94.桜花国記(ニカナ国の出迎え)
桜花国歴67年10月下旬
ニカナ帝王国港町
フォルフェバレクに到着したときと同じく、ニカナへも木船で入港した。
「マサキ様、そろそろ到着します」
外交官の案内で船室を出て景色を眺めると、美しい浜辺に自然豊かな山々が広がっていた。
「へえ、ここがニカナか……」
浜辺には松ノ木が生え浜を彩り、遠くに見える木……あれは、栗の木だろうか?
やはり日本の環境にそっくりだな……なんか懐かしいや。
不意に込み上げて来る故郷の思い出に胸を震わせながら眼下に広がる浜辺を追って行くと、その先に沢山の人だかりが出来ているのに気付く。
「おや? 何だろう?」
「どうしたのじゃ? おぉ、凄く人が集まっておるのじゃ!」
アルフィーナもその黒山の人だかりに驚いている。
そりゃそうだ、こんな何も無い浜辺の一角に人が押し寄せているのだから。
「マサキ様、あそこが船の接舷予定地です」
「ああっ! なるほどね……てことはっ! 何アレ! 俺達を見に来た人達なの!」
いや驚いた。
このニナカ国の島全体の人口は、2000万人にも満たな上、人口分布も南の方に偏りが見られるほど、まだまだ開発されてない国だ。
言い方は悪いが、そんな発展途上国のニカナでしかも港と言っても漁村もいい所の漁港に数万人ほどの人々が押し寄せているのだ、驚くしかないだろう。
「驚かれるのも無理は無いです。 向こうの外交官の話ですと、マサキ様を歓迎するため国を挙げてお迎えすると言っていました」
「あ……ああ、確かに大人だけでなく子供達まで見られるね」
フォルフェバレクの時は聖光教がらみで御忍びでの入港だったが、ここニカナはそれとは違い人々が集い盛り上がっており、それはまるでお祭りの様だった。
「ふむ、まあ歓迎してくれてるのじゃ、ありがたく受け取っておくのじゃ!」
「ふぅー、まあ、そうだね」
なんというか主賓と言うのは慣れないモノだな。
でも、確かに歓迎してくれている様だし、ここは素直に喜んでおくに越したことは無い!
桜花の木船が、ギリギリ入れる深さの浜辺に碇を下ろし、桟橋を通って人だかりの方へと歩き出す。
「「「おおーーーーーっ!!!」」」
すると桟橋の向こうが、一際大きな声が上がった。
更に
「アレが、異国の王様かー」
「大きいー!」
「背が高いのー!」
と、様々な声が聞こえた。
最初の異国の王は、まあ、その通りなのだけど……俺ってそんなに大きいか?
日本で身長180cmと言えば確かに高い方だが、そこめで声を上げて驚くほどでもない。
それに桜花では、種族が様々あり人族の身長などは真ん中よりやや下にあたる。
そんな自分の身長に驚いているニカナの大衆へ目を向けると、「ああ、そうか」 とすぐに納得した。
浜辺に集まるニカナの民の身長は、遠目から分かるほど低く
成人男性でも140~150cm、女性は、それより10cmほど低いくらいの身長だ。
そんな中、俺のような身長の者がいれば驚くのも無理は無い。
周囲より頭1つ抜けた状況に注目されるのはやむなしと、考え浜辺へと向かって歩く。
付き従うのは、フォルフェバレクと同じメンツ
御忍びじゃないのだから、もっと随行を増やしても良かったんだけど、向こうは食糧に苦しんでいる国なのでこの方が良いだろう。
ああそれと、ニナカは食糧に困窮しているので条約前だが、ある程度の食糧を事前に提供しているので喫緊の食糧不足は一時的だが解消されている。
歩を進めていくと、桟橋の袂の一角だけ人だかりの空白地帯があった。
しかも、空間と人々との境界には、屈強そうな男達が何人も輪になり結界を張るかの様に陣取っている。
フォルフェバレクでも合った様におそらく国の重鎮が迎えに来ているのだろう。
とにかく桟橋を渡り切り、その人の居ない空間に差し掛かった時、声が聞こえた。
「ようこそお出で下さいました」
目の前には、深々と頭を下げる女性
髪の艶、着ている物といい周辺に詰め掛けた人々より数段上の着物を纏っているので、相当上の身分の人なんだろう。
「桜花国王様をお迎え出来、快く思います」
「いえ、大変な歓迎痛みいり、ま……えっ!」
女性が頭を下げていたので俺も日本人らしく頭を下げ返礼し顔を上げると、そこには!
