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引っ越しと梅雨
「ねぇ晴太、内緒だよ。私、本当はね、―――」
そこで目が覚めた。なんだったかはわからないが、ひどく懐かしい感覚がある。わからないというよりは、思いだせないといったほうがしっくりくる。少しの歯痒さを感じつつ俺は今日から通うことになる制服に着替えた。きっとそのせいだ。
親の都合で転校が多かった小中学校時代。しかし、92歳になるばあちゃんの体調が優れないという理由で、ばあちゃんの実家があり俺が小学校4年生まで住んでいたこの町に再び戻ってきたというわけだ。
町の中心は少しは様変わりしていたが、一歩繁華街から出るとそこはあの頃と全く変わらない、畑と田んぼと森と川だけの風景。懐かしさを通り越して、昨日の続きをすぐにでも始められそうだった。
季節は6月。梅雨。