない何かが光っており、部屋の全体を優しい明りで照らしていた。

 中は8畳ぐらいの大きさだろうか? 立派な部屋になっている。

 2方面の壁が棚で真ん中に机と椅子、あとは奥の方に上へ上がる階段がある飾りっ気のない部屋。

 しかしも棚や机そこらじゅうに良く分からない本で溢れかえっていた。


 「どれ、それじゃその椅子に座るがよい! ああ~椅子の上にある本は、そっちの棚に置くのじゃ」


 俺は言われるがまま本を棚に置き椅子に座ると、机を挟んで外人さんが対面に座る。


 「茶は無いぞ、私は飲まん……あぁ、別の世界から来たのなら、私の事も知らんのじゃな。 ひとまず名前からじゃな。 私の名は、アルフィーナじゃ、もっとも、ここ200年は魔女と呼ばれておるがの」

 「200年? 魔女? ……へ? ……あっ! 俺は、素鵞真幸そがまさきと言います。素鵞が姓で真幸が名前です。」


 尋常じゃない事を平然と言われ一瞬頭がフリーズするが、すぐに頭を切り替えて自分の名前を名乗る。


 「ふむ、姓か……まあよい、で? お主は別の世界から来たと言ったな何処から来たのじゃ! どんな世界なのじゃ!」


 アナフィーナは、俺の居た世界について興奮しながら聞いてくる。

 別に隠す様な事は無いので俺はアルフィーなの希望通り日本の事や生活について説明する。


 話していくとアルフィーナは日本の文化や技術水準に驚いている様だ。

 電車や飛行機に衝撃を受けていた。

 よくマンガやラノベにある“鉄の箱がっ!”みたいな感じで驚いている。


 アルフィーナの疑問や質問に答え、ようやく一区切り付いたところで次に俺もこちらの世界について詳しく聞いた。


 アルフィーナから色々と話を聞いていくと衝撃を受ける!

 なんと、この世界には魔法があると言うのだ!

 そう魔法だ現実では使えるはずも無い魔法が、この世界では当たり前のように有ると言う。


 魔法以外にも、ここ魔界ついて聞くと多くの種族が混じって暮らしたり、単一の種族が孤立して生活してたりで、どうやら魔界には、一つの国として機能して無いようだ。

 種族については、定番のドワーフや獣人、それと頭角族と言う種族など多岐にわたる。

 多くの種族が暮らしている村々が点在して存在しているらしいが、どこも貧しく日々食べていくだけで大変らしい。

 そして、彼らの持つ技術水準もそれほど高くないと言っていた。


 また、アルフィーナ自身の事も教えてくれた。

 なんとアルフィーナは、魔界の外の大陸にある国の生まれで幼年から他を圧倒するほど魔法に才能があったそうだ。

 しかもその国での最上位の魔法使いとして国に使えていたらしい。

 しかしある時、魔法の実験に失敗し魔力暴走で生死の境を彷徨うほどの大きな事故を起こしたそうだ。

 運良く生き延びはしたが実験の副作用か何かで年を取らなくなった事、それと付随して食事も取らなくても生きていける様になっていたそうだ。


 事故後、老いを無くしたアルフィーナの容姿が80歳を超えても20歳ほどの姿に、周囲の人々はアルフィーナの姿が何年経ってもそのままである事に恐怖しだし、恐怖に耐え切れなくなった一部の人々が王国にアルフィーナを処刑するように願い出たそうだ。

 しかし、最高位の魔法使いでもあるアルフィーナの事を国としても簡単に処分できる存在ではなかった。

 そのため国が取った行動は、アルフィーナを半ば監禁に近い状態で研究室に押し込めて監視し出てきた研究結果を独占し甘い蜜をすすり続けていたしい。

 そんな状況に嫌気が差したアルフィーナは、研究室を密かに抜け出し港で密かに船に乗り国外逃亡をする。

 しかし出港した船は、大嵐に遭い流され航路が分からなくなり、数日の漂流の末ここ魔界の浅瀬で船が座礁

 船員は船に残る者と陸に上がる者で分かれ、陸に上がった者が現在の村落に数人いるらしい、

 アルフィーナも陸に上がり数日森を彷徨った後、この湖と木を見つけて住居にして今に至る。


 俺は、もっと魔法について聞きたかったので話を続けようと口を開いた時に、腕時計から数回のアラーム音が鳴る。

 腕時計を確認すると、もう11時の時間を表示していた。


 「もう、こんな時間か」


 ググーーーッキュルキュルキュルッ!


