106.桜花国記(まずは……)
明けて翌日
「今日は、桜花国内を観光してもらうんだったよね。 ミナ」
「はい、皆様のご要望に沿って移動になります。 アイリス様 御一行は、食糧の生産性、城、騎馬などを観覧したいとの事です」
外交官達が、事前に観覧希望を聞いたところ、どうやらアイリス達は食糧の生産と運用などと、城郭や騎馬などに興味がある様だ。
おそらく我が国の兵站運用方法と軍備状況を確認するのが狙いだろう。
「案内する場所は、どこ?」
「食糧については、我が国の“一般的”な作物生産現場である田畑を案内し各種の作付け、育成、収穫を方法を見学、その後に市場を見学して頂きます」
「漁業と畜産は?」
「日程上、後日に予定しています」
1日で全部見るわけでは無いから、まあ、そうだよね。
「城と騎馬については? 5月だと葵祭なんかが有名だけど」
これは日本の京都で行われるお祭りで、正式には賀茂祭と言い。
平安貴族の格好をして各神社への奉納を目的とした行列で、前日に行われる流鏑馬などが有名だ。
これらだけでなく日本で行われている古式行事は桜花でも全て取り行われていて、この行事もその一つだ。
ただ、これは平安時代の古式行事、先方が希望した物とは違うと思うけど……。
「もちろん葵祭も御覧頂きますが、他にも全国から武者行列などの行事を集めて催す予定しています」
「えっ! つまり、時期を問わずに集めて開く予定なの?」
「イグザクトリー、その通りで御座います」
なぜ英語?
でも良いのかな? 時期にも場所にも、その行事を行う意味があるのだけど……。
「本来の催しとは些か異なりますが、全国各地から是非、外国の方々に見て頂きたいとの要望が強かったので採用しました」
「そうなんだ、まあ、強制じゃなく開催側も納得した上なら良いか」
「はい、ただ参加したいとの申し出が多かったので抽選で決めたので、落選した行事関係者とその地域の人々は落胆の色を隠せないようです」
う〜ん、たくさん応募があったのは、ありがたいけど全部をやる訳にはいかないのだから、それは仕方が無い。
「城の見学は、どこを予定しているの?」
「そちらは、姫路城を予定しております。 本当なら熊本城もお見せしたいのですが、時間の都合上1城のみ御覧頂きます」
名城と言われる城の内、御所にも近い姫路城を選んだようだ。
たしかに熊本城や石垣も洗礼されたデザインで好きだけど、別名 白鷺城とも言われる真っ白なお城が特徴の姫路城もインパクトがあって良いよね。
「ただし、本日、目的地へ向かう前にアルフィーナ様が、アイリス様とアヤカ様を連れて向かいたい所があると言っておりました」
「えっ! アルが?」
「はい、ですので、まずはそちらへ行った後に向かう予定です」
「へぇ~、了解」
どこへ行くのか聞いてなかったけど、アルが連れて行きたいと言っているのだから変な場所じゃないんだろう。
少し疑問に思ったが外へ出る準備をサッサと済ませ、アルフィーナ達が待つ玄関ホールに向かって歩き出す。
「おお、マサキ! こっちなのじゃ」
玄関ホールまで来ると、すでに来てたアルフィーナが手を挙げた。
「おはよう、これで皆揃ったんだね」
「そうだな!」
「おはよう御座います主様」
夜空と真白が、揃って応える。
昨日は、行事の都合上この2人は欠席していた。
だから今回、アイリスとアヤカに初めて紹介する事になる。
「うん、じゃあ王国ホテルに向かおう!」
そう言って外に出ると、数台のバスに乗り込みホテルに向かう。
本当なら国賓の移動には黒塗りの車両が使われると思うが、相手側が桜花国に不慣れである事、説明や話し相手に同席した方が良いと判断した事から今回はバスでの移動になった。
桜花国 王国ホテル
日本の帝国ホテルと違い、高い階層のあるビルになっている。
正面入口前に池があり周囲には緑をふんだんに取り入れ、また近くに王立公園があり立地が良い。
周囲にホテル以上に高いビルは無くプライバシー保護にも優れ、過ごし易いホテルである。
バスがホテルに到着する頃には、アイリスとアヤカの一行がすでにロビーで待っていた。
「お待たせしたようで申し訳ない」
「いえ、私達も色々と話が出来ましたので」
そうアヤカが答えてくれたのだが、アイリスは……と言うかフォルフェバレクの面々が驚いた顔で外を見ていた。
「何かありましたか?」
アイリス達が見ている方向、つまり、俺達が入ってきた玄関の方に目を向けるが特に変わった事は無い。
「アイリス殿?」
「……ま、マサキ殿、アレは何ですか?」
「アレ?」
アイリスが指を差す方には、停車中のバス。
……あっ!
