104.桜花国記(初めて目にした桜花国)
「私は、まだ夢でも見ているのでしょうか?」
そう呟いたアイリスは、目の前に広がる景色にとても信じられずにいた。
先ほど乗船してきたグルシ殿から、そろそろオウカに着く旨を聞いたので甲板まで出て来ましたが、これは……。
「軍務卿はどうですか? 私には、とても現実に思えませんが……」
「……女王陛下、これが夢だとすれば我々は、とんでもない悪夢を見ている事になります」
戸惑いつつハルダーが答える。
「やはり軍務卿もですか……」
「はい、彼の国が、ここまでとは……」
「ええ、あれがオウカの港街なのだとすれば、私達が出港してきた西の港湾都市フィレーナは、都市と名乗るのが烏滸がましいほど小さいものですね」
目の前には、桜花の港がアイリス達の前に広がっていた。
「あれが見えますか……全てが、石?の様な物で造られているようです」
「ええ、それに港に停泊する船……この客船サイズのもあれば、それより小さいサイズもありますが、どれも我が国とは比べようも無いスケールです」
たしかにこの港は、桜花国無いでは有数の規模を誇る港であった。
しかし、彼女達からすれば見た事も無い異様な風景に圧倒されているようだ。
「見なさい、あの奥にある建物を……あんなに大きく空に届くほどの建物が建っているとは……それもあんなに沢山」
遠くに見えるのは、桜花国の武蔵國、さらに言えば首都リアレス
そこは桜花国内でも規模の大きな経済圏で多くの建物で犇めき合っている。
それに高層ビルもチラホラとあり、それを見たフォルフェバレクの面々は口を開け呆然としまうのは仕方が無い。
「そろそろ着きますのでご準備下さい!」
グルシが、客船の船長との話しを終えアイリス達の元に戻ってきた。
「……ええ、分かりました」
アイリスは目の前に広がる光景に気圧されたようで顔色が芳しくない。
これを見たグルシから体調について幾度か心配されたが、アイリスは「大丈夫」と言って断っていた。
「1つ貴殿に聞きたい」
下船の準備のため部屋に戻るアイリスとは別に、アイリスの準備が終わるまで甲板上で待つハルダーからグルシに質問が投げかけられる。
「どうぞ、私が答えられる範囲であれば何なりと」
「貴殿は……いや、オウカ国は、なぜアレほどの船を所有していながら我が国に帆船で来たのだ?」
ハルダーの質問はもっともな事だった。
条約を結ぶ事もまた外交なのだ、武器や軍隊を見せつけ相手より優位に立って話を進める事など、どこの世界でも常套手段である。
それなのに桜花は、まるで相手に合わせる様に接触し条約もほぼ五分五分の内容。
これでは、裏があるのではないのか疑いたくなるのも当然だった。
「そうですな……もし我が国が、あの船、榛名で貴国に出向いたらどうなったと予測しますか?」
「……あれだけの船だ、当然騒ぎになるな。 我が国もだが……おそらく他国でも」
「ええ、騒ぎが大きければ混乱し、それこそ条約なんて結べる状況では無かったかも知れません。 その様な事になった場合貴国は……」
「食糧不足で民に餓死者が出ていた……か……」
「そうです。 だからこそ穏便に事が運ぶようにしたまでです」
ハルダーは、グルシの話に納得する部分もあるが、また腑に落ちない部分もある。
では、なぜ桜花は、そこまでして話を進めたのか? そこまでする何かが我が国にあるのか? その疑問を口にしようとしたハルダーだったが、おそらく答えてくれまいと閉口する。
答えられるものだったら、先ほどの会話の中に入っていたはずだからだ。
自分で見定めろ……と言う事だな。
ハルダーは、グルシから目を外すと桜花国への港へ真っ直ぐ向き直る。
そして、実物の桜花国を自分の目で見て、桜花が今後フォルフェバレクにどの様な影響を齎すのか見定める決心をするのだった。
港から王宮に向かうため用意された馬車は、4頭立てでとても大きく前後対面式で8人が余裕で乗れる馬車が用意されていた。
このため女王の警護の観点からハルダーもアイリスと同じ馬車へ同乗する事になる。
