111.桜花国記(総合火力演習)
ハルダーは目の前で起こっている事を信じられずにいた。
「な、なんだ、これは……」
前方から聞こえる爆音
土煙が上がり、変形し土中が露になった地面
再度大気が震えるほどの轟音が響き渡ると、分厚い鉄板にいとも容易く穴が空き
それがまるで紙の如く引き裂かれ破片が散らばる。
「あ、悪夢だ……」
目の前で行なわれている事
それは、ハルダーが今まで生きてきた中でもあり得ない事であり
その目で見ているにも拘らず頭の中で理解が追いつかない現状
ただハルダーの頭の中では、ほんの数時間前の朝
本日の桜花国視察の題目を発表されたのが始まりだった。
「ソウゴウ……カリョクエンシュウ……それは何でしょうか?」
アイリスは聞き慣れない言葉に眉をひそめ、本日の予定を話す桜花国外交官に聞き返す。
「総合火力演習とは、我が桜花国軍の軍事演習を一般に公開し、その実力と錬度を広く知ってもらうモノです」
「軍事演習……しかし、それは一昨日見たのでは?」
今度は、フォルフェバレクの軍務卿、バルト・ハルダー伯爵から疑問の声が出る。
「?……ッ! ああっ! 一昨日見て頂いた騎馬行列は、古式作法に則って行われた行事で軍事演習ではありません」
「なんだとっ! あの騎馬は偽者だったのか!」
「いえ、当時のまま再現したのは確かです。 ただ、我が国では、騎馬を用いる軍事行動は、現在行われていないのです」
「騎馬を使わない? ……では、盾を装備した重装部隊での進軍か? しかし、それでは機動力が……そうか! あのクルマと言う乗り物で移動するのか!」
桜花が騎馬を使って軍事行動しない事を知ったハルダーは、今まで桜花国内を見学した中で知ったモノを断片的に繋ぎ合わせ答えを探る。
「そうですね……正解に近いですが……」
外交官はハルダーに理解してもらうための言葉を選んでいると、そこへある人物がやって来た。
「おや? 皆さん、まだ移動しないんですか?」
「これは、マサキ様!」
先にバスの前で待っていたマサキは、フォルフェバレクの一行がなかなか来ないので何かあったのか顔を出したのであった。
「いえ、ハルダー様からのご質問意答えていたのです」
「ハルダー殿の?」
「え、えぇ」
マサキがハルダーに目を向けると、軍事の事で若干熱が入り過ぎた自分に反省しているようだ。
「マサキ殿、私もお聞きしたいのですが……」
そこにアイリスが助け舟を出す。
「これから行くカリョクエンシュウでしたでしょうか? そこでは軍事演習が行われるとか……ただ、騎馬などを用いないとお聞きしました。 一昨日見た騎馬隊の行列は見事なものでしたが、オウカでは軍の行動で騎馬を用いないのですか?」
「ああっ! その事ですか、そうですね……我が国で馬を用いての軍事行動は、特殊な場合を除き行われません」
マサキの言う特殊な時とは、言うなれば砂漠で移動手段がラクダしか無い時など極限られた場合のみの事を差している。
「では、カリョクエンシュウとは?」
「う~ん、言葉で説明するよりも実際に見て頂いた方が分かると思いますよ。 だから、今回演習の視察を予定しているのですから」
「そう……でしたわね、お騒がせして申し訳ありません。 軍務卿もよろしいかしら?」
「ハハッ! 女王陛下の仰せのままに……」
自分のミスだと頭を下げるアイリス
そんなアイリスにハルダーは、先ほど以上に反省し畏敬の念でアイリスに送るのだった。
マサキ達が会場に入ると、すでに火力演習の準備が出来ているようで一般客ともにマサキ達の到着を待っていた。
「待たせたね、ポルトナ」
「いえ、時間は予定通りです。 ささ、皆様席にお座り下さい! 間も無く開始とあいなります」
通常の総合火力演習では、日本だと防衛大臣、桜花国だと国防大臣が準備完了の報告を受け開始となるが、今回はマサキと他国の王族が臨席と言う事もあって通常とは異なっている。
それは、まず演習参加全部隊が、マサキ達の前を車両で行進しながら敬礼し、これから自分達の行う演習を前にしてマサキへの敬意を表す事から始まった。
過ぎ行く車両から敬礼する軍人達
マサキ達、桜花の者には珍しいモノではないが、フォルフェバレクの面々は違っていた。
「な、なんだ! あのクルマは……」
