15.閑話 働くメイドさん
お疲れ様です。
本当は村の開拓を書こうと思っていたのですが、あれっ?家に残ったメイド達は何をしてたんだ?と言う思いに至り今回の作品となりました。
魔導人形の性能の一端が垣間見える内容となってます。
「では、何から始めましょうか?」
舞花はキリッとした表情をしているが、あまり起伏を感じられない声で長いツインテールを揺らす。
「まずは、お掃除とお洗濯からですかね?」
蓮花は、腕を組み右手の人差し指を口元に当て考えるように応える。
「そうですね~、私はお洗濯をかけてきますから、お二人はお掃除から始めて下さ~い」
翠花は、ゆったりと語尾を伸ばした発音で率先して洗濯をすると言った。
「分かりました。では、私は各部屋の掃除をします。蓮花はお風呂の掃除と渡り廊下の掃除、翠花は洗濯後、居間、台所、洗面所にトイレの掃除をお願します」
「了解!」
「分かりました~」
テキパキと舞花が事を決めると、3人はそれぞれの持ち場に移動して掃除を始めた。
掃除を始めて1時間ほど過ぎ、晴天の青空の下に下着やタオルなどの洗濯物が棚引き、白い布団が物干し竿に掛けられて太陽の光を一杯受けていた。
そんな時に一つの通信が入る。
『舞花、翠花、あなた達2人は、座標に示す牛の群れに赴き牛を生け捕りにしなさい。捕獲する数は任せますが、マスターは牛乳をご所望です。出来るだけメスの確保を優先する事』
ミナの通信が、掃除をしていた3人の頭の中に響く。
『了解しました』
『直ちに捕獲に入りま~す』
舞花と翠花が頷いて準備に入る。
『あの、私は?』
蓮花は、なぜ自分が選ばれていないのか不思議に思いミナに問い返す。
『蓮花は、家の管理を継続しなさい。家を蛻の殻にする訳にはいけません』
『分かりました』
全員が納得するとミナの通信が切れる。
「では、よろしくお願いします!」
「行って来ま~す!」
2人は家の管理を蓮花に任せると、瞬時に玄関を出て目標の場所に向かう。
「不満ではありませんが、出来れば私が行きたかったです」
表情を一切変えずに蓮花の気持ちが口から漏れる。
メイド服の2人がスカートを翻しながら森の中を駆けていく。
メイドが森の中を駆ける様は変であったが、それよりも変なのはそのスピードだった。
2人の走る速度は尋常ではない。
100メートルの短距離走の世界記録保持者だって、こんなに速くは走れない。
ましてや木々が生い茂、藪があるこの森をまるで風が流れるが如く、音を立てずに素早く避けながら2人は進んでいた。
『そろそろ目的の場所です』
『確認しました~、上空のUAVから目標は100頭以上いる見たいです~』
このスピードましてや動物が近くにいるので、声を出さず話は通信で行なわれる。
『どうやって確保します~?』
『森には手頃な蔦が自生してます。それを使いましょう』
2人は手頃な蔦を走りながら掴み取ると、円を描くように纏めていく。
『そろそろ森を抜けます。翠花は左、私は右に回ります』
『りょうか~い』
森から出ると、そこは広い平原になっていて牛達が群れで草を食んでいる。
2方向に分かれた二人は、牛達の群れを挟んで回り込むと、ようやく牛達も2人を視認して慌て出した。
音も出さずに風の様に現れたのだから当然だろう。
2人は牛の群れが逃げられない様に時計回りに周り出すと、持っている蔦で円を作って廻し出す。
さながら西部劇のカウボーイみたいだ。メイド服だけど。
2人は牛の足を狙って蔦を投げると、まるで熟練のハンターの様に見事に引っ掛け、そのまま引き寄せて牛の足を縛り上げる。
600㎏以上は有るはずの牛を体重など気にした様子も無く引き寄せている。
牛達も逃げようと必死だが、2人は群れの周囲を回って逃げられず、次々と仲間を刈り取られていった。
『子牛も含め28頭ほど捕獲できましたね』
『あと何頭確保します~?』
2人は相談しながら残りの牛達を囲んでいると、舞花の視界に大きく黒いものが入り込む。
「モオオオオオオオォォォォォッ!!!!」
前足を高らかと持ち上げて、もの凄い怒号を上げたソレは大きさが普通の牛の3倍はあるかと思われる巨大な黒い牛だった。
「群れのリーダーですか……重さは1.5トンほどでしょうか、日本だったら新記録ですね」
舞花は、走るのを止め冷静にその巨大な牛を分析する。
この巨大な牛は舞花の言う通り、群れのリーダーなのだろう。
その身体には、幾千もの傷があり群れを守ってきた事を意味し、頭に生える角は大きて鋭くリーダーとしての象徴として相応しい。
その巨大な牛は前足を地面に叩き付ける様に下ろすと、姿勢を低くしてもの凄い勢いで舞花目掛けて突っ込んできた!
