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1.はじまり、

 周囲は海に囲まれた大陸

 そこには多くの獣と人間の姿をした異なる異形の種族が生息し、怪物達が跋扈ばっこする。

 人々は遠く離れたその地を恐れ、こう呼んでいた。


 “魔界”と……


 人の気配がまったく感じられない鬱蒼うっそうとした原生林

 眼前のやぶを手で分けながら

 俺、素鵞真幸そが まさきは必死になって前に進んでいた。


 こんな木々が密集した森の中で俺の格好は場違いにもほどがある。

 左手にスーツの入ったハンガーケースそれと大きな鞄を握りジャケットを小脇に抱え、右手には大型のキャリアケースと、その上にボストンバックを引きっていた。

 これ程の大荷物、出張のために駅や空港の移動のためならともかく、こんな人家もない森の中を歩くには本当に場違いな格好だ。


 そんな格好で獣道すらない原生林を歩いているんだばい以上疲れてしまう。

 それでも俺は、流れる汗も気にせず前へ前へと進む。


 疲労により身体中から悲鳴が上がりのどもカラカラにかわいた頃、ようやく一息付けそうなやぶの無い空間があらわれた。


 「ハアッ、ハアッ、ハァ……少し休もう」


 その場に崩れる様に地面に腰をおろすと、持っていた鞄から500ミリのペットボトルを取り出すと口の中に注ぎ込んだ。


 「ふぅ……少し落ち着いたな」


 周囲を確認するが何故かここだけ草もほとんど生えていない不思議な空間だ。

 もっともその答えは分かった。


 空間の中央部には凄く太いみきが見え、頭上はその木の大きな枝が幾重にも重なり少し暗く感じるほどだ。

樹齢数百年、いや数千年はあると思われる大樹根元に俺は座っていた。


 今まで見たこともない程の大きな木に呆然としていたが、現在進行形でピンチな状態の俺は頭を切り替えて現在の状況を整理しなければならない。


 「しかし……なんで俺は、こんな所に居るんだ?」


 そう、俺がこんな格好をしているのも訳があった。

 それは急に慌しくなる一週間前まで話がさかのる。




 一週間前に唯一の肉親である田舎の祖母が倒れたと電話で言われた。

 その声はよく知っている。

 祖母の家の隣に住んでいた老夫婦の夫人の声だ。


 祖母の事を語る前にまずは生い立ちから話さなければならない。


 先にも言っているように俺には祖母しか肉親が居ない。

 いや……いなかった。


 もちろん生まれた以上は両親がいる。

 ただ俺が生まれる前に母は未婚のまま父親となる男性と別れたようだ。

 そしてすぐに生まれたばかりの俺を抱え祖父母のいる実家に移り住む。


 なぜ分かれたのか? なぜ祖父母の家に引っ越したのか? 父である男性はどんな人なのか? 俺は知らない。

 俺が物心ついたときは、祖父母しかおらず母親から直接聞くことは出来なかったからだ。

 母親が処分したのか当時の物は残っていない。

 だから父の事は何もわからない。


 述べたように俺は母親の顔も知らない。

 うっすらと覚えているかもしれないが、写真以外で母の事を記憶していないのだ。


 母親は、俺を生んですぐに働き始めた。

 それは祖父母の負担にならないようにとか、俺の養育費のためだとか色々だそうだ。

 祖父母も止めたそうだが何かに必死になる仕事と育児に精を出す母を止める事が出来なかったようだ。


 そんなに頑張る母に突然の不幸が起こる。

 ちょうど俺が3歳のときに勤め先から車で帰る途中で対向車線を大きくはみ出して来たトラックと衝突、そのまま崖へトラックと一緒に転落し死んでしまったらしい。


 母もおらず1人だけになった俺は、そのまま祖父母に引き取られた。


 祖父母の家は都市部から離れた農業を主産業にしている村に在った。

 村には、スーパーが2件、コンビニは1件しかも24時間ではない。

 駅前にある商店街があるが、あとは個人商店が何件かあるくらいでどこにでもある長閑のどかな農村と言った感じだ。


 その後俺は祖父母に養われながら順調に育ち地元の工業高校(自転車で1時間)を卒業した。

 もちろん祖父母の負担にならないためにバイトを出来る歳になったらすぐに働き始めた。

 さらに数個のバイトを掛け持とうとしたが、これは祖父母の猛反対で学業優先とされ1件のみ

 ただ収入の良いバイトを優先的にこなしたため短期のバイトが多い。

 だからバイトは、ガテン系から製造業、配送業と多岐にわたる。


 苦しい仕事が多かったが、まあ色々と経験になったから悪いことじゃない。


 工高卒業後は祖父母に面倒を掛けないため、少しでも楽をしてもらいたい、といった思いから地元で就職しようと祖父母に相談すると


 「大学ぐらい出とかんと、学は一人前にならん! そのぐらい貯えはある。 だから大学へ行け!」


 さらに祖父から街の大学に行く様に強く進められ、街の大学を受験し無事合格すると祖母から


 「あんた一人が街で暮らさせるのは心配だし、雑賀さん(地元神社の神主を勤めているお爺さん)とこの息子さんが街に家を建てて大学で先生やってるの知ってるでしょ? 部屋貸してくれるって言ってくれてるから、あんたソコからからの大学通いなさい」


 と決定事項を通知された。

 ちなみに雑賀さんの息子さんは合格した大学の民族文化などを担当する教授の事だ。


 この教授の事とゼミに色々と言いたい事が多いのだが、今考えると……もしかしたら……

 いや、本人に確認できない訳だし今は置いておこう。


 大学を4年で無事卒業し、そのまま街にある工業関係の企業へ就職

 その時雑賀教授の家を出てアパートで一人暮らしをしながら働くことにした。


 少ない給料ながら祖父母への仕送りと、少しだけ貯金をしながら数年が過ぎた。

 ハードな仕事に目まぐるしく日々を重ね、俺の年齢も40歳も過ぎた頃、祖父が倒れそのまま亡くなった。

 予兆は全くなかった。

 祖父母ともに背中に針金でも入っているのでは無いのか? と思えるぐらい背筋はピンと伸び、年齢を感じさせない位に喋り方もはっきりとし頭の回転も早い人だ、病気の予兆があればすぐに分かるのだが死因はくも膜下出血、事前に確認できなくらい突然の事だったようだ。


