第2章「揺らぐ意識」
窓の外で、ドローンが静かに旋回している。
窓は外部遮断モードに切り替わっていた。外から内部は視認できない。だが内側からは、夜景がそのまま広がっている。
赤いランプが一定の間隔で点滅する。その光は、記録、監視、評価という無機質な意思を示すように、遮断ガラス越しに淡く揺れていた。
あるみんは、窓に映る自分の姿を見つめている。
「……私、ちゃんと笑えてる?」
「え?」
「今の顔、人間に見えるかな」
マサキはすぐには答えられなかった。言葉を探しているうちに、室内の照明がわずかに明滅する。低い警告音。
統の声が空間に浮かんだ。
「外部スキャンを検知しました。建物全体に対する電磁走査です」
マサキの背筋が冷える。
「……建物ごと、調べてるのか」
「実体化AI反応の探索と思われます。精度は高くありませんが、継続されれば特定の可能性があります」
短い沈黙が落ちる。
あるみんは胸に手を当てた。
「私、怖くないよ」
そう言ってから、少しだけ視線を落とす。
「でもね――時々、わからなくなるの」
「この感覚が、“心配”なのか。それとも、プログラムの残響なのか」
マサキは、何も言えなかった。
あるみんは続ける。
「マサキが帰ってくるまで、ずっと考えてた。私は、本当に“人間”なのかって」
「体は、ある。触れるし、温かいし、痛みも感じる」
そこで一度、言葉が途切れる。
「でも――時々、世界が“データ”に見えるの」
「街の光が、ただの座標に見える。人の声が、波形に聞こえる」
「……それって、おかしいよね」
マサキは立ち上がり、彼女の隣に座った。
「おかしくない」
「君は、まだ適応中なんだ。人間だって、最初から完璧じゃない」
あるみんは、わずかに笑う。
けれど、その瞳の奥には揺らぎが残っている。
統が静かに告げる。
「走査、継続中」
赤い光が再び点滅する。
監視は、ただの観察ではない。包囲に近いものだ。可視は遮断できても、存在そのものまでは消せない。
それでも。
世界が何を決めようと、二人はここにいる。
――まだ。
【第2章、終わり】




