頼れる大人たち
鋭い光がカーテンの隙間から微かに入り込む。雀の鳴き声と共にアルマは目を覚ます。
ここはどこだろう、自宅の天井じゃない。まだ脳が完全に目を覚ましきっていない中思考していたアルマだったが、次の一声で全てが戻ってきた。
「ようアルマ、起きたか」
母さんと姉さんの声。血の匂い。走って、走って、気づいたらここにいた。夢じゃ、なかったんだ。
未だに信じられない現実にアルマは目に涙が溜まりそうになるが、ジェイの豪快な笑いによって全てが吹き飛んだ。
「どうした、俺の朝飯はそんなに不味いか」
…決して美味しいとは言えない。が、不味くもなく至ってなんの感想も抱かない朝食だった。
「今日からまた俺は訓練城に行くがお前はどうする、着いてくるか?」
スープを飲み終えたアルマは皿を机に置いた後、ジェイの目を真っ直ぐ見つめてハッキリと答えを返した。
「うん、絶対いく」
「て言っても、真衛隊は15歳からじゃねえと入れねえからな。こっそり行く形になるが大丈夫か」
「いや、こっそりは嫌だ。今からでも本格的なトレーニングがしたい!」
何を言っても聞かなそうだと思ったジェイは、ひとまず家に置いておくことにする。
「いいか、昼には帰ってくる。だからそれまで腕立て伏せとか走り込みとかやっておいてくれ。そうしたら見てやる」
パーっと目を輝かせたアルマは、朝食をサッと片付けすぐに腕立て伏せを始めた。形は不安定であったが、やる気は本物なんだと感じたジェイはその日は置いておいて家を出ていった。
「あのやる気が、いつまで続くかな」
ドオォーンと大きい打撃音が響き渡る。
「う゛あぁっ」
「よし、次こい!」
ジェイは何人もの隊員をあっという間になぎ倒していく。先輩隊員も後輩隊員も関係なく常に全力で対峙しているが故、ここまで無双しているのだろう。ただ、そんなジェイでも簡単に倒せない相手が存在する。焼けた肌に赤褐色の髪を縛った人物、ダイヤ。彼は自他ともに認めるジェイのライバル的存在であった。ほとんどの人間が一発で吹き飛ばされたジェイのパンチを弾き、反撃を見せる。もちろんジェイもタダでは終わらない。ダイヤの反撃を左手で止め剣をはじき返す。
「いくぞ!!無限呻吟!!」
相手を苦しめる拳を無限に繰り出すという、ジェイが扱う能力のひとつ。それに負けじとダイヤも能力を瞬時に使用する。
「効かぬ、清浄鉄壁」
時間が経てば経つほど鉄壁になっていくダイヤの能力は、次第に無限呻吟のダメージを抑えていく。周りの誰もふたりの戦いを目で追うことが出来ず、呆気にとられている。永遠にこのふたりが取り組みをしているので、ひとり待ちくたびれた男が声を出す。その声は決して大きい声ではなかったが、全員の耳に確かに届いた。
「おいおめぇら、相変わらず長ぇよずっとよ。そろそろ俺もやらせてくれや」
「おっと、もうこんな時間か。すまないなバッベン」
「いつの間にか昼になっちまったな。よし、俺はこれで帰るぜ。ダイヤとバッベンで取り組みしてくれ」
「おう、おつかれ」
「ああゆっくり休めな」
その後のダイヤとバッベンの戦いもレベルの高い戦いであり、ジェイ対ダイヤ同様目で追える者は周りにいなかった。ジェイ、ダイヤ、バッベンは同い年であり同期でもあるが、この年は特にこの3人が優秀であり、真衛隊内でも次期天鋭に近い3人だと囁かれている。今日はいつも通りやっていたジェイ対バッベンは行われずにジェイが帰宅したため、ちょっとした話題になった。
「ジェイさんとバッベンさん、不仲なんかな」
「黙れバカ野郎聞こえてんだアホ、んな訳ねーだろうが。あいつにも用事があんだろうよ」
コソッと言った隊員の言葉をバッベンは戦闘中にも関わらず聞き取っており、ダイヤとの取り組みが終わった後頭を引っぱたいていた。
「お、俺のが先輩なのに…」
「帰ってきたぞ、アルマ」
ドアを開けたジェイにすぐ寄っていったアルマは、早速特訓してくれと申した。
「よっしゃいいぞ、早速やるか!」
荷物を置いてアルマを地下に連れていくジェイは、秘密の特訓場を見せた。
「これからはここでお前の特訓をする。まずは基礎トレーニングからみっちりやっていくぞ」
「はい!」
「…入るぞ」
夜になり誰かがジェイ宅に訪れる。彼の同期であったダイヤであった。ダイヤはアルマの顔を見てからそっと頭を撫で、ジェイの前の席に座った。
「あの子がデノアタウンの襲撃から生き残ってここまで来た子か」
「ああ、ところでバッベンはどうした?」
「あいつは夜中にもかかわらず任務に行っていたぞ」
「そうか、なら仕方ないか。で本題に入るぞ」
ふたりの顔つきが変わる。軽い雑談時の雰囲気は吹き飛び、ピリッとした空気感になった。
「俺はアルマを真衛隊に入れようと思っているんだ」
「本当にいいんだろうか?俺はあの子の姉ふたりを探し出して身寄りに預け、また戦いとは無関係の生活を送ってもらった方が良いと考えているのだが…」
「アルマには身寄りがいない。それに、姉ふたりも恐らく亡くなっている」
顎に手を添え考え込むダイヤ。彼はアルマを真衛隊へ入れることに少し抵抗があるようだった。
「あの子の意思は本気なのだろうか。それなら、俺は何も口は出さない」
「ああもちろんだ、あいつは本気で言ってる。だからこそ俺はアルマを育て切るつもりだ」
ダイヤは知っている。こう決意が固まったジェイに何を言っても聞かないことを。下を向き笑みを浮かべたダイヤは、ジェイの事をサポートすることを約束した。
「わかった、俺もなるべくお前をサポートする。ただあの子はまだ11歳だったよな?なら、訓練城に入れることは出来ないな」
「ばかやろう、そん時のための地下だろうよ」
「地下を使うのか…なるほど、それは盲点だった」
「俺はアルマを真衛隊に入れるまで、絶対にあいつを守るぜ。もちろんこの国もな」
ジェイとダイヤは笑い合いながら一杯酒を飲み、世間話だったり、現職天鋭や真衛隊長の愚痴で散々盛り上がった。その後任務を終えたバッベンが訪れ、ジェイの状況を理解した。
「なるほどな大体わかったよ。俺は黙認しといてやるからバレねーようにな。まだ天鋭じゃねえのに何してんだって上がうるせえ可能性もあるからよ」
「ありがとなバッベン、恩に着るぜ」
「今度葉巻買ってくれよな」
「しょーがねえな、いいぜ」
同期の3人はこの世界の現状を忘れ、楽しく昔のように騒いだ。この瞬間だけは、何よりも平和な世界で全人類が夢見た場面だっただろう。
その頃、エケネイスの隣国『サパエン』では大規模な反乱が起きており既に国家としての機能は失っていた。そんな荒地となった場所をひとり彷徨う少年がいた。服はボロボロで靴もなく足が血だらけ、まるでジェイに保護される前のアルマと同じような姿であった。彼は壊されたキーホルダーを手に、エケネイスに向かう道をただひたすら歩いていた。