 年齢もかなり高齢になっていたので心配していた矢先の不幸に悲しみとともに一人残った祖母のため俺は村へ戻って再就職しようと決めて祖母に相談すると


 「あんたね、こんな村に戻ってきても満足に就職なんて出来ないんだから、そんな事より結婚はまだかい?」


 自分の事は自分でするから、早く結婚しろと言ってくる祖母に


 「彼女もいないのに……どうしろと?」


 苦笑いしながら答える。

 確かに俺の子供を見せるのが、一番の孝行になるかもしれないと考えなくもない。

 大学時代には彼女もいたんだが……俺の趣味や態度がオヤジ……いや、お爺ちゃんみたいだと振られた。

 確かに盆栽手入れや庭のいじり、農業が趣味な所もあるが……ダメなのか?


 その後は仕事が忙しく(もしかしたらブラック企業だったのかもしれない?)で休みもほとんどなく。

 彼女を作る暇さえなかった。


 そんなやり取りをした1年後に今度は祖母が倒れた。


 急な知らせに慌てながらも勤め先の会社へ連絡

 休暇を取り私服や着替え等をキャリアケースに入れ非常時用に色々と詰め込んである鞄、それとスーツ(考えたくは無かったがいざと言う時のため)と現在仕事で使っているノートパソコンを抱えるように持ち家を飛び出した。

 急いで祖母の家へ電車で向かった。

 (ちなみに非常時用の鞄は、震災の時、ちょうど俺は1週間の出張中に震災にあい酷い目にあったので、長期間家を空ける時は、必ず持っていくことにしていた物だ)


 祖母が倒れた原因は脳卒中、祖父と同じ脳の病気で急性のモノ

 村の病院では手の施しようが無く遠く離れた脳外科専門の病院へ運ばれたが、祖母が倒れて発見される時間が掛かかったことも合わさり病院に到着した時には直ぐに息を引き取った。


 俺はその知らせを行きの電車の中で知る。

 祖母の死に目に立ち会え無かった事、自分にも色々出来たのでは?といった悔しさ、それと唯一の肉親を亡くした悲しみが入り混じり目の前の視界が真っ暗になる。


 人間絶望すると、本当に何も見えなくなるんだな……。


 茫然自失ぼうぜんじしつで病院に着き祖母の寝ている霊安室で顔を見た時

 「あぁ……家族がもういないんだ……」

 と現実を突きつけられた。


 でも祖母の顔は苦痛がなかったからかおだやかな表情をしており

 祖父が他界した時、祖母はまったく落ち込んでおらず然として祖父の葬儀を滞りなく進めていた。

 その時の表情は、今と同じように穏やかなものだった。


 俺はその時の表情と変わらない祖母の顔を見て

 「自分が祖母を送らないで誰がやるんだ?」

 と気持ちを引き締める。

 すると不思議なもので今までアレコレ色々と考えていた心の中は、清水が流れる小川のように落ち着きこれからやるべき事を順番に考えられるようになった。


 病院から遺体を家の方に移し葬儀の準備に入ろうとすると、ほとんどの段取りや各所への手配は区長さんと近所の爺さん方が対応してくれていた。

 こういう時、こういった人々が周囲にいた事は本当にありがたい。


 さらに遺産相続など色々手続きが大変だなと思っていると、祖父母が懇意にしていた近所の爺さん司法書士が遺産の整理は、ほとんど済んでいる事を告げてきた。

 祖母も虫の知らせでもあったのか遺品も整理されていた後は俺の承諾のみだけと、あの人らしいなと笑いにも似た感情が込み上げて少しだけ悲しみが収まったようだ。


  瞬く間に6日が過ぎ、電気・ガス・水道の使用停止の手続きを電話で行い、明日は役所での手続きを残すのみとなっていた。

 掃除やゴミの処理等の作業すでに終わっており、思い出のいっぱい詰ったこの田舎の大きな家で過ごす最後の夜だ。


 遺産については全部俺に入る事が分かった。

 他に親族がいないのか司法書士の爺さんに聞いたのだが、どうも祖父母も色々とあったらしく縁を切っており親類がまったくいないのだそうだ。


 俺は本当に1人なったんだな。

 もっとも祖父母の死ほどのショックは無いのでそれほど気にならないが……。


 祖母は亡くなった今、この家は遺言に従い取りこわされる予定になっている。

土地も売却することを決まっていた。


 司法書士の爺さんに渡された遺言には色々と書かれていたが最後に、こんなススけた家を渡すより、あなたが新しく家を建て家族を養いなさい!と書かれていたのには、苦笑いするしかない。


 夜もけ1人の家でしんみりとする中


 「どれっ久しぶりに仕事でもするか!」


 気分転換にもなると思い気合を入れ、ノートパソコンの電源を入れた。

 (終わっていない仕事は、ノートパソコンにデータを入れ暇な時に進めていた)


 ファンが回りハードディスクから読み込む音が聞こえてくる。


 「……」

 「……、ん!?」

 「………………、あれ?」


 いつもは直ぐにBIOSの画面が出るのにそれすら出ない。何度も電源を入れてみるが状況は変わらなかった。


 「あぁぁぁー、マザボかモニターケーブルがいったかぁぁー」


 このパソコンを購入してから8年

 大きいが使いやすさと性能で選んだノートパソコンが……。

 この度亡くなられました。


 「つきましてはご遺族に連絡を……って俺がやってる場合じゃないだろう! どうしよう? 明日電気屋に行ってみるしかないか?」


 商店街の電気屋は個人商店

 電化製品の搬入や取り付けは出来てもパソコンは取り扱わない。

 街まで行けば大型量販店もあるが、故障個所しだいで修理は数日かかる可能性もある。


 会社の休日届は明後日まで

 しかも仕事は詰まっている。


 「ダメもとで商店街の電気屋にでも行ってみるか。 治せなくてもデータは抜き出させる! はず……最終的には、この機会に買い替えても良いな」


 

