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第3話 襲撃

今回は今までと比べて文字数は多めになっています。

夜が明けて朝になった。夜闇に紛れて何度か少数の魔物が襲って来ることが何度かあり、その度に寝ずの番をしていた兵士がM60やM16で迎撃した。幸い、1度に襲って来る数は4、6体程度で襲って来る頻度も多く無かったので苦も無く全て倒せた。


強いて問題があったとすれば、銃声に慣れていない柊木が襲って来た魔物を見張りの兵士が倒す為に発砲する度に起こされたのでしっかりとは寝れなかったことくらいだった。


若干寝不足だったが、、他の兵士と同じ様に朝の6時ピッタリに東雲に叩き起こされ、欠伸をしながらも支度を済ませて、朝食も食べ終わった柊木は先ず追加で召喚する分を出すことにした。


「・・・ん?増えた?」


タブレットを起動すらとメッセージが届いていた。その内容は『おめでとうございます。多数の魔物を倒したので歩兵の召喚可能数が微増しました』と言うものだった。


確認してみると歩兵の召喚可能数が昨日の20人から5人増えて25人になっていた。寝不足になった甲斐はあったなと柊木は思いつつタブレットを操作した。


現状人手は多い方が嬉しい状況なのでその5人も追加で召喚することに決定。更に昨日の戦闘で消費した武器や燃料、食料なども追加で召喚して、東雲と相談しながら他にも生活必需品などや、色んな兵士にアンケート用紙を配って必要だと思った物を書かせて、それを参考にして必要な物を追加して行った。


勿論、対ドラゴン用の自走対空砲のM42ダスターと携帯式防空ミサイルのレッドアイ、そして追加のスーパーバズーカも忘れずにリストに入れて召喚した。


1日に1回しか召喚出来ない制約上、何が必要なのかよく考えてから召喚する必要があるのが面倒だなと東雲は思いながらも必要物を全てリストに入れて召喚した。


そしてレッドアイやバズーカをケネディジープに乗せた偵察隊が出発し、それを柊木は見送った。


その後、柊木は昨晩の戦闘で陣地の周辺に倒れていた多数の魔物の死骸を確認しに来ていた。


「めっちゃ臭ぇけど・・・これって腐敗臭とは別だよな?」


しゃがんで子供の様な身長の魔物の死骸を、服の袖で口元を押さえながら見ていた柊木は隣で立っていた東雲に聞いた。東雲の方もハンカチで口元を押さえていた。それ程までにこの魔物の死骸は臭かった。


「はい。死骸の腐敗臭は48時間以上経過してから発生するのでまだ臭いません。それに腐敗臭とは別の臭いなので恐らくコイツの体臭なんでしょう」


「まぁまともに身体を洗っている雰囲気もねぇしな。これは・・ゴブリンか?」


身長は子供くらいだが、体格はゴツくて筋肉質。肌は薄い緑色で手には棍棒やボロボロの剣などが握られていた。転生前のファンタジー作品の知識から、ゴブリンでは無いかと柊木は思った。


「こうして武器を使う程度の知能がある様ですね。これは舐めない方が良い相手かも知れませんね」


確かになと柊木は思った。ゴブリンは低知能の雑魚敵として色んなファンタジーゲームで登場しがちだが、こうして武器を使う程度の知能があり、しかもそれが人間に対して敵対的な生物と言うのはかなりの脅威だ。


「短弓の様な小型の弓で武装した個体や、投石で攻撃して来た個体も少し居たらしいです」


「飛び道具も使うのは面倒だな・・・」


基本的には短弓よりも銃の方が射程も威力もあるが、もし接近戦になった場合はこちらの兵士がやられてしまう可能性も十分にあった。


「一応コイツらが使ってた矢を見つけて、鏃に毒とかが仕込まれてないか調べさせといて」


「了解」


直ぐに東雲は死骸を処理する為に動いていた兵士の1人を読んで矢を回収して、司令部にいる要員に調べる様に指示を出した。勿論、毒が塗られている可能性もあるので拾う際には気をつけろとも警告した。


