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101.桜花国記(驚愕のハルダー)


 時は、フォルフェバレク王国が桜花へ船で出発する日までさかのぼる。



□ バルト・ハルダー


 オウカとは、まったくもって注文の多い国である。

 女王陛下と王女殿下が訪問すると言うのに、同行者の人数に制限をかけるばかりか

 事細≪ことこま≫かな条件が、オウカ国側から出されたのだ。


 たとえば

 武器や物資の持ち込みは可能だが、オウカから許可無く物を持ち出す事の禁止

 身を守る以外の殺害、暴行の禁止

 窃盗などの犯罪行為の禁止


 挙げればキリが無い。

 もっとも他国への訪問時も同様の取り決めがされるので人数以外に不満は無いのだが……。


 それに持ち出し禁止と言っても見付からなければ問題ないだろう。


 「伯爵、準備滞りなく終了しました」


 物思いにふけっていると1人の騎士から出発を告げられた。

 この騎士の名は、ニコラ・クロード

 見た目若いが、私と幾戦もの戦を駆け抜けたつわもので腕と瞬時の判断力においては右に出る者は無くもっとも信頼できる男だ。

 今回の旅では護衛部隊の団長として、また、私の副将として同船している。


 「そうか」


 クロードの言葉に頷き女王陛下の方に向きを変えると、今は見送りに来た内務卿と外務卿との歓談中だった。

 女王陛下の渡航のためこの港に3役勢ぞろいと言う訳だ。


 「内務卿が、わざわざ見送り来なくても……」

 「いえいえ、女王陛下の渡航には見送りに来るべきかと……、それに元々ここより南の開拓区に視察に行く予定だったので」


 女王陛下の言葉は、自身が不在中に国政を預かる内務卿が政治の中枢である首都を空ける事に危惧きぐしてのモノだ。

 もっとも当の内務卿の言っている様に、南の開拓区に視察に出る事は女王陛下がオウカに訪問する時期が決定する数ヶ月も前の事で無理なスケジュール調整では無いのは確かだった。


 「女王陛下、出発の準備整いました」

 「分かりました軍務卿、では2人ともあとの事任せました」

 「「ハハッ!! 留守居るすいはお任せ下さい。 女王陛下、どうかくれぐれもお気をつけて」」


 女王陛下が2人に微笑み乗船して行く。

 私も2人に目を向けると、何も言わず揃って頷き合いその場を後にした。


 「クロード! 出発しろ」

 「ハッ! 船長に伝えてきます」


 

 「もやいけ出発だ!」


 クロードが船長のもとに行くと、すぐに船長の声が響き渡り船員が走り回る。

 そして、舫が解かれゆっくりと船が動き出し沖へと走り出した。


 港を出て進む船の上、周囲を警戒する船員の中私もお気に目を向けていた。


 「本当に沖に出ればオウカの船が先導するのだな」

 「向こうの外交官からその様に伺ってます軍務卿」


 ナバル外務卿の下の者で、名前を何と言ったかな……思い出せないが……まあ良い。


 その言葉通りさらに船を進ませる。

 しばらくすると遠くにであるが、たしかに1隻の木船が停船しているのが確認できた。


 「伯爵! 光が点滅してます」

 「ああ、約束どおりだな、船長にあの船のあとを追う様に伝えてくれ!」

 「承知しました」


 我が国の船が停船する木船に近づくと、すぐにその船がオウカの船である事が確認できた。

 あの国の船は、外交官が我が国に来る時の船のみならず、物資の輸送の船までも揃って同様の旗をマストに掲げている。

 真っ白の布に中央で赤い鳥が羽を広げるあのマークだ。

 白に赤丸にも見え遠くからでもオウカの船だと分かる。


 オウカの船も当方を確認したのだろうゆっくりと進み出すのでと我が国の船もあとに続く。


 出港した港町が遠くにかすむほどの距離から先に進みどれほど時間が経過しただろうか、もうその港を確認出来ないほど遠く沖合いにいた。

 するとどうだろう、オウカの船が帆をたたみゆっくりと我が国の船との距離を近づけ出した。

 何事か! と思ったが向こうの船員は船の後ろで我が国の船を待っている様で、どうも何かを伝えたい様子だ。


 「どうした!」

 「そのままで! 今、我が国の船が出て来ますので驚かないでください!」


 オウカの船員に問うと、返ってきた答えに首を傾げる。


 船が来る? 意味が分からない。

 どこを見回しても船なんてないぞ?

 もしや……罠か?


 クロードに目を向けると、クロードも黙ったままで頷いた。

 長年戦場を共にした仲だ、ヤツの方も分かっているようでいつでも剣を抜ける体勢をとる。

 周囲の者達も私とクロードの変化に気付き瞬時に船全体に緊張が走る。


 「どう思う?」

 「さて……しかし、向こうの船員の様子に変化が見られませんね」


 私が杞憂きゆうかと一瞬考えたその時、変化が見られた!

 船ではなく、船が浮かぶ海にだ!