 判断は明日にして早めに寝る事にした。



  11月2日の朝


 押し寄せて来た寒波によって秋が来ずに冬が先に来てしまったのか? と思えるほどの底冷えの寒さ。

 今日の俺は、ジーパンと灰色のワイシャツ、ロング丈でカーキ色のジャケット(防水暴風使用)を上から羽織ってブーツを履くと言った暖かめの格好をして家を出る。


 まずは、隣に住んでいる老夫婦の家に向かう。

 各手続きを済ませアパートに帰ることを告げ、別れの挨拶するためだ。


 祖父母は隣の老夫婦と昔っから仲く、俺も子供の頃から可愛がられ覚えがある。

 それに今回の祖母の件を電話してくれたのも夫人だから、挨拶はしっかりとやっておきたい。


 老夫婦に帰ることを言うと、アレも持って行けコレも持って行けと、色々と持たされることになった。

 俺もアパートで自炊はするが、独り身の者にこの量はどうなのか? と思ったが好意で送られたモノなので断る事は出来なかった。


 いや正確には、断っても持たされただろう。


 とりあえず保存が利く食品や調味料と籾殻もみがら付きの米はありがたい。

 それとなぜか籾殻付き餅米も持たされた、まあこれは赤飯かおこわにでもしよう。


 さらにお歳暮で貰って使ってない石鹸や洗剤、タオル等を貰う事となった。

 さすがに量が量だけに持ちきれないため、学生時代に使っていたバック(大容量)に詰め込みキャリアケースの上にくくり付ける。

 宅配も考えたが、数時間の電車に乗ればアパートに帰れるのだから大して苦労しないだろうと考え持っていくことにした。


 他にも葬式等で迷惑をかけたご近所にも別れの挨拶に行ったが、挨拶するだけで済まそうかと思ったが、ここでもお土産をもらいバックはパンパンにふくらんでいく。


 「すごい事になったな~、どうしよう……」


 すでにバックかなりの重量だがキャリアケースの車輪が普通の物よりかなり大きい。

 大量の荷物を乗せても段差をものともせずスイスイ引ける事から問題ないだろう。


 挨拶も終わり家の前に戻ると、いつの間にか老夫婦がタクシーを呼んでくれていた。

 これならそこまで荷物を意識することも無いと一安心

 老夫婦に礼を言ってタクシーに荷物を載せる。


 それなのにタクシー代まで出そうとする老夫婦に


 「大丈夫です自分で払えますから、今度時間が空いたら遊びに来ます。本当に色々とありがとうございました」


 やんわりと断ってタクシーへと乗り込むと、外で別れを惜しむように老夫婦が手を振ってくれた。

 答えるように俺もタクシーの中から振り返しているとタクシーがゆっくりと出発する。

 どんどん老夫婦と幼い頃から過ごしてきた家が遠ざかって行くのを見ていると、なんだか切ない気持ちがこみ上げてくた。


 タクシーで役所まで行き各種手続きを終えると、そのまま駅前の商店街へ向かう。

 商店街の前で止まってもらいタクシーの運転手に代金を支払いタクシーを降りると、目も前に懐かしい光景が広がっていた。


 大学へ入学するまでいつもお世話になっていた商店街

 今思えばありとあらゆる物をここで買い揃えていた。

 あまり買わなかったが、ゲームやマンガもここで買って友達と遊んでいたのを思い出す。


 そんな商店街の入口に入ると多くのお店のシャッターが閉まっている。

 時代の流れだからしょうがないが寂しいものだ。


 懐かしのあの店も閉まっていると、いっそう寂しさが押し寄せる。


 ゆっくりとした足取りで商店街に入り1件1件お店を見て行く。

 電気屋は奥の方にあるので久しぶりの商店街を満喫するためゆっくりとしたあゆみだ。

 懐かしさもあいまって色々な店を冷やかしていたが、この商店街の店はそれほど多く無い。

 だから、すぐに電気屋まであと少しのところまで来ていた。


 特に何にも考えないで歩いていると、一瞬、目のすみにパソコンの文字が目に入る。

 ほんの一瞬の事だったので理解する前に足は進み電気屋に向かおうとる。


 「えっ、パソコン!」


 ようやく俺はパソコンの文字を思い出し、振り返りもう一度周囲を確認する。


 雑貨店の右脇にある地下への階段

 その前にマーカースタンドが置いてあり、


 <デスクトップ、ノートパソコン、周辺機器販売中!激安品・訳有り・各種あります!修理も承り♪ぜひぜひ寄って行って下さい! パソコン専門店 デアデュコ>


 と可愛い文字が手書きで書かれていた。


 「おお~、修理までしてくれるなら入ってみるか。 まあ、すぐに修理できなければ、新しいパソコンも置いてあるだろう」


 思わぬ発見で電気屋へ行かずに足を地下への階段へと向ける。


 エレベーターが無い様なので大荷物を抱えて階段を下りて行く。

 これだけ荷物があるとたかだか階段を降りるだけでも一苦労だ。

 だいたい1階分の階段を下りると2、3mの通路になっており、その先に扉があった。


 扉の上で蛍光灯が1本灯り辺りを明るく照らされている。

 もしこの蛍光灯が無ければ、通路は結構薄暗くて足元も見づらく感じただろう。


 扉の前まで来ると扉に <パソコン専門店 デアデュコ> の文字、そして、文字の下にOPENの看板が掛かっている。


 しかしパソコンショップか……何時頃出来たんだろう? こんな地下に店があるけど昔は飲み屋関係だったのかな? でもこんな地下あったかな?

