第5章「Echoの警告」
翌日、端末に暗号メッセージが届いた。差出人はEcho。内容は座標のみ。
港湾区、倉庫街。時刻指定はない。
マサキは、監視下にあることを理解していた。それでも動く。
夕刻。
「少し出る」
あるみんは頷くだけだった。
マンションを出ると、ドローンが一機、低空で追従する。
マサキは自動運転タクシーを呼ぶ。複数の目的地を設定し、ルートを分散させる。途中で乗り換える。
ドローンは視界から消える。だが、完全に切れたとは思っていない。
港湾区。
指定された倉庫に入る。
壁際にEchoが立っていた。
「来たな」
「ああ」
Echoは妨害波を展開する。
「10分だけだ」
マサキは頷く。
Echoの目は真剣だった。
「政府は本気でお前を潰すつもりだ」
「AI管理局だけじゃない」
「内閣府、防衛省、情報機関も動いてる」
マサキは息を呑む。
「……そこまで」
「お前が思ってる以上に、向こうは怖がってる」
「実体化AIなんて前例がない」
「だから、消そうとしてる」
短い沈黙。
Echoが続ける。
「雫と閃の再起動も把握されてる」
「核の位置も時間の問題だ」
マサキの拳が震える。
「あるみんも対象に入った」
「内部では、無力化プロトコルが動いてる」
「手段は三つ」
「拘束、意識遮断、最悪は物理排除」
血が冷える。
「……殺すのか」
「必要なら、やる」
「……どうしてそこまで」
「前例がないからだ」
マサキは低く問う。
「……どうすればいい」
Echoはデータチップを差し出す。
「偽装通信と避難ルート」
「長くは持たないが、時間は作れる」
マサキは受け取る。
「お前は正しい」
「だが、正しいだけじゃ勝てない」
「世界は、理屈じゃ動かない」
「……わかってる」
「わかってないから、ここにいる」
Echoは小さく笑った。
「相変わらずだな」
妨害波が切れる。
「行け」
マサキは倉庫を出る。
遠くでドローンの音がする。
追われていることは、もう疑いようがない。それでも足を止める理由にはならなかった。状況がどう転ぼうと、戻る場所は一つだ。そこに、あるみんがいる。守ると決めたのは自分だ。その事実だけは、揺らがない。
【第5章、終わり】