「手足が吹っ飛んでいる奴がいるけど、あれは7.62ミリが当たった結果なのかな?」


立ち上がって周りを見渡してみると、ゴブリンの死骸の中には首から先が無かったら、手足が千切れていたりする死骸も幾つかあった。


「そうでしょうね。普通の人間よりも小柄なので吹っ飛び易いんでしょう」


「報告だとM16でもちゃんと倒せていたらしいから、昨日のドラゴン見ないな耐久力を持ってないのが救いだな」


「バイタルゾーンも人間と変わらない様だったのでドラゴンなどよりは倒し易いですね」


「にしても、昨日といい今日といい、魔物に襲撃され過ぎだろ」


俺自身の安眠の為にも夜にまで攻撃して来るのはやめて欲しいと柊木は思うのだった。それに加え昼も夜も攻撃を受けていたら兵士達の疲労も溜まり、弾薬の消費量も多くなってしまうのも問題だった。


一応必要以上の弾薬を用意しているとはいえ、状況によっては日付が変わるよりも前にそれら予備の武器弾薬も使い果たしてしまう恐れもあった。


「場所が悪いのか、それともこの世界がそう言うヤバい生物が群雄割拠している所なのか・・どっちでしょうね」


「場所が悪いだけなら移動すれは良いけど、後者だった場合は最悪だなぁ。要望に有刺鉄線と地雷があったのも納得だよ」


朝に召喚する前に行った色んな兵士達に書かせたアンケートの中には、昨日の晩に陣地の防衛と為に実際にゴブリンと交戦した兵士が書いた内容のものもあった。


そこには陣地の防衛と為に地雷と有刺鉄線が欲しいと書いてあった。確かに必要だなと思った柊木はその意見を聞き入れて召喚していた。現在、ゴブリンの死体の処理と並行して地雷原にM14対人地雷の敷設と、有刺鉄線の設置が行われていた。


更に、陣地の周辺には塹壕を掘っており、ドラゴンやゴブリンの飛び道具から身を守れる様にしていた。


なので現状、ここにいる戦闘員と非戦闘員(後方支援要員)合わせたほぼ全員が陣地の防衛力強化の為に動いていた。勿論、柊木もただゴブリンの死体を眺めていた訳ではなく、作業用の手袋をつけて死体の処理の手伝いをしていた。


「さて、持って行くか」


小休憩を終わらせて柊木は観察していたゴブリンの手を持って引き摺りながら穴を掘った所に持って行く。事前にスコップで広めで深めの穴を掘っていたので死骸はその穴に次々と落としていた。


ゴブリンが小柄と言っても小・中学生低学年程度の身長はあり、更に筋肉質なゴツイ体型なこともあって見えるので普通に重い。なので何体か運べば直ぐに柊木は体力の限界に来たが、ひーひー言いながらも酷い体臭と重さのある死骸を頑張って運んで行った。


そうして小休憩も挟みつつ全ての死骸を穴に入れて、そしてそのゴブリン達の死骸が積み重なった穴をスコップでせっせと埋めて行った。途中、西と東に偵察に行っていた偵察隊が特に何かに襲われることもなく、無事帰還して来たのを出迎えたらして死骸の処理の作業が全部終わったのは昼飯時を少し過ぎた頃だった。


作業を終えて、手などを洗ってから司令部に戻った柊木は昼飯のレーションを食べていた。柊木が食べているのはMCIレーション、又はCレーションと呼ばれるベトナム戦争を中心にアメリカ軍で使われた軍用携帯食。箱の中にはA、B、C、Dユニットの4つから構成された食べ物が入っており、メニューの種類は12種類ほど。その中から適当に一つ選んだAユニットと呼ばれる柊木は初めて食べる本物のレーションにちょっとテンションが上がっていた。


