第2話 初の戦い。ドラゴン迎撃戦
拠点設営の際に邪魔になるからと殆どの兵士は銃を近くの地面に置いたり、廃墟の壁に立て掛けたりしていた。なので柊木の命令を受けた兵士達は急いで自分の武器を取りに行って、そして直ぐに撃てる準備を整えた。
柊木も廃墟の中に走って向かうと、予備として中に置いていた武器達の中からM16A1を選んだ手に取った。この銃はサバゲーをしていた時にもよく使っていたから使い方も分かるし、セミオートなら実銃なんて撃ったことのない自分でも撃てると考えての選択だった。
M16A1にマガジンを入れて、チャンバーを引いて、そしてセレクターレバーをセーフからセミに切り替える。他の兵士達と同じ様に上空を円を描く様にして旋回し続けるドラゴンに狙いを定める。
数秒か、十数秒間無言の時間が続く。そのまま帰ってくれと言う柊木の願いに反して、ドラゴンは新たに狙いを定めてさっさと同じ様に緩降下して来た。
「クソっ!撃て!撃てぇぇ!」
柊木が命令すると同時に全兵士が引き金を引き、M16A1とM60E1からドラゴンに向けて無数の弾丸が放たれた。
しかし、5.56ミリ弾も7.62ミリ弾もドラゴンはその強靭な鱗で弾きながら怯みもせずに、逆にこっちを威嚇する様に咆哮しながら突っ込んで来た。
「伏せろ‼︎」
そう叫んで柊木は廃墟の中に隠れた。直後ドラゴンが足で兵士を鷲掴みにしようとしたが、伏せたお陰で狙われた兵士はギリギリで避けることが出来た。避けられたドラゴンは悔しそうに咆哮しながら再び急上昇して行った。
「5.56はまだしも7.62ミリも効かないってマジかよ!って言うか弾いてたぞ畜生!」
慣れた手つきでM16A1に新しいマガジンを入れて、ボルトリリースボタンを押した柊木はそう悪態を吐いた。
「誰でも良い!M2ブローニンングに付け!50口径なら効くだろ!」
近距離なら軽装甲車の装甲を貫通させる威力のあるM2重機関銃。拠点防衛用にと四方に4丁設置してあったM2ブローニンングに兵士が付き、射撃準備を整えた。
「司令、小銃弾でも羽なら抜けるんじゃないんですか?」
柊木を守る様に柊木の前に出てM16A1を構えていた東雲が聞いて来た。柊木は上空を飛ぶドラゴンをじっと見つめて考える。
見た感じ翼はただクソデカいだけでコウモリとか見たいな翼だ。あの羽が胴体並みに硬いとは考えられない。5.56や7.62でも貫通させることが出来るだろう。なら撃ちまくって穴あきチーズにすれば食べなくなって落ちるんじゃ?
「ナイスアイデアだよ東雲!小銃とマシンガン持ってる連中は羽根を狙え!降下して急上昇する瞬間がチャンスだ!翼を広げた瞬間蜂の巣にして飛べなくしてやれ!」
「「「「「了解!」」」」
「今日の夜メシはドラゴン肉で決まりだな!」
「BBQソースも有れば完璧だったんだけどな!」
今だに兵士達の士気は落ちていなかった。兵士達は全員ドラゴンに捕まらない様に物陰に隠れながらドラゴンの次の攻撃を待つ。プライドが高く、2度も獲物を捕まえるのに失敗して怒ったドラゴンは咆哮すると、さっきよりも急角度で、まるで急降下爆撃機の様に降下して来た。ほぼ真上から降下して来ていたので、M2ブローニンングは仰角が上げきれずに狙いを定めきれずにいた。
「もうちょい・・・・食らえオラァ!」
ドラゴンとの彼我の距離が詰まり、やっと狙える範囲に来たドラゴンに出して4丁のM2ブローニンングが火を吹いた。今までの銃声よりも重く、腹に響く様な発砲音が四方から鳴り響き、同時に12.7ミリ弾がドラゴンを襲う。
が、12.7ミリ弾をもってしてもドラゴンの鱗を貫通させることは出来ず、弾は跳弾していた。
「50口径も効かないのかよ⁉︎」
「危ないから隠れて!」
重機関銃の弾丸を弾きながら降下して来るドラゴンに驚き、廃墟から出て見ようとする柊木を東雲は襟を掴んで後ろに引っ張り戻した。
「来るぞぉ!」
「そっちに行くぞ!避けろ避けろ!」
ドラゴンの進路を確認した兵士が、その進路上に居る仲間に対して逃げる様に叫ぶ。狙われた兵士は「俺かよクソ!」と言いつつ、ドラゴンが足で掴んで来ようとした瞬間に横に飛び退いた。が、その鋭い爪はその兵士の左太腿を切り裂いた。
「ぐあっ⁉︎いっでぇな畜生ッ‼︎」
