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96.桜花国記(帝都と帝城)


 ニカナ帝都

 まだ正式名所が無いこの地

 桜花国では、この地を帝の御座所である事から帝都と仮称で呼んでいた。


 この帝都は、帝の住まいである帝城を中心に碁盤の目の如く道が整備され各豪族の住まいや豪族が楽しむ娯楽施設が築かれ、それを囲う様に商人があきないを行う商業都市だ。

 農業は都市より離れた場所にあり、漁業はそれよりも遠くにある。

 食品、雑貨の類は、その衛星都市で作られ、その商品が帝都に流れ込み商売され他に流れを変える中継地の役割もこなしている。


 この様に人が集まる都市だが、中央部の建築様式に比べ外に行くほどその作りは質素になって行く所を見ると、この都市がより発展するにはまだまだ長い道のりが必要だろう。



 そんなニカナ帝都に到着すると、俺達一行は盛大な歓迎を受ける事になった。

 もちろんニカナの豪族である有力氏族からの歓迎もさる事ながら、それよりも驚かされたのが帝都に住む民衆からの歓迎ぶりだ。


 帝都の入口から真っ直ぐ伸びる大きな1本道

 砂地の道ながら平に整地されゴミ1つ落ちてない綺麗な道だ。

 そんな綺麗な道の両脇に「これでもか!」と言うほどの人、ひと、ヒト

 両側にある建物を飲み込む勢いで人に埋め尽くされていた。


 「もしかして、これって……俺達を見に来た人達なのかな?」

 「他にないじゃろ! ほれ、皆の目がこの馬車に集まっておるぞ、手でも振らぬと失礼じゃろう」


 圧倒的な視線の数に少々驚いたが、アルフィーナの言うとおり窓から手を振り歓迎する民衆へ応えた。

 するとどうだろう! 俺達を見た民衆が一斉に平伏し始める。


 「……えっ! どうしたの?」

 「ん? 何じゃ? 何か対応が不味かったかの?」


 アルフィーナも俺もそんな民衆の様子に戸惑っていると、すかさずミナから説明が入る。


 「マスター、この国の民衆はどうも誤解をしているようです」

 「誤解?」

 「はい、民衆はマスター達が来る事を噂で知っていましたが、その噂が、神の様な……いえ、神様が来るとあやまった解釈で伝わっているようです」


 ミナの説明を更に続けると、桜花がニカナに日本語の読み書きを教えたのは先に知る事である。

 しかし、それが、


 文字をもたらした遠い異国の国 → 遠くにある文明の進んだ国 → 遠くの凄い国 → 遠く = 目で見えない = 雲の様な存在


 プラス 


 文明の進んだ国 = この国の人々よりも人知を越えた国 = 神様?


 と変換され、どういう経緯か分からないが、つまり「遠くから神様がやって来る!」になったようだ。


 「いやいや、違うから! 情報は、ちゃんと伝えようよ!」

 「と言ってもマスター、民衆は噂に流されやすいもの、一度噂に乗ってしまうと訂正するのは難しいかと」

 「そうじゃ、ここは知らないフリをして、大人しく手を振って応えてやるしかなかろう!」


 納得できないが確かにアルフィーナの言っているとおり、この場で誤解を解くのが難しいならあえてそれに乗るのもむ無し! と平伏していく民衆に戸惑いながらも手を振り続けた。




 帝城ていじょう


 城とうたっているが、日本の城郭じょうかくと違い全ての建物が平屋である。

 城の周囲に塀はあるがとても低く、堀も無いので容易に中に進入出来る作り。

 つまり、外敵への防備がほとんどそなわっていない造りをしたここがアヤカ達、国のトップが執政を行っている場所の様だ。


 「知ってはいたけどこうして間近で見ると、華やかさは無いものの見事なつくりだね」

 「じゃな、それに建物を見ただけじゃが、民を信ずる事を主眼に置いている様じゃ」


 俺の元に諜報活動によるニカナの国情をつぶさに得ていたので驚きはしないが、百聞は一見にしかず とは、よく言ったものだ。

 確かに実物を見て空気に触れると、この国の在り様が良く分かる。


 そんな事を町の様子、城の様子から感じながら城の内部に入り最初の大きな建物に通された。

 どうやらここが、ニカナ帝城の謁見の場ようだ。


 案内人によって室内に入場すると、ニカナの官僚や豪族等が左右に分かれ平伏して迎えられ中央に空けられた道を進むと港でのうたげ同様に左にアヤカ、右に俺とアルフィーナの席となり他とは一段高い位置に座るようだ。

 