 「なっ、何だ!」

 「う、海が割れて行きます!」


 そう、オウカの船と我が国の船を中心とした海が割れていく。


 それを知った時、船員はもちろんだが、私やクロードも何が起こっているのか分からず動く事ができずにいた。

 すると船底から、ドンッと音が鳴り何かに当たる。

 硬い物で強い衝撃であったが、船を破損させる程の衝撃ではなくどちらかと言うと、何かに掴まれた、そんな風に感じる衝撃だった。


 「伯爵様! 船の舵が効きません」

 「なんだと! クソ! いったい何だというのだ!」

 「軍務卿、どうしました?」


 焦る私にいつの間にか女王陛下は船室を出られ船外まで来ていた。


 「いけません! ここはあぶのう御座います。 女王陛下はどうか船内にお戻り下さい」

 「軍務卿、オウカとの取り決めでココにいるのです。 あせる事はありません! それに、ほら、向こうでオウカの船員達が落ち着けと言っているようです」


 あまりの状況で全員慌てていたためか、前で叫ぶオウカの船員の声が耳に入らなかった。

 たしかに女王陛下がおっしゃっているように、向こうの船員は大きな声で落ち着けと言っているようだ。


 「女王陛下の前である! 皆の者落ち着くのだ!」


 大きな声を上げて騒ぐのを辞めさせ静まらせると、ようやく自分が置かれた状況を理解できた。

 いや、理解できないが、分かったといった感じだ。


 「なんだコレはっ!」

 「これは……壁? いや箱か?」


 船外が様変わりしていく様子に驚いていると、クロードも船外に目をやると信じられない様子であった。

 それもそうだろう、今まで海が一面に広がっていたのに今は周囲を壁で囲まれた何かの中におり、しかも、そこから海の水が抜かれ今では底まで見える。


 「まさか……先ほど船員が言っていた船なのか? バカな! こんなデカイ船があるはず無い」

 「ぐ、軍務卿、これは……何なのですか!」


 先ほどと打って変わって女王陛下の顔は青ざめ周囲の変化に驚いているようだ。


 さっきまでは周囲を落ち着かせるため気丈きじょうに振舞われていたのだな……。


 「伯爵様! オウカの船員が降りて行きます」

 「なにっ!」


 女王陛下にそこまでさせた自分をやんでいると、クロードの声に再び船外に目をやると、たしかにオウカの船員はいつの間にか船に横付けされた階段で下に降りて行っている。


 そこに 「ガゴンッ!」 と船の横で大きな音がしたので見ると、オウカの船と同様の階段が横に取り付けられた。


 「降りて来いと言う事か?」

 「伯爵様、いかが致します」

 「……クッ、良いだろう、降りてやろうではないか! 私が先行する、女王陛下は安全が確認できてから御降り下さい! クロード頼むぞ!」


 クロードは自分が先に行くと言いたそうな顔付きだったが、ここは私が先行しなくてはならない!

 なぜなら驚愕に継ぐ驚愕の出来事のあまり、私とクロード以外、萎縮いしゅくしてしまい前に出る事が出来ないでいるからだ。


 胸を張り背筋を伸ばして前に出て階段に足をかけると、ゆっくりと降りる。

 それはあたかも当然と言った風な武人の足取りだったが、内心では心臓が爆発しそうだ。


 見ると下にはすでに人が整列して我々が降りて来るのを待っていた。


 私が地面に足を下ろすと、待っていた面々が揃って一斉に右手を額の辺りまで上げる。

 どうやらコレが彼らの挨拶らしい。

 しかも全員が同じタイプの服を着ている。

 これがオウカの服なのか?


 それに……この者達は……。


 「驚かせて申し訳ない! 私は、歩積ほずみグルシ、フォルフェバレクからのお客様である皆様を桜花にご案内するため参りました」

 「……」


 一番先頭の者が挨拶するが、私は驚きのあまり声を出せずにいた。

 私が驚いている事を見透かしたこの者は、表情を崩し


 「おや? 翼龍人族は初めてでしたか」


 と笑って見せた。


 そう、この場にいる半分以上が人間では無い人種なのだ。

 この男?は、龍の様な姿、脇にいるのは人間、その脇は獣人

 獣人は私も見た事はあるが最後に目にしたのは20年前、それ以降見た事が無い。

 噂では、獣人を含め他の亜人は、エルフ皇国とケルファルト帝国で使い潰されたと聞いていたが、まさか残っていたとは思いもよらなかった。


 「……いや、失礼、私はバルト・ハルダー、フォルフェバレク王国 軍を預かっている」

 「お気になさらず、先ほど申したとおり私は、皆様を桜花にご案内するためこの護衛艦隊の司令官であります」

 「護衛艦隊? 他にも船があるのかっ!」

 「それについてはのちほど……それよりも女王陛下や他の皆様をご案内したいのですが」


 艦隊と聞き亜人に詰め寄ろうとしたが、この亜人の言葉にハッと我に返り上を向くと女王陛下を先頭にした面々が心配そうにコチラをうかがっていた。


 クッ! 何なんだ! オウカと言う国は!

 私は、どんな戦場でもおくする事無く戦い冷静さを失わなかった。

 だが今はどうだ! 驚いたり慌てたりと全く自分を保つ事ができていない。

 本当にこの国は、いったいどの様な国なんだ……。


 ふぅ! と息を吐き心を落ちつけ、もう一度周囲の様子に目を向ける。

 そこには2隻の船を内包してもまだ余裕のある広いスペースがある。


 まだ分からないが、もしこれが船だとすれば……私達はとんでもない化物の招きに応じてしまったのかもしれない。


 そう考えた瞬間、私の背中に冷たい汗が流れるのだった。


・船を収納したのは、潜水型タンカー船だと思って下さい。

 排水時も船が壁面に寄らない様に調整して排水してます。

 下で船を支える物の名前が分からなかったので単純に支えにしてます。

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