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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

サムシングブルーは青真珠

作者: 草月しな乃

「おはよ〜。久しぶり〜」

「久しぶり〜! 今日はありがと〜! よろしくね〜!」

「こっちこそよろしく。さて、早速だけど今日はどんな風にセットをご希望かしら」

「今日のこのドレスに合うように、それ以外は全部おまかせしま〜す!」

「はいはい、かしこまりましたっと」


 今日の仕事相手は小中高と十二年続いた関係の友人。メッセや電話自体はしょっちゅうしてたけど、予定がなかなか合わなくてほとんど会ってなかった。久しぶりに彼女の顔を見たのが今日。元気そうで何より、最後に顔を見た時よりもふっくらしたんじゃない? 幸せ太りかしら。


「それにしても本当に久々ね。卒業して何年になるっけ?」

「もう七年かなぁ」

「七年かぁ。早い早い、あっという間にあたし達もおばさんになるじゃん」


 さて、今日のドレスに合うようにというオーダーだけど、どうしようか。大人になっても変わらない、可愛らしい顔立ちを活かすようにポニーテールやハーフアップツインでもいいし、だいぶ大人っぽいドレスだから下の方でふんわりとしたシニヨンを作ってもいいかもしれない。


「なんか、髪質変わった?」

「やっぱりそう思う? 最近ちょっと癖毛が落ち着いてきたというか」

「癖毛じゃなくて巻き毛だって。マリーアントワネットも羨む綺麗な巻き毛だったのに、巻きが緩くなってる……」

「私の巻き毛、相変わらず好きなのね」

「パーマで当てた偽物の巻き毛よりずっと綺麗だったもん。覚えてる? あの厚化粧の英語の先生。あたし、ヘアメイクの依頼受けて久々にあの巻き毛に触れるってすっごいわくわくしてたんだからね」


 方向性は決まり。ハーフアップのツインテールでとにかく巻く。巻いて巻いて巻きまくって、高校時代のあの巻き毛を再現してやるんだ。そうともなれば。


「じゃ、アイロンするね」

「はーい」


 テレビで見たカリスマ美容師に憧れて、カリスマスタイリストを目指して早八年。カリスマと呼ばれるにはまだまだ遠いけれど、それなりに腕を上げてそれなりに固定客も付いてきた。今日は腕によりをかけなければ、スタイリストの面目丸つぶれ。だって今日は。


「……あんたもとうとう結婚か。先越されちゃったなぁ」

「うん。私、とうとう結婚するんだなぁ……」

「実家に招待状届いた時はびっくりしたよ。なんせ相手はあのサッカー部の先輩だもん。……良かったじゃん、初恋実って」

「私もびっくりしてる。ちょっと頬つねってくれる?」

「そんなことしたら赤くなっちゃうじゃん。今日くらい、夢見てたっていいんじゃない?」


 夢なら、どんなに良かったか。


「初恋は実らない、なんてジンクスもあったね」

「そのジンクスは今日覆るわけだけど」


 くるくる。くるくる。アイロンの熱に触れた髪は素直に曲がって、姿を変えて。高校時代、いやもっと昔……小学生の頃から見てた巻き毛を思い出しながらアイロンで髪を巻いていく。ケバくならないように、少女だった頃の可愛らしさを残すように、丁寧に丁寧に巻いた。


「ねえ」


 着せ替え人形みたいに大人しく椅子に座る腐れ縁が、不意に声を上げた。


「何?」

「初恋って、いつだった?」

「初恋? さあ……またいきなり何で?」

「誰が好きとか聞いたことないって思い出したから、何となく」

「何時だったかな〜。覚えてないや」


 嘘。


「そっかぁ。私の初恋が叶ったんだし、そっちの初恋も叶えばいいなぁって思ったんだけど」

「覚えてないってことはそれこそ保育園時代の話かな」


 嘘。


「今はいい人居ないの?」

「居ないねぇ。やっぱ独立したいから、今は仕事以外考えられないかな」


 これは本当。


「私が結婚式に呼ばれるのはだいぶ先みたいね」

「そーね、残念ながら今のところは。ま、何があるかわからないのが人生だし。再来年あたりにしれっと招待状送ってるかも」


 真っ赤な嘘。


「さて、そろそろ仕上げ入るね」

「お願いしま〜す」


 今日という世界の中で一番幸せな花嫁に、もっと幸せになれるおまじない。幸せを願う友人からの、おまじない。指したコットンパールの飾りピンに、一つだけ淡い青を混ぜて。


「……はい、おしまい。ピンの先っぽ、頭皮に当たって痛くない?」

「大丈夫、痛くないよ」

「それは良かった。ちょっと時間押しちゃったね、それじゃ、いってらっしゃい」

「何言ってるの。また後で、式場でね」

「……ああ、そっか」

 そう言えば、あたしは新婦の友人席に座るためにもここに来てるんだった。

「……うん。それじゃ、また式場でね。それまでにその髪、崩さないでよ?」

「はーい」


 ……顔に出てなかったかな。上手く取り繕えたかな。部屋を出ていく白いドレスを見送った。

 手が震える、足が震える。大丈夫、あたしはちゃんと隠し通した。後はこの事実を墓まで持っていくだけ。

 ……覚えてないわけないじゃん、初恋が何時だったかなんて。言えるわけないじゃん、初恋の相手が誰かなんて。

 あたしの初恋の相手は、今日結婚する。純白のドレスを纏った新婦として。

 小学一年の教室で、入学したばかりの新しい教室で、隣に座ったのがあの子だった。くりくりの巻き毛をハーフアップツインにしたとても可愛い女の子。親が面倒くさがって男の子みたいなショートカットにしたあたしとは全然違う、とっても可愛い女の子。

 そんな初恋の相手が今日、結婚する。

 初恋は叶わない。そんなジンクスに敗れた女がまた一人。初恋を拗らせて、抱えて生きていく。


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