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107.桜花国記(日本刀)

視点が途中で切り替わります。

3人称→マサキ視点


 「素晴らしい物だな……」


 流鏑馬、早駆け、貴族行列や武者行列を観覧し姫路城を見学していた御津萱みつかや 葉津理はつりつぶやいた。


 「馬1つ取っても我が国とは雲泥の差、城の技術にいたっては、ここまでの物を我が国で造るのにいったい何年をついやすか分からぬほどだ」


 御津萱は、自分の腰に下げている剣を手に取とる。

 その刀は現在ニカナで造られている青銅製の剣と異なり、片刃で少々反りがある変わった剣

 それはマサキが、条約締結の調印でニカナへおもむいた際の土産の品に入っていた数本の日本刀だった。


 そして、その内の一振りを御津萱は、帝から直々にたまわっていたので、現在その刀を腰の脇に下げていたのだ。


 「見るからに不思議な剣だ。 薄く細く、しかしながら恐ろしいほどの切れ味、これを見た時は、どのような国がこれを作ったのか興味が湧いたものだが、今、その国を目の前にすると、なるほどかなわん」


 御津萱はマサキが訪れる前まで、アヤカのように桜花から学ぶ事が多いと思っていなかった。

 自分の国や領地に自信があり、それらが劣っているとはまるで考えられずにいた。


 しかし、どうだろう。

 マサキの持ってきた品々、その中の一振りの刀を手に取って抜いた時、御津萱はその自負を打ち砕かれたのだ。


 「帝様のげんは正しい……我が国が、桜花から学ぶ事は多い。 それは浜辺に広がる砂浜の砂の如くで、その砂1粒1粒が、砂金の如く輝いている 」


 この刀を見て以降、御津萱はアヤカの先見の明に感服し、老骨にむちを打ってでもアヤカのため、いては国のために尽力する決意したのだった。


 「ほう、その剣は……」

 「んっ?」


 目を向けると、そこにはハルダーが興味深そうに御津萱を見ていた。


 「これは、ハルダー殿……だったかな?」

 「ええ、フォルフェバレク軍務卿 バルト・ハルダー と申す。 貴殿はニカナのミツカヤ殿でしたな」

 「はは、名前を覚えて頂いていたか……」


 御津萱は、刀を戻しハルダーに向き直る。


 「何か御用でしたかな?」

 「いや、その刀を貴殿が持っていたのでいささか興味があったので……」

 「ほう……」


 ハルダーが興味を持ったと言う言葉に御津萱は、もう一度自分の刀に目を向け再度ハルダーに視線を戻す。

 この御津萱も老いたとは言え腕には少々自信があり、目の前にいるハルダーを一目で実力者だと判断していた。


 「なに、彼のオウカ国王が我が国に訪れた時、手土産としてその刀があったので女王陛下が、国への功績が大きい者に数点ほど下賜かしされる話があり、私もその剣を頂いているのですよ」