 腕時計を見ながら呟くと同時にお腹から盛大な音が鳴った。


 朝ご飯以降は夕方にラーメンを一口しか食べていない、当然と言えば当然か……てか、ラーメン取られたし……。


 「はは、失礼しました。 ちょっと何か食べようかと思います」

 「おお! すまなかったのう、“ないすとみつう”はワシが食べてしまったからのう」

 「ああ大丈夫ですよ。 あと、あれはラーメンと言う私の世界の食べ物です」

 「ほう、ラーメンと言うのか、アレは美味よのう……」


 アルフィーナさんは恍惚こうこつの表情をしている。

 まあ、それは置いといてとりあえず鞄から非常用携帯食のカ○リーメ○ト(メープル味)を取り出し食べる事にした。


 携帯食だけどボソボソ粉っぽくて、なかなか飲み込みにくい。

 唾液を奪われ飲み込めないのでペットボトルを取り出して、中の水と一緒に粉末を一気に流し込んだ。


 「ん? それは何じゃ? なにやら飲み込みにくそうじゃが?」

 「あ、あげませんよ!」

 「まあ、まあ、そう言わずに、ホレホレ!」


 またもや強奪される。

 さいわい1本だけの強奪で済んでよかった。


 「ん~、美味しいのじゃが、口の唾液がなくなってしまうのう、ングング」


 ペットボトルも奪われ飲まれたよ……。

 まあ、少しだけなので良かったけど……この人は本当に何も食べなくても生きていけるのか疑問に思ってしまうよ。


 とりあえず、残ったカ○リーメ○トを急いで頬張り水で流し込む。

 お腹が若干膨れ一息ついたところで続きをしようとアルフィーナの方に向き直るが、腹が膨れたせいか溜め込んだ疲労のせいか、急激な眠気に目蓋が重くなった。


 「あっ、すいません。 何かお腹が膨れたら少し眠くなっちゃって……」

 「なんじゃ 眠いのか? まあ、聞くところに今日は色々とあった様じゃからの」


 さすがにこれ以上起きているのはキツイ、俺は落ちてくる目蓋と格闘しながらアルフィーナにお願いしてみる。


 「ご迷惑でなければ、ここで眠っても良いですか?」

 「かまわぬが、ここで良いのか? 眠るのなら私の寝所を使ってもかまわぬぞ?」

 「いえ、お気遣い感謝しますがこれ以上ご迷惑をお掛けするのは……私はここで大丈夫ですので、寝所の方はアルフィーナさんご自身でお使い下さい」


 こんな森の中に住んでる魔女さんなのだ、寝所は自分のしか無いだろうし折角屋根の付いた建物に入れてくれたんだ我侭言ってはいけない。


 とりあえず荷物の中にあるバスタオルを床に敷きジャケットを掛け布団代わりし、タオルを丸めて簡易の枕にした。

 

 「色々と教えて頂き、本当にありがとうございます。 すいません、これ以上起きている事が出来ないみたいです。 お先に失礼しま、す……」

 「まあ、明日もお主の話を聞きたいしのう……もう眠ったかえ、疲れているんじゃろうな、ゆっくり休むがいい」


 泥の様に眠るマサキを見てアルフィーナは静かにささやいた。

 文章作りって難しいですね、言葉の言い回しとかを考えると、本当に……。誤字脱字とかはともかく、一度直し、二度直し、三度目で分けが分からなくなる。はあ、私にもっと文章力を下さい。

 さて、物語は、新キャラ登場って、まだ2話で主人公以外、2人しか登場していない作品じゃないですか!

 さてさて、新キャラのアルさんは、いったいどの様に物語りに絡んでくるんですかね~、お話は、まだまだ序盤の序盤なので気長に、そして長い目で見てやって下さい。


平成30年8月14日 修正と加筆をしました。

読み易くなっていれば幸いです。

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