 昔の記憶は曖昧でこの場所の記憶がない。

 しかし、現にパソコンショップがあるのだから良いだろう。


 と深くは考えず扉を開ける。

 すぐに扉に付けられたベルが軽快に鳴り店内に来店を告げる。


 「いらっしゃいませ~♪」


 近くから女性の声が聞こえた。

 声がした方を向くと、入って左手の1mぐらい奥にレジカウンターがある。

 さらにそのレジのすぐ脇に女性が立って、俺にお辞儀しながら挨拶してきた。


 お辞儀を終え女性が顔を上げ俺と目が合う。

 女性と目が合った瞬間、その美しさに俺は体が動かなくなってしまった。


 女性は顔が小さく目は少し垂れ目

 柳の葉のように細くてきれいな眉と合わさると、とても落ち着いた雰囲気をかもし出している。

 ピンク色の潤った唇が綺麗な弧を描き美しく微笑んでいた。


 それと長い髪

 後ろで結ってまとめており、前髪は前で軽く分けられ目元の辺りに落ちている。

 服装は、ピンクのチェック柄半そでワイシャツにグレーのベスト、その上に黒のエプロンを身に着けていた。

 しっかりとお店の制服を身に着けていたが、豊かな胸はエプロン越しでもその大きさを強く主張している。

 身長は165cmぐらいで細すぎず太すぎず、出るところはしっかり出て締まるところは締まっている体もまた魅力的だ。


 「あの、どうかしましたか?」


 あまりにも長く見詰めていたせいか、それとも大量の荷物を持って入ってきたせいか、心配そうな表情でたずねられた。


 「あっ、いやっ、ぱっパソコンを見て欲しいんですが」


 若干声が上擦うわずり顔を赤らめながら本来の来店目的を答える。

 良い歳して情けなくなるが、これだけの美人を目の前にするのは久しぶりなので仕方が無い。


 「修理ですか? ご持参頂いてますか?」

 「あっ、はい、こっこれです」


 未だドギマギしながら鞄の中に入っているノートパソコンを取り出す。


 「こちらですか。 では、隣のテーブルへどうぞ♪ そちらの椅子へお掛けください」


 案内されたテーブルに俺のノートパソコンをテーブルの上に置くと向かい合って座った。


 「どういった症状でしょうか?」

 「えっと、電源を入れても画面が真っ暗のままで……BIOSの画面も出ないんです」

 「そうですかー、そうですね~原因はモニターか、マザーボードにあるかも知れませんねぇ。 お時間が有れば見てみたいのですが、よろしいでしょうか?」

 「あっ、はい大丈夫です。よろしくお願いします」


 一つ一つの仕草がとても可愛い店員さんにテレながら、俺は頭を下げお願いする。


 店員さんがパソコンと見ている間暇あいだひまなので、俺は店内をぶらつくことにした。

 このまま店員さんの顔をながめているのも良いが、さすがに作業の邪魔をしてしまうと席を離れたからだ。


 店内を見回すがどうやら客は俺一人

 平日の昼間で、しかもさびれた商店街の地下にある店だから集客率が悪いのだろう。


 店員さんの方を見ると、一人で店のパソコンに俺のノートパソコンをケーブルで繋いで何かやっている。

 まだまだ掛かりそうなので引き続き店内の商品を眺め、備え付けの情報誌などを読んで時間をつぶす。


 「お客様~、よろしいですか?」


 小一時間ほどたったところだろうか? 店員さんに呼ばれたので席に戻る。


 「どんな感じですか?」

 「そうですね~、モニターの方は特に問題は無さそうですね。 ハードディスクも問題無いようなので……やはりマザーボードに問題があるかも知れませんね~」

 「あー……やっぱりソコですかー」

 「はい、修理となるとメーカーのノートパソコンなので、メーカーの修理工場での修理か部品を取り寄せての修理となりますが……お客様のノートパソコンは年式も古く修復できるかどうかはメーカーに聞いてみないことには……また費用の方もかなり掛かるかと思います」


 眉を寄せ申し訳無さそうにする店員さん。


 「ああ良いですよそのままで。 新しいパソコンを買ったほうが早そうですし……あっ! データの取り出しって出来ますか?」

 「ええ、すぐに出来ますよ♪ お客様のデータを収めるHDDは読み込みできましたので」

 「そうですか!」


 どうやらデータの問題は無いようだ。

 これで仕事に支障が出ないと一安心する。


 あとは新しいパソコンか……。


 「それじゃあ新しいパソコンを買ってそこにデータを移行したいと思います。 あの~何かオススメのパソコンありますか? どうも最近のパソコン性能にうとくて……」

 「そうなんですか!? そうですね~ご予算はどのぐらいですか?」


 あっさりと買い替えを伝える俺に店員さんは明るい表情になり笑顔で答えてきた。

 この笑顔なら予算は青天井で出せる。


 「そうですね~、20万円までなら出せます」

 「でしたら、こちらのパソコンなど如何いかがでしょうか? 当店独自ブランドですが計算や製作、それと世界辞典などなどのソフトが充実していますし、ウィルス対策やセキュリティもしっかりしてます。 価格も税込みナント17万円となっております♪」


 店員さんが、今まで使ってきたノートパソコンを二回りほど小さくした凄く薄いノートパソコンを取り出した。

 更にその機能を楽しげに説明してくるのだが……計算は表計算とかかな?

 製作? CADの事か?

 あと世界辞典? 普通の辞典だろうか?