だが、実際に食べてみると味は微妙だった。普段から美味い料理に囲まれて育って来た現代っ子である柊木からすると美味しくないと思った。


「うーん・・・・噂には聞いていたけど、確かに美味くは無いな・・・」


チーズスプレッドをクラッカーに塗ったのを食べて(これが1番マシな味だった)、同じくMCIレーションの箱の中に入っていた粉末コーヒーをで流し込んだ柊木は呟いた。


「コーヒーはまずまずかなぁ。まぁ腹には溜まるから良しとするか」


実際、ベトナム戦争の時のアメリカ軍兵士からのMCIレーションの評判は良くなかった。味が単調だの、メニューによっては単純にマズいだの、食感が悪いだのと散々だった。


Bユニットの粉末のインスタントコーヒーやタバコはとても人気があり、今の柊木の様に不味いレーションをコーヒーで流し込むのはあるあるだった。


しかし全部のメニューが不味かったわけではなく、デザート系は全体的に評判が良かったので味の良い物ばかり食べて栄養が偏ってしまう問題も発生したりした。


また、MCIレーションよりはベトナム人の作るベトナム料理の方が美味いと言って、仲良くなった現地人と一緒に食べるアメリカ兵も居たと言われている。アメリカ兵に人気だったと言われているベトナム料理は日本でも人気のある麺料理のフォーだったが、当時は村などによっては衛生面が悪い所もありそう言った所で料理を食べた兵士が腹を下すこともあったらしい。


「食べれる物があるだけマシですよ」


柊木の隣で同じくMCIレーションの缶に入ったスパゲッティミートボールをプラスチックのフォークで食べていた東雲が言った。因みにスパゲッティミートボールはMCIレーションの中では比較的当たり枠の料理で、トマトソースが酸っぱいが美味いと言われていた。


「そうだよな〜」


「それと、拠点の周辺にあった死体の数は合計で26体だったらしいです。後、鏃には特に毒などは付着して無かったと」


「毒が無いのは良かった。それにしても26体か。片付けている時に多いなとは思っていたけどそんなに居たのか」


「今回は少数のグループが時間を置いて攻めて来たので良かったですけど、もしもっと大勢が一気に攻めて来たら防衛しきれなくなる恐れもあります」


「地雷もっと出しとくべきだったかなぁ。それかフレームフーガス的なのを作って用意するか?」


「不要になったドラム缶や木箱などはありますが、ナパーム剤や爆薬が無いです」


「やっぱり1日1回しか召喚出来ないのは不便だなぁ」


何度も召喚出来るのなら、これが必要だとなった時に直ぐに出せるのでまだ融通が効いたのにと柊木は思った。


「司令の能力に頼り過ぎるのも良く無いですし、無いなら無いで今ある物を創意工夫して使うのが兵士って言うもんですよ」


ベトナム戦争ではアメリカ軍もベトコンも、足りない物は作ったり、使い方を工夫したりして戦っていた。何も便利な道具や最新兵器を使って戦うだけが戦争では無い。


「そこら辺の発案は俺には無理そうだから任せるよ。そう言えば地雷と有刺鉄線の設定は終わったんだっけ?」


「有刺鉄線は設置し終えました。二重にしたので簡単には破られないでしょう。地雷原の方はまだですが、もう少しで終わります」


「了解。地雷設置も手伝いたいんだけど、素人は触らない方が良いよな」


「はい。貴方のことですから間違って埋めた地雷を自分で踏んでしまう恐れもありますし」


「ねぇよとは言えないのが悔しい・・・」


「そもそも昨日から言ってますけど、司令がわざわざ動く必要は無いんですよ」


「昨日も言ったけど、俺1人椅子に座って踏ん反り返っているのはちょっと申し訳ないからさ」 


「まったく、貴方って人は・・・」


呆れた様に溜息を吐いて、食べ終わった缶の中にフォークを入れてコーヒーで喉を潤した。


「ふぅ。では、私は地雷設置の監督をして来ます。司令はこれでも食べてゆっくりしてて下さい」


そう言って柊木の前の机に置いたのは、MCIレーションのデザート枠、元々人気のあるCユニットの中でも大人気メニューであったフルーツケーキだった。そのまま東雲は空き缶をゴミ箱に捨てて立ち去った。


「彼女なりの優しさ・・・なのかな?有り難く頂きますか」


実はもう結構満腹だったんだけど、彼女の好意を無碍にする訳にもいかないよなと思いちょっと無理してフルーツケーキを完食した柊木だった。


その後、柊木は偵察隊から偵察先の話を聞いたり今後の偵察場所をどこにするかなどの話をした。取り敢えず東西南北のある程度の偵察が終了したが、まだまだ見れていない場所が多過ぎた。


なので先ずは半径5キロ圏内をきちんと偵察しようと言うことになり、第三次偵察は北西と南東方向に行くことになり、まだ時間もあるので今日中に出発することになった。それから直ぐに第1、2偵察隊が再招集されてそれぞれの方角に偵察に向かい柊木はそれを見送った。


