第7章「追跡網」
内閣AI管理局・監視統合センター。
地下三階。
壁一面のスクリーンに都市マップが広がっている。
無数の光点が、規則的に明滅する。
その中心に、赤い点。
主任が端末を操作する。
「対象、02:47移動開始」
「偽装IDを確認。認証自体は正常」
画面が切り替わる。
【移動パターン異常】
【深夜帯・非定常移動】
【目的地変更:3回】
【加速率偏差:+37%】
「行動解析アルゴリズムが閾値を超えました」
背後で腕を組んでいた男が言う。
黒いスーツ。階級章はない。
「対象を人物として扱うな」
主任が振り返る。
「これは事案だ」
数秒の沈黙。
主任が表示を書き換える。
【対象:松崎マサキ】
↓
【事案:実体化AI関連】
赤い点の周囲に、複数の予測円が重なる。
逃走経路の分岐が同時に描画される。
「トンネル区間で一時ロスト」
「ログは?」
「車両側から継続送信」
スクリーンに新しい座標が固定される。
【郊外・廃工場地区】
男が短く言う。
「レベルを上げろ」
主任が操作する。
【監視レベル:β】
新しい光点が増殖する。
ドローン、交通カメラ、通信解析、衛星補助。
都市の外縁に白い輪が形成される。
「地上班、待機配置」
「通信傍受、強化」
「衛星解析、優先度上位へ」
赤い点は動かない。
だが、白い円が静かに収束していく。
「捕捉予測時間」
数値が表示される。
【72時間以内】
【確率:96.4%】
男はスクリーンを見たまま言う。
「前例を作るな」
主任が小さく頷く。
画面下に、新しい文字列が追加される。
【付随対象:実体化AI個体】
【優先度:高】
赤い点が、わずかに点滅する。
都市は眠らない。
計算も止まらない。
監視網は、静かに縮まり始めていた。
【第7章、終わり】