 他にもソフトが充実しているらしいが、まあ有って困るようなモノじゃないだろう。

 それに説明してくる店員さんの笑顔

 この笑顔で勧められたら俺の中でこのパソコンを購入する事は決定事項なった。


 「スペックはどのぐらいなんですか? 今まで使っていたパソコンと比べると?」

 「そうですねー、お客様のパソコンと比べるとはるかに上のスペックとなります」

 「えぇ! そんなにですか! 当時でもそれなりのスペックのパソコンですが、そんなに違うんですか?」


 その性能差に驚いたが遥か上ってどんなスペックなんだ? 指標がないから分からん。

 それも20万円以下で買えると言われ驚きを隠せない。


 「ええ最新ですから~♪」


 自慢げに胸を張る店員さん

 すでに強調された胸が更に強調される。


 うん……ますます良い。

 もうエプロンからこぼれ落ちそうなくらいに……。

 そうなったら直ぐに俺が支えなければ!


 「ブラしてますし、そんな事起きませんよ?」


 何故バレた!?


 「いっイヤ、ハハハッ……ばっ、バッテリーはどのぐらい持ちますか?」


 見透かされた事が恥ずかしく、無理やり別の話題をふる。


 「最新のバッテリーを搭載してますし電力消費も抑えられています。 それに発電機能もあるので半永久的に持ちます! 充電知らずですよ~♪」

 「えぇーー!? 半永久!」


 また驚く!

 半永久ってナニそれ!


 「最新ですから~♪ さらにこのパソコンは、とても頑丈に設計されています。 細かいホコリや熱、超新星爆発程度では、傷一つ付きませんよ~♪」

 「ハハハ、またまた~」


 軽い冗談も飛ばせる店員さんマジ女神!

 可愛すぎる!!


 「最新ですから~♪ 今なら“あるゲーム”を入れていただけると、このパソコンと無線接続で情報やソフトウェアを共有できる小型端末とアクセサリーをプレゼント♪」

 「へー、ゲームを入れるだけですか……登録とかしなくても良いんですか?」


 メールアドレスや個人情報の登録で無料プレイは携帯アプリやネットゲームで知っていた。

 まあそういったのは、アイテム課金とかガチャで金銭収入を得て成り立っている。


 ちなみに祖父母に育てられた俺だが、祖父母ともにやる事(勉強と体を動かす事)さえやっていればゲームやマンガ、アニメは気にしなかった。

 なので小さい頃からそれなりにゲームで遊んでいたからゲームの知識が無い訳ではない。

 さすがに没頭するほどやり込んではいないが……。


 「あっ、説明が不足していました申し訳ございません。 初期登録だけは当店で登録させて頂くことになっています。 登録の際は、ご本人のお名前の登録だけです。 あとはキャラクターメイクがあります。 こちらも当店のパソコンで設定します。 簡単な質問をしますので難しく考えずに軽くお答えて頂ければ問題ありません」


 へ~最近のゲームは、キャラメイクを店側がするのか……。

 まあ、そんなゲームも有りかな? キャラを被らない様にする配慮なのかな? 最近ゲームを購入してないのでこの辺のゲーム事情にはうとかった。


 「あ~、そうなんですか。 でも登録されたゲームを遊ばないかもしれませんよ?」

 「そちらは問題ありません。 あくまでコレはオプション程度に考えていただければ結構ですので」


 なるほど広告? 宣伝? のお金が入ってくるから色々な特典を付けられるわけか。


 「そうですか……分かりましたお願いします!」

 「ハーイ♪ それでは、こちらのパソコンを起動してパソコンの初期登録を致しますね」


 眩しい笑顔をこちらに向けてくる店員さんに俺はすぐに快諾かいだくする。

 店員さんは、俺の向かいで新しいパソコンを開くと一瞬で店員さんの目や顔に光が射し明るくなった。


 「えっ?起動したんですか? 最初から起動していた訳では無いんですか??」

 「いいえ♪ 今起動させました。 最新ですから早いんですよ♪」


 まったく気が付かなかった。

 ノートパソコンを開けた瞬間に起動するとは驚きの早さ!

 しかも、起動音が全く聞こえなかった。


 唖然としている俺をよそに店員さんが俺の方にノートパソコンと板状の機材を向けてきた。


 「では、パソコンのセキュリティを登録いたします。 こちらの板の上に手のひらを載せて、こちらのパソコンに向かってご自分のお名前を名乗りください。 そうしますと声紋情報と生体情報が登録されます」

 「えっ! 生体認証なんですか!?」

 「はい♪ セキュリティは大切ですから! 盗難や紛失した場合にデータの漏洩などあると大変ですから」


 確かに会社でもシステム管理の人が、パスワードは定期的に変えてくださいとか、記憶媒体の管理は厳重にして下さいって、口がすっぱくなるくらい言われたな……。

 まあ最近じゃ当たり前の事なんだけど。


 「分かりました。 じゃ、じゃあ」


 差し出された板にてのひらを載せ自分の名前を名乗るんだが……マイクはどこにあるんだろう?

 分からない。

 とりあえずノートパソコンに向かって名前を名乗ってみるか。


 「素鵞真幸そがまさき……これでいいですか?」

 「生体情報が登録されました。 末永くよろしくお願いします。 マイマスター」


 と、すぐにパソコンから女性の声が発せられた。


 「っへ?」


 俺から間の抜けた声が漏れる。


 どこから声がしたんだろう? と、あたりを探ると見るが店員さん以外誰もいない。


 「こちらです。 マスター」


 また声がした。

 よく声のした方向を探ると、どうも目の前のパソコンからのようだ。

 まさか! と思い画面に目を向けると、銀髪で美しい女性がお辞儀をしてきた!