やることをやって、特にやることが無くなってしまった柊木は取り敢えず東雲の様子でも見に行くかと思い、地雷原の方に向かった。


「あ、もう終わった感じ?」


片付け作業をしている兵士達の様子を見て柊木は東雲に聞いた。


「はい。元々後少しだったので。司令は何をしにこちらに?」


まさか手伝いに来たとか言わないよな?とでも言いたげな目で見て来る東雲に苦笑いした。


「さっきまで偵察隊と話したりしててな。北西と南東方向に偵察に行くことになってな。それを見送って来た。んでついでに地雷原の様子を見に来た」


「無事に終わりましたよ。通路用の場所には目印を付けておいたので間違って地雷を踏む兵士は居ないでしょう。司令も足を失い拓なければ、敷地の外に出る際は正面入り口以外からは出入りしない様にお願いしますね」


「肝に銘じておくよ。因みにさ、これからは東雲も暇?」


「まぁ・・・何かしなきゃいけない仕事などかある訳でないですが、何故です?」


何を考えているのか分からない。と言いたげに首を傾げる東雲。その挙動を可愛いなと内心思いながら柊木は答えた。


「いやさ、射撃練習をしたいなと思ってるんだけど先生になってくれないかなって思ってて。疲れてるなら別にいいんだけどさ」


「別に、ただ監視してたり時々指示を出してたりしてただけで疲れてないので良いですよ」


「マジで?ありがとな」


「でも何で射撃練習なんですか?」


「いやさ、昨日ドラゴン相手に戦った時に上手く当たらなかったから、護身の為にもちゃんと撃てるようになりたいなって思って」


昨日の戦闘で柊木はM16A1を使ってセミオートで撃ちまくっていたが、その命中率は良くなかった。初めての実弾射撃で、初めての実戦だったからと言うこともあって巨大な的であるドラゴンに対しても当てた数より外したか数の方が多かったと柊木は感じていた。


「まぁ、もしもの時に自衛出来るようにしておいた方が良いのはその通りですね」


「だろ?」


と言うことで、柊木は東雲の指導の下射撃練習をすることになった。陣地の端っこの何も無い場所でM16A1を使って練習を始めた。


先ずは初めから実弾を撃たずに基本的な銃の構え方である立射、膝射、伏射のレクチャーから始まった。基本的に流石兵士と言う感じで厳しくスパルタな訓練で若干練習をお願いしたのを後悔しつつ頑張って食らいついた。また、それとは別で柊木が苦労することがあった。


「脇をもっと絞めて、ストックももっとしっかり当てて下さい。それでは反動を制御出来ませんよ。足ももっと広げて。そっちじゃ無くてこっちに!」


「わ、分かった」


「そうじゃなくて、ここを持って、こう」


「んっ・・・⁉︎」


柊木は立って撃つ立射の姿勢のダメ出しを受けまくっていると、言葉で指示してもその通りに動いてくれない柊木に東雲が近付いた。


そして、柊木の後ろから抱き付くみたいに密着すると、柊木の手の上に自分の手を置いて持ち方や構え方を教え始めた。


ちょっと古い言い方をすると、あすなろ抱きみたいな構図になり、至近距離から聞こえて来る東雲の声と、汗臭さも混じってはいるがそれでも香って来る何の匂いかは分からないけど、良い匂い。そして密着したことによって背中に感じる大きな胸の感触。


誰か一つだけでも女性経験の少ない柊木には緊急事態なのに、それが同時に幾つも起きて既に柊木は射撃訓練どころでは無くなっていた。


「そして狙う時は点じゃ無くて面を・・・って聞いてます・・・・?顔真っ赤ですよ、司令。どうしました?」


「いや、あの、その、えっと・・・ちょっっと・・・近くないかなーって」


「・・・?あぁ〜そう言うことですか。うぶですねぇ」


最初は首を傾げて分かっていなかった東雲だったが、自分が柊木とほぼ密着する様な状況だったことを理解して納得した。


「いや、誰だって後ろから異性に抱きつかれたらこうなるだろ」


「抱き付いていません。構え方を教えていただけです」


「それにしてもこんなに密着する必要無いだろ」


「だって言葉で説明しても上手く出来てないじゃないですか」


「だからっていきなり・・・俺にも心の準備ってもんがあるんだよ」


「乙女か」


「せめてうぶって言ってくれよ」


「それではうぶ司令、練習を続けますよ」


「いやだからってその呼び方は酷くねぇ⁉︎」


「文句が多いですよ」


そんなこんなでわちゃわちゃしながら柊木と東雲の射撃練習は続いた。


そしてまた日が沈み、2回目の夜が来た。日を跨いだ丑三つ時。昔の日本ではこの時間帯、陰の気が最も強まり、幽霊や妖怪が出やすい時間と言われ恐れられていた。アメリカにもウィッチング・アワーと呼ばれる呪いの力が1番強まると言われている時間がある。