「ニカナの帝をしています。 オモダル・アヤカと申します」
優しげな笑みを浮かべニカナの帝が、そこに立っていた。
「これは、失礼! 桜花国王、素鵞真幸です。 まさか帝自らお出迎え頂けるとは!」
「フフフ、当然です。 我が国に文字を教えて下さった国の国王様がいらっしゃるのですから!」
アヤカは、悪戯に成功した子供の様に嬉しそうに口元を隠しながら笑う。
「そればかりか和紙に筆、それに墨まで教えて頂き今ではコレを使い広く文字を教えることが出来感謝に堪えません」
次の言葉には深い感謝の念が力強く込められているのが感じられる。
彼女にとっては、それほど大きな事だったようだ。
アヤカの言うとおり桜花から齎されたのは文字だけではない。
それを書き学ぶための和紙と筆を一緒に教えていたのだ。
そうでなければ今頃は、教える事にも学ぶ事にも苦労していただろう。
「喜んで頂けるとは幸いです」
「ええ、本当にありがとうございます」
「んっ? ああ、それと私の妻を紹介します」
あまり長話もする場では無いので後ろで背中を突くアルフィーナに代わる事にした。
「マサキの妻、素鵞アルフィーナ なのじゃ! 堅苦しい言葉は苦手なので許すのじゃ」
「これはこれは! ええお気になさらず。 私も堅苦しい言葉を普段使いすぎて、ここでは緩りとさせて頂きます」
この言葉は、周囲にお互い気を使う必要は無いという意味が含まれている。
つまり、公的な場所では無理だが、2人は今後自然体で話しが出来ると言う訳だ。
「桜花国王様も気兼ねなく」
「これは、ご配慮ありがとうございます。 ああ、ただ私の事は、名前で結構なので」
「うむ、マサキの言っている通り、私も名前で良いのじゃ」
「あら、では、アルフィーナ様とマサキ様とお呼び致します。 私の事もアヤカとお呼び下さい」
奇しくもここニナカに於いても名前で呼び合う間柄になった。
本当はダメなのだろうけど、まあ、楽で良いや!
「ああっ! こんな所で立ち話も何ですから、近くに歓迎の場を設けています。 どうぞソチラに」
どうやらこのまま帝が執政を行う場の帝都へ行く訳でなく、ここで歓迎の式典をやってくれるみたいなのでソチラに赴く。
会場は高床式の広い建屋
板張りだが、優に50人は座れるほどのスペースがある部屋だ。
ここにアヤカ、それと俺、アルフィーナが上座に座り、ニナカの豪氏や外交官、桜花の外交官が車座に座った。
ミナとメイド達は、俺とアルフィーナの近くで中腰の姿勢を取り配膳などを手伝うようだ。
「それでは、始めましょう」
アヤカの言葉に配膳係の女性というか、10代前半の少女達が壷を運んでそれぞれの近くに座ると、用意されていた平碗に壷の中身を注いで行く。
どうやら壷の中身は液体らしく、俺とアルフィーナの分はメイドが、配膳する少女より丁寧に受け取り同じ様に平碗に注ぐ。
平碗を手に取り注がれた液体を見ると、すこし濁った色の液体のようだ。
失礼だが、空いている手で軽く仰ぎ匂いを嗅いで見ると、甘い様な酸っぱい様な匂いと共にほのかに酒の匂いが流れ込む。
ふむ、酒のようだが何だろう?