「ああっ! そう言えば昨日の移動は馬車でしたね、アレは車といって我が国で馬車の変わりに移動する物です。 そうですね……簡単に言うと馬の変わりに魔道具で進む仕組みになっています」
「ま、魔道具ですか……オウカ国では、これほどまでに魔道具で溢れているのですね」
「まあ、そうですね」
本当は、自動運転で動く電気自動車だが、まあ、良いか。
「それよりも、お2人に紹介したい者がいまして」
「紹介? どなたでしょう?」
夜空と真白が2人の前に出る。
「夜空だ! マサキの嫁で第2王妃だ」
「真白です。 同じく主様の妻で第3王妃です」
「まあ、アヤカです。 こちらこそ、よろしくお願いします」
「アイリスです。 ……しかし、マサキ殿は亜人の方も妻に娶られているのですね」
見た目褐色の美人の夜空だが、頭には龍角が生えており
一方の真白は、ピンと耳が立った美人の獣人だ。
アイリスが、亜人種に間違えるのも仕方が無い。
「この2人は、私の妻ですが亜人種ではなく聖獣です。 今は魔法で人の姿ですが本来は、夜空は黒龍、真白は白狼の姿になりますね」
「えっ!」
「ほう、それはそれは、人の姿になれるとは、まさに聖なる獣様!」
さすがにココで固の姿になるのは、憚られるのでそのままだが、アヤカの方は「なるほど」と頷き、アイリスは目が飛び出るほど驚いていた。
「せっ、聖獣が人に! 人になるのですか!」
「ええ、その通りです。 ただし、元の聖獣になるには、今着ている服を脱がないとイケナイので信じられないかもしれませんが……」
「なんだ? 別に戻っても良いぞ」
「黙りなさいヨル! あなたには羞恥心と言うものが無いのですか!」
「いや白いの、このままだとマサキの言葉を信じてもらえないと思ってな」
おいおい夜空
さすがに俺は、自分の嫁の裸を大衆の前に晒す気は無いぞ!
あと、真白も「そうですね……」と考え込まない!
「いえ……いえ、だ、大丈夫です。 実は幼少の砌、父に連れられケルファルト帝国に赴いた事がありまして、その時、帝国の聖なる山に住まう聖獣、黄龍様にお会いした事があるのです」
「なるほど聖獣に……」
彼女は、まだ前回の戦争前
束の間の平和な期間があった時にケルファルト大帝国に行っていた様だ。
その時、ケルファルト大帝国で一番標高が高い山に住む黄龍に会っていたらしい。
ちなみに黄龍とは、元々ここ桜花の地に住んでいたが、当時、毎日繰り広げられた夜空と真白の喧嘩に嫌気がさして別の地に移り住んでいた。
「その時に聖獣である黄龍様が言葉を話せる事を知り、お話しする事が出来たのですが……まさか、人になれるとは……」
なるほど、アイリスは聖獣を知っていたからこそ人の姿に驚きが一入だった様だ。
「そうだったのですか、まあ積もる話は車の中で話しましょう! それではアイリス殿とアヤカ殿、お乗り下さい」
「……ええ、では失礼して」
「これは、楽しみですね!」
アイリスは恐る恐るで乗り込み、一方のアヤカは対照的に意気揚々《いきようよう》とした表情で乗り込んでいく。
「……では、私も行くぞクロード!」
「は、はい!」
アイリスの護衛であるハルダーと、護衛部隊団長が後に続いて乗り込んでいった。
どちらも顔が強張っているから初めての乗り物に恐怖しているようだ。
それを見送り俺も乗り込むと、フッと疑問が出てくる。
「おや、アヤカ殿の護衛は?」
そう、バスに乗り込むフォルフェバレクの人は昨日港から出て来た全員なのだが、アヤカの方は付き従う2人の女性、彼女達はたしかアヤカの侍従の者達だ。
それともう1人、初老の男性
彼はニナカの最有力の豪族で名前をたしか、御津萱 葉津理と言う名前だったはず。
アヤカの他にその3人しかバスに乗り込んでいない。
あと40人以上いたはずだが……?