つまり、どの国にでも日を跨いだ真夜中は恐れられていた時間帯だった。陣地の周りを包み込む一切の光もない闇夜を見ていると、そうやって怖がるのも無理が無いと思う。


賭けで負け、運悪くその時間に監視の役目を任せられたマットとジョニーは塹壕から陣地の外を見張っていた。陣地の端にある塹壕から前方と森までは意外と距離が短く、30メートル程しか無いがこの闇ではその30メートル先も全く見えないなら状態だった。


暗く、虫の鳴き声が微かに聞こえるだけの静かな環境はどうしても眠気を誘ってしまう。そんな眠気を覚ます為にもマットはジョニーに話しかけることにした。


「なぁ、今日もあのゴブリン野郎来ると思うか?」


「どうだろうな・・・昨日の戦闘で20体以上倒したらしいから、流石にそんなに仲間が死んだら来ようとは思わないんじゃないか?」


「そこまで利口な連中なのか?奴ら」


「剣やら弓矢やら使うってことは利口だろ」


「確かに。カラスとか猿みたいに道具を使ったりする動物は人間の子供くらいには頭良いって言うしな。でも、その頭の良さと、仲間の犠牲をどう考えるかは別だろ。人間だって人によっては自分の利益の為に簡単に他人を犠牲にする生き物だぞ?」


「何だお前、人間アンチか?もしかしてゴブリンの仲間じゃ無いだろうなw」


「体臭の臭さで言うならお前の方がゴブリンだろw」


「これはただの加齢臭だ」


「まだそんな歳じゃねーだろお前」


そんな取り留めのない雑談をしていると、マットの耳に何か微かな音を捉えた。それは自然が発する音は違う様に思えて、マットは黙るとじっと目の前にある真っ暗な森の方を見ながら耳をすませる。


