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114.桜花国記(最終日の晩餐会 前編)


 フォルフェバレク、ニカナ

 両国の桜花訪問もいよいよ最終日の夜となった。

 明日の朝には、最後の挨拶と各自桜花の客船で帰路に着く事になる。


 最後の夜だけに思い出に残るよう、堅苦しいのを抜きにしてお客さんと一部関係者だけの晩餐会が開かれる事になった。


 「では、皆さんカウンターで申し訳ございませんが、お座り下さい」


 ホテルの上階にある大きな窓ガラスで囲まれた広間のカウンターにアイリスとアヤカ達を案内する。

 今回は、フォルフェバレク、ニカナの護衛、侍従、武官、文官関係なく全員広間の各所に設置された対面式のカウンターテーブルに案内した。


 「はい、失礼して……あら! マサキ様はお座りにならないのですか?」

 「そうですわね、まるでシェフの格好をして……」


 アヤカとアイリスから疑問の声が投げかけられる。

 それもそのはず、俺は白い調理服を着てまるで板前の様な姿で彼女達の前に立っているからだ。

 そして、俺の前には今、左から順にアヤカの侍従の姉妹、アヤカ、アイリス、クリス、ハルダーが座っている。


 それとなぜか、アイリスの専属シャフがいるのだが、まあ無礼講だから良いのかな?


 「その通りですよ。 今晩は私が料理する予定です」

 「おっ、桜花国王が自ら!」

 「ええ、ただし、本業の料理人には及びもしませんが……」


 あくまで趣味の領域で料理をしているので本業にかなうはずもない。

 でも、こういった無礼講の場でなら問題は無いだろう。


 「マサキ、早くするのじゃ! お腹がペコペコなのじゃ!」

 「おう! 美味うまいのを頼むぞ!」

 「ちょっと、アルもヨルもお客様の前ですよ!」


 いつもなら調理の手伝いもする俺の奥さんズだが、今回はお客さんの接待もあるので一緒のカウンターに座っている。


 「では、お出ししますね」


 俺の言葉と連動するようにミナとメイド達が皿を並べ出す。

 最初は、簡単なサラダなどの前菜からだ。


 ドレッシングをかた物サラダ、それとポテトサラダ何かものっている。


 「オウカ国に来るまでに何度も食べておりますが、やはりこちらの国の野菜は新鮮ですね!」

 「ありがとうございます。 ご見学なされて覚えていると思いますが、取れたての野菜を各地からその日の内に配送しているのでその鮮度を保ってるんです」

 「なるほど、あの収穫の速さと輸送力あっての、この鮮度ですわね」


 感心と驚きが複雑に入り混じったようにアイリスが答える。

 アイリス達には、農業の収穫と輸送などを見せているので、その時見た衝撃が蘇っているのだろう。


 「では、次に天ぷらをお出ししましょう」

 「テンプラ?」

 「はい」


 知らない言葉が出て来たので全員の視線が俺に集まる。

 まあ、これは実際に作っている所を見せれば問題ないだろう。


 「野菜や魚などに小麦粉と卵を水で溶いたモノにくぐらせて、熱した油で揚げるだけです」


 手早く揚げて各自の前に運んでいく。


 「どうぞ、そちらに用意した塩かソースを付けてお召し上がり下さい。 揚げたては熱いですが、美味しいですよ!」

 「これは! たしかに食感が面白いですね。 それに塩も不思議な味わいでソースも甘しょっぱい、不思議なソースです」


 ソースと言うのは天つゆの事で、甘味と旨味が凝縮されたその味は、天ぷらの具材の美味しさをより一層引き上げてくれる。

 そして、今回用意した塩も一味違う。

 その塩とは藻塩の事でこの塩は、普通の食塩より甘味と旨味があるので天ぷらに良く合う塩だ。


 「オォーゥ! このテンプラと言う料理はスバらしい! 油で揚げただけなのにサクサクとした食感があり、さらにこの塩やソースが味を引き立てている!」


 アイリス専属のシャフ、オギュート・エコエが立ち上がり涙を流して感動の声を上げた。


 まあ、美味しいとは思うが、泣くほどか?