 「あっ、そうでした♪ ご紹介するのが遅れましたが、こちらのパソコンにはAIみたいな物が組み込まれています。 質問や認証は声にするだけでこの子が処理しますよ。 それと声が気に食わなければ男性の声、幼い女の子の声など色々とお好みで変えられますが、どうされますか?」

 「いえいえいえっ、このままで大丈夫です。 いや~凄いですね、こんな機能まで入っているなんて!」


 驚きに継ぐ驚き高性能すぎるだろう! 本当に17万円なのか? あとで追加の料金とか発生しないよな? 大丈夫代よな? 心配になってきたぞ……。


 「追加料金はないですよ♪ 当社独自のシステムなのでお値段も抑えられているんですよ! 不具合があっても無料サポートなので安心です!」


 見透かしたように、いや筒抜けかな……。

 まあいっか、なるほど自社システムを導入することで料金は抑えられてる訳か


 「それではゲームの初期登録を致しましょうか♪」


 店員さんが初期登録の準備を始めたのだが


 「失礼ながら、私も登録作業を行えますが?」


 ノートパソコンから、先ほど認証時に発せられた女性の声がする。


 「いいえ、この作業は私の仕事ですから!」

 「そうですか、了解しました」

 「ははは、ナチュラルにパソコンと話さないで下さよ~」


 店員さんが普通にパソコンと会話しているのに、驚きすぎてもう笑うしか出ない。


 「うふふ、最近のパソコンは優秀なので、このぐらい朝飯前ですよ♪」

 「そうですよマイマスター、私は自立知能を搭載しているので凄いんです!」

 「えっ! そうなの? 俺が時代に後れてるの…か???」


 俺の部屋にはテレビがない。

 だから毎日の日課としてニュースサイトを見てるけど流石に最新のAI情報まで知識は至らなかった。

 まあ、最近では音声入力が当たり前だし、声で動かしたり話したりするゲームもあったので無くはないか……。


 「はー、すごいですね。 でもそんなAI積んでるのに金額間違ってませんか?」

 「先ほども言いましたが当社独自のシステムなので、この子もシステムの一部ですから問題ないですよ♪」

 「はあ……分かりました」


 店員さんも問題ないって言っているしまあ良いか!


 考えても仕方が無いので、俺はそれらの疑問を投げ捨てる事にした。


 「それでは、ゲームへの初期登録しますね♪ まずはこちらにお名前を入力し、利用規約に同意出来れば“同意する”の所をクリックして下さい」


 店員さんはノートパソコンをこちらに向け画面の入力場所を指差し説明してくれる。

 画面には上の方に“異世界転送物語 もう一つの世界へ”どっかで聞いた様なタイトルの文字が映し出されている。


 しかし何で“転送”なんだ? 異世界物語でも良いだろうに?

 まあデータを送るから転送なのかもしれないな。


 それとタイトルの下に“お名前”の文字

 横には四角い空欄となっていてどうやらココに名前を入力するようだ。


 さらに下の方に“利用規約”文字が書かれた四角いアイコンを押すと別枠に利用規約のページが現れた。

 利用規約のアイコンの下に“同意する”“同意しない”の2つのアイコンが現れた。


 「はい、ここですね」


 手早く名前を入力し利用規約を流し読みする。


 本来だとシッカリと読んで納得する内容であれば同意をするんだろうけど、まあ利用規約は文章量が多いので読むのは大変でもある。

 それに法律に則っている文字があれば問題ないだろう。


 利用規約を閉じ“同意する”をクリックする。


 「はい、ありがとうございます♪ それでは質問の方に移らせていただきます」


 店員さんはクルッとパソコンの向きを変えると、ゲームの登録のための質問をする旨を告げてきた。


 「プレイするキャラクターの年齢は何歳ぐらいがよろしいですか?」

 「え? いきなり年齢なんですか? 容姿とかではなく?」

 「はい、容姿はすでに決まっておりますので年齢からになります」


 まあ、容姿についてはゲーム会社側が決めるのかな? もしくはランダムか…まあいいか気にしても仕方がない。

 それにプレイするかもまだ分からないし……。


 「そうなんですか~、ええとじゃあですね…20歳ぐらいでお願いします。 なんか若すぎても年寄りすぎても嫌なんで」

 「はい♪ 20歳ですね~、そうですね幼すぎると威厳がありませんし、お年寄りだと周りが気を使ってしまいますからね~♪」

 「ええ、そうなんですよ、だいたいその年齢だと感情移入しやすくて」


 感情移入出来ないゲームはあまりプレイしたいと思わない。

 幼いと違和感があるし、中年では自分を見ているようで悲観してしまう。

 遊ぶのであればこのぐらいの年齢がちょうど良い。


 「あっ、あと加齢は導入しますか?」

 「へ~そういったのもあるんですか、ん~そうですね……導入しないでお願いします」


 むかし遊んだゲームで年齢がある一定を超えると、筋力や素早さなどの能力がレベルアップ時に下がるといったシステムがあり、キャラクター作成時は年齢を成人より幼くする必要があった。


 お爺ちゃんで若者と一緒の成長なんてオカシイからね。


 「はい♪ 次はアイテム収納なんですが、有限か無限を選べます」

 「有限か無限かですか?」

 「はい♪ 有限の場合は持っているバックに入るだけとか、手にもてるだけ、ポケットに入るだけなど容積内に入るものとなります。 胸のポケットにロングソードは入らない、といった感じです。 無限は名前のとおり無限収納でして、簡単に言いますと別の空間に目録をつけて入れる感じです。 ただし無限収納内には生物は入れられません。 人や生物を入れられても困りますから……あっ! でもタネとか植物は入るようなので、心臓が動いているとかが条件なんでしょうか? 申し訳ございませんが細かい内容は私にもわかりかねます」

 「なるほど、有限は縛りプレイになり無限は緩くプレイできるんですね。 まあ、縛りプレイはやらないので無限でお願いします」

 「はい♪ では、次は自分のタイプなんですけど」

 「タイプ?」

 「はい、剣や槍などの武器を使ってズバズバっと敵を倒していく武器使いタイプか、魔法で色々出来る魔法使いタイプの二つがあります♪」

 「へ? 二つだけですか?」

 「はい♪ 二つだけです」


 まあ、銃や弓は武器使いタイプになるし、僧侶は魔法使いって言えばそうだしな……あれ? 武闘家やモンクは?