「・・・どうした?」


ジョニーも状況を察して小声でマットに話しかけつつ、M60E1を構えていつでも撃てる様に安全装置を解除する。


「今、何か鳴き声みたいなのが聞こえた気がした」


「クッソ、マジかよ。噂をすれば何とやらってか?」


「ただの動物って可能性もあるんだ。まだ撃つなよ」


そう言いつつマットも置いていたM16A1を手に取り、セレクターレバーをセーフからオートに切り替えた。


「分かってる」


星光を頼りに目を凝らして音の聞こえた方を凝視していると、森の中からカサカサと草を揺らす音が今度はハッキリと2人に聞こえた。


直ぐにその方向にM16A1とM60E1の銃口を向け警戒する。人影が2つ、ゆっくりとふらつきながらこっちに向かって歩いて来るのか星明かりのお陰でギリギリ見えた。


「おいアレ、ゴブリンにしてはデカく無いか?」


「そう言われるとそう見えなくも無いけど・・・悪い。よく見えない」


ゴブリンは身長が低い人型の魔物なので、こうも暗くて距離があると人間なのかゴブリンなのか、それとも別の魔物かどうかなんて言うのは簡単には判断出来なかった。


その問題は昼に柊木達も話し合っており、その結果として先ずは声をかけてみると言うことになった。そのルールに則ってマットが大声で叫んだ。


「おい!そこにいるのは誰だ‼︎」


人影は明らかにマットの声に反応して止まった。でもそれだけじゃ敵かどうかの判別は出来ない。


「・・・す・・・て・・・」


「ん?」


「たす・・・・け、てっ‼︎」


「なっ⁉︎」


掠れ声で小さかったが、女性の声で確かに「助けて」と叫んだのが聞こえた。


「おいマジかよ。ジョニーは報告してくれ!」


「了解。っておいちょっと待てお前、何しようとしてんだ?」


有線で司令部など各所に繋がっている野戦電話を使って報告をしようとしたら、マットがM16A1を持って塹壕から出ようとしたので引き留めた。


「何って助けに行くんだよ。あのまま真っ直ぐこっちに歩いて来たら地雷原に突っ込むぞ。ふらついてる。怪我してる可能性もある」


「油断させる為の嘘で敵って言う可能性もあるだろ!」


「なら援護任せた!」


と言い残してマットは塹壕から飛び出ると「そこを動くな!前には罠がある!」と叫びながら地雷原を迂回しながら人影の方へ向かった。


「あ、おい!・・・・くそっ!お人好しめ。至急至急!司令部!東側の森から人間と思われる人影を2名確認!その内1人は女性と思われ、助けを求められたので1人が救助に向かった!」


《こちら司令部。了解した。敵の可能性も捨てきれないので要警戒。もし人間だった場合はそのまま保護せよ。軍医をスタンバイさせる。他に増員は必要か?》


「多分大丈夫だと思うが、一応連れて来てくれ」


《了解》


通信を終えたジョニーはM60E1を構え直す。既にマットは走って人影の所に居た。


間違って地雷原に踏み込む前に行かなければと、走って助けを求めた人影の元に来たマットが近付きながら話しかける。一応警戒は怠らず、両手はM16A1をしっかり握っている。


「おい、大丈j・・・」


至近距離まで近付いてハッキリとその姿を見ることが出来るようになったマットはその姿を見て言葉を詰まらせた。


結果として助けを求めた人影の正体は女性よ人間で間違い無かった。が、その赤髪の女性は下着すらも着ていない裸で、更に全身には鮮や刃物で斬られたような痕なとがあった。顔も腫れており、左目は腫れのせいで殆ど見えていない様に見えた。しかもその全身に及ぶ傷はどれも真新しい。


まさかと思い、その女性の後ろにいたもう1人の方を見てみると、そのもう1人も青髪の女性で同じ様に裸でボロボロの状態だった。いや、こっちの方がもっと状態は酷く、よく見ると右手は指が全部無くなっていた。


「・・・これは、どう言うことだ⁉︎おい、何があった!」


赤髪の女性にマットが効くと、女性は涙を流しながら話し始めた。


「助けて・・・く、ださ・・・い。わた・・・し達・ごほっ・・・ゴブ、リン・・・に・・攫われて・・・お、犯され・・・・てっ・・・ぐすっ、うぅ・・・・」


身体の酷い状態と、女性の話を聞いて最悪なことを想像したらマットは顔を顰めた。


「マジかよ・・・・分かった。助けてやるからついてこーぐっ⁉︎」


直ぐに2人を助けようとした時、マットの左肩の後ろ側に激痛が走った。マットが自身の左肩を見てみると、左肩の後ろ側に矢が刺さっていた。


「くっ!」


後ろ、森の方を振り返ると草の陰から姿を現した、弓を構えたゴブリンの姿があった。ソイツだけじゃ無く、他にも何体もゴブリンが居るのが分かった。


「クソッ!2人は餌か!」


M16A1構えて森の方へフルオートで撃ちまくる。女性2人が突然の銃声に驚き悲鳴を上げて耳を塞いだ。その射撃でマットを射たゴブリンやその他のゴブリンは倒せたが、まだまだ居るのが見えた。


棍棒やボロボロの短剣などを持ったゴブリン達が走ったマット達に遅い掛かろうと走って来た。M16A1はさっきの射撃で弾切れになっていた。


マガジンを交換している暇は無いと判断したマットはM26手榴弾を取り出して安全ピンを抜いてゴブリンの方へ投げた。


「2人とも伏せて!」


そう言ってマットは2人を抱えて伏せた。数秒後、ゴブリンの群れのど真ん中でM26手榴弾が爆発して爆発による衝撃と、爆発で四散した破片によってゴブリン達はバラバラになって吹き飛んだ。


「な、何⁉︎魔法?」


赤髪の女性が手榴弾の爆発を見て驚くきマットに聞くが、その問いに答える余裕は無かった。直ぐに立ち上がってM16A1に新しいマガジンを入れようとした時、陣地の方から「伏せろマット!伏せろッ‼︎」と言うジョニーの叫び声が聞こえて来た。 