「ほう、私と戦うのですか……受けて立ちましょう!」
突っ込んでくる牛に身体を向けると、来い!と言わんばかりに待ち構える。
――ドンッッッッ!!!
轟音と共に舞花に突っ込んだ牛は違和感を覚えた。
自分とは比較にもならない位に小さい人間を、その角の一突きで終わるだろうと考えていた。
しかし、現実は、体重差で後ろに引き摺られながらも、両手で角を掴んだまま表情を変えない人間をその角先で見る。
そのまま森に入った両者は、舞花の後ろ手に木々を押し倒しながらどんどん進んでいく。
牛の方も突進の威力を弱めるどころか、前へ前へと必死の形相で突き進んだ。
いったん森の切れ目に出ると、舞花の後ろには巨大な岩の崖が迫った。
牛はそのまま舞花を岩に押し付けて串刺しにしてやろうと一直線に崖に突き進む。
――ドバンッ!
今度は爆発した様な音が、辺りに轟き渡る。
周囲には粉塵が舞い散り、周りが良く見えない。
しかし、牛はまだ角を掴まれている感覚を覚えた!
「まったく、あまり服を汚したくないのですが」
「!?」
牛は驚嘆した!
それもそのはず、壁と角で串刺しになったはずの人間が、垂直の崖に足を着いて水平に立ちながら牛の角を掴んでいたのだから。
「これ以上は押せないでしょう」
いったいこの小さい身体のどこにこれほどの力が有るのだろう。
巨大な牛が渾身の力を込めても1ミリも角が動く気配が無い。
「モオオオォォォォッッッ!!!」
このままでは不味いと思ったのか、牛は前足と後ろ足を同じに使って後ろに跳ね退くと、渾身の力で上へと頭を振り上げると、舞花も遠心力か、角が滑り易かったからか持っていた角が手から離れ上空へ高らかと投げ捨てられた。
上空に投げ捨てられた舞花が、スカートの裾を押さえてフワリと地面に着地する。
「………………逃げられましたか」
周囲を見回すと、あの巨大な牛は影も形も無く消えていた。
舞花を上空に投げ捨てると、その滞空時間で必死に逃げたようだ。
「お疲れ様です~」
いつの間にかそこに居た翠花が、舞花を労う。
「私が上空に居る間に、あなたなら追えたのでは?」
「1対1の勝負で私が入るのは無粋と思いまして~」
舞花の追求もどこ吹く風と受け流した。
「それに数も十分かと~」
「……それもそうですね、運搬の時間もあります。手早く済ませましょう」
舞花も冷静になり本来の目的に戻ると、先ほどの出来事を思い出し考えた。
いつかマサキ様にアレを謙譲できるでしょうか……問題はやはり体重差ですね
そんな事を思いながら舞花は作業に入る。
今は何よりも地面に転がっている牛達を、飼育施設に運ばなければならない。
マサキならば魔法で牛を運んだだろうが、彼女達は魔法を使えない。
魔道具なら使えるのだが、意思が回路から発せられているためか、魔法として外へ出ないようだ。
仕方が無いので、長く真っ直ぐに生えている木を見つけると、根本からへし折って枝葉を取り除く。
それを2本作ると、地面で身動きが取れない牛の足の間に、丸太を通し蔦で身体全体を固定する。
そして、牛を丸太の前後、計4頭括り付けると丸太を掴んで頭上に軽く持ち上げた。
全体で数トンはあるだろうに軽々と持ち上げる。
「こちらの準備は整いました。翠花は?」
「オーケーで~す」
気の抜ける返事だが、翠花も舞花と同じ様に牛を括り付けた丸太を軽々と持ち上げていた。
「では、帰ります」
「は~い」
歩きだす……いや、瞬時に走り出した!