タイヤではなく履帯で動く車両に戸惑うハルダー
しかもその車両が前進する時に感じる地面の振動は、その車両が尋常ならざる重量を要している事が手に取るように分かった。
「は、伯爵っ! あ、アレをっ!」
「なっ!」
今度は護衛団長のクロードが、我が目を疑うほど驚きハルダーにそれを逸早く知らせる。
それを見たハルダーは声を無くす。
「浮いている……いや、飛んでいるのか? ひ、飛竜でも無いモノが飛べると言うのか!?」
ハルダー達が見たモノ
それは、上部に羽を回転させ飛ぶ、いわゆる回転翼機ヘリコプターだ。
自衛隊の所有するOH-1やAH-64、CH-47の様な機体が数多く見られる。
もちろん日本側地球と外側は似ていても中身は別物で羽音や駆動音が遥かに少ない偵察と戦闘を担当するヘリ達だ。
ちなみに飛竜とは、この世界において各国で用いられる飛行生物の事で腕が羽になっているプテラノドン型翼竜の事だ。
その生息数は少なく、魔力でなく揚力で飛ぶ事から重量物を運ぶ事が困難でもっぱら軽量の者が乗り偵察、連絡が主任務となっている。
続いて上空を低速で通過するV-22(オスプレイ)に似た機体とC-2に似た機体がゆっくりと通過
そのさらに上空をF-22、F-35、YF-23に似た機体が通過し1機のみ反れてマサキ達に敬礼の表現を空に描く。
「「「………………」」」
ここまで来ると、フォルフェバレクのみならずニカナのアヤカ達もポカーンと口を開けて呆然としていた。
ただし、これは、ほんの序盤!
全ての参加車両の行進が終わり次への準備が終わると、国防大臣へ準備完了の報告がなされる。
今回、最高指揮監督権を持つ内閣総理大臣もいるのだが、定例どおり国防大臣が報告を受けるのだった。
それから本当の意味での火力演習が始まった。
まずは、155mm榴弾砲と、自走式の203mmと155mmの榴弾砲合計20両が登場し持ち場に着いた。
本当は、他国の目もあると言うことで更なる参加を考えていた様だが、それだけで時間が多く取られるので却下となった経緯がある。
また、牽引型の榴弾砲も参加しているのは、自衛隊の扱う武器を真似ている事とそれら全ての取扱いを習熟する事が目的で演習に参加している。
「しゃ、射程30キローーーーッ!!!」
持ち場に着き準備をしている間に各車両の説明が流れると、それを聞いたハルダーは声が裏返る。
そう驚いた瞬間! 待機を振動させるほどの射撃音が周囲に轟く。
「「「ッ!!!」」」
その大きな音に身を縮めると、遅れて目線の遥か遠くで大きく土が捲れ上がり幾つもの煙が立ち込めている。
さらに数秒すると、カミナリが轟くような大きな音が耳に届いた。
「「「………………」」」
ここ桜花国の演習場は、日本側地球の富士の裾野に広がる演習場とは比べようも無いほど広い敷地を要している。
ゆえに標的とした目標物は遠く、音が届くまで暫くの時間が必要だ。
音に身を強張らせ信じられない遠くで煙が立ち込めている土手に呆然とする一同
そんな様子を知ってか知らずか予定通り演習は進められていく。
榴弾砲から始まり、迫撃砲、無反動砲やロケット誘導弾、狙撃
装輪装甲車は、遠隔操作式の無人銃架を用いて標的に正射
その後、後部ハッチより乗員が降車後、こちらも標的に向かって射撃をする。
「な、なんて事だ……」
まるでこの世の終わりかという表情のハルダー
その目には、爆発で弾け飛び、銃弾に貫かれ、粉々になるまで引き裂かれた標的物
それを見たハルダーは、理解不能な光景に唯唯唖然とするばかりだった。
この標的物は、本来だと布の的や木の板などが使用されるが、今回だけハルダー達に一目で分かるようにマネキンが使われている。
しかし、ただのマネキンではない。
フルプレートを着て盾を装備した者や木馬に跨る甲冑を着けたマネキンなど、どれもハルダー達フォルフェバレクが戦争で身に着ける装備ばかり、
その装備が、いとも簡単に引き裂かれ粉々に消し飛んでいる様子は、ハルダー達にとって衝撃的なものだろう。
さらに畳み掛けるように戦車と戦闘車両による射撃
戦闘ヘリによるロケット弾と銃撃
さらにさらに今回は、城壁を模した石造りの簡易砦を遠方に構築しており、そこに……。
――ドドドドドドドドドーーーーーンッ!!!