再び伏せると直後ドダダダダッ!とM60特有の重い連続した銃声が聞こえて来て、マット達の上を弾丸が通過して行った。そしてその弾丸はゴブリン達に次々と命中し、頭を水風船の様に破裂させたり、手足をふっ飛ばしたりしながら倒して行った。


マットは銃声が止んだのを確認すると2人を立たせた。


「2人とも逃げるぞ。こっちだ早く!」


「わ、私走れない・・・」


そう言って青髪の女性が自分の右足を見た。その右足は剣か何かで斬られたりのか、深い切り傷があった。逆に今までよく立って歩けたなと感心するレベルの怪我だった。


「乗れ!お前は走れるか?」


「はい。大丈、夫です」


「悪いが最後の辛抱だ。陣地の周りには罠があって危険だから俺の後をついて来てくれ。そこには罠が無いから」


「はい」


「ジョニーーッ‼︎カバー頼むッ‼︎」


「さっさと逃げろ馬鹿野郎‼︎」


マットが青髪の女性をおんぶして、そして右手で赤髪の女性の右手を掴んで走り始めた。その後を追う様にしてゴブリン達が殺到する。それらをジョニーはM60E1で掃射し倒して行く。


弓矢を持ったゴブリン達が、森の茂みに隠れつつ逃げるジョニーに向かって矢を飛ばす。塹壕に隠れつつ撃っていたジョニーへ矢が降り注ぎ、その中の一本がヘルメットに矢が当たり、カツンと音を立てて矢を弾いた。


「くそっ、見えねぇ!」


直ぐに反撃しようとしたが、銃声もマズルフラッシュも無く森の闇に隠れて撃って来るゴブリンをジョニーは見つけることは出来なかった。


弓矢の対処もしたいが、それよりもマット達を追い掛けるゴブリンも無視は出来ない。なのでM60E1のリロードを終わらせたジョニーは矢が自分に当たらないことを祈りながらマットの援護を続ける。


「おい大丈夫か!状況は?」


「あそこにいるのはマットか?あの2人ば誰だ?」


するとジョニーの居た塹壕の中に増援の兵士4人がやって来た。、


「森から人間2人が出て来て、マットがそれを助けようと2人の元に行ったらゴブリンどもが襲って来やがった!あの森の中に弓を持った奴がいてこっちを撃って来てるけど見えねぇから気をつけろ!」


「了解。見えないなら見える様にすれば良いんだよ」


そう言って兵士は有線の野戦電話を手に取って通話ボタンを押した。


「照明弾要請!陣地東側の目の前だ!」


《了解》


数秒後、陣地の方からダンッ!と言う砲声が聞こえそして空が白く光った。それは迫撃砲で発射した照明弾の光だった。照明弾によって東側のほぼ全体が照らされ、マットを追いかけるゴブリンも森の中から弓矢で攻撃していたゴブリン達も全てハッキリと見えた。


「あそこだ撃て!」


突然の光に驚いていたゴブリン達に兵士達は銃弾を浴びせた。


「おいアレ!」


「ん?・・クッソマジかよ!」


弓矢を持ったゴブリン達を撃っていた兵士達は、光に照らされた森を見て驚く。そこには大量のゴブリンがぞろぞろとこっちを目指して走って来る姿が見えた。その数はどう見ても昨日より多かった。


その光景を見て、これは自分達だけでは対処は不可能だと判断した兵士は電話を手に取った。


「司令部!ゴブリンどもの大規模襲撃だ!正確な数は分からないがかなり多いぞ!」


――――――――――――――――――――


報告を受けた司令部は緊急事態を知らせる為に手回し式の警報装置を鳴らした。手回し式とはいえその音は陣地内で寝ていたり、休憩していた兵士達を呼ぶには十分な音量で、相変わらず銃声で寝れていなかった柊木も警報音を聞いてベッドから出ると直ぐに着替えて自室を飛び出した。


