スカイノーツ
町がやけにうるさくなってきたなと瑠衣が感じ始めたのは、午後7時くらい。帰宅してからだいたい30分くらい過ぎた頃だった。
母親である、大通真名《おおとおりまな》と中学二年生になる妹の香菜《かな》とともに食卓についていた時だった。
「今日は、サイレンがうるさいね。なんでかな?」
香菜が首を晩御飯である、焼き魚をつまみながらつぶやいた。
「さぁ?何か事件でもあったのかもねー。あ、瑠衣。ちょっとテレビを点けてくれない」
「リモコンそこにあるから自分でつけなよ」
「ボタンを押すのがめんどくさい。だからやって」
「仕方ないなー。もう」
真名にせかされて、テレビのスイッチを付ける。画面に映ったのはレポーターと緊迫した現場だった。
「瑠衣ねぇ。ここってさ、うちの近所だよね」
「だね。コンビニ前の公園じゃないかな?でも、かなりやばいね……これ。」
テロップには、閑静な住宅街で変死体。と書かれていた。
レポーターが現場の様子をいい終わり、スタジオにカメラが変わるころには、三人の食卓は何とも言えない雰囲気に包まれていた。
「うーん……テレビをつけたのが間違いだったかな。すっかりご飯がおいしくなくなっちゃた」
真名が笑いながら、チャンネルを変える。そこには、タレントが愉快そうに笑っていた。しかし、三人がつられて笑うということはなかった。
◇
翌朝。柳川高校3年2組教室。
朝のホームルームが始まる前の時間。瑠衣と都は昨日の事件のことについて話していた。
「で、みやちゃんは昨日の事件についてなんか知ってる?」
「昨日?うん知ってるよー。コンビニ前の公園での事件でしょ?」
「そう、それ。実際怖くない?まだ、犯人つかまってないんでしょ?」
「つかまってないね。しかも、学校が緊急の連絡をするぐらいだもんね。すごく、やばいかも」
と、苦笑いを浮かべる都。
「でもさ、もしかしたら早く帰れるってこともありえない?やっぱり、薄暗い時間に返すのも学校としては問題があるし」
「うーん。それは、ないと思うなー。せめて、部活動が禁止になることくらいかも」
「だったら、みやちゃんも早く帰れるの?」
「そうなったら、大変なんだよ。今から体育祭や引き継ぎとかいろいろやることがあるのに」
「生徒会長さまは多忙ですなー。休むことすらできないのですか。晩年暇人の私なんかとは大違い」
そうでもないけどね。と、都は苦笑いを浮かべた。
「はいはい。早く座りなさい」
担任が教室に入ってきた。雑談をしていた生徒たちが気だそうに自分の席に戻っていく。生徒全員が席に着いたのを確認し、担任は話を始める。
「みんな知っていると思うけど、昨日この近くで殺人事件がありました。それで、学校として当面の部活動の禁止ということになりました。」
瑠衣は都を見る。都は、鬼のような形相で考え事をしていた。おそらくこれからのスケジュールなどを組み立てているのだろう。
「ということですので、間違えても放課後学校に残ってはいけませんからねー」
担任の最後の一言で、都は「昼休みだけで終わらせろ?この学校の大人はみんな腐ってやがる……絶対のろう」と、のろいの言葉を吐き出していた。