「ジョン!大丈夫か!」
転倒し、血の流れる太腿を手で押さえる兵士に別の兵士が駆け寄って近くにあった迫撃砲用の作りかけの掩体壕に隠れた。そこに衛生兵も駆け寄り応急手当てをし始める。
「ぐっ・・・最初の負傷者は俺かよ畜生っ!光栄だね!」
「出血の派手さの割にはちょっと肉が裂けてるだけだ!安心しろ」
惜しくも獲物を捕まえることが出来なかったドラゴンは降下から上昇に転じる為に大きく翼を広げたその瞬間、柊木に命令されるよりも早く兵士達全員が羽を狙って撃ちまくった。
流石のドラゴンでも翼の飛膜は弾丸を弾く程の強度は持ち合わせておらず、5.56ミリ弾でも貫通して行った。100発を優に超える5.56ミリ弾と7.62ミリ弾、更に12.7ミリ弾が翼に穴を開けて行く。
その弾丸の内、狙いが逸れた12.7ミリ弾など数発がドラゴンの腹部に当たった。すると、弾かれることもなく弾丸は腹部に食い込んだ。
「グガアァァァァ⁉︎」
今までの咆哮とは違う、痛がっている様な素振りを見せたドラゴンは上昇せずに、降下して来た勢いを利用して低空を高速で飛んで逃げた。大量の弾丸で穴を開けたが、揚力を失わせる程の損害を与えることは出来なかったのかと、飛んで離れて行くドラゴンを見ながら柊木は思った。
隠れていた廃墟から出て、ドラゴンの飛んで行った方向を見るがドラゴンの姿は見えなかった。取り敢えず倒せなかったけど、追い返すことは出来たのか?
「・・逃げたと思う?」
「動物によっては、怪我をしたりしたら逆上して襲って来るのもいますけど・・・あの感じだと逃げたかと。一旦体勢を立て直す為に距離を取った可能性もありますけどね」
一先ず脅威が去ったことに安堵して、柊木は溜息を吐いた。初めての戦闘に、初めての実弾射撃。ちゃんと狙い通り当てられてかはぶっちゃけ怪しかった。ハンドガードを握っていた左手を見てみると、ぷるぷると震えているのに気がついた柊木は笑った。めっちゃビビってんじゃん。俺。
東雲が隣にやって来て、「お疲れ様でした」と言って来てくれたのが嬉しく感じた。
「あの白い腹部が弱点みたいですね」
地面に数滴落ちていたドラゴンの物と思われる赤黒い血を見て東雲が言った。
「みたいだな。腹の所だけ色が違ったのは鱗が無かったからか。それにしても予想外に硬いなアイツ。あの感じだと腹部でも50口径じゃないとダメージ入らなさそうだな」
「はい。見た感じ50口径が当たった時に痛がっている様に見えましたし」
「取り敢えずアイツがまた戻って来るかもだし、念の為に用意してたバズーカを持って来といた方が良さそうだな」
「それが良いと思いますよ。ま、飛んでいるドラゴン相手に当てれるかどうかは微妙ですけどね」
ファンタジー世界なんだし、ゴーレムみたいな巨大で強そうな奴が出て来るかもと言うことでM20スーパーバズーカを4基だけだが、柊木は用意していた。近くにいた兵士にいつでもスーパーバズーカで撃てる様に用意しておく様に命令してから、柊木は負傷した兵士の元に向かった。
「怪我は大丈夫か?」
「えぇ。モルヒネを打ってもらったんで今は痛みもありません」
そう言って兵士は笑って見せたが、左太腿に巻かれた包帯は血で赤く染まっていた。それを見た柊木は負傷した兵士に対して頭を下げた。
「悪い。もっと俺が上手く指揮を出来てれば・・・」
「いやいやいや!司令が謝る必要なんて無いですよ!それに出血の割にそんなに酷くないんですから」
「そうですよ。銃弾が効かない怪物相手に戦って負傷者が1名だけですから、上等ですよ。それに部下の怪我とかに一々そうやって落ち込んでたらこの先やって行けないですよ」
負傷した兵士と東雲にそう言われた柊木は頭を上げると、「分かった」と言って気を取り直すことにした。
「東雲、偵察隊にドラゴンのことを知らせて警戒さる様に。それと弱点のことも教えといてくれ。ジープに乗せたM2でワンチャン倒せるかもだしな」
「了解」
「他の皆んなは戦闘後で悪いが、拠点設営の続きをしてくれ!だがまたアイツが戻って来るかもしれないから警戒は緩めない様に!」
「「「「「了解!」」」」」
