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102.桜花国記(暗躍する者、企てる者、掃除する者)


 □アルガス・ヴァンフィール


 遠くかすみ行く帆船を見つめ女王陛下の無事を祈る。


 「そろそろ時間ですね」

 「うむ、掃除の始まりじゃ」


 ナバルの言葉に幾分顔をしかめる。

 今回、ワシがここに居るのは、もちろん女王陛下の見送りだが他にも理由があった。

 それは、どこかの馬鹿貴族が「渡航する女王陛を暗殺する」 と言う情報を得たからだ。

 その貴族の目的は、海上で情陛下を暗殺する事によってそれをオウカ国の仕業として条約の破棄、その後オウカに戦争を仕掛ける算段の様だ。


 この情報を得たワシは、ナバルと共にその馬鹿貴族の調査を開始

 その者の正体を突き止めた。


 無論、証拠も無しに無闇に断罪する訳にも行ない。

 だからこそ今回罠を張っていた。


 「どうじゃ? 準備は出来ておるのか?」

 「ええ、あとは時間になれば船が出港します」


 今回の作戦は、女王陛下の乗る船をワザと襲わせその襲撃者を生け捕りにする内容だ。

 もちろん女王陛下の御身にもしもの事が無いよう、女王陛下はこのあと別の場所から出港する船に乗っていると欺瞞ぎまん情報を流しておいた。

 それに相手に偽者だと感ずかせ無いため、女王陛下と王女殿下の影武者まで用意している。

 加えてワシとナバルで今からその者達を見送りに行く事で信憑性しんぴょうせいを強くさせるのだ、相手は疑いすらしないだろう。


 「船には、手練てだれの者を乗せています。 それとは別に数隻で囲むように船を用意しております」

 「うむ、なるべく生け捕りして吐かせるのじゃぞ、証拠は多いほど良い」

 「無論です。 それよりも……」

 「分かっておる。 南方の虫どもには別の証拠を用意しておる」


 今回は、この件と共に南方に出向かなければならない。

 それは南に存在する開拓区の視察と言う名目だが、他にも南に領地を持つ一部貴族の処分を含めていた。


 「何が、女王陛下の命により税を上げるじゃバカモノ共がっ! それでは、苦しんでいる民が、より苦しむではないか!」


 その処分対象の貴族が行った事

 それは、オウカからの食糧輸入によりようやく食糧難から開放されつつある領民に対し重税を課す貴族が現れたからだ。

 しかもその貴族は、よりにもよって勝手に女王陛下の名で民に重税を行っていた。


 「民の懐具合ふところぐあいが多少良くなったからと言って、自分の懐のさびしさは己の性だと言うに」

 「まったくですね、自分で派手に散財しておいてそれを補うために民から吸い上げようとは……おろか」


 その貴族が重税を課した事には理由がある。

 もっともそれは自分勝手な理由で、多くは自分の趣味や賭け事による散財で、他には気に入った女性への貢ぎ、投資の焦げ付きなどがあった。


 「女王陛下が帰ってくる前に、逃げられぬ様にしておかねばのう」

 「はい、ですが今回の件と言いあまりにも我々に都合の良い情報ばかりですね」

 「うむ、どう考えても何者かの手による物じゃろう」


 今回得た情報全てに言える事だが、どれも都合が良い情報ばかりだった。

 それは何も勝手に重税を課した者ばかりではなく、今回の暗殺計画を企てた者に当てめられる。

 その者は、今までハルダー軍務卿に不平は言うが、それ以上実行に移した形跡は無い。

 しかし、その者の周囲はキナ臭く他国との繋がりを疑わせる内容があった。

 疑いのみで罰するほど我が国の法は落ちてはいないが、だからと言って放置して良い問題でもなく悩んでいた所に今回の企てだ。

 誰がどう見ても胆略的たんりゃくてきで浅はかな考えだと言え、本当にその者が考えたのか? と耳を疑いたくなる内容だった。


 「おそらくその者にそれが正解と信じ込ませた……あるいは、それしか道が無いと思っておるのか、どちらにせよようやく掴んだ尻尾を見すみす逃す事は無い」

 「ええ、ですが、その情報源たどって行きますと流しているのは……」

 「オウカ国……では、ないのか? と考えられるのじゃな」

 「ええ、我々に利益になるのと合わせる様に彼の国にも利があります。 それに、まだ不確定ですが、その情報源の一部の商人達は聖光教内部にある派閥に資金援助をしているようです」


 情報が正しいとすれば……いや、おそらく間違いないだろう。

 オウカは、我が国だけでなく色々な国の商人を通じて情報操作を行っているのだろう。

 それは無理やりオウカの利になるためでなく、川の流れが1月で数ミリずれた程度

 それでは誰も気付かれる事も無く少しずつ流れをズレさせ、いつの間にか流れが変わっていた。

 その様な微小の介入が成されていた。


 誰も気付いておらぬ……その資金援助している商人さえ気付いていないだろう。

 情報を収集し何度も分析をしたワシでさえ確信してオウカだ! と言えないほどに不確かなのだ。


 「女王陛下の暗殺をそそのかしたのはオウカじゃろう」

 「そして、その計画がある事を漏らしたのもオウカ……」

 「うむ、さらに言えば計画が失敗するように2重、3重に罠を張っておる」


 今回の暗殺計画犯には内通者がおり、その者によって遂次実行部隊の情報が入ってきていた。

 さらに実行部隊にも内通者がいる。

 ここまで情報が漏れているのに成功するはずも無く、もし成功しようモノならそれは対策した者がより無能だったと言う事だ。


 「もし本当に彼の国が行っているならば……恐ろしいですね」

 「うむ、まあ今の所確信を付くモノでは無い。 それについては、女王陛下や軍務卿が帰ってきてから判断しよう」

 「そうですね、まずは相手を知らなくては、どうにも行きませんね」


 オウカ国がどの様な場所か、いまだに分かっていない。

 外交官から少しだけ聞いているが、対部分はまだ謎に包まれている。

 だからこそ女王陛下と軍務卿にオウカとは如何いかなる所か、それが重要になるかもしれない。


 「まあ、彼の国の思惑いずこにあるか分からぬが、当面は放置じゃな」

 「ええ、とりあえず女王陛下と軍務卿の帰国待ちですね」

 「うむ……どれ! 掃除を始めるとするか!」

 「ハッ!」








 今回の件でアルガスとナバルによって多くの不平貴族が捕縛され処分される事になった。

 それによって女王アイリスの地盤は、より強固な物になり女王の教訓も行き届き以来300年ほど王政が続くのだった。


 この時の事を後世の歴史家は、こう言っている。


 「この時、有能で優秀な家臣が揃っており、また、女王もそれを生かしていた。

  加えて女王は、国民を1番に思い、国民もまた女王を敬愛していた。

  両方が互いを思いやる気持ちがあったこの時代がうらやましい。


  間違った情報に踊らされた国民、全てを無にするまで踊らされた国民

  もしあの時、この時の優秀な家臣が揃っていたら、国民の事に心を痛めていた国王は今と違っていたのかもしれない」


                (桜花国歴390年 フォルフェバレク王家の歴史を調べていたフォルフェバレク共和国の歴史家の書記より)


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