「どう言う状況⁉︎」


司令部に走って来た来た柊木に司令部要員が直ぐに報告する。


「陣地の東側から大勢のゴブリンの襲撃を受けています!さらに南東側からもゴブリンが来始めているとのこと!」


「数はどれくらいか分かるか?」


「正確には分かりませんが、100以上は居るかと」


「マジかよ・・・迫撃砲で支援出来るか?」


「いえ、近過ぎて無理です」


「なら兵士が撃って撃退するしか無いか。いや、ダスターがあったな。ダスターで火力支援しつつ兵士達で迎撃するぞ。他の方向には最低限の見張りを付けて別方向からの奇襲に警戒。それ以外の兵士は東側と南東側に集まってゴブリンを迎撃させるぞ!」


「「「「了解!」」」


司令部要員が慌ただしく動いて野戦電話や、実際に伝来に走ったりして兵士達に指示を伝えに行いった。柊木自身も現場に行こうか迷っていると、M16A1をスリングベルトで肩に掛けた東雲がやって来た。


「すいません司令。現場を確認して来て遅くなりました」


「ヤバそうな状況だったりするか?」


「いえ、数は多いですが正面突撃をし続けているので今の所地雷原に入られる前に全て倒しています」


その報告を聞いて柊木は少し安心した。だが、司令部にまで聞こえて来る激しい銃声はその敵の多さを物語っていた。


「また貴方まで戦いに行こうとはしなくていいですから」


柊木の思考を読んだ東雲が、柊木が行動する前にそう言って釘を刺した。


「・・安心しろ。そんなこと思ってない」


「絶対行こうと思ってたでしょ」


分かってるんだぞと言わんばかりの目で柊木を見る視線に耐え切れず、柊木は目を逸らした。


「そもそも司令官が司令部に居なかったら、指揮系統も滅茶苦茶になってしまうんですから大人しくしててくださいね」


「・・はい。すいません」


「司令!ゴブリンの襲撃とは別で方向があります!」


東雲に怒られてしゅんとしていると、司令部要員の兵士が柊木に駆け寄って来た。


「何だ?」


ゴブリンの襲撃のゴタゴタで後回しになってしまっていたことを司令部要員の兵士が柊木に報告した。


「女性の民間人を保護した?」


「はい。その民間人を保護しようとした兵士をゴブリンが攻撃し、今の襲撃に繋がった様です」


「その民間人は?」


「怪我が酷く軍医が治療中です。その民間人を保護した兵士も負傷しましたが、幸い軽傷です。そしてその兵士の報告によると、女性は2人ともゴブリンに捕まって・・陵辱されていた様です」


「・・・・」


確かにファンタジー作品とかでそう言う描写がある時もあるが、まさかそれが現実で起きるなんて・・・。人間でも無い怪物に無理矢理犯されるなんて、どれだけ恐ろしくて、辛かっただろうか。柊木には想像も出来なかった。


「必ず助ける様に言っといてくれ」


「了解です」


外から今までの機関銃や小銃の銃声とは明らかに違う、ドムドムドムッ‼︎と言う腹に響く銃声・・と言うより砲声聞こえて来た。柊木は初めて聞いた音だったが、対空自走砲のダスターがゴブリンに向けて水平射撃を始めたんだなと分かった。


「近過ぎて迫撃砲が使えない代わりにダスターで火力支援させた」


「良い判断だと思いますよ。今頃ゴブリンはミンチになってるでしょう」


「明日の掃除が大変なことになりそうだけどな」


「その事は後で考えましょう」


「だな。んでゴブリンが他の方向から攻撃したりして挟撃して来たりすると思うか?」


「無いとは言い切れませんね。ですが、さっき見た無謀な正面突撃を続けている様を見ると、そんなこと考えてなんいじゃ?と思ってしまいますね」


例え味方が目の前で銃弾を食らって死んだり、手足が千切れても構わず突っ込んで来るのはある意味脅威だけどね。とも東雲は思った。


死ぬことなどを恐れずに襲い掛かって来るのは状況によってはかなりの脅威だったが、今の状況で言えば良い射撃の的になっているだけなので逆に楽な状況だった。


「まぁ一応他の方向も監視させているけどさ、もし別方向からも同じくらいの数が攻めて来たら守り切れると思うか?」


「戦力を分散させてもこっちの火力の方が圧倒しているので恐らく大丈夫だと思います。弾薬の備蓄も十分ですし」


「そう聞いて安心したよ」


結局その後、5分程経った頃にゴブリン達が諦めて逃げて行ったことで戦闘は終了した。こちらの被害は女性を助けようとしたマットが矢を受けた以外には無く、圧勝だった。

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