 まあ、アレも手に武器を付けたり、棍や扇を使うのなら武器使いと言えば武器使いか……。


 「武器も魔法も使えるタイプはないんですか?」

 「魔法使いが武器を使うのに問題は無いんですが、技量は武器使いには遠く及びません。 逆もまた然りです。 出来なくもないけど突出した強さにはならないんですよ~、しかし長期になれば技量も追いつけるのですが時間がかかりますね」


 すこし眉を寄せて答える店員さん

 まあシステムとして、そうなっているのであれば仕方がない。


 「じゃあ魔法使いでお願いします!」


 最初から魔法使えると色々と便利そうだ。


 「はい♪ 魔法使いですね~。 それでは魔法使いの魔法量を決めます。 こちらにあるアイコンを押すと横にある数値がランダムで表示されます。 もう一度アイコンをクリックすることで数値が止まり、魔力量が決定されます」

 「え? 魔法量ですか? 体力や筋力、俊敏とか無いんですか?」

 「はい♪ 魔法量だけですね。 持久力や筋力は、運動するなど鍛えると付くようになっています」

 「へー、そういった所はリアルに作っているんですね……ちなみに武器使いタイプだと何が上がるんですか?」

 「武器使いタイプですと技量と筋力などですね♪ 簡単に言うとセンスとそれを取り扱う肉体です」

 「なるほど、確かに使用する武器の扱い方が分かっているかいないかで切れ味やダメージが変わりますからね。 それに体の使い方と体現できる能力がある……と」

 「武器使いに変更しますか? 一度能力値を決めてしまいますとタイプの変更は出来ませんが、今ですと変えられますが?」

 「えっ、一度能力値を決めてしまうと変更不可なんですか?」

 「はい、そういった仕様になってますので……」


 またまた眉を寄せる店員さん

 まあ良い能力値になるまで何回も振り直すことが出来るゲームもあればダメなゲームもあるからな


 「いえ、そのままで大丈夫です。 このアイコンで自分のキャラクターの魔法量が決まるんですね?」

 「はい、魔法量が決まります♪ 決まってしまったら変更は不可能ですが、よろしいですか?」

 「はい、大丈夫です! じゃあ、いきます!」


 すこしドキドキしながらアイコンを押す。

 すると目まぐるしい勢いで数値が変わっていく。

 数値がランダムに変わるためこれでは目押しは不可能だ。

 あとは運を天に任せ再度アイコンを押すしかない。


 俺は覚悟を決めアイコンを押す!


 「………………」

 「……あの……数値が“※※※”なんですが、これは??」

 「わあ、凄いですよ♪ 確かこれは数値上限無しという意味だったはずです」


 すごい、すごい♪と、興奮しながら喜ぶ店員さんに未だ理解が追いついてない俺

 しかし、目だけは目の前で弾む豊かな双丘そうきゅうに釘付けである。


 「上限無しですか?」

 「はい♪ 色んな魔法がいっぱい使えるという事です」

 「はあ、いっぱいですか……」

 「はい♪ いっぱいです」

 「良いこと何ですよね?」

 「はい♪ 良いことです!」

 「そうなんですかー、やりました!」

 「はい♪ ふふふ」


 コブシを小さく上げる格好をすると店員さんは自分の事の様に喜んでくれる。

 そんな店員さんを見ていると、俺の中で不思議な喜びが湧き上がってきた。


 「はい♪ これで登録は終了です」

 「えっ! もう終わりですか!?」


 店員さんとの楽しい会話もそろそろ終わりとなる。

 本来の目的はパソコンの修理または購入だったので残念だが致仕方いたしかたない。


 「では、古いノートパソコンから、新しいノートパソコンにデータの方を移しますね♪」

 「はい、よろしくお願いします」


 店員さんは古ノートパソコンと新しいノートパソコンをケーブルで繋げてデータを移していく。


 「では、ゲームを登録して頂いたので、こちらの小型端末を差し上げます」


 店員さんが手に取り出したのは、プラスチックの様な質感で白色の大きさが5cmほどの四角い物体を手に乗せて持ってきた。


 「こちらはパソコンと同期して広範囲で情報を利用したり操作したりする小さいパソコンみたいなものです」

 「ん~、つまり携帯端末? みたいな物ですか?」


 店員さんから四角い物体を受け取り眺めつつ、この良く分からない四角い物体の質問をする。


 「はい、詳しいことは分からないんですが、その様な機能があると考えてもらって構わないかと……すいません、なにぶん新商品なので詳しい説明や取り扱い方法はノートパソコンに入ってますので……」


 店員さんが申し訳ないと謝ってくるので


 「あ、いや大丈夫です。分かりましたノートパソコンを見れば良いんですね」


 タダでくれる物にそこまで期待してはいない。

 まあ便利なら使うし不用なら机の引き出しに閉まって肥やしになってもらおう。


 「あと、もう一つの特典のアクセサリーなんですが、ちょっと待ってて下さい♪」


 店員さんは、一度カウンターに戻ると、手に小さな白い箱を載せて持ってきた。


 「こちらになります♪」


 店員さんが、小さな箱を開けると、緩衝材になっている黒いスッポンジの上に、1cmほどの大きさで、銀色に光りU字に曲げられた筒が6つ入っていた。


 「こっ、これは! ……何ですか???」


 全く用途が不明な銀色の物体に、俺は首を傾げながら店員さんに聞く。


 「はい♪ こちらは、左右どちらでも良いので1つを耳の耳輪の部分に付ける事で音などを伝える事が出来る機械です」

 「音ですか? 耳輪に付けるだけで?」


 耳の穴に入れるイヤホンではなく、耳輪型のイヤホンなのかな?