「素晴らしい作りですね」
馬車に乗り込んだアイリスは、その内装の素晴らしさに感嘆の溜息を漏らす。
彼女が乗って来た王室の馬車に遜色が無いほど作り込まれた馬車だった。
さらに目立つのが、大きな窓である。
普通は警護の観点から窓などは厚く見えにくい作りなのだが、桜花の馬車の窓は大きく更にそこにガラスがはめ込まれていた。
「これほど大きなガラス窓まで……割れてしまわないのでしょうか?」
「たしかに割れそうですね……」
アイリスの疑問は、警護するハルダーも同様であった。
「これでは、万が一外敵が襲ってきた場合いとも簡単に割れてしまうのではないか?」
ハルダーが馬車の窓をコンコンッと叩き後から乗ってきた女性の桜花国外交官に尋ねた。
彼女は、桜花国王宮に着くまでの案内役でアイリスと同乗すると言う事で人間の女性が選ばれている。
「ご安心下さい。 このガラスは、特殊に加工された物で簡単に割れる事は御座いません」
「その様なガラスがあるのですか!」
「……」
アイリスは驚いていたが、ハルダーの顔は訝しげである。
しかし、ここでその説明が正しいかガラスを叩き割る訳にもいかないので、何があっても何時でも動ける様にアイリスの対面側両サイドに警護の者を配置するのだった。
船に残るもの以外のフォルフェバレクの全員が馬車に乗ったのを確認すると、アイリスの乗る馬車を中央に連なって走り出す。
「ッ!」
「なっ!」
「……」
港の出入り口を抜け通りに出た一行が目にした物は、
どこまでも続く綺麗に舗装された大きな道
道の両側に立ち並ぶコンクリート作りの建物群
道の中央には、3本の旗が等間隔で下げられ
さらにその道の両側には、大勢の人間や亜人種たちが待っていた。
「……これは、いったい?」
「我が国の国民が、女王陛下を歓迎しているのです」
「私の事を?」
「はい、我が国始まって以来の外国のお客様、歓迎するのは当然の事です」
そこには、「アイリス陛下ーーーッ!」「女王陛下ーーーッ!」と叫ぶ者や、持っている小さな2つの旗を振っている者までいる。
中には、拍手する者までおり、全員が笑顔でアイリス達の馬車を迎えていた。
「ここまで、大勢で……しかも、あの振られている旗は……」
「あの旗の紋章は、フォルフェバレク王家の紋章になります」
そう、そこには1羽の鷹が羽を広げ、周囲に緑の蔦が綺麗にレリーフを描くフォルフェバレクの紋章が描かれていた。
「なるほど、私を表しているのですね」
「はい、失礼とは存じておりましたが、勝手ながら使わせて頂きました」
外交官は、頭を下げて謝る。
なぜならフォルフェバレク国内において王家の紋章を許可無く使用した場合、ただちに処刑されるからだ。
「ここは他国、我が国の法は適用されません。 それに、もう1つの旗は」
「我が国の国旗となります」
「聞いてはいましたが、やはりあれがオウカ国の国の旗ですか……しかし、道の中央で飾られる旗は、1つは我が王家の紋章ですが、あとの2つは?」
アイリスが指を差した3つの旗は、向かって左にフォルフェバレク王家の紋章だったが、あとの2つは見た事も無い。
「右には、フォルフェバレクの皆様と同日に我が国に来訪されたニカナ帝国の帝室の御家紋で蘭の花になります。 そして、中央に見えるのは、我が王の御家紋 山桜の花になります」
「なるほど……」
左右に招待した国の王室の家紋と、それを結ぶ中央に桜花国王の家紋
どちらが上でもなく下でもない
訳隔てなく同じ高さに並ぶ家紋は、桜花国の真意を表していた。
「これが、オウカなのですね。 どの種族も同じく生き笑顔になれる国、それがこの国……」
掲げられた3本の旗に、アイリスたちを出迎える多種多様な国民
その全てが綺麗な服を身に付け笑顔である。
桜花国で行ったヤラセ行為かもしれないと疑いを持つ者もいたが、この事はアイリスの中に深い印象を残す。
桜花国以外は、人=人間 で、それ以外を亜人種と表現しており
桜花国では、あくまで1種族としているので人族と表現してます。