「ええ、護衛はこの3人で十分でしたので、あとの者は……」
「マスター、ニカナ国の他の方々は、ご要望があり他の場所に見学に行っております」
「えっ! そうなの?」
「はい、それぞれに案内を付けていますので問題ないかと」
ミナがそう言うなら問題ないだろう。
案内がいると言う事は、事前に内閣の方でも把握していると言う事だろうから。
俺とアルフィーナ、夜空に真白、ミナとメイド達
アイリスとクリス、それにハルダーと侍従の4人、護衛のクロード達5人
アヤカは先ほど話した3人が、同じ車両に乗り込んだ。
他のフォルフェバレクの人々は、もう1台のバスに収まりそうだ。
100名以上だと思って数台バスを用意していたのだけど、これなら2台で十分だな。
全員乗り込んだのを確認すると、バスはゆっくり動き出す。
動き出したバスに驚く者が多数いたが、たぶん大丈夫だろう。
「そういえばアル、初めに行く場所って……ドコ?」
「うん? 何じゃ聞いてなかったのか、なに、ちょっと買い物なのじゃ」
「買い物? それなら事前に済ませられたんじゃ?」
買い物ぐらい今行かなくても、いつでも行けるだろうに……。
「私のではない、アイリスとアヤカ、それに……クリスもじゃな!」
「えっ! わたし!」
楽しそうに窓から外の過ぎ行く景色を眺めていたクリスが、突然自分の名前を呼ばれた事に驚いた。
「うむ、大切なものじゃ! 買って損は無い、いや、買って徳になる物のじゃ!」
「は、はぁ」
拳を突き出し力説するアルフィーナに若干気圧され気味のクリス
他の面々も呆然とその様子を見ていた。
「で? 何を買うの?」
「ふふ~ん、着いてからのお楽しみなのじゃ!」
そんな事を言って勿体ぶるアルフィーナ
まあ、着けば分かるか
……と着いてみれば
「えっ! ココ?」
「そうじゃ! では、行くぞ皆の衆!」
と言ってアイリスとアヤカ、それにクリスを伴ってアルフィーナは中に入ていく。
それに続くは、夜空に真白、ミナとメイド達、それとアヤカの侍従の女性2人とクリスの侍従の4人
そして、ハルダー達も入ろうとした所で俺はハルダーの肩口を手で掴んで止めた。
「ハルダー殿、ここは女性だけで、男性は外で待つのがよろしいかと……」
「いや、そうは行くまいオウカ国王、私は護衛でもあるのだから女王陛下をお守りしなければ」
ハルダーの真剣な表情にそれ以上止めることも出来ないので、「分かりました」とハルダーの肩から手を離す。
するとハルダーは、1人中へと入っていくのだった。
「勇者だな……」
ハルダーを見送る俺と、そんな様子を見守っていたアヤカの護衛であるクロード達だが、俺が入らない事と女性だけと言った俺の言葉に二の足を踏んでいるようだ。
「あ、あの……」
「ッッッ〜〜〜!!!」
クロードが俺に声をかけ様か迷っている時、店内から声にならない悲鳴がするとハルダーが店内から勢い良く駆け出てきた。
「な、何なんだアノ店は!」
「いや、ですから止めたのだけど」
ハルダーの顔は、茹でられたタコの様に赤くなっている。
「この店は、ランジェリー専門店、女性の下着を専門に扱う店なんですよ」
「そ、それを早く言って下さらんか!」
いや、言う前に入って行ったじゃないか。
「まあ、そう言う事なので男は、ここで待ちましょう」
「……」
20人以上の男が、ランジェリーショップの前で佇んでいるのは、周囲から見れば異様な光景で周囲からヒソヒソと話し声がするが、俺が先頭にいるので
「あっ、マサキ様……と言う事は中にアルフィーナ様達が……」
と察してくれたので大きな騒ぎになる事は無かった。
1時間経過
「ふ~~~、良き買い物じゃった!」
「まさか、ここまで軽くなるとは! 娘にもありがとうございます。 それに侍従にも」
「本当にこれほど素晴らしい襦袢見たことありません。 我が侍従共々感謝に耐えません」
「……その……ありがとうございます。 アルフィーナ様」
潤った顔で出てくる女性陣
その中でクリスは若干赤面しているようだが、まあいいか!
「終わった?」
「うむ、待たせたのだ!」
「それじゃあ、再度出発しよう」
「うむ!」
喜びに沸く女性達と対照的に、小1時間外で待たされた男達には若干の疲れが見えている。
まあ、待つのに慣れている俺は問題なんだけどね。
そして、バスは本来の目的地に向かう。
いったい次は、どのような驚きが待っているのだろうか……。