 「桜花国王様におかれましては、遠路遥々《えんろはるばる》よく御出で下さいました。 ニカナを代表して感謝致します」

 「盛大なご歓迎、痛み入ります。 妻ともども、ここまで楽しく来られたのはひとえみかど様と御一同のお蔭とお礼を申し上げます」

 「それは何よりで御座います。 それと約定前の食糧支援も合わせて感謝致します。 これで民の苦しみを幾許いくばくか和らげる事が出来ました」


 先に港で感謝の言葉を受けてはいたが、この様な場所なのでまるで初めて挨拶する様に応えた。

 まあ、正式な場での挨拶だから当然と言えば当然だけど。


 「まず初めに桜花国王様へ紹介したい者達がいます。 ザナキ、ナミ、前に」

 「ハッ!」「はい」


 アヤカの声に反応する様に若い男女が前に召喚される。

 男性の方は、まだ細いがシッカリとした筋肉を付けた身体で顔は、幼さが残るものの端正な顔立ちの青年。

 女性は、美人と言うか可愛らしい女の子でどことなくアヤカに似ている。


 「ザナキは、わたくしの遠縁で5代前にあたる帝の御兄弟、その弟君の血筋に流れをむ者です。 そして、もう1人のミナは私の娘になります」

 「ザッ……ザナキです」

 「ミナと申します」


 アヤカの後から短く挨拶する2人

 ザナキが若干タドタドしいのは、おそらく遠縁すぎてこの様な場に出た事が無いため慣れていないからだろう。

 5代前と言えば、およそ100年近く前、その血筋を辿り今に至ると考えると身分的に一般人に近く、この様な場に馴れていないのは仕方が無い事だ。


 「私と私の近縁の者には、おのこが生まれて居ませんので遠縁で御座いますが、我が娘と歳の近いザナキを迎えました」

 「ほう……と言う事は……」

 「はい、ザナキへの教育が済み次第、ナミと夫婦めおととなります」


 ニカナではこれまで父系の血筋が帝となり国を牽引する役目を伝統的に担っている。

 しかし、現在アヤカの子供は女の子のナミが1人、近縁にも女子しかおらず伝統として父系の血筋を絶やさないため遠縁であるザナキを探し持ってきたのだった。

 そして、アヤカがこの場、つまりニカナ史上初めての他国の王である俺の前で宣言する事でザナキの足元を固める狙いのようだ。


 「それはそれは、おめでとう御座います! まだ早き事とは存じていますが、御礼おんれい申し上げます」

 「痛み入ります」

 

 若干オーバーリアクション気味に初めて聞いたと驚いてみせた。

 いや、知ってたけどね。

 ただ、他からの横槍を入れさせないためにアヤカが内々に進めている事なので、コチラとしては知らないフリをせざるを得ない。


 「しかしこれは困りました。 そうとは知らず、御2人に祝いの品を用意しておりません。 いや~困った困った」


 フォルフェバレクに渡した土産と同様の物をコチラに持ってきているが、これは祝いの品とは違い普通の品だ。

 まあ、それでもニカナにしてみれば、今まで目にした事の無い品々には違いは無いのだが……。


 しかし、俺って演技下手だな。


 「マスター、御進言よろしいでしょうか」

 「ミナか……構わないよ」


 かねてからの手はず通りにミナが前に出る。

 そして、その手には白い絹に包まれた棒状の者が、供物台の上に載せられ掲げ置かれた。


 「こちらは夫婦を誓い合う御2人に相応しき物かと存じ上げます」

 「ああ、それなら確かに良い物だ」


 ミナが、アヤカのお付の者に供物台ごと渡すと、ソレはアヤカの前まで運ばれ置かれると布を捲り包まれた物をあらわにした。


 「これは?」


 ソレを目にしたアヤカが不思議そうに尋ねてきた。

 それもそうだろう、そこに出されたのは装飾が見事に施されたほこだったのだから。


 「それは天沼矛あめのぬぼこという名で我が国の神話において夫婦の神が、良き国を創るのに使った。 と言われる代物です」

 「そんな! 神様の使った物を……恐れ多い!」


 ミナの説明を聞いたアヤカは慌てて矛を返そうとするが、俺は手を前に出し笑顔で制す。


 「いやいや、もちろん本物では御座いません。 それは我が国の鍛冶師が神話に出てくる矛を再現した物で、その鍛冶師から私に献上されたのですが扱いに困りこの者に渡していたのです」


 実際には、俺とミナとで作った物だが、ここで本当の事を言う必要も無いだろう。


 「これに控えるミナは我が国の神官務めており我が国の神話を良く知っております。 だからこそ良かれと思い取り出したのでしょう」

 「しかし、よろしいのでしょうか? 再現したとは言えそれを頂いても……」

 「ええ、問題ありません。 それに神話では、その後子供をさずかったと伝えられていますので、どうか良き国を築き、良き子を授かる事を御祈り致します」


 古事記の国産みの大まかな流れだ、そんな内容だったはず。

 俺も昔の人の様に暗読出来るほど覚えていないので詳しくは勘弁して欲しい。

 

 「……分かりました。 この様な大層な物を頂き感謝の言葉も御座いません」

 「それは、よかった。 私の方も喜んで頂けたなら幸いです」

 「はい……ああ、それと、もし良ければ神官殿にその神話の内容をお聞きしたのですが……」

 「なるほど……そうですね、ミナは大丈夫かな?」

 「はい、問題ありません」


 その言葉にアヤカは感謝し、なぜか周囲の人々も騒がしかった。

 この後、ミナが教えた日本古事記は、歴史を経てニカナの古事記の土台と変容を遂げる事になる。

 なぜ、その様になったのかは、はなはだ疑問であるが、その答えを知りたかったらニカナ古事記を編纂へんさんした人物に聞くしかないのだろう。


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