負傷した兵士は廃墟の中に運んで、後方支援要員として召喚していた軍医に後のことは任せた。ドラゴンに持って行かれて、上空から落とされた大型テントを回収しようとしたが、テントは木の上に引っかかっていて回収は不可能だったので、諦めて残りのテントを設営することにした。
それから偵察隊もドラゴンなどには遭遇せずに無事に帰還した。だが、ドラゴンの脅威もあるのでこれ以上の偵察活動は危険と判断して中止になった。
そうこうしている内に日が暮れて夜が来た。現代の夜とは違い、街の明かりなどが一切無い夜は正に漆黒だった。兵士達は交代で拠点の周辺を見張り、そんな闇の先を警戒している。臨時の司令部になっている廃墟の中では、ランタンの明かりで照らされながら偵察隊の隊長が偵察結果を報告して、その報告を聞きつつ司令部の人間が紙に手書きで簡易的な地図を描いていた。勿論、柊木と東雲もそこには居た。
「話を聞く感じ、南側は森で北側は平原みたいだな」
「はい。眺めは良かったですが、人や人工物らしき物は見つけられませんでした」
「それはこっちも同じですね。まぁ森の中で視界が悪かったので見落としている可能性も無いとは言えませんが」
「無いなら無いで良いんだけどね。それよりも今問題なのはあのドラゴンだ。この拠点の防衛はダスターを明日召喚するつもりだから何とかなるだろうけど、偵察隊の危険度が高い」
ダスター。正式にはM42ダスターと言う名前の自走式対空砲で、この対空砲の火力なら流石にあのドラゴンも撃墜出来るだろうと柊木は思っていた。
「残り3台を全部ダスターにして拠点防衛と偵察隊の護衛に付けるか?」
現在の召喚可能な車両は7台。既にトラック2台とケネディジープ2台を召喚しているので、残りは3台。その残り3台を全部ダスターにして偵察隊の護衛と、拠点の防空様に配備しようかと柊木は考えていた。
「ですが、そうするともし他の車両が必要になった時に困ると思いますし、やはり拠点防衛用に一台召喚するだけに留めた方が良いのでは?代わりに偵察隊にはバズーカを装備させておけばどうです?」
東雲の意見に柊木は腕を組んで悩む。東雲の言うことも間違っては居ないんだが、昼に東雲が言っていた様に上空を自由に飛び回るあのドラゴン相手にバズーカを当てられるのか?と言う疑問もあった。
「でも飛んでいるドラゴンにバズーカを当てるのは難しいって言ったのはお前だぞ?」
「何も無いよりはマシですし、今日みたいに降下して来たところを真正面から複数人で狙えば当て易いですよ」
「そんなAKで戦闘機を落とそうとするベトコンじゃ無いんだから・・・」
ベトナム戦争では多数のアメリカ軍機が対空砲やミサイルなどで撃墜された。だが、ベトコンはそれだけではなく、AK-47やRPK軽機関銃などの銃火器も使って対空射撃をしていた。
高速で飛び回るジェット機相手にアサルトライフルや軽機関銃の弾を当てる方法の1つが、自分に向かって爆弾を落とす為に降下して来た戦闘機相手に真正面から撃つと言う捨て身の戦法だった。
「自分としては貴重な車両の枠を使って貰うのは申し訳ないですし、バズーカで良いですよ」
第1偵察隊の隊長がそう意見したが、柊木としてはやはり自分が召喚した部下を守りたいと思っていたので了承は出来ずに唸った。
「俺もバズーカで良いですよ。それに腹部ならフィフティーキャリバーでダメージを与えれるそうですし、十分に対抗手段は持ってますよ」
「って言うかレッドアイはダメなんです?」
第1偵察隊隊長が言ったレッドアイと言うのはアメリカが開発し、ベトナム戦争後期に使用した|MANPADS《携帯式防空ミサイルシステム》で、簡単に言うと対空用ロケットランチャーだった。ロックオンすればマッハ1.6までミサイルが加速して目標を追いかける。
「それは俺も直ぐに考えたんだけどさ、ドラゴンの熱源にちゃんとロックオン出来るか怪しいよなって思ってさ」
レッドアイだけに限った話では無いが、歩兵が運用する携帯式防空ミサイルは基本的に赤外線誘導方式。つまり熱を探知してその熱源に向かって飛んで行く。
だが、元々戦闘機などのエンジン熱を探知して追いかける様に設計してあるのでドラゴンが発する代謝熱程度の熱源にちゃんとロックオン出来るかは怪しかった。
「多分、ドラゴンじゃなくて太陽とか太陽光を反射する雲に向かって飛んで行くことになると思うんだよね」