牛の重量を気にした様子も無く、軽やかに来た時と同じ様に木々の間を縫って戻っていく様子は、もしこの場面をマサキが見たら口を大きく開けて驚いていただろう。
あっと言う間に飼育施設まで3往復すると、舞花は飼育施設で牛達の確認と世話に、翠花は最後の1頭の成牛と全ての子牛を1回の往復で済ませた。
「ご苦労様、報告は聞きました。舞花は服着替えてきなさい、もうすぐマサキ様達が戻られます」
「了解」
「私はここで待ってま~す」
2人は玄関先でそのまま待機
舞花は素早く汚れた服を着替えると、玄関先に向かった。
「「「お帰りなさいませ」」」
「うん、ただいま」
マサキ達が到着し揃って頭を下げ迎えると、マサキは出迎えてくれた3人に笑顔で応えた。
「マサキ様、牛28頭を無事捕獲しました。現在は飼育施設で管理しています」
「なお、牛はオス8頭、メス15頭です。別に子牛はオス3頭、メス2頭がいます。メスの母乳の状態も良好なので明日にでも搾乳は可能です」
舞花と翠花は次々と成果をマサキに報告する。
「ありがとう、これで牛乳が使えるよ!」
マサキも2人が言っている事をすぐに理解し、労いながら2人の頭を撫でた。
マサキが帰ってくると食事と、5人の部屋を割り当てる。
5人とも不要と言ったが、マサキは頑なに必要と言うので5人で一つの部屋を使う事に決めた。
マサキ達が食事と風呂を済ませて就寝すると、魔導人形達は眠る必要が無いため5人テーブルを囲んで微動だにせず座っていた。
当初は立ったままでいたが、マサキが少しは人間らしさを学びなさい!と言われて座ってみたのだ。
彼女達は座って静止しながら会話をしている。
別に声に出す必要は無い、通信を使ってお互いに報告をしていた。
そこは、青とも白とも言えない光の中で、5人のメイドが優雅にお茶を飲みながら報告しあっていた。
『以上が、本日あった事です』
締めの言葉を氷花がする。
『別に情報の共有なら並列処理すればよろしいのでは?』
『これもマサキ様の言った人間らしさの勉強です!』
蓮花の言葉に月花は返した。
『……』
『……』
『?、どうしたのですか2人とも』
見ると黙ったままボーッとしていて、様子のおかしい2人に月花は問いかける。
『その……マサキ様に褒めら頭を撫でられた時、どうも、胸にホワッと言うか何と言うか……』
表現が難しくて舞花は言葉に詰まる。
『そう何です~。胸が温かくなって、もっと褒めて欲しいと思ったんです~』
翠花も言葉を続けようとするが、こちらも上手く言い表せないでいた。
『……そうですか、次は私が何かを成し遂げて褒めていただきましょう』
月花はグッとコブシを握り締める。
『いやっ!次は、いま炉を製作に携わる私だろう!』
凛々しい表情で立ち上がって宣言する氷花
『いいえ、この場合いまだ何もしてない私が』
今度は蓮花が、
『何を言っているのです!』『いや私だろう』『いえいえ、私が』
3者が言い合っている中、他の2人は
次も頑張ろうと思っていたりする。
そんな魔導人形のメイド達であった。
お読み下さいまして、ありがとうございます。
今回は、少しバトルっぽく書きましたけど……バトってないな。
次回こそは、村の開拓を書きますので、よろしくお願いします。