 骨伝導なんて物もあったから、それに近いモノかもしれない。


 「はい♪ 耳に付ける事で他に音を漏らすことなく直接音を聞くことが出来ます。 電車で音楽を聴いていても他の人に迷惑にならずに済みます。 ただし、こちらのノートパソコンまたは小型端末のみ使用可能なのでご理解ください」

 「へ~凄いですね、これも自社製品なんですか?」

 「はい♪ 当社独自の商品です!」


 こんな凄い物もタダなのか、俺、遅れてるな~、世界では、こんな凄いものが無料で配られるのか。

 デジタルや科学関係のニュースをもっとしっかり読まないとダメだな。


 自分の無知加減を反省しつつ店員さんから箱を受け取り銀色の筒を眺める。


 「こちらの製品は他にも機能が有りますので、こちらもパソコンに情報が入ってますのでご参照ください」

 「あっハイ、パソコンで確認してみます」

 「はい♪ よろしくお願いします。ではパソコンと端末を箱に入れますね♪」


 店員さんがノートパソコンと小型端末の箱を店の奥から持ってこようとする。


 「あっ、箱は結構です。このまま剥き出しで構いませんので、付属品があれば一緒に持って帰ります」

 「えっ! そのままですか?」


 さすがに保障とか返品とかの場合に箱が必要になるので、店員さんに驚き聞き返される。


 「はい、このままで大丈夫です」

 

 疑問に思うかもしれないが、返品する気も無いので箱は邪魔でしかない。

 不具合があれば電話で聞くか店に持ってくれば良い。

 それにこの店員さんにも会える!

 もちろんパソコンについて聞くのだ、やましい気持ちはない……かな?


 「分かりました。ではノートパソコンと小型端末には付属品はありませんので、このままお持ち帰りになりますが、よろしいですか?」

 「はい、大丈夫です。パソコンと端末、あとこのアクセサリー、全部キャリアケースに入れて持って帰ります」

 「はい♪ データ移行した古いノートパソコンはどうしますか?」


 店員さんは、ケーブルを取外しデータ移行が終了したノートパソコン2台をテーブルに載せた。


 「あー、古いノートパソコンは処分していただけますか? 処分する費用は払いますので」

 「はい、分かりました♪ こちらの処分する書類に目を通して頂き、ご納得頂ければここにお名前をお願いします」


 店員さんから数枚の書類を渡される。

 俺は書類を店員さんから受け取ると内容を軽く流して読んでいった。


 書類には、個人情報の取扱いについてと、使用済家庭用パーソナルコンピュータ回収委託規約が書かれていた。

 早い話、個人情報はどうするかと、古いパソコンは資源にすることが書いてある。


 「これでいいですか?」


 俺は書類に名前を書き店員さんに渡す。


 「はい♪ では、古いノートパソコンは当方で処分いたします。 あと処分代は掛かりませんのでご安心下さい」

 「えっ、いらないんですか?」

 「はい♪ いりません。 資源利用されますから」

 「あ~、なるほど」


 つまり、中にある金属を回収して元は取れるのか……。

 納得である。



 「はい♪ では、合わせてお会計いたしますね」


 店員さんは、ノートパソコンの箱を、レジカウンターに置き手早くバーコードを読み込ませる。


 「はい♪ それでは、合計金額が税込み17万円になります」

 「じゃあ、コレでお願いします」


 俺は財布からパソコンの修理または購入用にと、あらかじめ用意していたお金17万円を、レジカウンターの上にあるカルトンに置く。

 店員さんは失礼しますと断りを入れ、カルトンからお金を取り枚数を数え始めた。


 「はい♪17万円あります。こちらレシートになります。 ご確認下さい」


 店員さんが、レシートを俺の手に両手で優しく包み込む。

 俺は店員さんの暖かい手と優しい笑顔に少し顔を赤らめながらレシートを受け取りポケットに入れた。


 「ありがとうございました。また、何かあれば当店をご利用くださいませ♪」

 「はい、機会があればまた来ます」


 最高の笑顔で店員さんに、また来てくれと言われてしまった。

 たとえ社交辞令でもうれしい、また来ねば!(使命感)


 足元に置いてあるキャリアケースを倒してファスナーを引き中を開け広げると衣類関係を収めている所がファスナーの付いたメッシュに覆われているので、その上にノートパソコンを置く。

 キャリアケースに付いていた用途不明のベルトでX状にノートパソコンを固定することで、荷崩れのしたり衝撃を与えないようにした。

 それと小型端末とイヤホンみたいな銀色の物体が入った箱は、衣類の隙間に詰め込みキャリアケースを閉める。


 「よしっと! 一時はどうなるかと思いましたが良い買い物が出来ました。 どうもありがとうございます」

 「いえいえ、お客様のご要望を叶えられてよかったです♪」


 お礼を言うと店員さんは恐縮しながらも当然のことと返してくる。


 「それじゃ、失礼します」

 「はい♪ あっ、ゲームの方もお願いしますね! 異世界での冒険や生活、鍛冶や建築など多くの出会いが待っていますから♪」

 「へ~結構壮大なんですねー分かりました。 機会があれば遊んでみます!」


 せっかく店員さんが進めてくれるのだ、少し遊んでみよう。


 「はい♪ あなただけの物語を作って下さい」

 「ははは、了解です! では、行って来ます!」

 「はい♪ 行ってらっしゃい」


 店員さんの笑顔で若干気持ちが高ぶったのか俺はこれから冒険に行くような雰囲気で別れを告げた。


 そして店のドアを開け外へ出る。


 そのドアが閉まる直前に


 「かの地にいて、あなたに幸多さちおおからん事を……」


 店員さんの祈る様な声が、かすかに聞こえた様な気がした。

 初めて文章を作り、初めて投稿しました。

読みにくい文章かと思いますが、長い目で見て頂くとありがたいです。

なろうに投稿されている皆様は、本当に執筆の速度が速くて羨ましいですね。

読みやすい、面白いものを作るため、頑張っいきたいと思います。

よろしくお願いします。


平成30年8月13日 文章を修正及び加筆しました。

読み易くなっていれば幸いです。

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