 「ありがとうございます。 たしかアナタは、アイリス殿の……」

 「はい、専属料理人のオギュートと申します!」

 「これは、本職の方に褒めて頂けるとは光栄です」

 「いえ、これほどスバらしい料理初めてです! 私も油で揚げる料理を作りますが、これはまったく違います! まず、油が違う! 獣脂の油と違い匂いやクドさが、まったく無い!」


 オギュートの言っている事は正しい。

 獣の油で揚げ物を作った場合、その獣独特の臭いが食材についてしまう。

 ゆえに濃い味付けやスパイスで匂いを誤魔化したりするものだ。


 「それにこの衣! この絶妙な揚げ方は、見習うところが多々あります!」


 たしかに揚げるだけだからそう難しい料理では無いと思うが、美味しい天ぷらは、衣が命!

 サクサクとした食感が無ければ美味しさは半減してしまう。


 「何度も失敗しての事ですよ」

 「何を言われる! 具材ごとに揚げる時間を変えてしかもその具材にベストなタイミングで油から上げている! それだけでも凄い技術です」


 揚がり具合は、目と言うより耳で判断していたのだが、さすがに本職! 見抜いていたようだ。


 ちょっと驚かせて模様かな?


 「では、次にエビをご賞味ください」

 「ほう、エビですか」


 少し遊び心を抱いた俺は、オギュート氏にエビ天を出す。

 もちろん他の人達にもエビ天を出した。


 全員が興味心身にエビ天を持ち上げ口に運ぶと、口の中でサクッと気持ちの良い音を立てた。


 「ッ!!! これは!」


 エビを食べた全員驚いていた。


 「まあ、外は熱いのに、中はレアなのですね」

 「ええ、加減を見極めて揚げているので、外はカリカリ、中はレアで甘いんですよ」


 アイリスが口元を押さえながらもエビの味に舌鼓を打つ。


 「……すっ……スバらしい! 私もステーキならこの様な技法が出来ますが、油で揚げてコレとは……」


 他の人達は味に驚いていたが、オギュートはその料理技術に驚きを隠せないでいる。


 なら、次は……。


 「レアを知っているのでしたら、刺身はどうでしょう?」

 「サシミ?」

 「ええ、魚を生で食べる料理です」


 「「「魚を生でっ!!!」」」


 フォルフェバレク、ニカナ両国とも生食文化の無い。

 フォルフェバレクの一部では、生で食べる事は野蛮な行為と考える場合もあり、俺が魚を生で食べる事を勧めているのに驚いているようだ。


 「我が国では、魚を生で食べる料理があるんですよ。 もちろん腹痛などにならない保障をしますし……いかがですか?」

 「………………お願します」


 慣れ無い物を勧めても食べれないだろうから、今回はオギュートだけに料理を勧める。


 「はい、コチラになります」

 「これが……」

 「小鉢に入っているソースを軽く付けて食してください。 それは醤油と言う物で刺身に合う調味料です」

 「……では」


 初めての刺身を前にオギュートは、しばらく固まっていたが意を決し口に運んだ。

 その様子を周囲の者達も固唾かたずを呑んで見守っていた。


 「………………」

 「「「………………」」」

 「こっ…………これはっ!」

 「「「ッ!!!」」」


 「いかがでしょう?」

 「美味い! そんな、生の魚がこの様な味をしているなんて……」

 「ふふ、その刺身の脇にある緑色のペーストは、山葵わさびと言って辛いですが軽く乗せて召し上がると刺身に良い風味を持たせます」


 俺に勧められるままオギュートは、ワサビを刺身に軽く乗せて醤油をつけて口に運んだ。


