静かな白は熱い赤に
故郷まで、あと少しだ。
シキュアは甲板の手すりに手をかけ、水平線の向こうを見つめていた。真衛隊員になったと、伝えなければならない人たちがいる。どんな顔をするだろうか。怒るだろうか。それとも祝ってくれるのだろうか?
みんなの反応を想像していたシキュアの視界に黒い煙が映った。
「…なんだ?」
一本どころではなかった。何本もの煙が、島の各所から空へ向かって立ち上っていた。シキュアは目を細めた。気のせいかもしれない。そう思おうとした。だが船が近づくほどに煙は濃くなり、やがて焦げた匂いが潮風に混じり始めた。背中に寒気を感じたシキュアは荷物をまとめ、島の港に影の標準を合わせる。
「影の支配者」
上陸した瞬間、足元の雪が赤く染まっていることに気づいた。
シキュアは歩き始めた。いつもと同じ、静かな足取りで。だがかつて白く美しかった街並みは、見る影もなかった。建物は崩れ、壁には無数の刀傷や焦げ跡、血痕が刻まれている。道には生活の痕跡が散乱していた。割れた食器、引き裂かれた衣服、倒れたままの荷車。
そして、道の端に島民の遺体が転がっていた。
シキュアの足が、僅かに遅くなった。
次の角を曲がると、また遺体。その次も、また遺体。子供も、老人も、関係なかった。ただ、殺されていた。あちこちに見たことのある顔。シキュアは立ち止まらなかった。立ち止まれなかった。
その時、路地の奥から声が聞こえた。シキュアは咄嗟に建物の影に身を潜めた。軍服を着た数人の男たちが、隊列を組んで歩いてくる。見たことのない紋章だった。
「この区画の生存者確認は終わったか」
「はい、今のところ息のある者は見当たりません」
「そうか…ただまだ生きている者がいるかもしれん、くまなく探すぞ。一人残らずだ」
「了解しました」
「次行くぞ」
男たちの足音が遠ざかっていく。
シキュアは建物の影から動かなかった。頭の中で、言葉が繰り返されていた。
『くまなく探すぞ。一人残らずだ』
「……こいつらが」
声は出ていなかった。ただ唇が、静かに動いた。拳が、固く握られた。
シキュアは影から出た。男たちの背中を静かに追い始めた。男たちは追われている事に気づく様子は全くなかった。
シキュアは音もなく距離を詰めた。最後尾の男との距離があと数歩になった瞬間、
「なんだ、生存者か」
先頭の男が振り返り、シキュアと目が合った。その瞬間、シキュアは既に踏み込んでいた。
「っ、何奴!?待t」
声が途切れた。影が揺れ、男が地に伏す。残りの男たちが一斉に武器を構えた。
「総員、応——」
応戦する間もなかった。シキュアの剣が風を切る。一人、また一人。隊列が崩れる。後退しようとする者、叫ぼうとする者。どちらも関係なく、誰もが命を落としていく。
「なんだこいつh、ぐほぉァ」
「…お前たち全員を殺す!!この手で!!」
「どこからの刺客だ貴様!」
「もうここで死ぬお前たちに答える必要はない…影の支配者」
最後のひとりが倒れると、静寂が戻った。
シキュアは荒い息をつきながら、雪の上に立っていた。全身に細かい傷を負っていた。だが、それ以上に損害の酷い身体が地に多く散らばっており、白かった雪は既になくなっていた。あの頃のホワイランドはもう戻ってこない。
遠くから、別の足音が聞こえた。増援だった。
シキュアは血のついた剣を握り直し、その方向を見据えた。終わっていない。むしろここからが本当の始まりだ。
乱れた髪をかきあげ、足を踏み出した。