 「なるほど、貴殿もこれを……」

 「ええ、ただ……我が国の剣と比べ細くて簡単に折れてしまいそうな剣だったので、てっきり観賞用だと思っていたのだが……」


 たしかに御津萱も最初にその切れ味に驚いたが、同時に折れそうなほど細いとも感じていた。


 「うむ、貴殿のおっしゃるように折れそうに思える……しかし、先ほど騎兵、歩兵の行列を見た時、甲冑を装備していながらもこれと同じ物を腰に

差していた」


 もし実戦に使用出来ないモノなら、いくらもよおしと言えど携帯するはずは無い!と、御津萱は考えていた。

 それは、ハルダーも同じ様でなぜこの細身の剣を持っているのか不思議に思う。


 「お2人とも刀に興味がおありで?」


 御津萱とハルダーが刀を見て話している中、もう1人の声がした。


 「これは、オウカ国王!」

 「おぉ、マサキ様でしたか!」


 その声の主は、当の刀を送った本人であるマサキだった。






 「いや、先ほどから刀を見て、何やら話していたのを気になったので……」

 「オウカ国王、その……このカナタは実戦に使用できるのですか?」


 どうやらハルダー達は、日本刀が実戦向きかどうかを話していたようだ。


 「う~ん、実践で使われた記録は残っていますが、メインで使うのは、やりと弓でして……刀は、それらを失った最終手段として使われていました

ね」

 「ふむ、やはり槍と弓ですか……」


 相手の手の届かないところから弓などの遠距離で攻撃すれば被害を受けずに倒す事ができる。

 しかし、相手も攻撃が届けば逆に被害を受ける事もあるだろう。

 ゆえに武器と言う物は、遠距離になるほど有利に働くのだ。


 「しかし、オウカ国王、この細身のカタナでは、最終手段としても些か心許無こころもとないと思うのですが?」

 「たしかに剣と違い心許無いかもしれませんね。 しかし、それは武器の性能を正しく認識していないだけかもしれませんね」

 「武器の性能? マサキ様、そうは言いますが、この刀、切れ味の鋭さは申し分ないですが、これほど細くては折れてしまうのでは?」

 「ええ、この刀ですが、ハルダー殿の剣ですと突き刺すか叩き斬るが正解かと思いますが、この刀は突き刺す他に斬り裂くのです」


 叩き斬ると斬り裂く、やはりここが剣と刀の違いのさいたる所だ。

 西洋の剣の場合、自分や相手の身を守っている甲冑かっちゅうに厚みがあり、斬るより叩いて内部へのダメージを与えた方が効率的だろう。

 これが日本刀になると、よろい隙間すきま、例えば関節の部分や脇、股などを突いたり斬り裂いて出血などのダメージを狙っている。

 また、平時へいじの護身用としても使われるので、重い剣よりも素早く抜いて切れる刀が便利だと考えられたのだろう。


 「斬り裂く?」

 「ええ、そうですね……実際に見て頂いた方が良いですね。 たしか奉納演舞ほうのうえんぶ用の巻藁まきわらがあったと思うんだけど……」

 「マスター、こちらに」


 ミナの方を見ると、いつの間にか巻藁が地面に突き刺さって立っていた。

 それと……。


 「あの……ミナ? その巻藁は良いけど、隣のフルプレートは何かな?」


 そう、巻藁の他にフルプレートを着けたマネキンが隣に用意されていた。


 「はい、剣と刀の違いを説明するのに良いかと、それと剣と刀も用意してあります」


 しかもご丁寧に剣と刀まで、まさにいたれりくせりの状況だ。


 「ありがとうミナ、ええと、では実際に斬って頂こうかな、ハルダー殿お願いしても?」

 「あ、ああ、承知した」


 ハルダーは、いつの間にか用意された事と、それを目にも留まらぬ速さで行ったミナに驚きを隠せない様だ。


 ごめん、その子チーターなんだ。



 気を取り直しハルダーは用意された剣を手に取る。


 「では……ふんっ! でりゃっ!」


 一瞬の気合と共にハルダーは、見事な身のこなしで巻藁とフルプレートを2連撃で斬り付ける。


 巻藁の方は見事に真っ二つに

 さらにフルプレートの方もハルダーの技量がすぐれているからか、肩口からお腹の辺りまで剣が食い込んでいた。

 これでは、もしこのフルプレートを相手が身に着けていたとしても間違いなく絶命している。


 「お見事! 素晴らしい腕前です」

 「いや、この剣は良いものですな! よろいを斬ってもほんの少し欠けているだけだ」