 「オゥッ! たしかに強烈な辛味、しかし、それはすぐにサシミと一緒になり違う味わいになります!」

 「マサキ、私は海鮮丼が食べたいのじゃ」

 「分かった、すぐに出すよ! そうだオギュート殿、次はすしなどいかがですか?」

 「スシ? それも生の魚なんでしょうか?」

 「ええ、少し違いますが、生の魚です」

 「お願いします!」


 生の魚に興味を持ったオギュートは、二つ返事で応えた。


 「あの……マサキ様、私にもいただけますか?」

 「アヤカ殿も?」

 「ええ、私も食べてみたいと思いまして……」

 「分かりました。 少々お待ち下さい!」


 アヤカの他に侍従の2人も申し出たので同じ物を握って各自の皿の上に乗せる。


 「生の魚を米の上に乗せてるんですね」

 「ええ、ただし刺身と違うものなんで、刺身も一緒に置きますので食べ比べて見て下さい」


 生魚に興味を持ったアヤカ達にもオギュートに出した刺身も皿に並べて置く。

 それに緊張か食欲か分からないが、アヤカ達はゴクリッと喉を鳴らせて鮨と刺身を口に運んだ。


 「ほう、サシミとスシ……同じのようでまったく違うのですね」

 「これはっ! サシミは魚の油もあるがスッキリとした味わいなのに、このスシは濃厚な甘味がある!」


 アヤカは微細な味の違いは理解出来てもハッキリと言葉で表す事が出来ずにいたが、一方でオギュートは料理人と言うだけあってその違い的確に表した。


 「ご名答! この刺身は、新鮮な生魚を適切な処理をし鮮度が落ちる前にお出しした物です」

 「なるほど、だから生で食べても大丈夫なんですね」


 オギュート達に刺身になる前のさくの状態の身を見せる。

 次に、その横に別の柵を取り出して並べて見せた。


 「そして、横に並べたのが鮨に使った魚です」

 「……何と言うか……色が悪いですね」

 「はい、コチラの身は10日ほど経っていますので」

 「「「えっ!!!」」」


 オギュート、アヤカそれに侍従の女官も驚いた様子だ。

 それもそうだろう、今自分が生で食べた物が何日も経った魚なのだから。


 「ああっ、驚かせて申し訳ないです。 この様に変色した部分は捨てて中央部の新鮮な部分を鮨に使っていますのでご安心下さい」

 「そ、そうだったのですか」

 「なるほど! 肉でも新鮮な物より数日置いた方が、甘味が増します。 それを魚に使ったのですね!」


 ホッとしたアヤカと異なりオギュートは納得した様子だ。


 そう、刺身と違い鮨は熟成により旨味を増した物を使っている。

 だから、シャリの酢メシに負けない甘味を魚の身で感じられるのだ。


 それに気付いたオギュートは、なるほどと唸っている。


 「どれ、次に味噌汁をお出ししましょう」

 「では、マサキ様、出来ればご飯も一緒に頂けますか?」

 「おや? ご飯に味噌汁がお気に召しましたか?」

 「はい、お恥ずかしながら……」


 そう応えたアヤカは、少し顔を赤らめている。

 食べ物にリクエストを出す行為が恥しい様だ。


 なんと慎ましい事だろう。


 「いえいえ、お気になさらず。 付け合せも一緒にお出ししましょう!」

 「お気遣い、ありがとうございます」

 「それと、オギュート殿には、もう1つのスープをお出しします」

 「私にもう1つのスープを?」

 「ええ、味噌汁は魚のエキスを使っているので、口に合わないかもしれませんから……」


 桜花で初めて食した味噌汁はアヤカ達には好評の様だったが、フォルフェバレクの人々には、そこまで好評を得ておらずどちらかと言うとシチューやコンソメスープが好評で鳥や牛、豚など