と、地鳴りの様に響き渡る音と共に簡易砦が構築された場所が抉られ変形するほど、木っ端微塵に消し飛ばされる。
これは、戦闘機による精密爆雷でこれ目にした時、一同顔面蒼白で言葉も無い状態だった。
ただし、そんな呆然とするフォルフェバレクの中にただ1人だけ違う反応を示す者がいた。
それは、
「わぁーーーーー! 大きな音と爆発っ! スゴーイ!!!」
その目の前で繰り広げられる光景に喜んでいるクリスだった。
どうやら彼女が見ていたアニメは、爆発の演出が多く
この数日寝る間を惜しんで見ていたせいか、爆発になどに慣れていたのだった。
加え「ヒッサツワザは? ヒッサツワザは、まだですの!?」 と興奮気味に光線が放たれるのを待っていたという。
アニメの影響って怖い!
この演習が終わった時、フォルフェバレク女王のアイリスはマサキに問うた。
「マサキ殿……あなたはこの力を使って何をなさるんですか?」
アイリスの言葉には、本当なら続きがあった。
それは、「世界を……人類を征服する気なのか?」である。
しかし、アイリスは目の前でこれほどの力を見せ付けられ、そんな言葉を口にした時
マサキの思惑いずこに有るのか? もし、その言葉にマサキが気分を害した場合、自国にどんな影響があるのか想像し、その事に背筋を凍りつかせ言葉を飲み込んだのだった。
「この軍事力は、我が国民を守る盾です。 他国への力を行使する事は無いと思います」
「そう……ですか」
その言葉に少しだけ安堵するアイリスだったが、マサキは更に言葉を続ける。
「しかし、我が国と我が国民に危害を加えようとした場合、その限りではありませんね」
マサキの中に専守防衛などと言う意味の分からない言葉は心に無い。
あるのは、何か起こる前に先手を撃つ、国民の犠牲が出る前に行動を起こす事だ。
ゆえにその言葉は、「我々に何かすればタダじゃ置かない」を意味し
その意味が分かったアイリスは、再度冷たい物を感じる。
これは、隣で聞くアヤカも同様であった。
ただ、そんな事を言い放ったマサキの表情は、どこか寂しげで困ったように笑う。
その顔を目にした彼女達は、
マサキは、本当はその様な事をしたくはない。
だから、そんな事をさせてくれるな。
と、何も言わずに言っているのだと、心中を読み取る。
だから
「心得ております。 どうか、我がフォルフェバレクと今後とも良好に……」
「我がニカナも同じです。 両国が末永く良好にいられることを切に願います」
2人が深々と頭を下げる。
すると、マサキもそれに応え「こちらこそ」と同様に深々と頭を下げたのだった。
この演習は、ハルダー達に尋常ならざる衝撃を与えた。
「ク……クロード……、オウカと我が国が戦争した場合どうなると思う?」
「ハッ………………」
ハルダーの質問に答える事が出来ず沈黙するクロード
「いや、答えずとも分かる。 嫌な質問をした、許せ……」
「伯爵……」
ハルダーは、目を閉じて先ほどの演習を頭の中で反芻する。
「クロード、それにこの場にいる全員へ通達する。 この事を本国で語る事あいならん!」
「しかし、伯爵……これは、放置できない事ですよ」
「分かっている。 だが我が国は今、聖光教が幅を利かせている。 こんな事を口にしてみろ、魔族に寝返ったとか狂人として始末されるかになるだろう」
世界各地で布教している聖光教
そんな聖光教が、桜花の事を悪魔や魔の者と決め付け狂信的に非難している現状。
もしそんな中、桜花国は凄いなどと言った場合、命の保障は無い。
ハルダーの言葉は、そんなフォルフェバレクの国内事情を考えた上での予想だった。
「内務卿達へは、私から全てを報告するが、お前達は聞いてくる者に合わせ適当な事を言っておく方が身のためだろう」
それは、ハルダーが部下を思っての言葉だ。
しかし、この事が思わぬ方向へ伝わる事になるとは、この時思いもよらない事だった。