携帯式防空ミサイルとしても初期の頃に開発されたレッドアイは、当時としてはとても画期的だったが誘導装置は今のものと比べると高性能では無く、戦闘機では無くて太陽や雲、時には太陽の日に照らされて温まった地面に向かって飛んで行ってしまうこともあった。
「でもそうやって太陽やら雲レベルの熱源に向かって飛んで行くこともあるってことですよね?ならドラゴン相手にも誘導出来ると思うんですよね。聞いた話だとそのドラゴンって体長は10メートルはあったんでしょう?そんなクソでかい生物が羽ばたいて飛んでるなら運動量も相当でしょうし、体温もその分高いと自分は思うんですよね」
「まぁそれは確かに・・・」
第1偵察隊隊長の言うことも間違えとは柊木は言え無かった。戦闘機のエンジンでは無く、太陽光が反射した雲や、温まった地面に間違って誘導させると言うことはその程度の熱源でもロックオンして狙える可能性があると言うことでもあった。
「なら偵察隊はレッドアイ1基にバズーカを1か2基持っておくって言うのはどうです?レッドアイが使い物にならなかった場合はバズーカで撃退するってことで」
「うーん・・・・・そうする・・かぁ?」
「煮え切らないですねぇ。そこはバシッと決めちゃいましょうよ」
そう東雲に言われ、数秒悩んだ後に柊木は決断した。
「分かった。東雲の案を採用して明日の偵察隊にはレッドアイ1基とスーパーバズーカ2基を装備させる。でも、無理に交戦しようとぜずにドラゴンを見かけた場合は直ぐに逃げる様に」
「「了解」」
第1、2偵察隊隊長の2人は柊木の命令に対して敬礼した。そして明日の偵察準備の為に2人の隊長は司令部を後にした。2人が居なくなった後、柊木はどすんと椅子に勢い良く座って溜息を吐いた。
「お疲れですね」
「やっぱり俺は上官ってキャラじゃねーよ。部下の生き死にがかかっていると思ったらどうしても判断出来なくなってしまう」
「捨て駒の様に部下を扱うよりは、そうやって部下の為に悩んでいる方が好感は持てますが、それは今日みたいな話し合いの時だけにして下さい。戦闘中の様な1分1秒を争う状況なら瞬時の判断をしないと部下を見殺しにするだけですから」
そう話しながら東雲は柊木に水が注がれたアルミ製のコップを渡した。それを柊木は礼を言ってから受け取り飲んだ。
「分かってはいるんだがな。ま、愚痴ってても仕方ないし頑張るよ」
「はい。私も全力でサポートするので」
「マジで頼りにしてるよ本当」
もう一度水を飲んでからコップを机に置いて、目の前に置かれたまだ白紙の部分の方が圧倒対に多い手書きの地図を見る。
「異世界なんだし、可愛いケモ耳少女に出会ったり、美人の魔法使いと一緒に冒険したりみたいな楽しい世界を想像してたんだけどなぁ。今の所脅威と恐怖しか感じてねぇ」
いや、俺の好みドストライクの美少女とはこうして出会えたから悪いことばかりじゃ無いか。と柊木は東雲の方をチラッと見ながら内心思った。
「もっとレベルを上げて、使用出来る兵器や兵士の数を増やしたいですね」
「だなぁ。もっと広範囲を探索して基地を召喚出来る場所も探したいし」
ここにそのまま大規模基地を召喚しようと思えば召喚出来るが、今居る所がどんな場所なのかも分からないまま基地を召喚するのは危ないと柊木も東雲も考えていた。
もしここが何処かの国の領土内だった場合、確実に揉めることになって最悪戦争に発展する可能性もある。今の状態で国相手に戦いたくは無いし、無益な戦争も争いも避けるべきだと考えていた。なので基地を召喚し、その後も安全に運営出来る場所も探したいと思っていた。
「やることが多いなぁ」
「1つづつ片付けて行きましょう」
「なら先ずは寝ることにするわ。今日は一日で色々とあって疲れたわ」
「はい。今日はお疲れ様でした」
「東雲とありがとうな。何かあったら直ぐに起こしてくれ」
「はい。おやすみなさい」
そうして柊木の異世界に来て最初の1日が終わった。簡易ベッドの寝心地は思っていたよりも微妙だったが、疲れ切っていた柊木は横になった瞬間に深い眠りについたのだった。
ドラゴンの強さを考える際に、どれくらいの耐久力を持たせた方が良いのかなーと結構悩みましたが結果12.7ミリ弾でも弾く怪物になりしたw