濁酒の様だけど……昔嗅いだような……う~ん。
「それでは、一献」
各自に行き渡ったのを確認したアヤカが、器を挙げ音頭を取ると全員が同じ様に器を挙げて液体を飲み干す。
俺とアルフィーナもアヤカに向け挙げた後、器の液体を口の中に入れた。
「んっ! 弱い酒じゃな……しかも、変わった味なのじゃ……濁酒に近いような……」
アルフィーナは、一口飲むとその味に不思議な感想が漏れ、もう一杯と言った感じにメイドへ器を向ける。
俺も一口飲んで口の中で確認するように液体を回してみる。
う~ん、何だったかな~。
昔、飲んだよなコレ……え~と……う~んと……ッ! ほら、アレだ!
「ああ、コレは!」
「何じゃマサキ、飲んだ事あるのか?」
「そうだね、昔飲んだ事あるよ。 たぶんコレは、口噛み酒だ」
「クチカミ酒? 何じゃソレ?」
アルフィーナは、勢い良くもう一杯口の中に入れ今度は味わう様に回していた。
「口噛み酒はね、焚いたり米やイモ、木の実なんかを口に入れ噛み砕き唾液と混ぜた物で、それを吐き出し発酵させアルコールにする酒だね」
「ブッ!「おっと!」」
俺の説明を聞き驚いて噴出しそうになるアルフィーナの口を押さえ外に出すのを無理やり抑えた。
今回にカナでは、最上級の歓迎をする為、その時の最高の食材で持て成してくれてるのだろう。
そんな持て成しの料理を吐いては失礼に当たる。
「アル」
「分かってるのじゃ、一瞬驚きはしたが、まあ、そういった物もあるのじゃ」
アルフィーナの方も最初は驚いた様だが、年のこ……ゲフンッ! 経験上、場を理解し飲み込むと俺が何を言いたいのかすぐに察してくれた。
そういえば俺もフィールドワークと言われて色々と食べたな。
ネズミとか、昆虫とか、幼虫とか……もっとも、現地の人も久しぶりのご馳走に喜んでいたけど……。
「どうかされましたか?」
そんなアルフィーナの様子を心配したのかアヤカと、そのお付の者が心配げにコチラを伺う。
向こうにすれば、下手な物を出してしまったか心配しているのだろう。
「ンッンンッ! いや、問題ないのじゃ、少し勢い良く飲み込んでしまい変な所に入っただけなのじゃ」
「ああ、それは良かった。 これから食事や催し物がありますので、存分にお楽しみ下さい」
ホッと胸を撫で下すアヤカ
アルフィーナの方も先ほどの事を気にした様子も無く口噛み酒の杯を再度傾けた。
その後、確かにアヤカの言うとおり食事が運び込まれてくる。
凝った料理は無かったが、どれも新鮮な海の幸や木の実などの料理だ。
人によっては質素な食事に感じるかもしれないが、俺はこういった素朴な食事も好きなので問題は無い。
催し物もオカリナの様な笛や打楽器など演奏で薄着の女性が踊ってくれてコレはこれでなかなか楽しめるものだ。
へぇ~なるほど、この踊りや催しの仕方は、日本の神話に共通するモノがあるのかもしれないな……。
などと昔取った杵柄よろしく、その文化の背景を考察に夢中になった。
アルフィーナの方も程ほどに料理に舌鼓を打っているが、これは相手の台所事情に配慮しての事だろう。
なんせリミッターを外せば恐ろしい事になるだろうから……。
家屋の外からも笑い声と歌や踊りの演奏が聞こえてきた。
どうやら歓迎の場と言う事もあり、アヤカから民へ振る舞いがなされたみたいだ。
歓迎の暖かい空気の中、楽しげな喧騒とともに夜の帳が降り始める。
次は、帝都
いったい何が待っているのやら。
次回は、
アヤカの娘(実子)と、その婿(遠縁)が登場します。




