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115.桜花国記(最終日の晩餐会 中編)


 オギュートからの師への懇願こんがん

 「あなたは、すでに技術が備わっています。 あとは経験のみ! まずは、この国に来て得た味を再現してはどうですか? それが出来れば基礎は十分出来ているので応用も効くはず」

 まあ、仕事を教えない上司よろしく自分で考えろと、傷つけない様にやんわりとかわしたのだが、オギュートの方はソレを聞いた途端に涙腺るいせんを崩壊させて感動していた。


 いったい何が彼をそんなに感動させたのか分からないが、まあいいか。


 周囲を見ると招待客全員が、各々に出てくる料理に舌鼓を打っている。

 ある者はステーキ、ある者はカレーライス、ある者はコロッケなどの揚げ物、先に出した天ぷらや刺身や鮨に挑戦している者もいた。


 そんな中、1人の少女だけ食が進んでいない。

 その少女とは、言わずもがなフォルフェバレク王女 クリスのことだ。


 「クリスちゃん体調でも悪いのかな? あまり食べてないようだけど」

 「……いえ、大丈夫で……す」


 心配してクリスに声をかけると、弱々しい返事が返ってきた。


 どうしたんだろう? たしかに体長は悪くなさそうだが、明らかに元気が無いな。


 ちなみにクリス王女をクリスちゃんと呼んでいるのは、夜空の影響で

 クリスが来訪して以来どこへ行くにもずっとクリス傍らに同行しており、彼女が「ちゃん」付けで呼んでいるのがどうも伝染うつってしまったようだ。

 まあ、アイリス女王達から抗議が来ない所を見ると、今回だけ不問にしているようだ。


 「心配して頂き感謝しますマサキ殿、ですが、この子は別に体調不良というわけでは無いんですよ」


 その声は、俺とクリスのやり取りをすぐ脇で聞いていたアイリスだった。


 「まったくこの子ったら、国に帰ったら動く絵が見れないとずっとなげいているんです」


 困った子だと、呆れているアイリスにその答えを聞いた俺は「なるほど」と相槌あいづちを打つ。


 そう言えば彼女は、アニメ、特に魔法少女モノにドップリとハマっているんだった。

 母親としてみれば公的な場で自身の趣味に落ち込む王女に呆れるのも仕方が無い。


 しかし、困ったな。

 桜花での最後の食事くらいもっと楽しく送って欲しいのだけど……。


 「遅くなって申し訳ございません。 ただ今参りました」


 どうしたものかと考えていると、1人の青年が小走りで俺の元まで来て謝った。


 「うん? ああ! 来れたのか! 向こうも大変だろうから無理して来なくても大丈夫だと言ったはずだろう?」

 「ええ、ですが皆が面倒見ていますので私1人が抜けても問題ありませんよ、父上」


 そう、誰であろう我が息子 ユキクニ その人だ。


 まったくこの息子は、何をするにも絵になる姿にお父さんチョットうらやましいぞ!


 「マサキ様……そちらの美丈夫びじょうふは?」


 突如出てきた青年に先ほどまで米を堪能たんのうしていたアヤカが箸を止め聞くと、その他のアイリス達も同様のようで赤髪イケメンな青年に目が釘付けになっていた。


 「ああ! そうですね。 皆さんにご紹介します。 ただ今到着したのが、私の息子 ユキクニです。 少々事情があり紹介するのが遅れ大変申し訳ない。 ユキクニ、こちらにいるのが、ニカナ帝王国 女帝 アヤカ殿 そしてフォルフィバレク女王 アイリス殿とその娘クリス王女、ユキクニも皆さんに挨拶しなさい」

 「はい、父上。 先ほど父より紹介がありましたユキクニと申します。 ご挨拶が遅れた事に大変申し訳ありません、父よりお客様をおしするように言われていますので本日は、どうかよろしくお願いします」


 柔らかな物腰ものごしでユキクニが挨拶したのだが、一同呆然として動かない。

 まるでこの空間の時が止まった様だ。


 「ユキクニを紹介しているんだからアルもこっちに来たらどうだい?」

 「何を言っているのじゃ! 今日は無礼講、そんなにかしこまっても仕方が無いじゃろう。 それよりもホレッ! 海鮮丼の追加なのじゃ!」

 「アル……」

 「母上……」


 いつものアルフィーナの態度に俺とユキクニは、ヤレヤレと困ったと同じ表情で微笑み合う。

 しかし、アルフィーナさんや……それ3杯目だよね?


 「あ、あ、あの……マサキ様……そちらの方を息子と言ったような?」

 「え、ええ、私もそう聞こえました」


 止まった時が、ようやく動き出したようにアヤカとアイリスが口を開いた。


 うん? だから息子って言ったよね?