 「いいえ、ハルダー殿の技量が優れていたからですよ。 もっとも、これほどの腕前を全員持っているわけでなく一般兵では、へこむ程度ですよね?」

 「うむ、たしかに、その通りですな」


 普通の剣士では、鎧を斬るなんて無理な話で、ハルダーほどの腕前あってこそ可能なものだ。


 「では、刀の方は私がやりましょう! どれ、巻藁を」

 「すでに新しいのを用意しました。 追加で甲冑かっちゅうも用意しました」


 すでに先回りしてミナが、新しい巻藁とフルプレートを用意してくれていた。

 さらにそれに加え日本伝統の武具である甲冑まである。


 相変わらずの早業はやわざには、ハルダーと御津萱が目を丸くしていた。


 「ありがとう、どれ、久しぶりに斬ってみよう。 まずは、巻藁から」


 スッと刀をさやから抜く。

 この時、体捌たいさばきが出来ていないと、鞘から抜く事も上手く出来ない。


 中段に構え巻藁に軽く当てると、そのまま刀の刃を滑らせる様に振り下ろした。


 「この様に刃を滑らせて斬ります」

 「「なっ!」」


 振り下ろした刀の後に巻藁の上半分が、ポトリッと落ちる。

 すると、ハルダーと御津萱から驚きの声が上がった。


 なんだろう? 普通に斬っただけなんだけど?


 「何か?」

 「……いや、何と言うか……まるでそこに何も無いが如くに斬られたので」

 「ええ、私も刀が通り抜けたように見えました」


 ああ、ほとんど予備動作無しに斬った上に刀が巻藁にスムーズに刀が入って斬ったので、まるで幻影を斬った様に2人の目には映ったみたいだ。


 まあ、たしかに自分でも驚く位に簡単に切れたけど……たぶん、この刀が業物わざものだからだろうね、きっと!


 「ええと、まあその……柔らかい物ならこの様に斬れます。 ですからこの甲冑ですと、脇、手や足の内側など防護が少ない場所に素早く斬りつける事で

相手に致命傷や出血をさせるのです」


 気を取り直して新たに用意された甲冑の隙間を狙い、手首とひじを柔らかく使い

 さらに身体全体を小さく円を描くようにさばきながら、数回にわたり斬る寸前の動作を2人に見せていく。


 2人からは、「おぉっ!」や「速い!」など声が上がったが、おそらく刀を使った剣術を始めて目にした事と、俺自身、何年も続けた型だからやり慣れて

いたので速く見えるのだろう。


 「ですから、このフルプレートを斬るには向かないのです」


 「マスター」

 「うん?」


 フルプレートの上に刀を当てて説明を終了しようとした時、ミナが声をかけてきた。


 「その刀は、数打かずうちなので折っても曲げても構いません」

 「えっ!」


 てっきり名刀だと思っていたけど、この刀って量産品の数打物かずうちものなんだ。


 「……まあ、そう言うなら」


 と、今度は先ほどと違い鞘に収めたまま


 「シッ! ヤアッ!」


 いわゆる居合いでフルプレートの右腕を斬り

 その返す刀でそのまま上段から肩口に向かって刀を振り下ろした。


 あれ?

 鉄の鎧を斬ったはずなんだけど……なんか手応えが軽いな。


 そう思った瞬間、「ガシャンッ!」と大きな音と共にフルプレートの右腕が床に落ちた。


 「ま……まあ、この様に偶然斬れる事もあると思います」

 「「……」」


 振り返えると、何と言うか……無言の2人。

 これじゃあ、叩き斬る? 斬り裂く? 何それ? と言われかねない雰囲気だ。


 だって、右手だけだけど斬れると思ってなかったんだもん!


――ガシャッ! ガシャーン!


 と俺の後ろから大きな音に驚いて振り向くと、そこには肩口から斜めに鋭利えいりに斬られたフルプレートだった物があり、床にはフルプレートの頭

と肩の一部が転がっている。


 「………………エェ~~ッ!!」


 斬れないと言いたかったのに斬ってしまった事への驚きと、斬れた事の不条理にミナ以外の全員がまるで時が止まった様に動けなかった。


マサキ「何で切れたのだろう?」

ミナ「100年近く鍛錬を行っていれば、筋力付き身体制御技術はより効率的に、より合理的になります。 ですから数打の刀で鉄をも切断できた。 と判断されます」

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