の骨の旨味が受け入れ易いようだ。

 だから俺は、あえてオギュートには味噌汁と別にスープを用意する。


 アヤカの前には、ご飯と味噌汁、それと煮物、漬物等が用意されオギュートの前には味噌汁と、野菜のスープが置かれた。


 「おおっ! やはり美味!」


 アヤカは早速とばかりにご飯などに箸を運び、味噌汁を飲むと自然と笑顔になっていた。


 「それでは、私も……ふむ、ミソシルとは、この様な味なのですね。 たしかに普通のスープと違い不思議な味わいをしている」


 オギュートは、味噌汁を口に含むと率直な感想を漏らした。


 「では、次にこのスープを……ッ! これは、美味しい! ……しかし、不思議だ? 野菜スープなのに不思議な味わいがある。 なんだ? 牛骨では、ここまで澄んだ味や匂いはしない、

それに先ほどのミソシルにどこか似ている……」


 凄い! やはり、この人は味の違いが分かる人だ!


 天ぷら、刺身と鮨同様にこのスープでもオギュートを試してみたが、その違いに気付いたオギュートに才能に賞賛を送る。


 「お見事です。 この味噌汁には、コレを使っています」

 「ほう」


 俺が取り出したソレをオギュートは手に取ると、匂いを嗅いだり叩いたりしている。


 「何でしょうか……木のようですが?」

 「いいえ、それは木でなく特殊に加工された魚の身です」

 「なんと! この固い物が魚の身!」

 「はい、鰹節かつおぶしと言います」


 まあ、日本人なら知っている鰹節だが、この世界にはまだ無いのだから驚くのも無理はない。

 それに木と間違えるくらいに固い物である鰹節を食べ物だと想像できる訳が無いだろう。


 「同じ加工で違う種類の魚を使ったあじ節、さば節などありますが同じ様に固い食品です」


 同じ様に各種の節を並べてみせる。

 どれも同じ様に硬質な食材だが、味の違いがあるので用途が異なる品々だ。


 「この様な魚の加工方法が……」

 「ええ、それにソレを使うとスープに動物の骨を使った物と違う深みが出るんです」

 「なるほど……では、この野菜スープにもっ!」

 「鋭いですね! そうです。 ただこちらには、この鴨で作った節を使っています」


 他の節と同様にオギュートに渡して見せた。


 「これは……燻製や干し肉に近いですが、ここまで固い食材どの様に使われるのですか!」


 オギュートは、カウンターから身を乗り出して聞いてくる。

 どうも料理の事なので興奮しているようだ。


 「まあまあ、落ち着いて! この様に削って沸騰しない程度に煮詰めるのです」

 「これを……た、食べてもよろしいか?」

 「ええ、そこまで強い味はしないと思いますが、どうぞ」


 恐る恐る鴨節を口に入れるオギュート

 そして、その節を噛み締め咀嚼そしゃくし出すと、オギュートは目から涙を流し出した。


 「ど、どうされました?」


 そこまで不味い物では無いと思うが、涙を流し出したオギュートに慌てて聞くと、


 「……こんな……スバらしい……私は、ここまで美味しさを圧縮した物を食べたのは初めてです」

 「はあ……」


 どうやら感動の涙だったようだ。

 ちょっと驚いたよ。


 と、その時

 恍惚こうこつの表情で俺の手をオギュートは手に取った。


 「えっ!」

 「師匠!」

 「はぁっ?」

 「これほどスバらしい料理の数々、私の師になって頂けないでしょうか? いいえ、なって下さい、お願いします!」


 いきなり何を口走っているんだ、この人は?


 「いえ、これは私が考えたものではなくて……」

 「技術、知識、どれを取っても私には思いも付かない料理の数々、どうか私の師に!」


 反応が面白かったので色々と出したが、こんな反応をするとは、ちょっと悪戯いたずらが過ぎたかもしれないと反省するのだった。


ボーッとする頭で書いたので色々と伝えきれてない所があります。

修正は……そのうちに

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