 いや、まあ、顔立ちは俺に似ずアルフィーナに似て西洋美青年だから「ウソだ!」と疑うかもしれないが、れっきとした俺の息子だよ?


 「ええ、私とアルフィーナとの間に生まれた息子ですが?」

 「いや、その、ずいぶんと見た目の年齢が近いようなので御兄弟か何かかと……」


 申し訳無さそうにアイリスが応える。


 見た目? ああ、なるほど!


 「まあ、私も若く見えると思いますが、これでも100歳を過ぎておりますので」

 「「「えっ!!!」」」


 今度は俺に注目の目が集まった。


 「えっと……はい、100歳ですね。 それと向こうにいるアルは、300歳になるますが……」


 そう言うと、アルフィーナから「うるさい!」としかられ

 アヤカ言葉すら口に出来ぬほどに驚き

 アイリスは、「アルフィーナ様は分かっていましたが、まさかマサキ殿までとは……」と、こちらも驚いており

 会場の一部から「さすが魔王……」と小さく聞こえた。


 まあ、そうだよね。

 今の時代、世界で人族の100歳と言えば想像に絶する寿命である。

 それに俺の顔には、年齢によるシワが無い。

 この世界に来た経緯を知らない者からすれば、人知を越えた存在に違いないだろう。


 「……そ、そうだったんですね」

 「これは、申し訳ございません」

 「いえいえ、お気になさらず」


 アヤカとアイリスの謝罪を笑って受取ると、ようやく少し場の空気が戻る。


 さて、どうしようかな……


 場の雰囲気は戻りつつあるが、その前に何をしていたのか考えるとクリスが元気無かったのを思い出した。


 「そうだ! ユキクニ、クリスちゃんに前に作ったアレを出したらどうだ?」

 「アレ? ……ああっ! アレですか! しかし、良いのでしょうか?」

 「皆に好評だったからクリスちゃんもきっと喜んでくれるだろう!」


 以前、ユキクニが作ってくれた料理で家族に大変好評だった品がある。

 それをクリスも食べれば、きっと元気を取り戻すことだろう。


 「そうですね……クリス王女殿下もよろしいですか?」

 「は……はい……」


 ユキクニがニコリと微笑みかけると、クリスは赤面して応える。


 それを聞いたユキクニは、手早く料理に入った。


 まずは、フライパンを温めそこにバターを投入し過熱する。

 ジューッと音とともにバターの良い香りがフワリと舞う。


 そこへ、食べやすく小さめに切った鶏肉、玉ねぎ、ピーマン、キノコを順に入れ炒める。

 ある程度火が通ったら塩コショウ、おろしニンニクとショウガ、少量の酒とウースターソース、多めのケチャップを入れると、そこへご飯を投入!

 フライパンの中でそれらが満遍なく絡み合いトマトの酸味のある匂いが、甘い匂いに変わった。

 それを手早く皿に形を整えて乗せると、同時に温めていた別のフライパンにバターを熱し、そこへといた卵を流し込む!

 ジュッという音で卵の底が熱で固まり始めるが、軽く卵の中を箸で混ぜると火が通りきる前にフライパンを返して卵を巻いていく。

 そして、楕円状になった卵を慣れた手つきで先ほどのいためたご飯の上に!


 「最後の仕上げです」


 そう言ってクリスの前に見えるようにユキクニが、ナイフで卵の中央に切れ目を入れる。

 すると、まるで羽を広げるように卵がご飯を包み

 さらに中からアツアツ、トロトロの卵が溢れ出てきた!


 「わあ!」


 クリスから歓声が上がる。

 その上にユキクニが、ホワイトソースとデミグラスソースを味が濃くならない絶妙な量で綺麗に描き


 「はい、オムライスです。 熱いですから気を付けて下さい」

 「オム……」

 「オムライス、ご飯を卵で包んだ料理です」


 目の前に置かれた料理に戸惑いならもクリスは、アツアツのオムライスにスプーンを入れる。

 そして、すくい上がったソレは、ご飯の赤色を黄色と茶色、それに白色の波がゆっくりと覆い隠し湯気立っていた。


 その光景に感動しつつも、トマトの酸味とデミグラスソースの濃い匂いに食欲を抑えられずゆっくりと口に運ぶ。


 「あふっ! ……んっ! 美味しい! 美味しいですっ!」


 クリスは、オムライスの味に興奮した面持おももちだ。


 「それは何よりです」


 ユキクニは、夢中で食べるクリスの様子に満足そうに微笑むと、


 「ユキクニ、私にもオムライス1つなのじゃ!」


 それを見ていたアルフィーナから注文が入った。

 ユキクニも慣れたモノで「はいはい」と返事を返しアルフィーナ用のオムライスを作り始めた。


 「やはり親子、父王と同じく王子も料理の腕前が……」


 と感動するオギュートを無視して他に目を向けると、アヤカが考え込んでいる。


 「アヤカ殿?」

 「はい、あっ! いえ……」


 歯切れの悪い返事を返すアヤカ

 しかし、次に意を決したような表情で


 「マサキ殿!」

 「は、はい!」

 「不躾ぶしつけなお願と重々《じゅうじゅう》承知しておりますが、ぜひこの米の種籾たねもみを我が国にいただけないでしょうか!」

 「は、はあ?!」


 アヤカからの急なお願いに変な声を出してしまったが、ふむ、米か……。


 「いいですよ」

 「ほ、本当でしょうか!」

 「ええ、ただし、現在我が国で収穫している米だと、ニカナでは現状栽培するのが難しい作物です」


 稲作と言うのは、一見水を入れた田んぼに苗を植えればそれだけで米が実ると思われるが、そう簡単な話ではない。

 苗が発芽するまでの管理、土壌の質、水張りと田植えの時期、それに病気や害虫への対策など色々と知識として必要な事が山の様にある。


 「そ、そうですか……」


 非常に残念そうに応えるアヤカ


 しかし、そうは言ったけどアヤカ達ニカナの人々が、桜花に来た目的が知識を蓄えであるのを知っている。

 それに加え稲作の方法も調査しているのを確認済みなのだ。


 「ええ、ですからニカナでは、まず古代米の栽培に着手するのがよろしいですね」

 「古代米?」

 「はい、古く食べられていた米で環境変化や病気に強く、この白米と比べても比較的楽に育てる事が出来るでしょう」


 今のニカナでは、大規模な土壌改良や苗の育成をするには難しい。

 しかし、古代米なら周囲の雑草と生存競争に耐えられるほど強い米だ、今のニカナでも生産出来るはずだ。 


 「ただし、その分実り少ないうえに粒が固く味も薄い米なんですが……」


 アヤカの前に古代米を炊いた物を差し出す。

 古代米は、全体が赤茶色で色だけ取っても一目で白米と違う。


 「少々いただきます」


 そう言うとアヤカは、古代米に箸を伸ばし少量を口に入れる。


 「……」


 何度も何度も噛み締め、その米の味を確かめるアヤカ


 「たしかに固く薄い味わいです……しかし、良く噛むと粒の奥底に眠る甘味が口の中に広がって行くのが分かります」

 「ええ、この白米は、古代米を長い年月をかけ美味しく実りが豊富になるように改良した米です。 しかし、その分環境変化に弱く管理も大変な代物です」

 「なるほど、この白米の様にさらなる甘味を欲するなら、年月を掛け育てる環境を整備しろ……と」


 さすが聡明そうめいな女性だ。

 こちらが言わんとしている事をすぐに理解した。

 それと同時に政府からの見解も通信を使ってもたらされる。


 「……分かりました。 ぜひこの古代米をいただきたく思います!」

 「そうですか、でしたらこの白米も一緒にお渡ししましょう」

 「ほ、本当ですか!」

 「はい、ただし、先ほども言ったように管理が大変です。 ですから手の行き届ける場所で環境が整うまで、ゆっくりと育てて行くのがよろしいでしょう」

 「そうですね、今ニカナでこの米を大規模に育てても上手く生育できずに枯らせてしま事でしょう。 次代に渡せるよう小規模で確実に育てるべきですね」


 うん、そこまで考えているなら大丈夫そうだ。

 それに我が国としても、米を主食とした文化の国が出来る事は嬉しい事だからね。


 こうしてニカナにジャポニカ米と古代米をお土産する事になった。


 とは言っても一方だけにお土産を渡すわけにも行かないのでアイリスにも欲しいものを聞いてみる。


 「アイリス殿は、何かお土産のリクエストはありませんか?」

 「お土産……ですか……」


 しばらく考えるアイリス

 隣のハルダーは何か言いたそうだが、言わんとしている事は分かる。

 考えるまでも無く銃器などの武器の輸入だろう。

 今の状態で銃器を持てば現在の世界なら勢力図を大きく変える事が可能であり、北に脅威を抱えるフォルフェバレクでは是が非でも欲しい代物だ。


 しかし、それは出来ない相談だ。

 既にそれらの要求が出る事は予測され、それについての桜花国としての答えは、

 「現在のフォルフィバレク軍事レベル以上の武器技術に関する供給貸与の禁止」だった。


 桜花とフォルフェバレクは、軍事同盟している訳ではないのだから当然と言えば当然の事で、それゆえに今回の見学コースにおいて武器に関する資料などが無いか調査し全てを取り除いていた。


 まあ、いつかは手にする技術だろうが今ではないと言う事だろう。

 


 「……でしたら」


 ようやくアイリスが、その願いを口にする。


 「でしたら、ユキクニ王子に我が娘 クリスを嫁がせては頂けませんか?」

 「はぁっ?」

 「えっ!」


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